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Entry 2023/12/21
Update

【ネタバレ】東京タワー オカンとボクと、時々、オトン|あらすじ感想と結末の評価解説。リリー・フランキーの自伝小説をもとに描く

  • Writer :
  • 谷川裕美子

永遠に続く母と息子の強い絆

リリー・フランキーのベストセラー自伝小説を、オダギリジョーと樹木希林共演で実写映画化。

第31回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、数々の映画賞を受賞した感動作で、女手ひとつで育ててくれたオカンとボクの深い絆を描きます。

監督は『さよなら、クロ』(2003)『映画 深夜食堂』(2015)の松岡錠司、脚本を松尾スズキが務めます。

オトンを小林薫、若い頃のオカンを樹木希林の実娘の内田也哉子が演じています。

母の病気を知った息子は、大きな決心をします。固い絆で結ばれた二人の運命の行方に涙する本作の魅力をご紹介します。

映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』の作品情報


(C) 2007「東京タワー o.b.t.o.」製作委員会

【公開】
2007年(日本映画)

【原作】
リリー・フランキー

【監督】
松岡錠司

【脚本】
松尾スズキ

【編集】
普嶋信一

【出演】
オダギリジョー、樹木希林、内田也哉子、松たか子、小林薫、伊藤歩、勝地涼、荒川良々、寺島進、光石研、仲村トオル、小泉今日子、宮崎あおい、田口トモロヲ、柄本明

【作品概要】
マルチタレントのリリー・フランキーの自伝小説を『さよなら、クロ』(2003)『映画 深夜食堂』(2015)の松岡錠司が映画化。脚本を松尾スズキが務めています。

第31回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、最優秀監督賞、脚本賞、主演女優賞、男優賞を受賞しました。飲んだくれの亭主のもとを離れ、女手ひとつで息子を育て上げたオカンとボクの笑いと涙の物語です。

主人公のボクを『』(2023)のオダギリジョー、オカンを『命みじかし、恋せよ乙女』(2019)が最後の出演作となった樹木希林が演じました。

若き頃のオカンを樹木希林の実の娘・内田也哉子、ボクの恋人役を松たか子が演じるほか、小泉今日子、宮崎あおい、柄本明、塩見三省ら実力派がカメオ出演して話題となりました。

映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』のあらすじとネタバレ


(C) 2007「東京タワー o.b.t.o.」製作委員会

現代の東京。ボクは東京タワーの見える病院で、入院中のオカンに付き添っていました。

まだボクが幼かった1960年代の小倉。オカンは飲んだくれのオトンに愛想を尽かし、幼いボクを連れて筑豊の実家に戻りました。

長い休みにはボクはひとりで小倉のオトンのもとにいくことになっており、父子らしい時間を過ごすこともありました。

中学に入ってから二人で祖母の家を出て、病院の一室を借りて暮らし始めます。

高校受験の近づいたボクは、寂れていく町を出て大分の美術高校に行くことを決心しました。しかし、一人暮らしを始めてあっさり堕落していきます。

その後、東京の美大に入学したボクは、やはり自堕落な生活を送るばかりでした。

遊び暮らした末、卒業できなくなりましたが、オカンが居酒屋を開いてがんばってくれたおかげで、1年留年した後に無事卒業しました。

しかし、サラ金の借金は増え続け、しまいにオカンからも金を借りるようになります。

祖母が亡くなっても、お金がないために帰れませんでした。

それからしばらくして、オカンが実は甲状腺がんで入院していることを聞かされます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

ボクは得意の絵で食べていこうと一念発起し、がむしゃらに働くようになりました。

オカンもまた、あきらめずに仕事に復帰しました。

ボクの仕事は順調で借金も返済できました。出版した本を送るとオカンは大喜びしましたが、その時初めて、オカンのがんが治っていないことを聞かされます。

ボクはオカンを東京に呼ぶ決心をし、一緒に住み始めました。

友人や恋人のミズエたちはオカンの料理に魅了されて集まり、仲良くなって楽しく過ごすようになります。

ボクはやがてミズエと別れましたが、二人の仲を喜んでいるオカンにはそのことを言えずにいました。

やがてオカンのがんが大きくなっていることがわかり、最後の入院生活が始まります。

病院に向かう道、初めてボクはオカンの手を引いて歩きました。

オトンが見舞いにきて、夫婦は久しぶりに再会し、和やかな時を過ごしました。

それから間もなくオカンの抗がん剤治療が始まりましたが、その苦しみは想像をはるかに越えるものでした。

とうとうオカンの治療を断念したボクに、医者は余命3ヶ月と告げます。

個室に移り、ボクは簡易ベッドを入れて隣で看病するようになりました。友人たちも集まりましたが、オカンはもう口から食べられなくなっていました。

オトンが帰った日に、容体が急変たオカン。慌ててオトンが戻り、一度は落ち着いたものの、そのままオカンは静かに息を引き取りました。

一度も住むことのなかった新居に、オカンが帰ってきました。大勢の人たちがお悔みに集まります。

仕事の依頼を断ったボクでしたが、若かりし頃の母が現れて仕事をするように言いました。ボクはオカンの隣で、一心不乱に仕事を始めました。

葬儀で泣き崩れたボクの代わりに、オトンが挨拶をしました。

死んだ後に見るようにとオカンから言われていた箱を開けてみると、ボクのへその緒や昔の写真、ボク宛ての感謝の手紙などが入っていました。

一緒に上ろうと約束したまま果たせなかった東京タワーに、ボクはオカンの写真とミズエと一緒に上りました。

ボクはオカンに向かい、天気がよくてよかったねと笑顔で語り掛けました。

映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』の感想と評価

オカンとボクの深い絆

リリー・フランキーの実体験を映画化した、母と子の物語です

1960年代の九州に広がる懐かしき日本の原風景と、入院中のオカンを見守るボクのいる現代の東京を、場面は何度も行き来します

何もない町・筑豊に住むことになったオカンとボク。オカン役の樹木希林の娘・内田也哉子が若き頃を演じ、違和感なく老年期へとつながる演出は見事です

若い頃から度胸があって明るく、息子を何より大切にしてきたオカンの人柄が伝わり、ときどき現れるオトンとの思い出も、懐かしい色合いで映し出されます。

やがてオカンにがんがみつかり、治療後もまだ治っていないことを知ったボクは、がむしゃらに働いて母を東京に呼ぶ決心をします。

上京した母をホームで出迎えたボクが、「ずっとこの町でふたりで住むんだ」と母に語り掛ける場面は本作の名シーンのひとつです

しかし、運命は酷く、母の病状は悪化して病院に入ることとなりました。

幼い日、母のデートについていき、見失って必死で汗をかいて探し回るボク。とびついてきた息子を固く抱きしめた母。

ボクがひとり大分の高校に向かう列車を、寂しげにホームで見送るオカン。列車の中で開いた弁当に添えられた母からの手紙を読み、涙をこらえきれないボク。

そんな昔の思い出のシーンと、厳しい病状に向き合う母子の現実のシーンの対比が切なく、観る者の胸をしめつけます

やがて、厳しい抗がん剤治療にのたうち回る母を見て、ボクは苦しみのどん底に叩きつけられます。

治療を断念した彼らに残された時は、ほんのわずかでした。

混乱した母は、家に帰った幻想を見て息子に話しかけます。九州の家を離れ、東京の家も離れ、病院から出られなくなったオカンの悲しみ。それを理解する息子の苦しみ。

やがて母を喪い、泣き崩れるボクでしたが、苦悩を経て一段階成長した彼はどんな時でも仕事にまい進する覚悟を得ます。

そして、尚変わらずオカンはオカンのままだという真実を理解して救われました

死しても尚、息子を支え続ける母の愛の偉大さを感じ入らずにはいられません

ときどき現れるオトンとオカンの愛ある関係

苦しい病院生活の中で、見舞に現れたオトンに久しぶりに会えたオカンの喜びは明るい光でした

彼女は身なりを整え、指輪をつけて夫を出迎えます。ちょこんとベッドに正座した姿のかわいらしさ。一緒に売店に行った時の和やかな雰囲気。

その様子から、オカンがどれほど夫を愛し、待ち焦がれていたかが伝わってきて切なくなります

また、これまで女手一つで息子を気丈に育てながらも、実は心細かったであろうことまで透けて見えてきます

オトンは気まぐれで飲んだくれの困った人でしたが、憎めないチャーミングな男性でした。

オカンとオトンの姿を見て、演じる樹木希林と破天荒な実の夫・内田裕也との関係を思い浮かべた方もきっと多いのではないでしょうか

オトンが病室に泊まった晩。ボクは自分のラジオで、両親が出会った時に踊った思い出の曲「キサスキサス」をラジオで流しました。「ボクが愛してる人に捧げます」とコメントが涙を誘います。

穏やかな時間を過ごした二人でしたが、日に日に病状が悪くなっていく悲しい現実が訪れます。

それでも、最愛の息子と、離れながらも愛し続けた夫に見守られて逝ったオカンは、幸せだったことでしょう。

母の愛は昇華し、いつまでも二人を見守り続けるに違いありません。

まとめ

母と息子の強い絆を描いたヒューマンドラマ『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』

深い愛情とともに、誰もが経験するであろう肉親の老い、病、そして別れが正面から描かれます

人間の関係は、亡くなって終わってしまうものでは決してなく、新たな形に姿を変えて続いていくものなのでしょう。

心の中に生き続けることの意味を、きっと教えてもらえる一作です。



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