映画『命みじかし、恋せよ乙女』は2019年8月16日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開!
2019年秋に惜しまれつつもこの世を去った名女優・樹木希林最後の出演作。
それが、映画『命みじかし、恋せよ乙女』です。
『フクシマ・モナムール』で知られるドイツ出身の監督であるドーリス・ドリエが日本を舞台に描く、男と女の、そして幽玄の物語です。
映画『命みじかし、恋せよ乙女』の作品情報
【公開】
2019年(ドイツ)
【原題】
Cherry Blossoms and Demons
【脚本・監督】
ドーリス・デリエ
【キャスト】
ゴロ・オイラー、入月絢、ハンネローレ・エルスナー、エルマー・ウェッパー、フェリックス・アイトナー、フロリアン・ダニエル、ビルギット・ミニヒマイアー、ゾフィー・ロガール、樹木希林
【作品概要】
桃井かおりが出演した『フクシマ・モナムール』をはじめ、これまでに多くの日本を舞台とした映画を制作・発表し続けてきたドーリス・デリエ監督が新たに制作した幽玄の物語。
主人公にして孤独なドイツ人男性と彼のもとに現れた謎多き日本人女性の人生を再生するための旅と、次第に明かされていく悲しい真実を描いています。
そして本作は、2018年秋に惜しまれつつもこの世を去った名女優・樹木希林にとっての最後の出演作でもあります。
映画『命みじかし、恋せよ乙女』のあらすじとネタバレ
ドイツ・ミュンヘン。カールは別れた妻と娘の元に酔っぱらってやってきて、娘の誕生日パーティーを台無しにします。
家に一人寂しく帰っても酒をあおり続けるカール。すると、カールの前に“黒いナニカ”が現れ彼に迫ります。捉えようのない相手に恐怖におびえるカールは、助けを求めながらの眠りに落ちていきます。
翌朝、ユウと名乗る日本人女性がカールを訪ねてきます。ユウは日本で死んだカールの父・ルディと親交があったと言います。
ユウに頼まれて、ルディの眠る郊外の墓地にカールは向かいます。
その後、二人は今は空き家になっているカールの実家を一夜の宿とします。夜にまたあの“黒いナニカ”が現れ、カールは怯えますが、ユウはそれを優しくなだめます。
ある晴れた日。ユウを連れて観光名所のノイシュバンシュタイン城に向かったカールは、そこの土産物売り場で義姉のエマと再会します。
両親の遺産相続に加え、兄のクラウスが極右政党に入ったこともあって、親族との関係は悪化していました。
案の定、クラウスと怒鳴り合いの大げんかしてしまったカール。
カールは末っ子ということもあって兄クラウスや姉カロと仲が悪く、両親の死も相まって、二人とは疎遠になっていました。
兄弟とのこと、家族とのことを改めて考えたカールは、両親からの期待にも応えられなかった自分のふがいなさに心痛めます。
そんなカールを見て、ユウはそっと寄り添い「あなたはそのままでいい、愛している」と語りかけます。
映画『命みじかし、恋せよ乙女』の感想と評価
この映画を見てみると、まずドーリス・デリエ監督の日本文化への傾倒ぶりと、愛情の深さを感じることができます。
そもそもタイトルからして、黒澤明の名作映画『生きる』にて名優・志村喬が口ずさんだ“ゴンドラの唄”からきている。本作の劇中にも、庭のブランコを漕ぎながらこの歌を口ずさむシーンがあるほどです。
さらに、終盤の日本ロケにて使用された茅ケ崎館は、ヨーロッパでも人気の高い名匠・小津安二郎監督の遺作『秋刀魚の味』で撮影に使われた場所であり、小津監督以外にも新藤兼人監督や是枝裕和監督、西川美和監督の脚本執筆時の定宿として知られています。
最近では映画のロケ地としても知られており、『ハチミツとクローバー』『ちはやふる‐結び‐』といった作品にも登場しています。
そして、本作が最後の映画出演となった樹木希林は、かつて『秋刀魚の味』(1962年)に出演していた杉村春子の付き人としてこの旅館に訪れていたことがあるという、そのまま日本の映画史を見ているようなリンクを感じさせます。
前半部におけるユウのキャラクター造形はいかにも“外国からイメージした日本人女性”のような姿で、ちょっと違和感もありましたが、物語を最後まで見ると彼女がすでに特殊な存在の人物であることが分かり、彼女の持つ違和感も今では納得できます。
また、日本の文化・歴史の中で確立されてきたシャーマニズム・アニミズムとしての慣習、芝居における女形、衆道などにおける女装を監督独自に再解釈した映画でもあります。
LGBTQとは別の次元での人のアイデンティティを、意外な手段で表現しています。
まとめ
この映画はいわゆる“怪談”です。
怪談と言うと、歌舞伎や講談の演目である『四谷怪談』や『番町皿屋敷』などが有名であり、現在では「=ホラーor恐怖劇」と思われがちですが、その原点は、「人々のその時々における“常識”の埒外にまつわる事柄の物語」にあります。
民話や神話、伝承がもとになっているものが数多く存在し、中には悲恋や家族愛を描いたものも少なくありません。
そして映画『命みじかし、恋せよ乙女』とは、現代のヨーロッパで再解釈された『牡丹灯篭』そのものなのです。
境界を越えた男女の出会いと恋、そして別れ。命の在り方で運命が決まるところなど、『牡丹灯籠』との共通点が多いためです。
ちなみに近年の邦画作品では、中田秀夫監督のホラー映画『クロユリ団地』で描かれる物語のベースにも『牡丹灯籠』の物語が潜んでいます。
様々な解釈とともに、映画をはじめ、現代にて紡がれる物語の基底となり得る日本怪談の懐の広さを改めて確認させられる作品でした。
映画『命みじかし、恋せよ乙女』は2019年8月16日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開です。