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Entry 2019/07/15
Update

樹木希林映画『命みじかし、恋せよ乙女』あらすじネタバレと感想。名女優最後の出演作となった男女と幽玄の物語

  • Writer :
  • 村松健太郎

映画『命みじかし、恋せよ乙女』は2019年8月16日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開!

2019年秋に惜しまれつつもこの世を去った名女優・樹木希林最後の出演作

それが、映画『命みじかし、恋せよ乙女』です。

『フクシマ・モナムール』で知られるドイツ出身の監督であるドーリス・ドリエが日本を舞台に描く、男と女の、そして幽玄の物語です。

映画『命みじかし、恋せよ乙女』の作品情報


(C)2019 OLGA FILM GMBH, ROLIZE GMBH & CO. KG

【公開】
2019年(ドイツ)

【原題】
Cherry Blossoms and Demons

【脚本・監督】
ドーリス・デリエ

【キャスト】
ゴロ・オイラー、入月絢、ハンネローレ・エルスナー、エルマー・ウェッパー、フェリックス・アイトナー、フロリアン・ダニエル、ビルギット・ミニヒマイアー、ゾフィー・ロガール、樹木希林

【作品概要】
桃井かおりが出演した『フクシマ・モナムール』をはじめ、これまでに多くの日本を舞台とした映画を制作・発表し続けてきたドーリス・デリエ監督が新たに制作した幽玄の物語。

主人公にして孤独なドイツ人男性と彼のもとに現れた謎多き日本人女性の人生を再生するための旅と、次第に明かされていく悲しい真実を描いています。

そして本作は、2018年秋に惜しまれつつもこの世を去った名女優・樹木希林にとっての最後の出演作でもあります。

映画『命みじかし、恋せよ乙女』のあらすじとネタバレ


(C)2019 OLGA FILM GMBH, ROLIZE GMBH & CO. KG

ドイツ・ミュンヘン。カールは別れた妻と娘の元に酔っぱらってやってきて、娘の誕生日パーティーを台無しにします。

家に一人寂しく帰っても酒をあおり続けるカール。すると、カールの前に“黒いナニカ”が現れ彼に迫ります。捉えようのない相手に恐怖におびえるカールは、助けを求めながらの眠りに落ちていきます。

翌朝、ユウと名乗る日本人女性がカールを訪ねてきます。ユウは日本で死んだカールの父・ルディと親交があったと言います。

ユウに頼まれて、ルディの眠る郊外の墓地にカールは向かいます。

その後、二人は今は空き家になっているカールの実家を一夜の宿とします。夜にまたあの“黒いナニカ”が現れ、カールは怯えますが、ユウはそれを優しくなだめます。

ある晴れた日。ユウを連れて観光名所のノイシュバンシュタイン城に向かったカールは、そこの土産物売り場で義姉のエマと再会します。

両親の遺産相続に加え、兄のクラウスが極右政党に入ったこともあって、親族との関係は悪化していました。

案の定、クラウスと怒鳴り合いの大げんかしてしまったカール。

カールは末っ子ということもあって兄クラウスや姉カロと仲が悪く、両親の死も相まって、二人とは疎遠になっていました。

兄弟とのこと、家族とのことを改めて考えたカールは、両親からの期待にも応えられなかった自分のふがいなさに心痛めます。

そんなカールを見て、ユウはそっと寄り添い「あなたはそのままでいい、愛している」と語りかけます。

以下、『命みじかし、恋せよ乙女』ネタバレ・結末の記載がございます。『命みじかし、恋せよ乙女』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 OLGA FILM GMBH, ROLIZE GMBH & CO. KG

ユウのおかげで、新しい一歩を踏み出せるかと思ったカール。ところが、そばにいたはずのユウは急に姿を消してしまいます。

カールは酔って彷徨いこんだ深い夜の森で倒れ、そのまま昏倒してしまいます。病院に運ばれたカールは重症で、人工呼吸器がなければ生命維持ができないほどでした。

皮肉なことに、カールのことで兄弟や妻子が一堂に会し、ぎこちないながらも交流が再開します。

カールは奇跡的に目覚めますが、凍傷によって男性器を失うことになりました。

男らしくいることを求められて続けたカールは、思いもしない形でそこから解放されて、自分の中の女性的な部分を受け入れ始めます。

そして、カールは自身を変えてくれたユウを求めて、日本の茅ケ崎へと向かいます。

彼女の存在を追いかけてたどり着いたのは、老舗の旅館・茅ケ崎館。老女将がカールを優しく迎えてくれます。

カールは自然と女性用の浴衣に袖を通します。

やがてカールは老女将にユウの写真を見せますが、写真に映るユウの姿を一目見た老女将は狼狽した様子を見せ、それ以上のカールの問いかけを拒みます。

翌朝、カールは浜降祭の準備をする老女将から、ユウとその母は共に自ら命を絶ち、今はもういないということを聞かされます。

にわかには信じがたい話に困惑するカールですが、ユウの不思議な存在感を思い返すと、様々なユウとの出来事に通じる部分を感じてしまいます。

祭りの中、着物姿で浜辺へと向かうカール。すると、彼の前に再びユウが海の中から姿を現します。

ユウはカールを抱きしめ、そのまま海に沈もうとします。

カールはユウへの愛情を認めつつも、共に逝くことは拒み、もう少し自分は生きてみると語ります。

それを聞いたユウは、彼を優しく見送るのでした。

映画『命みじかし、恋せよ乙女』の感想と評価


(C)2019 OLGA FILM GMBH, ROLIZE GMBH & CO. KG

この映画を見てみると、まずドーリス・デリエ監督の日本文化への傾倒ぶりと、愛情の深さを感じることができます。

そもそもタイトルからして、黒澤明の名作映画『生きる』にて名優・志村喬が口ずさんだ“ゴンドラの唄”からきている。本作の劇中にも、庭のブランコを漕ぎながらこの歌を口ずさむシーンがあるほどです。

さらに、終盤の日本ロケにて使用された茅ケ崎館は、ヨーロッパでも人気の高い名匠・小津安二郎監督の遺作『秋刀魚の味』で撮影に使われた場所であり、小津監督以外にも新藤兼人監督や是枝裕和監督、西川美和監督の脚本執筆時の定宿として知られています。

最近では映画のロケ地としても知られており、『ハチミツとクローバー』『ちはやふる‐結び‐』といった作品にも登場しています。

そして、本作が最後の映画出演となった樹木希林は、かつて『秋刀魚の味』(1962年)に出演していた杉村春子の付き人としてこの旅館に訪れていたことがあるという、そのまま日本の映画史を見ているようなリンクを感じさせます。

前半部におけるユウのキャラクター造形はいかにも“外国からイメージした日本人女性”のような姿で、ちょっと違和感もありましたが、物語を最後まで見ると彼女がすでに特殊な存在の人物であることが分かり、彼女の持つ違和感も今では納得できます。

また、日本の文化・歴史の中で確立されてきたシャーマニズム・アニミズムとしての慣習、芝居における女形、衆道などにおける女装を監督独自に再解釈した映画でもあります。

LGBTQとは別の次元での人のアイデンティティを、意外な手段で表現しています。

まとめ


(C)2019 OLGA FILM GMBH, ROLIZE GMBH & CO. KG

この映画はいわゆる“怪談”です。

怪談と言うと、歌舞伎や講談の演目である『四谷怪談』や『番町皿屋敷』などが有名であり、現在では「=ホラーor恐怖劇」と思われがちですが、その原点は、「人々のその時々における“常識”の埒外にまつわる事柄の物語」にあります。

民話や神話、伝承がもとになっているものが数多く存在し、中には悲恋や家族愛を描いたものも少なくありません。

そして映画『命みじかし、恋せよ乙女』とは、現代のヨーロッパで再解釈された『牡丹灯篭』そのものなのです。

境界を越えた男女の出会いと恋、そして別れ命の在り方で運命が決まるところなど、『牡丹灯籠』との共通点が多いためです。

ちなみに近年の邦画作品では、中田秀夫監督のホラー映画『クロユリ団地』で描かれる物語のベースにも『牡丹灯籠』の物語が潜んでいます。

様々な解釈とともに、映画をはじめ、現代にて紡がれる物語の基底となり得る日本怪談の懐の広さを改めて確認させられる作品でした。

映画『命みじかし、恋せよ乙女』は2019年8月16日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開です。





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