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Entry 2024/11/13
Update

『遠い山なみの光』映画原作のネタバレあらすじ感想と結末解説。カズオ・イシグロのデビュー作をキャストの広瀬すずが好演

  • Writer :
  • 星野しげみ

カズオ・イシグロの『遠い山なみの光』が映画化に!

長編小説『日の名残り』で、1989年にイギリス最高の文学賞とされるブッカー賞を、2017年にノーベル文学賞を受賞した作家カズオ・イシグロ。

他にも『わたしを離さないで』『忘れられた巨人』『クララとお日さま(英語版)』など数多い著書の中、デビュー作である長編小説『遠い山なみの光』がこのたび、映画化されることになりました。


『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ/小野寺健訳(ハヤカワ文庫)

本作は、イギリスに暮らす1人の女性が、娘を自殺で失い、喪失感に苛まれる中、戦後混乱期の長崎で微かな希望を胸に懸命に生きぬいた若き日々を振り返るという物語です。

圧倒的な人気を誇る広瀬すずを主人公に、『蜜蜂と遠雷』(2019)『Arc アーク』(2021)『ある男』(2022)の石川慶監督が映画化しました。

映画『遠い山なみの光』は、2025年夏に全国ロードショー!。映画公開に先駆けて、小説『遠い山なみの光』をネタバレありでご紹介します。

小説『遠い山なみの光』の主な登場人物

【わたし】
主人公。悦子

【景子】
悦子の娘 二郎との間に生まれた長女

【ニキ】
悦子の娘 2番目の夫との間に生まれた次女 ロンドン暮らしている

【二郎】
悦子の最初の夫

【緒方】
二郎の実父二郎と会う前から被爆後世話をしてもらっており知り合い

【佐知子】
悦子の友人

【万里子】
佐知子の娘

【フランク】
佐知子のアメリカ人彼氏

小説『遠い山なみの光』のあらすじとネタバレ

長崎出身で現在はイギリスの片田舎に住む悦子(わたし)の所へ、娘のニキがロンドンから訪ねてきました。

悦子はニキと様々な会話を通して、日本での若い女性としての自分の人生と、イギリスに住むために日本を離れた経緯を振り返ります。

悦子と日本人の夫の二郎との間に長女・景子を授かりますが、その数年後に悦子はイギリス人の男性に会い、彼と一緒にイギリスに行きます。

彼女は長女の景子をイギリスに連れて行き、新しい夫と一緒に暮らし始めました。

悦子と新しい夫に娘ができると、悦子は彼女を現代風な名前にしたがり、夫は東洋風の名前を欲しがったので、「ニキ」と名付けました。

名前に妥協して、悦子には完全に英国人のように聞こえますが、彼女の夫には、少なくともわずかに日本人らしい名前でした。

一方、イギリスで、景子は次第に孤独で反社会的な娘になります。そしてやがて、景子は自室で首を吊って死にました。

悦子は、景子が大きくなるにつれて、自分の部屋に閉じこもり、母親が台所に置いておく夕食の料理を食べるだけの生活になったことを思い出しました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『遠い山なみの光』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『遠い山なみの光』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

悦子は訪ねてきたニキに、戦後間もない長崎で佐知子という友だちがいた話をします。

佐知子には万里子という娘がいました。万里子は、悦子によると、並外れて孤独で反社会的な少女でした。

悦子の回想では、佐知子は「フランク」という名のアメリカ兵と一緒に麻理子をアメリカに連れて行くことを計画していました。

悦子は、ニキがロンドンへ帰る日まで、切れ切れに佐知子と万里子の母娘のことを思い出し、ニキに話しました。

ニキがロンドンへ帰る日、悦子は言います。

「この間考えたのだけど、もうこの家は売った方がいいんじゃないかしら」

驚ろいて不満そうなニキに、悦子は「ただ考えただけ。それだけよ。ニキ」と言いました。

帰宅のために家を出たニキを悦子は家の戸口に立って見送りました。門まで行って振り返ったニキは悦子がまだいるのに驚いたようです。

悦子はにっこり笑うと、手を振りました。

小説『遠い山なみの光』の感想と評価

小説『遠い山なみの光』は、戦後間もない1950年代の長崎と1980年代のイギリスを舞台に、1人の女性の時代と場所を超えて交錯する“記憶”の秘密を紐解いていく物語。

日の名残り』(1993)『わたしを離さないで』(2011)などの映画化された作品でも高い評価を受けるカズオイシグロが、自身の出生地・長崎を舞台に描いています。

主人公の悦子は長崎で原爆を経験し、戦後結婚してイギリスに渡ってきました。娘が2人いますが、末娘のニキは母の過去を一度も聞いたことがありません。

夫と長女を亡くしてニキが自立した後、広い家に一人で住んでいた悦子は、帰省したニキにポツリポツリと自分の過去を語り始めます。

悦子の過去には、戦後の長崎で遭遇するある母娘が登場します。悦子が出会ったこの母娘を作者が描くことで、当時悦子が理解できなかった母娘の行いを、その後同じようにしている自分自身に悦子も読者も気づかされます。

悦子と日本の母娘には共通点もあれば相違点もあったのですが、母娘のことをニキに語るとき、悦子は希望も含めて自分の想像を交えて話しました。

過去はほろ苦い思い出となって、悦子の胸に蘇ったのでしょう。昔をいくら懐かしんでもその頃に戻れるわけではありません。悦子はニキに昔を語りながら、そのことを噛みしめ、新たな旅立ちの心構えをしていきます。

内面に‟生き抜くという狂気”を孕みながらも、それでも生きなければならなかった戦後の女性の生様を、地味な物語ながらしみじみと映し出した作品でした。

映画『遠い山なみの光』の見どころ

カズオ・イシグロの長編デビューの小説を映画化したのは、『蜜蜂と遠雷』(2019)『ある男』(2022)などを手掛けて、世界中から大きな注目を集めた石川慶監督です。

石川慶監督は映画化にあたり、「この大きな原作に立ち向かう勇気を僕に与えてくれたのは、他ならぬ原作者のカズオさんの『この物語は、日本の若い世代の人たちの手で映像化されるべきだと思っていた』というお言葉でした」とコメントしました。

また、主人公の悦子を演じるのは、2025年の公開作も数多く控えている人気俳優広瀬すず。「難しくて、悩みながらでしたが、不穏な緊張感を感じるたび悦子に近づいているのを確信し、心強い座組のなかお芝居できたことがとても宝物のような時間でした」と、撮影当時を振り返ります。

そんな広瀬すずの‟悦子”を、カズオ・イシグロと石川慶監督は大絶賛。広瀬すずは、両者が思い描く‟悦子”像をほぼ100%に近く、演じ切ったようです。

運命に翻弄されるようでいて実は逞しく生き抜いている、計り知れない想いを抱える悦子。広瀬すずの演技に注目です。

映画『遠い山なみの光』の作品情報

【日本公開】
2025年(日本・イギリス合作映画)

【原作】
カズオイシグロ『遠い山なみの光』(早川書房)

【監督・脚本・編集】
石川慶

【エグゼクティブプロデューサー】
カズオ・イシグロ

【キャスト】
広瀬すず

まとめ

カズオ・イシグロのデビュー作『遠い山なみの光』をご紹介しました。

最初の日本語版は、1984年に筑摩書房から刊行された小説『女たちの遠い夏』が、2001年に改訂して早川書房のハヤカワepi文庫に収録される際に『遠い山なみの光』に改題された作品です。

日本人の母とイギリス人の父を持つ娘が、長崎で原爆を体験した母から遠い昔の子どもの頃の話を聞くという物語で、最初のタイトルの方が作品の内容と一致しているように思えますが、「光」という単語に込められた未来への希望を感じます。

物語には、第二次世界大戦の惨禍と原爆投下後の急激に変化していく日本に生きた人々の姿があり、憧れや希望、恐怖や不安も伺われました

映画で広瀬すずが運命に翻弄され、遠く離れた異国の地から生まれ育った母国を想う日本女性をどう演じるのか、楽しみです。

映画『遠い山なみの光』は、2025年夏に全国ロードショー!




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