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Entry 2021/11/19
Update

映画『そして、バトンは渡された』ネタバレ感想評価と結末解説。原作と違う秘密とみぃたん/優子の描き方は“バトン”の解釈に理由が

  • Writer :
  • 河合のび

親たちがついていた命懸けの嘘と秘密とは?
「バトン」をつないできた親たちと子の愛と絆の物語。

第16回本屋大賞を受賞し、「令和最大のベストセラー」と称される瀬尾まいこの同名小説を映画化した『そして、バトンは渡された』。

さまざまな親から親へとリレーされながら育ち、小学生から高校卒業までに4回も名字が変わった主人公の優子。二人の母・三人の父を持つ彼女が、自分の人生を歩み出そうとする中で、それぞれの親たちとの絆と愛を確かめてゆくさまを描き出します。

永野芽郁、田中圭、石原さとみなど豪華キャスト陣が勢ぞろいし、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲が監督を務めた本作。

本記事では、映画『そして、バトンは渡された』をあらすじネタバレありで紹介いたします。

映画『そして、バトンは渡された』の作品情報


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【原作】
瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文春文庫)

【監督】
前田哲

【脚本】
橋本裕志

【キャスト】
永野芽郁、田中圭、岡田健史、石原さとみ、大森南朋、市村正親、稲垣来泉

【作品概要】
第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名ベストセラー小説を映画化。さまざまな親から親へとリレーされながら育ってきた主人公が、自分自身の人生を歩み出そうとする中で、二人の母・三人の父たちとの絆と愛を確かめてゆくさまを描く。

主人公・優子を永野芽郁、血のつながらない父「森宮さん」を田中圭、魔性の女・梨花を石原さとみがそれぞれ演じるほか、監督を『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲が務めている。

映画『そして、バトンは渡された』のあらすじとネタバレ


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

高校3年生の優子(永野芽郁)は、どんなに嫌な思いをしても常に笑顔でいるようにしていましたが、それはかえって周囲からの嫉妬や反感を買ってしまっていました。

優子は親の結婚・離婚により、高校生になるまでに4回も名字が変わっていました。そして現在は「森宮優子」として、「ママ」に逃げられたものの、自身のことを真摯に支えてくれる料理上手な義父「森宮さん」(田中圭)と二人暮らしをしていました。

ある日、優子はクラスメイトたちに押しつけられる形で、卒業式でのクラス合唱のピアノ奏者へ任されます。家庭用の電子ピアノで自宅練習を続ける中、彼女はピアニストとして将来を嘱望されている同級生「早瀬くん」(岡田健史)の存在を知り、彼のピアノを弾く姿を見て恋をしてしまいます。

優子が7歳のころ……友だち想いだが泣き虫ゆえに「みぃたん」と呼ばれていたころ、彼女は「水戸優子」として、実の父である「水戸さん」(大森南朋)と暮らしていました。

物心つく前に実の母を亡くしていたため、「自分にだけなぜママはいないのか?」と時には泣いていた幼い優子。そんな時、水戸さんがある女性と再婚することになりました。

相手は、水戸さんが勤務するチョコレート工場でパートとして働いていた田中梨花(石原さとみ)。水戸さんの夢「ブラジルで見つけた最高のカカオ豆で『自分のチョコレート』を作る」も応援しているという梨花は、義理の娘である優子に愛情をもって接してくれます。

しかし水戸さんが会社を辞め、ブラジルへ家族全員で移住しチョコレート作りを始めると勝手に決めてしまったことで、あまりにも大きな環境の変化を嫌がる梨花との間に対立が。

優子は実の父である水戸さんとともにブラジルへ行くか、義理の母である梨花と日本に残るか悩んだ結果、「日本の友だちと約束してしまったから」と理由で涙ながらも日本に残ることをしました。

場面は現在、優子は学校で進路相談を受けていました。4年制大学に行ける学力はあるものの、栄養士などの資格をとり料理に携わる者として早く自立したいと語る彼女に、「家庭に問題があるのかしら」と口にする担任。その言葉に答えた優子の顔に、いつもの貼り付けたような笑顔はありませんでした。


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

その後優子は、隣の教室で行われていた早瀬くんの進路相談を偶然目にします。有望なピアニストながら、彼に期待を押しつけ続けてきた母との確執にウンザリしていた早瀬くんは、音楽と同じくらい料理を愛していた音楽家ロッシーニのように、料理人を目指そうとしていました。

やがて優子と早瀬くんは、ピアノ、料理人として自立したいという夢、そして互いの親子関係への憧れ……早瀬くんは優子と森宮さんの互いを尊重できる親子関係への、優子は早瀬くんとその母の喧嘩のできる親子関係への憧れを語る中で、親しくなっていきました。

場面は過去へ。「田中優子」として梨花との二人暮らしを始めた幼い優子は、ブラジルへ一人行ってしまった水戸さんを思い出しては、寂しさで泣いてしまっていました。そんな時にいつも梨花は「こういう時こそ笑うべき」と励ましました。

一方で優子は水戸さんへの手紙を毎週送っていましたが、いつまで経っても返信が届くことはありませんでした。

生活も決して楽ではない中、それでも優子と梨花は仲睦まじく暮らしていましたが、ある時優子は「ママは何歳まで生きるの?」と梨花に突然尋ねます。「一人ぼっちになっちゃうから、ずっと死なないでね」という優子に、梨花は「大丈夫」と笑顔で答えました。

ある日の小学校帰り、ピアノ教室へ行く同級生たちと別れ一人ぼっちになった優子は、傘も差さないまま雨の中を歩きます。しかし、偶然通りがかった大きな邸宅から聞こえてきた美しいピアノの音色に幼いながらも感動した優子は、元気を取り戻しました。

帰宅後、梨花に「ピアノを習いたい」と口にする優子。無論現在の生活では到底無理だと理解していた彼女は諦めようとしますが、梨花は「ママがんばってみる」と答えました。

場面は現在へ。会社で働く森宮さんのもとに、梨花が現れます。何か「頼みごと」をしに来た梨花に対し、森宮もまた梨花に「頼みごと」をしました。

その後、森宮さんとレストランで待ち合わせた優子は、彼に「会わせたい人がいる」と伝えられます。しかしいつまで経っても、森宮さんのいう「会わせたい人」は現れませんでした。そのころ梨花は別のレストランで、ある老紳士に「頼みごと」をしていました。

場面は過去へ。梨花とともに豪邸に訪れた幼い優子は、「今日からみぃたんのものよ」と伝えられた邸内の大きなグランドピアノに驚き、続けて豪邸の家主であり梨花の再婚相手「泉ヶ原さん」(市村正親)を紹介されてさらに驚きます。


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

それまでの厳しい生活とは打って変わり、ピアノの個人レッスンまで受けられるようになった優子。一方で梨花は、泉ヶ原家での裕福だが堅苦しい生活になじめずにいました。そしてある日、梨花は泉ヶ原家から姿を消しました。

泉ヶ原さんは「今はぼくがパパだ」と優子を慰めますが、それでも「ママ」である梨花がいない寂しさは拭い切れませんでした。しかし姿を消して2ヶ月が経過したクリスマスの日、梨花は突然帰ってきました。

「牧場で働いていた」という梨花は、今後は週末婚で関係を続けさせてほしいと提案し、泉ヶ原さんもそれを了承します。しかし、実はすでに梨花は新たな彼氏を探しており、それを聞かされた優子は困惑してしまいます。

場面は現在へ。優子は無事受験に合格し、優子の言葉によって後押しされた早瀬くんも音大への入学が決まっていました。森宮さんとのお出かけ中、優子は早瀬くんへのお祝いのプレゼントを買います。

その後、優子は森宮さんから合格祝いとしてほしかった腕時計をプレゼントされます。それに対して優子も、料理上手な森宮さんに食器セットを贈ります。そして「もう私は大丈夫」と自立の決意を伝えますが、森宮さんは「父親の務め」を最後まで果たしたいと答えます。

すると、遠くから聞き覚えのあるピアノの音がしてきます。優子と森宮さんが音のする先へ行くと、そこには子どもたちを楽しませながら、広場に展示されていたピアノを弾く早瀬くんの姿がありました。

早瀬くんの姿を見つめる優子と、彼女の姿を見て優子の恋する相手を改めて察する森宮さん。しかしピアノ演奏後、恋人とともにその場を後にする早瀬くんも目撃してしまった優子はショックを受けました。

早瀬くんからのレッスンでうまく弾けるようになったピアノも、恋人の一件以来調子が悪くなってしまった優子。しかし森宮さんのサポートのおかげで、次第に調子を取り戻していきました。

場面は過去へ。すっかりピアノが上達した幼い優子に感動しながらも、梨花は新しい再婚相手を同窓会で見つけ、すでに式場も押さえてあると伝えます。

ピアノの発表会を間近に控えていた優子は戸惑いますが、梨花の説得により彼女へついて行くことを選びます。そして「みぃたん」の幸せを考えた上でそれを受け入れてくれた泉ヶ原さんに感謝の言葉を伝えました。

場面は現在、優子の高校の卒業式当日へ。参列者席で優子のピアノ演奏を見つめていた森宮さんは、優子と初めて会った日のことを思い出していました。

同窓会で再会した初恋相手の梨花との結婚式当日、初めて優子の存在を知らされた森宮さん。困惑はしたものの、「ごめんなさい」と謝る幼い優子を見て「未来の楽しみが二倍になった」「明日が二つになった」と受け入れ、優子の「父親」になったあの日。

こらえきれず涙が溢れ出る森宮さんを見て、優子もまた涙を浮かべつつ、梨花の言葉通り笑顔でピアノを弾きました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『そして、バトンは渡された』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『そして、バトンは渡された』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

高校卒業後、短大で多くの資格を取得した優子は一流レストランに就職。しかし一流レストランゆえの堅苦しさになじめず辞めてしまった彼女は塞ぎ込んだのち、学生時代のバイト先「キッチンよしだ」で再び働き始めました。

ある日、出前の配達へ行く優子。届け先へ着くと、そこは幼い日にピアノの音色を聞いた例の邸宅でした。そしてその邸宅から、母と口論しながら飛び出してゆく早瀬くんの姿を目にします。

音大を結局辞めてしまい、例の彼女とも別れた現在は料理人として修行中……「ピアノなんてなくても生きていける」と語る早瀬くんに、再会の握手を求められる優子。そして握手をした際の彼女の反応を見て、優子が自分のことが好きだと気づく早瀬くん。

優子は在りし日の自分がピアノに目覚めたきっかけ……幼かったころの早瀬くんが弾いていた、ピアノの音色を偶然聴いた思い出を彼に明かしました。その出来事を機に、二人は友人ではなく恋人として、ともに同じ時間を過ごすようになりました。

ある日、森宮さんのもとを訪ねる優子。並んでキッチンに立ってその腕をふるい、お互いに作った料理を褒め合う二人。優子は森宮さんの手料理こそが、自身の目指していた料理のルーツであると実感します。

やがて優子は、結婚を考えていることを森宮さんに伝えます。最初は戸惑いながらも優子の決意を了承しかけていた森宮さんでしたが、結婚相手が早瀬くんと知るや、彼に優子は託せないと結婚を反対します。

早瀬くんとはほぼ絶縁状態である彼の母にも会ったものの、早瀬くんのピアノの才能を信じ続ける彼の母に嫌味を言われる優子。また早瀬くんによる仕事帰りの森宮さんへの直談判も効果はなく、結婚までの道のりは暗礁に乗り上げてしまいます。

そこで優子は、かつて自分を育ててくれた他の「親」たちのもとへ挨拶に行き、結婚に賛成し応援してくれる人を増やす「親巡りの旅」を提案します。

はじめに、泉ヶ原さんの家を訪ねる二人。優子と梨花と家族になる以前、前妻が愛用していたグランドピアノを幼い優子が弾くようになった影響で、のちに調律を学んだという泉ヶ原さんは、優子が自身を「父親」の一人と認めてくれていたことに喜び、結婚も祝福します。

当時の梨花との再婚・離婚も、幼い優子を愛していたがゆえの行動だったと語る泉ヶ原さん。梨花から離婚後に連絡があったかと優子に尋ねられると、連絡はないものの、どこかで元気にやっているだろうと答えました。


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

その後、優子の家に荷物が届きます。送り主は梨花。箱を開けてみると、そこには梨花が優子に宛てた手紙と、一度も返信が届かなかったはずの水戸さんのブラジルからの手紙がたくさん入っていました。

優子が中学生だったころに出て行ったきりの梨花の手紙には、「自分は最低の母親です」という言葉とともに、水戸さんの手紙が幼かった優子のもとに届かなかった理由が記されていました。

実の父である水戸さんに会いたがる幼い優子とどうしても離れたくなかった梨花は、水戸さんからの返信の手紙を優子に渡せなかったこと。優子の書く手紙も郵便に出せなくなり、水戸さんの手紙と一緒に隠していたこと。時には水戸さんへ「優子は夢を優先した父親を恨んでいる」と嘘の手紙まで送っていたこと。

そして水戸さんはブラジルでの事業がうまくいかず、現在は再婚し、青森でリンゴ農家として働いていること。再婚相手との間に子どもがいること……。

届くことのなかった水戸さんからの手紙を今さら読むべきか、森宮さんに相談する優子。その中で森宮さんに「梨花を恨んでいるか」と尋ねられますが、「『みぃたん』なら恨んでた」とだけ答えました。

森宮さんは職場に梨花が現れたこと、かつてレストランで優子と梨花を会わせようとしたが「会わせる顔がない」と結局梨花は会おうとしなかったことを明かした上で、水戸さんと会うべきだと優子を説得しました。

早瀬くんとともに、水戸さんが暮らす再婚相手の家へ向かう優子。到着したものの、幸せそうな再婚相手とその子どもたちの姿を見て帰ろうとしますが、水戸さんがその場に現れ、一目で成長した優子を「みぃたん」だと気づきました。

水戸さんのもとにも、幼い優子が書き続けていた手紙が梨花から送られていました。また水戸さんは、かつて工場で出会った時点で梨花は病気により子どもの産めない体であったこと、だからこそ優子に対して強い想いを抱いていたことを明かします。

帰りのバス内で、かつての母との記憶を語る早瀬くん。自分のピアノによって喜ぶ母を見るのがうれしかったはずなのに、いつの間にか関係性が変わってしまったと口にする彼に、やっぱりピアノを弾くべきだと優子は伝えます。早瀬くんもその言葉に同意しました。

後日、二人は優子の実の母が眠る墓に訪れ、結婚の挨拶と感謝の言葉を伝えます。そこで、同じく墓参りに来た森宮さんと出くわします。

ピアノと再び誠実に向き合う決意を伝え、改めて優子との結婚を許してほしいと告げる早瀬くん。森宮さんはついに結婚を了承し、泉ヶ原さんから預かっていた、結婚式費用が入った預金通帳を二人に渡します。

「親巡りの旅」も終わったと早瀬くんが口にする中、まだもう一人の「ママ」の梨花と会えていないと答える優子。

森宮さんに「梨花を許せるのか?」と尋ねられても、「やっぱり梨花さんのことが大好きだから」と答えます。その言葉を聞いた森宮さんは「今朝電話があった」と話を切り出します。

梨花は訪れていた泉ヶ原さんの家で、病によってすでに亡くなっていました。

梨花は長きにわたって、闘病生活を送っていたこと。ブラジル行きを拒んだのも、病に冒された自分の体では新天地の生活に耐えられないと考えてのものだったこと。自身の病気については、父親たちの協力を得ながら優子には徹底的に隠していたこと……梨花が眠る棺のそばで、優子は泉ヶ原さんから真実を伝えられます。

それらは全て、梨花がかつて「みぃたん」だった優子に言われた「一人ぼっちになっちゃうから、ずっと死なないでね」という願いを、嘘をついてでも守ろうとしたゆえの選択でした。

梨花が自分を頼ってくれなかったことに怒りと悲しみを覚え、亡くなる直前に梨花と会っていた森宮さんにも、どうしてママの体調が分からなかったのかと強く当たってしまう優子。それに対し、泉ヶ原さんは梨花の想いをさらに伝えます。

梨花は幼いうちにママを二人失うという体験を優子にさせなかったと考えていたこと。あえて自分らしく振る舞い、だからこそ絶対に優子には会おうとしなかったこと。

ただ高校の卒業式にだけは密かに参列し、成長した優子の姿を目にしたこと。早瀬くんとの結婚も祝福し、優子のためにウェディングドレスも用意していたこと……。

涙を浮かべながら梨花の眠る棺へ「ありがとう、ママ」と伝える優子。そして「こういう時こそ笑わなくちゃ」「ママはふらっといなくなっただけで、どこかで生きてる」を微笑みました。

優子と早瀬くんの結婚式当日。生前に梨花が選んでくれたウェディングドレスを身にまとった優子の控え室には、森宮さんと泉ヶ原さん、青森から駆けつけた水戸さん、そして無事和解できた早瀬くんの母親もいました。

「私は幸せだね」「父親が三人もいて、みんな愛してくれた」「だからこそ今、ここにいる」と語る優子に対し、森宮さんも優子との出会いのおかげで、生きがいを見失っていた当時の自身は変われたと答えます。

また森宮さんは、優子の式場へのエスコート役を実の父である水戸さんから託されます。自分がその役を担っていいのかと戸惑う彼に、優子は「父親の使命を全うしてほしい」と伝えます。

式への入場前、かつてプレゼントした腕時計を結婚式でも身に着ける優子を見て感極まってしまう森宮さん。優子は「笑って」と励まします。

森宮さんにエスコートされ、ヴァージンロードを進んでゆく優子。その先には、新郎である早瀬くんが待っていました。

「優子ちゃんは本当にいい子で、いろんな親の愛情がぎっしり詰まっている」「自分は、そんな親たちから渡されたバトンを持ち続けるのに必死だった」「俺からのバトン、ちゃんと受け取ってくれよな」……森宮さんからは早瀬くんに「バトン」を渡しました。

「そして、バトンは渡された」

優子と早瀬くんは笑顔とともに、新たな道へと歩み始めました。

映画『そして、バトンは渡された』の感想と評価


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

バトンの担い手は「優子の親たち」だけではなく

作中の物語を通じて、優子の二人の母・三人の父たちが渡し続けてきたバトン。その「バトン」と表現されるものは「使命」や「責任」、あるいはよりシンプルに、純粋に「想い」とも言い換えることができます。

「『娘』である優子の幸せ」というたった一つのゴールを目指して「バトン」を渡し、受け取り、進み続けてきた優子の二人の母と三人の父たち。その一方で、「バトン」は決して優子の親たちの間だけに存在するものではないことも、作中では描かれています。

優子が目指していた料理の道も、常に彼女のことを支え続けてきた森宮さんの手料理がルーツでした。幼少期の彼女がピアノと音楽の素晴らしさに目覚めたのも、早瀬くんの「母親を喜ばせたい」という在りし日の想いが込められていた、ピアノの音色がきっかけでした。

また映画の後半部にて、早瀬くんがピアノと改めて向き合おうと決意できたのも、早瀬くんの母親が抱える「息子の才能をより良い形で発揮させてあげたい」という責任感、絶縁状態になってもなお彼が再びピアノを弾くことを信じ続ける想いを「受け取った」優子の言葉でした。

そして、結婚式で早瀬くんが森宮さんから「バトン」を渡されたように、優子もまた早瀬くんの母親から「バトン」を渡されたことも、映画終盤の式場控え室での場面にて描かれています。

「人間」だからこその願いを叶えるバトン


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

バトンは決して、優子が「特別」だから存在していたわけではない。

無論、優子の二人の母・三人の父たちにとって彼女は「特別」ではありますが、彼の母親にとっての早瀬くん、優子にとっての早瀬くんがそうであるように、「特別」は決して「親子」という関係性のみならず、人と人のつながりの数ほどに存在することも、映画『そして、バトンは渡された』では描かれています。

人と人とのつながりの中に、数え切れないほどの「特別」が存在する。そんな「特別」のために、人々は自らの生と死の最中でバトンの受け渡しを続けている。

それらをふまえると、本作における「バトン」とは、個人と他人の狭間でその生涯を過ごす人間の、自愛と他愛とが融け合った二つの願い……自分たちがそれぞれに持つ「特別」が誰かにとっての「特別」にもなってほしいという願い、たとえ自分たちがこの世界を去ったとしても「特別」に生き続けてほしいという願いを叶えるための方法といえます。

「人間は何のために生きるのか」「人間はなぜ一人では生きられないのか」……生きてゆく中で誰もが一度は抱いたことのある人生への問いに、本作は「バトン」をめぐる物語でもって答えているのです。

まとめ


(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

「動く映像」を記録できるという点から、その黎明期の時点から「その時、人々は確かに生きていた」という記憶を残すという役目も担い続けてきた映画。スクリーンに映し出されるその映像には、自分たちにとっての「特別」な記憶を残したいという制作者の願いが強く反映されています。

「『その時、人々は確かに生きていた』という記憶を後世に伝えたい」「より色濃く当時の様子を伝えられる映像によって、記憶を残したい」という人々の願いが込められた映画。それはまさしく、バトンが持つさまざまな形の一つであり、小説『そして、バトンは渡された』が描いたバトンをめぐる物語が映画化されたことは、もはやごく自然なことともいえます。

原作者である瀬尾まいこが小説という形で「バトンをめぐる物語を伝えたい」というバトンを形作り、そのバトンが小説を読んだ人々の元へと渡る。ついには映画という新たな形のバトンへと変化し、リレーはさらにつながってゆく。

「そして、バトンは渡された」

その言葉通り、バトンをめぐる物語のリレーもまた続くのです。






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