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『メイデン』あらすじ感想と評価レビュー。思春期を思い悩みながら生きる青年たちをユニークな視点で描いた青春物語

  • Writer :
  • 桂伸也

2025年4月19日(土)より、映画『メイデン』はシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!

多感な時期を生々しく生きる若者たちの姿を、新鮮な視点でとらえたドラマ『メイデン』

本作はカナダの新鋭グラハム・フォイ監督が、自身が育ったカナダ西部のアルバータ州カルガリーで撮影を行った初監督作品。

2022年・第79回ベネチア国際映画祭のベニス・デイズ部門にて「未来の映画賞」を受賞、さらに第75回カンヌ国際映画祭批評家週間「Next Step」のプログラムにも招待されるなど、非常に大きな注目を浴びました。

映画『メイデン』の作品情報


(C)2022 FF Films and Medium Density Fibreboard Films.

【日本公開】
2025年(カナダ映画)

【原題】
The Maiden

【監督・共同脚本】
グラハム・フォイ

【出演】
ジャクソン・スルイター、ヘイリー・ネス、マルセル・T・ヒメネス、カレブ・ブラウ、シエナ・イーほか

【作品概要】
思春期の少年少女が新たな友情の芽生え、そして孤独と喪失感に遭遇したひと夏の風景を、16ミリフィルムで情感豊かに描いた青春映画。

本作を手がけたのは、カナダの新鋭グラハム・フォイ監督。本作で長編デビューを果たしました。

またメインキャストとなるジャクソン・スルイター、ヘイリー・ネス、マルセル・T・ヒメネスの3人も本作で映画出演デビューを飾りました。

映画『メイデン』のあらすじ


(C)2022 FF Films and Medium Density Fibreboard Films.

カルガリー郊外に住む高校生コルトンは、親友のカイルとともに、スケートボードや渓谷での水遊びなど、夏休みの幼き日々を気ままに過ごしていました。

ところが夏休みも終わりに近づいたある日、2人は立入禁止の鉄道線路に侵入、そこでカイルは悲惨な事態に直面してしまいます。

突然の別れに、新学期が始まってもその事実を受け止めることができないコルトン。周囲の人間の気遣いにもかかわらず深い喪失感から抜け出せず時にも自暴自棄になりがちな彼は、時々以前カイルと一緒に戯れた渓谷へ足を運ぶようになります。

その頃、同じ高校に通うホイットニーが行方不明になる。偶然にもコルトンが渓谷で拾った彼女の日記帳には、学校での人間関係に悩む彼女の切実な思いがつづられていた。

映画『メイデン』の感想と評価


(C)2022 FF Films and Medium Density Fibreboard Films.

互いにふざけ合い、笑い合いながら青春を謳歌する一時、そして対照的にまるですべてを失ったような喪失感をおぼえ沈み込む一時。

カナダにあるのどかな田舎町の光景を舞台に、物語ではさまざまな思いに揺れ動く若者の姿を、自然な視線で描いた物語です。

しかし一見自然な視線で描いているように見えながら、どこか意図したギミックのようなものが作品から見えてきます。

メインとなる物語の登場人物は、主人公コルトンとその親友のカイル、そして女子高生ホイットニーという3人の若者。大きくは前半がコルトンとカイルの物語、そして後半がホイットニーとカイルという組み合わせによる物語で構成されています。

このカイルという一人の青年の存在を通じて、カイルとホイットニーという2人の複雑な心情をうまく重ね合わせ、思春期の青年たちの普遍的なイメージを描いているわけです。

演じているキャストたちの表情作りのうまさもあり、非常に自然な印象で若者たちの心情がスクリーンより伝わってくるものとなっています。


(C)2022 FF Films and Medium Density Fibreboard Films.

興味深いのは、物語の前半、後半それぞれの筋の組み立て方にあります。

コルトン、ホイットニーそれぞれが抱く心情と出くわすエピソードは、前半の終わりを起点として前後が対称的な構成になっているようでもあります。

その心情の変化、ハプニングの現れ方は、後半の筋からは「前半の物語を逆回しにしているのではないか」という印象すら見えてくる物語の構成。

この効果はコルトンの心情をある意味後半の筋で改めて答え合わせをしているような印象でもあり、単純な起承転結型の構成とは異なる斬新感を覚えてきます。

ロードムービーのようなロケーション、イメージを前面に打ち出しつつ、旅と呼べるほどの時間軸を用意している印象もない中で「友情」というキーワードを中心に展開していくこの物語。

そのテーマはこれまでさまざまな作品で描きつくされたようにも思われる中、本作はまた新たなアイデア、視点を提示しているようでもあります。

また一方でトリッキーとも思われる構成を物語の筋に織り込みながらも、それを不自然に感じさせない配慮も要所で見られ、作品の高い完成度を感じさせるところでもあります。

まとめ


(C)2022 FF Films and Medium Density Fibreboard Films.

主役のジャクソン・スルイターをはじめ、メインキャストの3人はいずれもオーディションによって選ばれ、本作で映画デビュー作となったフレッシュな俳優陣。

一方、スルイターは有名企業がスポンサードを行っているプロスケートボーダーで、その佇まいは非常に印象的でもあります。

特に本作での印象として、『スタンド・バイ・ミー』(1986)のリヴァー・フェニックスを思い出す人も少なくないのではないでしょうか。それゆえ、本作もどこか『スタンド・バイ・ミー』(1986)と重ねて見てしまいたくなる、そんな印象も生まれてきます。

そんな彼を一つのアイコンとして、揺れ動く心情を繊細に表現したヘイリー・ネス、マルセル・T・ヒメネスもまた、デビュー作ながら非常にセンスの高さを感じさせる表情を見せており、作品をフレッシュかつ生々しい表現を絡めた見ごたえのある物語として仕上げています。

映画『メイデン』は2025年4月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!




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