“顔なきポップスター”として活動する歌手Siaが初監督をつとめ、Siaならではのポップでカラフルな世界観を作り上げました
世界的注目を集める歌手Siaが監督をつとめ、自身の半生を投影させて描き、12曲もの劇中歌を書き下ろしました。
キャスティングにもこだわり、Siaの楽曲『シャンデリア』で圧巻のパフォーマンスをし反響を呼び、以後SiaのMVに多数出演したマディ・ジーグラー、そしてSNSを駆使してケイト・ハドソン、レスリー・オドム・Jrをキャスティングしました。
アルコール依存症の更生プログラム中のズーは、克服したいのになかなか克服できない依存症の怖さ、さらに孤独なズーに寄り添う存在の大切さを伝えています。
さらに、愛と希望に満ち溢れた音楽はかつて依存症に悩み音楽と人々に救われてきたSiaの想いがつまっています。
ミュージカルとも違う、カラフルでポップな美しい音楽シーンの使い方は独自の世界観で音楽を伝えてきたSiaだからこそ作り出せる唯一無二の映画体験です。
映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【監督・脚本・原案・製作・音楽】
Sia(シーア)
【キャスト】
ケイト・ハドソン、レスリー・オドム・Jr、マディ・ジーグラー、メアリー・ケイ・プレイス、べト・カルビーヨ、ジュリエット・ルイス、キャシー・ナジミー、ティグ・ノタロ、ベン・シュワルツ、ヘクター・エリゾンド
【作品情報】
Siaの半生を投影させたキャラクターズーを演じたのは、『あの頃ペニー・レインと』(2000)でアカデミー賞助演女優賞にノミネート、ゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞したケイト・ハドソン。待機作に『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2020)があります。
ミュージック役を演じたのはSiaの楽曲『シャンデリア』のMVに出演し、Siaの“ミューズ”としても知られるマディ・ジーグラー。ダンスパフォーマーのほか、女優として『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)などに出演。
主題歌『Together』の日本版カバーソングをつとめたのは女優・モデル・歌手としてマルチに活動する池田エライザ。
映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』のあらすじ
自閉症のミュージック(マディ・ジーグラー)は祖母・ミリー(メアリー・ケイ・プレイス)と2人で暮らしています。
周囲の変化に敏感なミュージックの頭の中にはいつも音楽が流れ、ヘッドフォンをつけて周囲の刺激を和らげれています。
そんなミュージックの毎日の日課である散歩には、大家のジョージ(ヘクター・エリゾンド)やアパートの隣人・エボ(レスリー・オドム・Jr)、向かいのビルに住むフェリックス(べト・カルビーヨ)など皆が協力しあってミュージックの安全を守っていました。
ある日、散歩からミュージックが帰ってくると祖母が倒れています。異変を感じたミュージックは取り乱します。
そこに大家のジョージがやってきますが、ミリーの脈はもうありませんでした。病院に連絡したジョージは残された唯一の身内であるミュージックの姉・ズー(ケイト・ハドソン)に連絡します。
アルコール依存症のリハビリテーションプログラムを受けているズーは長らく会っていないミュージックの面倒を見なくてはいけないことに困惑します。
いざという時のためにと祖母はズーにミュージックの日課のことなどを丁寧に記したノートを残していましたが、ズーはろくに読まず、遺産はないかと探しています。
ミュージックは毎朝起きて、目玉焼きを食べ祖母に髪を三つ編みに結ってもらうことでした。
いつものように目玉焼きと三つ編みを頼むミュージックでしたが、ズーは何のことかわからず困惑します。するとミュージックは発作を起こしてしまいます。
取り乱すミュージックにどうしたら良いのかわからず困惑するズー。そこに隣人のエボが駆けつけます。エボはミュージックを抑え大丈夫だと宥めます。また何かあったらいつでも呼んでくれと言ってエボは去っていきます。
最初はミュージックを施設に預けようとしていたズーでしたが、エボの助けもあり次第にミュージックとの生活に慣れ、その生活に居心地の良さを感じ始めていました。
同時にエボに対して恋心を感じ始めるズー。しかし、エボは一線を越えようとしません……。それにはわけがあったのです。
映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』感想と評価
自分を愛せなければ他人を愛せない
カラフルでポップな世界に包まれた映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』。
Sia自身がアルコールや処方薬への依存症、双極性障害などに苦しんだ過去を持ち、実体験をもとに描かれた本作はダークな部分を描きつつも包み込むような“愛”で溢れています。
Sia自身の半生を投影させたかのようなキャラクターであるズーはアルコール依存症の更生プログラム中ということだけでなく、過去に薬物依存症であったことを仄めかすような発言もしています。
更に人をどう愛せば良いのかわからず、エボに好意を抱きつつも前に進むことをどこかで恐れていました。
その背景にあるのはズー自身の弱さかもしれません。愛したいのに自分で全て台無しにしてしまう、と嘆くズー。それは恋人だけでなく、家族や隣人に対してもです。
ミュージックの面倒を見ることになったズーはミュージックとどう接すれば良いのか戸惑っています。
一方ミュージックは、周りから愛され、人々に愛を与える存在でした。ミュージックと共に過ごすことでズーの心にも変化が現れてきます。
そしてやっとズーは自分自身と向き合うこと、それは自身の依存症と向き合うことでもあるし、自分を愛することでもあるのです。
人は愛し愛されることが大切だという素直なメッセージを歌にのせて観客に伝えてくれます。
歌の力
Siaは監督、脚本を務めたほか、12曲もの劇中歌を書き下ろしています。
従来のミュージカル映画では、ミュージカルシーンで時が一瞬止まり、音楽が終わると次の展開に進んでいくという描き方をしていました。しかし、Siaの自由な演出ではそうではありません。
SiaのMVのような世界観で映し出される音楽シーンは時に自閉症のミュージックの見えている世界を映し出し、時に物語の展開を指し示します。
冒頭に流れる『Oh Body』でミュージックの頭の中の自由で夢に溢れた世界を彩ります。『Best Friend』ではピンクの大きな犬に乗ったミュージックが登場し、楽しそうに踊っています。
ミュージックだけでなくズーやエボの心情を伝える演出としても音楽シーンが効果的に用いられています。
うまくいかずバーに行ってしまったズーが歌う『Easy』や、ズーとエボが惹かれあっているが、前に進むことに躊躇している心情を歌った『Insecure』など、台詞で心情を吐露するのではなく、音楽に委ねて観客に伝えます。
そのような音楽の力に委ねる姿勢は歌手として人々にメッセージを伝えてきたSiaならではの手法と言えるでしょう。
ズーの祖母・ミリーの遺書の中にあった楽曲『Music』では、音楽によって救われてきたSiaの想いが特に込められていると感じる一曲です。
また、劇中の全ての楽曲はSiaではなく、ケイト・ハドソン、レスリー・オドム・Jr、マディ・ジーグラーが歌っており、そこにもSiaのこだわりが感じられます。
まとめ
歌手Siaが監督をつとめ、自身の半生を投影させて描いた映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』。
「映画監督になりたいわけじゃないし、もう映画を作る予定もない。私はこの映画が作りたかったの」と語るSiaの並々ならぬ想いが伝わってくるような“愛”に溢れる力強い映画です。
また歌手として活動してきたSiaならではの音楽シーンを使った演出、カラフルでポップな世界観は唯一無二のものでしょう。