スティーブン・スピルバーグ監督が初の本格ミュージカルに挑む!
ミュージカル映画の金字塔『ウエスト・サイド物語』をスティーブン・スピルバーグ監督が再び映画化。
1950年代のニューヨークを舞台にヨーロッパ系移民の“ジェッツ”とプエルトリコ系移民の“シャークス”が激しい対立を繰り広げていました。ジェッツの元リーダー・トニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な出会いをして恋に落ちます。
ふたりの禁断の愛の行方は、偏見や差別に満ちた世界を浮き彫りにし、愛することの葛藤を描き出していきます。
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CONTENTS
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』の作品情報
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
West Side Story
【監督】
スティーブン・スピルバーグ
【脚本】
トニー・クシュナー
【キャスト】
アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・ファイスト、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ
【作品概要】
スティーブン・スピルバーグ監督が往年の名作ミュージカル『ウエスト・サイド物語』(1961)を再映画化。
ジェッツの元リーダー・トニー役は『ベイビー・ドライバー』(2017)でゴールデングローブ賞最優秀主演男優賞にノミネートしたアンセル・エルゴート。
オーディションで約3万人の中からトニーと禁断の恋に落ちるマリア役を射止めた新星レイチェル・ゼグラー。
脚本は、スピルバーグ監督と『ミュンヘン』(2006)『リンカーン』(2013)でタッグを組むトニー・クシュナー。
そして、現代アメリカのダンス界を牽引するジャスティン・ペックが振付を担当。
第94回アカデミー賞(2022年)では作品、監督賞ほか計7部門にノミネートされています。
また、第79回ゴールデングローブ賞の助演女優賞にアニータ役のアリアナ・デボーズが受賞しました。
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』あらすじとネタバレ
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
プエルトリコ系移民の“シャークス”とニューヨーク系移民の“ジェッツ”の対立するグループによって、引き裂かれたニューヨークのウエスト・サイド。
貧困や差別に不満を募らせた若者たちのグループは、どちらも仲間との結束が固く、対立は激化していました。
ジェッツたちは、リーダーのリフを筆頭に敵のプエルトリコの国旗が描かれた壁にペンキで汚しを入れにいきます。
そこにシャークスたちが現れ、ジェッツたちは退散しますが、ベイビー・ジョンだけシャークスに捕まってしまいます。騒ぎを聞きつけたクランプ巡査が止めに入りますが、袋ネズミになったベイビー・ジョンは、片耳に釘を打ち込まれていました。
後から現れたシュランク警部補がシャークスたちを立ち退かせ、残ったジェッツたちに「また騒ぎを起こしたら刑務所行きになる」と一喝を浴びせますが、リフは、そんな脅し文句をもろともせず罵倒で返しました。
この場所で君臨するという野心を燃やすジェッツたちの熱は収まることを知りません。リフは、ダンスパーティーへトニーを誘おうと思いつきます。
他のメンバーたちは、最近姿を見せなくなったトニーへの信頼が薄らいでいるようでしたが、元々、ジェッツという団をトニーと一緒に作ったリフは、離れていても頼りにしていました。
リフは、早速トニーが働く店に行き、ダンスパーティーのことを話します。
トニーは、ケンカ相手を殺しかけて、一年間刑務所にいた過去があり、今は仮出所中の身で真面目に働いています。
ジェッツたちとは距離を置き、自分を見つめ直したいと思っていることをリフに伝え、誘いを断りました。
その頃、シャークスたちもジェッツたちにケンカを仕掛ける機会を伺っていました。
まずは、学校主催のダンスパーティーに恋人たちを連れて出掛けることに。
兄のベルナルドを敵視しているマリアは、気に入ったドレスなど持っていなく、ダンスパーティーへ行くのに気乗りしません。
アニータに追い立てられて、白いドレスを渋々身に着けますが、地味な装いに気が晴れないでいます。アニータは自分が身に着けていた赤いベルトをマリアに渡します。白いドレスに真っ赤なベルトが映えて見え、気分が変わるマリア。
ベルナルドは親友のチノを連れて、迎えにやってきました。シャークスのメンバーに入っていないチノは、ケンカには無縁の男でした。
ベルナルドが勝手にマリアの恋人候補にチノを選んでいました。
ダンス会場は、すでにジェッツたちの踊りで熱気に包まれていました。シャークスたちも劣らずに加わり、両者とも白熱の踊りで相手を煽っていきます。
マリアとチノは、ダンスの輪から押されて佇んでいましたが、しばらくすると、眼鏡を外したチノが踊りに参戦します。
一度は断ったものの、遅れて姿を見せたトニーは、1人佇むマリアの姿に目を奪われます。
トニーとマリアの視線が交わり、見つめ合うふたりは、引き寄せ合うように観覧席裏で言葉を交わし、キスをします。
時間が止まったかのように見つめ合うふたりでしたが、マリアを探す声で遮られます。
マリアの後に観覧席裏から出てきたトニーにベルナルドが突っかかります。トニーは、「ただ、踊りたかった」とベルナルドに弁解しますが両者のグループが騒ぎ始めます。
リフはベルナルドをトイレに呼び出し、自分たちのシマを懸けて決闘を申し込みました。
明日の夜12時に武器の装備はなく、拳と拳で蹴りをつける約束をします。そして、ベルナルドは、必ずトニーも呼ぶように付け加えました。
会場を後にしたマリアの後を追いかけるトニーでしたが、すでに彼女の姿は見当たりません。
彼女への溢れる想いを歌にして、マリアの名前を呼び続けていると、アパートの一室の窓が開き、マリアの姿が。
トニーだと気づくと、兄が激怒していたので厳しく「帰って」と追い返そうとします。それでも会いたい一心に声をかけるトニーの気持ちが伝わり、ふたりはまた、見つめ合い、愛の言葉を口にします。
それが禁断の愛と知っていながら、抗えないほどにもう引き離せない出会いとなっていました。
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映画『ウエスト・サイド・ストーリー』感想と評価
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
スピルバーグ監督が描くミュージカル
本作は、1961年にも映画化されたブロードウェイミュージカルの名作『ウエスト・サイド物語』のリメイク版として、ミュージカル映画を長年撮りたかったというスティーブン・スピルバーグ監督が満を持して挑んだ映画化となります。
とりわけ『ウエスト・サイド物語』への深い愛を温めてきたスピルバーグ監督と『ミュンヘン』(2006)『リンカーン』(2013)でタッグを組む脚本家トニー・クシュナーが時代設定は1950年代のままとして、現代に調和した斬新な世界観を蘇らせました。
オリジナルの基本的なストーリー展開やテーマは、忠実に引き継がれていながら、本作では登場人物たちの人物像をもっと掘り下げることで、深みのある存在として物語にリアリティを与えています。
またキャラクターの背景を描くことで、後に起こる事件の動機や葛藤にも共感が生まれます。
例えば、トニーの過去が垣間見れる仮出所中という設定は、リフやバレンティーナとの間柄をより強く紡ぐものとなり、マリアに自分の過ちを告白する場面でもトニーという人間性を浮き彫りにしています。
そして、本作で独自のキャラクターとなるバレンティーナ。『ウエスト・サイド物語』で登場するドクが亡くなり、未亡人となったプエルトリコ系のバレンティーナが店を受け継いだという裏設定があります。
このバレンティーナというキャラクターこそが、人種差別や排他主義から生まれる悪の世界で、それでも愛という意思を貫く葛藤を照らし出す人物となっています。
そういった登場人物たちの描写は、どんなジャンル作品にもヒューマニズムを基調とするスピルバーグ監督ゆえのドラマ性がミュージカルという世界観にも伝播したようでした。
身体感覚にアプローチする躍動感
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ミュージカルというと、その世界観に浸かれないと感情移入しづらいものですが、スピルバーグ監督は歌と踊りを絶妙なバランス感覚で映し出します。
翻る色とりどりのドレスの質感や足を踏み鳴らした時の地面から舞う砂埃、踊りに熱気が帯びて鼓動する高鳴りさえも感じさせる、鳥肌ものの感覚でした。
それは、ダイナミックな踊りと歌をアクティブなカメラワークと緩急自在のカット割りで魅せているからでしょう。
またオリジナルは室内シーンが多いのを本作では、野外で撮ることにこだわったと語るスピルバーグ監督。
だからこそ、本作は舞台を観ているかのような臨場感と写実的な手触りを体験できるのです。
また、野外と室内という場所を兼ね合わせることで、スピルバーグ監督が得意とする光と影の演出によって、奥行き感やウエスト・サイドの世界観を巧みに表されているのも見どころの一つです。
そして忘れてならないのは、演出、脚本、撮影の他に色褪せることのないミュージカルナンバーの名曲の数々、ダイナミックで斬新な振付、演技だけでなく素晴らしいダンスと歌で魅了した俳優群、50年代のクラシックな雰囲気を残しつつ華やかでスタイリッシュな衣装と美術といったすべてが集結したからこそ、観る者の心に焼き付くシーンを作り上げています。
まとめ
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
半世紀以上前に生まれたオリジナルは、シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」を下敷きに、どうしようもなく惹かれ合う禁断の愛の行方がロマンティックに描かれています。
本作ではマリアの一途な想いを募らせる愛の尊さの中に、女性の意思の強さと等身大の恋心というものが見受けられました。
ダンスパーティーに行く前には、こっそりと赤い口紅を差して、自ら出会いを意識したり。トニーと一瞬で恋に落ちたマリアは、自分からキスをします。それに対してトニーは、「教科書タイプだから」と押され気味の男子の反応があったり。
その他の女性たちもオリジナルより、自己を主張するセリフやシーンが加味されることでオリジナルの世界観をそのままにしていながら、現代にアップデートしたリアリティある愛の行方と葛藤を映し出します。
また、バレンティーナという存在がラストでキーパーソンとなって見えてきます。プエルトリコ系のバレンティーナがヨーロッパ系移民のトニーの面倒を見て、ジェッツのメンバーたちも幼少の頃から成長を見守ってきたという設定。
そんなバレンティーナがラスト、トニーに発砲し呆然と立ちすくむチノの隣りに寄り添うシーンがとても印象的でした。カメラは、その二人の後姿を引きの画で捉え、パトカーの赤色灯に照らされます。
終盤にある、アニータが互いに許し合う道を歌に乗せて願うシーンがライトへの深い繋がりを見せています。それは、悲劇の対比として、愛に手を差し伸べる意思の偉大さでした。
エンドロールでは、劇中のミュージカルナンバーのリズムに乗って、収まらない高揚感と余韻を味わうことでしょう。