実在したアメリカのダークヒーローと臆病な青年の愛憎を描いたドラマ
今回ご紹介する映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』は、アメリカ史上もっとも有名な無法者として実在した、ジェシー・ジェームズの最期を描いています。
ジェシーと兄フランクは南北戦争後、仲間を率いて14年間で25件以上の強盗と、17件もの殺人を犯します。しかし、彼らは重罪人であるにもかかわらず、多くの庶民から英雄視されていました。
特にジェシー・ジェームスは伝記本にもなり、多くの若者の憧れとなります。19歳のボブ・フォードもジェシーを崇拝する1人でした。
この作品はそのボブが憧れのジェシーの暗殺者となるまで、殺されゆくジェシーの心理描写が見どころです。
ジェシー・ジェームスを演じたブラッド・ピットは、ベネチア国際映画祭で男優賞を受賞し、ボブ・フォード役のケイシー・アフレックは、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。
監督は『チョッパー・リード/史上最凶の殺人鬼』のアンドリュー・ドミニクが務めます。
CONTENTS
映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』の作品情報
【公開】
2007年(アメリカ映画)
【原題】
The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford
【監督・脚本】
アンドリュー・ドミニク
【原作】
ロン・ハンセン
【キャスト】
ブラッド・ピット、ケイシー・アフレック、サム・シェパード、メアリー=ルイーズ・パーカー、ジェレミー・レナー、ポール・シュナイダー、ズーイー・デシャネル、サム・ロックウェル、ギャレット・ディラハント、アリソン・エリオット、マイケル・パークス、テッド・レヴィン、カイリン・シー、マイケル・コープマン
【作品概要】
主演のブラット・ピットは多数のハリウッド映画で常に注目を集める人気俳優ですが、近年は制作や総指揮としても精力的に取り組み、『それでも夜は明ける』(2013)、『ムーンライト』(2016)がアカデミー作品賞を受賞しています。
ボブ役のケイシー・アフレックは「オーシャンズ」シリーズの出演を経て、主演作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)で、アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
ジェシーの兄フランク役には、60年代ロックバンドのドラマーを務めた経歴もあり、俳優としては『ライトスタッフ』(1983)で、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた、サム・シェパードが演じます。
ボブの兄チャーリー役を『コンフェッション』(2002)で、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した、サム・ロックウェルが演じました。
映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』のあらすじとネタバレ
ネブラスカでトーマス・ハワードと名乗り、カンザスシティでは牧場主や資産家と称しながら、町の店主や商人と交流を深めていた“ジェシー・ジェームズ”。
彼は胸に2ケ所、太腿に1ケ所撃たれた傷があり、中指の第一関節から上が欠損している左手を隠すことに、用心していました。
彼は兄のフランクと共に南北戦争の南軍ゲリラに参加し強奪や略奪、殺人を覚え、終戦後は一団を組織し、多くの強盗や17件の殺人を犯しそれを自認していました。
1881年9月5日に34歳になったジェシー。ジェームス一団は9月7日に列車強盗を企てていました。
一団は森の中に身を潜め待機します。仲間に入ったばかりのボブは、ジェシーの兄フランクやジェシーに“今夜”の相棒にしてほしいと志願します。
しかし、フランクはボブに冒険心や憧れだけで、素質がないと一蹴します。一方、ジェシーは相棒にしてやってもいいと言います。
ジェームス兄弟は14年間、銀行や列車、駅馬車を襲い25件の強盗を働き、その晩の列車強盗を最後の仕事と決めていました。
兄弟以外の最初の仲間は死亡したり、逮捕され服役中となり一団は衰退したからです。最後の仕事では移り住んだ町で、仲間を雇うしかありませんでした。
ジェームス団は線路を廃材で塞ぎます。そして、日が落ち定刻にきた列車を止めると、襲撃を始め乗客から金品を奪い、貨物室の金庫からも強奪します。
シカゴの新聞ではミズーリ州はジェームス団の横暴を、12年も野放しにしてきたと書きたてました。
金品を奪った一団は隠れ家に戻ります。最後の大仕事を終えたフランクは厩舎で感慨にふけ、その様子をジェシーがみつめていると、フランクも彼をみつめかえします。
ジェシーは何か言いたげでしたが、フランクは黙って部屋に戻りました。そこにボブが静かに忍び寄り、ジェシーを驚かします。用心深いジェシーが無防備なのは珍しいことでした。
ジェシーはポーチで葉巻を吸いながらリラックスします。ボブを隣りに座るよう促し、ジェシーはボブにも葉巻をすすめながら話しをします。
ボブは19歳であることジェシーに憧れて、“ジェームス団の冒険”を枕元に置いて毎晩読んでいると、ジェシーへの憧れを素直に語りました。
ジェシーはそこに書かれていることは全部“嘘”だと言い、葉巻も無理に吸う必要はないと微笑みます。
ボブの兄チャーリーはフランクのところに行き、ボブにはある計画があると持ち掛けます。フランクはその考えは捨てた方がいいと、引退の意思は変えませんでした。
フランクは風変わりで気まぐれなジェシーを見放し、フランクは家族と町を離れます。そして、ジェシーの暗殺を移動先の町で知ることになります。
ジェシーはボブだけを残し、他の仲間に解散するよう指示を出しました。ジェシーの従弟であるウッドは、ボブが残ることに不満をもちます。
ジェシーはボブに荷造りを手伝わせ、人目をさけるために夜のうちに新しい街に引越していきます。ボブは次の日には追い出されると、覚悟しましたが2日目も追い出されません。
ジェシーはボブを“従弟”として家族の一員にし、妻のジーの手伝いをさせるなど、身の回りの世話をさせました。
時々、ボブを外出先に同行させることもあり、彼はジェシーが他の人物との会話を記憶し、話す仕草や癖なども覚えていきます。
ある日、ジェシーはボブに何を考えているのか訊ねます。そして、「俺になりたいのか?」と聞くと、ボブは「からかっただけ」と答えると翌日、彼は追い出されます。
ボブはチャーリーと仲間が身を隠すために使っている、姉のマーサが経営している農場に向かいます。ボブは自分のベッドの下に、“ジェシー・ジェームス物語”を入れた小箱を隠していました。
その箱に強盗で使った覆面もしまいますが、チャーリーやウッドにそのことをからかわれ、ボブの自尊心は傷つけられてしまいます。
仲間のディックはボブにジェシーはなぜ、彼を残したのか聞き出そうとします。そして、ディックとカミンズが仲間だと言われなかったか聞きます。
ボブはディックにカミンズの仲間は他にいるのか聞きますが、ディックはそれを知ったらジェシーに殺されると言います。
彼をコケにしたり裏切るようなことがあれば、どんな手を使っても探し出すほどに怖ろしい男だと言います。
ディックはボブに銃口を突きつけ、ジェシーには自分のことを話すなと脅します。ディックは何かを企んでいるようで、その考えが理解できた時には仲間になるよう言います。
映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』の感想と評価
映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』は無法者ジェームス兄弟が伝説の英雄扱いされていた陰で、弟のジェシーは追われる者の恐怖と猜疑心によって、真の平穏はなく常に孤独だった姿を描きました。
そのジェシーの苦悩や哀愁の機微を演じたブラット・ピットの演技は高く評価され、ベネチア国際映画祭で最優秀男優賞を受賞しました。
ストーリーは秋から冬へ春の芽吹きを待たずに、終わっていきます。それはアウトローの生き様を表わしているようにも見えました。
「アメリカ一卑怯な男」ボブ・フォード
後にボブは妻に暗殺の動機を「殺さなければ殺されるから」や懸賞金のためと話していますが、真意は違っています。
ボブ・フォードは幼いころから自尊心が満たされず、歳の離れた兄や仲間達によって傷つけられます。
その悔しさはジェシーへの憧れを募らせ、彼を真似ることで虚栄心が生まれて、いつしか大物といわれる彼を捕まえることで、自分はジェシーを越えられると考えたのです。
ところが世間はジェシー・ジェームスが凶悪犯であると同時に、格差社会の貧困層からは富裕層を脅かし恐怖を与えた英雄として崇められています。
ボブはそんな庶民の英雄を裏切り、卑劣な方法で暗殺したので「アメリカ一卑怯な男」と呼ばれ、ジェシーよりも短命かつ汚名を持ったままの最期となりました。
ジェシー・ジェームスはなぜ英雄になれたのか
ジェシー・ジェームス自身は英雄視されていることを「全部嘘だ」と否定しており、意図せず自分のイメージや脚色が独り歩きして、自分を生きづらくさせていると感じたのでしょう。
ジェームス団は北部の富裕層から強奪した金品の一部を、犯罪に巻き込まれ負傷した少女や、行きつけの食堂が競売になっていると知って、寄付したことがありました。
その話が誇張され、貧しい者の味方“義賊”というイメージが加わったといわれます。中でもジェシー・ジェームスは容姿端麗であったことから、ヒーロー像として造り上げられました。
強烈なイメージを植えつけられ、強盗として有名になりすぎたジェシーは、心底疲れていたと察します。30半ばを迎えた彼は生きる意味を見失いました。
そして、死してもなお美談として広がったのには、仲間のボブによる卑怯な裏切り、弟の死を知った兄が警察に自首し、恩赦され平穏に暮らしたという背景も影響したと言われます。
ジェシーが早い段階でボブを仲間と認め、可愛がって接していれば憧れから“尊敬”に変り、2人の人生ももっと違うものになったでしょう。
ジェシーは苦悩に疲れ生きる気力や術を失っています。ボブが自分の命を狙っていると確信した時、彼に殺されることで自分の威信を守りつつ、死ぬことができると計算したとも思えました。
警察に捕まらず他の誰でもなく、ボブの裏切りによって殺させることに意味があったのです。その結果、大統領を暗殺した男よりも有名な強盗犯として、よりその名を歴史に長く残しました。
まとめ
ジェシー・ジェームは仲間を最後まで信じず、信じたふりをして命を落とします。
凶悪犯であるジェシーを暗殺したはずのボブは「アメリカ一卑怯な男」として人々の記憶に残ります。
しかし、生きることに意味を見いだせず疲れたジェシーは、自分に憧れ有名になりたかった、臆病なボブの心理を利用して永遠のダークヒーローとなりました。
ジェシーは兄に見放され、仲間を信じることもできず完全に孤独でした。ボブには彼をかばってくれる兄のチャーリーがいて仲間もいます。
ジェシーはボブを妬ましく思っていたのかもしれません。そして、ボブが自分と共通点があると話したことで、同じ孤独感を感じればいいと思った残酷さがあったように思います。
つまり、映画『ジェシー・ジェームスの暗殺』は”憧れ”と”殺意”の表裏にある“愛憎”を描いたドラマでした。