小説『百花』は2022年9月9日(金)に実写映画公開!
映画プロデューサーで脚本家であり、小説家でもある川村元気の自身4作目となる小説『百花』。
認知症を患った母とその息子が送る残る日々を描いた作品が映画化され、脚本と監督を担当する原作者の川村元気は、本作で長編監督デビューを果たしました。
映画では、認知症を患う母に原田美枝子、その母と向き合い懐かしい思い出を蘇らせていく息子を菅田将暉が演じます。
親子や家族の在りし日の大切さが、壊れゆく母を思う息子の切ない気持ちを通じて心に響いてくることでしょう。
映画『百花』は2022年9月9日(金)に全国公開。映画公開に先駆けて、小説『百花』をネタバレ有りでご紹介します。
小説『百花』の主な登場人物
【葛西泉】
音楽ディレクター。シングルマザーの母に育てられました。
【葛西百合子】
泉の母。女手ひとつで泉を育てます。高齢者になるとアルツハイマー型認知症を発症します。
【葛西香織】
葛西泉の妊娠中の妻。百合子との相性もうまくいっています。
小説『百花』のあらすじとネタバレ
大晦日の日、葛西泉は母の百合子が1人で暮らす実家に帰ってきました。
泉は父親のことは何も知らず、昔ピアニストだった百合子が、自宅でピアノ教室を開き、女手一つで泉を育てあげました。
家を出て15年。音楽ディレクターとなった葛西泉は、現在は同じ会社に勤める現在妊娠中の妻・香織と暮らしています。
年に2回ほどしか実家に帰って来られませんが、元日が百合子の誕生日ということもあり、毎年大晦日は2人で過ごすようにしていたのです。
けれども、今年は泉が実家に帰ると母がいませんでした。泉は近所を探しに行き、寒い夜の公園で、コートも羽織らずにブランコに乗っている百合子を見つけました。
泉が声をかけると、百合子は「買い物に行ったら少し疲れた」と言いますが、その手には買い物袋も何もありません。
結局、泉は百合子と一緒に近所のスーパーで買い物をして帰宅することになりました。
泉は家に帰って買ってきた食材を片付けます。そして、冷蔵庫の中にあるのは賞味期限切れのものがほとんどであることや、家に既にある食材を買ってきていることに気がつきました。
泉が指摘すると「最近よくやっちゃうのよね」と百合子は笑って答えます。
一方、泉の妻である香織は、妊娠中にも関わらず、優秀なディレクターです。現在も大きな仕事を任されており、初めて親になる不安を抱えながら、夫婦共に仕事に追われる日々を過ごしていました。
泉が香織と交際するきっかけになったのは、大物新人歌手の仕事を一緒に受け持ったときです。
新人歌手は歳が離れた男性に溺れるような恋をして、その彼を追って逃げ出してしまいました。
その時に、香織はその新人歌手には父親がいなかったため、年上の男性に惹かれたのかもしれないと言い、泉は自分も父親がいないと打ち明け、その話をきっかけに交際が始まりました。
香織と結婚することを百合子に伝えたとき、百合子が「せっかくこれから泉と2人で楽しく暮らせるのに」と言ったことが忘れられず、泉は百合子に香織の妊娠を告げていません。
香織のお腹に宿る小さな命を思い、泉は自分が親になるということを考えました。思い出すのは、母親でありながら、時には泉の父親にもなろうとしてくれていた百合子のことです。
そんなある日、泉の元に百合子がスーパーで万引きをしたと警察から連絡が入ります。慌てて百合子を迎えに行った泉は、警察官から百合子を病院に連れていくことを勧められました。
泉も付き添い、百合子は病院に行き検査を受けます。
そこで、百合子に下された診断は、アルツハイマー型認知症。泉は、母の記憶が徐々に失われていくことを、すぐに受け入れることができませんでした。
泉は、実家に帰り疲れて寝てしまった百合子の代わりに家の掃除をします。
そこで、食器棚の引き出しから、認知症についての本を見つけ、挟まれていた隣町の総合病院で受けた検査結果も発見しました。
そこには、アルツハイマー型認知症の疑いがあると書かれていました。日付を見ると半年も前のものでした。
泉は半年前に百合子から頻繁に電話がかかっていたことを思い出しました。
電車で1時間半ほどの距離に住んでいるのに、1人で住んでいる母親に会いにいくこともしなかった泉。
1人で検査を受けに行った百合子を想像し、泉はひどい後悔に襲われます。
小説『百花』の感想と評価
『百花』は、『億男』や『世界から猫が消えたなら』の川村元気が綴った、シングルマザーの親子を通じて語られる母と息子の絆の物語です。
女手一つで育て上げた息子が一人立ちし、やっと自分の余生を平穏に送れると思ったころ、母である百合子は認知症を発生します。
認知症は過去の記憶を消し去り、愛すべき人の存在も忘れさせます。その人の人格さえも破壊し、生きる屍のような存在にしてしまいます。
人間の力ではどうすることもできない病気を患った母に対して、息子である泉は痛ましい思いで接しています。
母は一時泉を捨てたことを忘れ、泉と2人で見た「半分の花火」をもう一度見たいと願いました。
「半分の花火」とは何なのでしょう。花のように夜空に咲く花火を見上げ、ラストシーンでは泉の脳裏に母との懐かしい思い出が蘇ります。
気まずい期間があっても、病気で腹立たしい行動をとられても、母は母。自分を育ててくれた大切な人に変わりはありません。
誰が悪いわけでもなく、病気で記憶を失くしていく方も忘れられていく方も、どちらもその気持ちは辛く切なく悩ましい……。
読後は、矢のように過ぎていく毎日の記憶の中で、大切な人との思い出だけは忘れずにいたいと、誰もが思うのではないでしょうか。
そして、愛する人との限りある時間を大切にしたいと思うに違いありません。
映画『百花』の見どころ
小説でも映画でも『百花』の中の重大な要素は、百合子が認知症を患ったことです。
認知症はこれまでの記憶を徐々に無くしていく恐ろしい病気で、親しい人の顔もわからなくなり、自分自身も徐々に壊れていきます。
こんな百合子を演じるのは、黒澤明監督、増村保造監督、深作欣二ら日本映画界の巨匠たちの作品に出演してきた原田美恵子。
原田美枝子は『百花』に出演したことを、「いろいろなチャレンジがあり、冒険をさせてもらった現場」と語っています。
原田美枝子は自分で『女優 原田ヒサ子』(2020)を監督していますが、実はこの作品は、自分のお母さんが認知症になっていくさまをとらえた短編ドキュメンタリーでした。
身近なところで認知症患者との接点があった原田美枝子。
自分の経験も活かして、本作の記憶を失いながらも思い出の奥底にある“秘密”に手を伸ばそうとする母の姿を、圧倒的な存在感と確かな演技力で魅せてくれるでしょう。
一方、百合子の愛する息子を演じるのは、『溺れるナイフ』(2016)『糸』(2020)『花束みたいな恋をした』(2021)と人気作に引っ張りだこの菅田将暉。
本作では、音楽関係の仕事につき、社内結婚をして間もなく父親になろうとする平穏な日常から一変、認知症が進む母から封印していたはずの過去の記憶と向き合うという、複雑な役どころに挑戦します。
老いと病魔による親の介護問題。誰にでも起こりうるであろうことですが、菅田将暉が演じる泉の場合、健康だった頃の母との間に気まずい時期がありました。
屈折した少年の想いは忘れることができませんが、それでいて記憶を失くしていく母を見るにつけ、2人で過ごした少年時代の温かな思い出が蘇って来て切ない想いにかられます。
繊細で複雑な心境の泉を演じる菅田将暉に注目です。
映画『百花』の作品情報
【公開】
2022年公開(日本映画)
【原作】
川村元気「百花」(文春文庫刊)
【監督】
川村元気
【脚本】
平瀬謙太朗、川村元気
【音楽】
網守将平
【キャスト】
菅田将暉、原田美枝子
まとめ
原作者川村元気が自身の体験をもとにしたともいえる小説『百花』をご紹介しました。
親子が共通する美しい思い出の記憶の中に、実際に認知症を患った家族を持った人でないとわからない苦しみや悲しみを散りばめています。
映像化されたら、夜空一杯に咲くであろう、美しい「半分の花火」の登場も楽しみです。
映画『百花』は2022年9月9日(金)に全国公開!