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Entry 2020/05/12
Update

映画『#ハンド全力』あらすじと感想レビュー。人気子役として活躍した加藤清史郎が“俳優へと昇華”

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『#ハンド全力』は2020年7月24日(金)より熊本先行上映、
7月31日(金)よりシネ・リーブル池袋、イオンシネマほかにて全国ロードショー!

熊本を舞台に、とある少年がSNSにアップした写真をめぐり思わぬ大きな騒動が巻き起こるさまを描いた映画『#ハンド全力』

『君が君で君だ』などの松居大悟監督が、『くまもと復興映画祭』をきっかけに映画製作に着手、熊本にはゆかりのあるハンドボールという競技をめぐってストーリーが展開します。

少年は、そのキーワードと合わせてSNSに公開した写真が大きな物議を醸すものになっていくとは、想像だにしませんでした……。

主演は子役として名を知られた加藤清史郎。今回は思春期の微妙な心情、表情を等身大の演技で表現します。また同じく子役で有名な鈴木福をはじめ、フレッシュな若手俳優陣のほかに仲野大賀、ふせえり、田口トモロヲ、志田未来、安達祐実、篠原篤ら実力派俳優陣が脇を固めています。

映画『#ハンド全力』の作品情報


(C)2020 『#ハンド全力』製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
松居大悟

【脚本】
佐藤大・松居大悟

【特別協力】
公益財団法人日本ハンドボール協会

【キャスト】
加藤清史郎、醍醐虎汰朗、蒔田彩珠、芋生悠、佐藤緋美、坂東龍汰、鈴木福、篠原篤、植野行雄、プー&ムー、岩本晟夢、磯邊蓮登、渕上晃、甲斐翔真、田中美久、宮崎大輔、仲野太賀、志田未来、安達祐実、ふせえり、田口トモロヲ

【作品概要】

SNSにアップしたハンドボールの写真が大きな反響を呼び、想像だにしなかった騒ぎに巻き込まれながらも成長していく少年たちの姿を描きます。

作品を手掛けるのは『アフロ田中』(2012)『アズミ・ハルコは行方不明』(2016)『君が君で君だ』(2018)などの松居大悟監督。主人公・清田マサオ役を『忍たま乱太郎 夏休み宿題大作戦!の段!』(2013)などの加藤清史郎が担当します。

キャストにはほかにマサオの相棒・岡本役に『遮那王-お江戸のキャンディー3』(2019)などの醍醐虎汰朗、マサオたちの行動に否定的な女子ハンドボール部員・黒澤役に『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018)の蒔田彩珠など、フレッシュな若手俳優が集結しました。

またマサオの兄役に仲野大賀、母役にふせえり、父役に田口トモロヲなど、強烈な個性を持った俳優陣が若手をバックアップします。さらにハンドボール元日本代表の宮崎大輔もカメオ出演を果たしています。

映画『#ハンド全力』のあらすじ


(C)2020 『#ハンド全力』製作委員会

復興が進む熊本で、現在は仮設住宅に暮らす高校生のマサオ。長く続くこの地での暮らしで将来の目標を見失っているマサオは、毎日何をするでもなく幼なじみの岡本とスマートフォンばかりいじって過ごしていました。

ある日彼らは、震災を機に離れ離れになった親友タイチ(甲斐翔真)と、かつて仮設住宅前でハンドボールをしていたときのことを思い出し、そのときに撮影した写真の中でカッコいいと思ったものをSNSにアップします。

すると投稿を目にした人々から、想像だにしない数の「いいね!」のチェックが付き、2人は驚きながらも舞い上がります。

そしてすっかり気を良くしたマサオたちは、真面目にハンドボールをするでもなく「#ハンド全力」というハッシュタグをつけ、「ハンドボールをしている風」の写真をアップし続けます。それが思わぬ騒動につながっていくとも知らずに……

映画『#ハンド全力』の感想と評価


(C)2020 『#ハンド全力』製作委員会

復興の問い掛けをハンドボールで描く

熊本では1997年に男子、そして昨年2019年には女子のハンドボール世界選手権大会が行われています。

また県内には全国でも有数の強豪中学、高校や実業団チームがあることから、非常にハンドボールにゆかりのある場所であります。

そしてこのタイトルからはどうしてもハンドボールを主体とした物語であると感じがちでありますが、映画の柱となるポイントは、どちらかというと違うところにあります。

先述の通りこの映画がつくられたきっかけは『くまもと復興映画祭』であり、劇中でもいまだ存在する仮設住宅の風景などリアルな熊本の「今」が描かれており、この「今」に徹底的にこだわり描かれていることが、本作の大きなポイントになります。

東日本大震災以降、近年さまざまな災害が各地で発生しており、その度に「がんばろう」などといったキーワードで前向きに復興を応援する声があがっています。そのキーワード自体に異論はありません。

しかし果たして復興現場はそんな前向きな風景ばかりなのでしょうか、またそういった声をあげる当事者たちの声も、本当に善意だけの声なのでしょうか。

特にこうした声や思いが近年ではSNSなどのツールを通した形で大きく広がることへの疑問や不安を描いています。

同時に物語ではその問題提起よりむしろ当事者がそこにどう向き合っていくべきかという問いを、リアルな熊本の風景を通して問うているようでもあります。

シーンによっては生々しい被災現場の一部始終を描いているところもあり、「全力」という前向きなキーワードから清々しいイメージを想像する人にとっては、大きく期待を裏切られるものになるかもしれません。

それでもさまざまな事件を通して成長していく少年たちの姿からは、この「全力」という言葉の真意を深く考えさせられる、そして気持ちを前向きにしてくれるような作品となっています。

反面、この作品は決して「ハンドボールを知らない人がこれを見たら、ハンドボールに興味を持ってもらえる、好きになる」といった、派手にハンドボールのプレーを満載したたぐいの作品ではありません。

少し専門的な話になりますが、主役のマサオは右利きでありながら、ハンドボールチームのポジションとして右側のバックプレーヤーという役割を担当します。

このポジションは、利き腕からすると本来エースポジションにはなりえない位置であります。

それが直接関与しているわけではありませんが、こうした設定はマサオがハンドボール自体をプレーすることよりも「仲間と何かを成し遂げる」ということに執着していることを暗に表現しているようでもあります。

また物語の中では、SNSに熱中する主人公たちと対照的にハンドボールのプレーヤーは真摯にプレーに向き合う姿勢を主なイメージとして描いています。

そういった点において本作では、ハンドボールという競技はそのものをテーマではなく、物語を構成する一つのメタファーとしているようでもあります。

一方でその「真摯にプレーに向き合う」姿は、ハンドボールという競技が「実直にプレーされることで親しまれていくもの」というイメージを描いているようでもあり、競技に対する映画製作者側からの敬意も感じられるものであります。

加藤清史郎の演技と、その表情


(C)2020 『#ハンド全力』製作委員会

そしてこの作品の一番の魅力は、主演の加藤清史郎の表情にほかなりません。長らくバラエティーや子役などで活躍しその名を広めてきた加藤ですが、現在18歳の彼は役柄にちょうどハマる年齢であります。

役柄と年齢が当てはまった場合、演技とリアルの表情がうまく合わない恐れもありますが、マサオがトラブルに巻き込まれ、思い悩むシーンで彼は、思わずハッとさせられる表情を見せます。

それは加藤自身がこの年齢だからこそ見せられる表情であり、かつ「マサオ」が物語の中で思い悩んでいたからこそ見せるというイメージを強く想起させるもの。

まさしく彼と物語の人物「マサオ」が同化した、そう思わせてくれるような表情であります。

松居大悟監督はこれまでも自身の作品で多くの若者を撮影しており、今回もそういった経験を生かして加藤を追い込んでいることを明かしています。

その意味では、この作品で見られる彼の表情は子役から本格的な俳優へのシフトを予感させるものでもあります。

またこの表情を生み出すお膳立てともいえる醍醐虎汰朗、蒔田彩珠、芋生悠らのフレッシュな演技、そして仲野大賀、ふせえり、田口トモロヲらのはつらつとしたバックアップが物語の中で大きな効果を生み出し、その加藤の微妙な表情を物語からにじみ出る思いに変えて、見るものにアピールしてきます。

まとめ


(C)2020 『#ハンド全力』製作委員会

ハンドボールの映画というと、2008年に日本で公開された韓国映画『私たちの生涯最高の瞬間』(2008)を思い出す方もおられることでしょう。

この映画はアテネ五輪で準優勝となった韓国女子ハンドボールを、韓国のハンドボールが取り巻く現状を織り交ぜて描いた物語です。

残念ながら役者が本業の女優陣による、世界トップクラスの実力を持つ韓国女子ハンドボールチームのプレー再現は、さすがに相当の無理を感じさせるところもありました。

一方本作では日本ハンドボール協会や熊本の関連団体の協力もあり、プレーシーンの中では現役高校生たちの生き生きしたプレーを垣間見ることができ、作品の魅力の一つとなっています。

また『私たちの生涯最高の瞬間』のクライマックスでは実況解説役として韓国ハンドボール界のレジェンド、カン・ジェウォンがカメオ出演。

一方本作では、日本のハンドボール界でスーパースター的な存在の宮崎大輔が出演と、対照的なポイントがあります。

アジア圏内でハンドボール競技は、過去より日本と韓国がライバル関係にあり、互いに切磋琢磨して競技レベルを磨き上げてきた経緯があります。

その意味では、本作は『私たちの生涯最高の瞬間』に対してそういったライバル心も感じられ、ハンドボールファンが見ればニヤリとするようなところも随所に存在します。

映画『#ハンド全力』は2020年7月24日(金)より熊本先行上映、7月31日(金)よりシネ・リーブル池袋、イオンシネマほかにて全国ロードショーされます!



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