Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2017/11/07
Update

映画『砂の器(1974)』動画無料配信はHulu。ネタバレ原作と脚本の違いは

  • Writer :
  • 福山京子

原作は松本清張の同名小説です。1960年から読売新聞夕刊で連載された長編推理小説をベースに、公開当時に近い71年に時代設定を移して描いた感動巨編。

1974年公開された野村芳太郎監督の『砂の器』をご紹介します。

1.映画『砂の器』の映画情報

【公開】
1974年(日本映画)

【監督】
野村芳太郎

【キャスト】
丹波哲郎、森田健作、加藤剛、春田和秀、加藤嘉、島田陽子、山口果林、佐分利信、緒形拳、松山省二、内藤武敏、渥美清

【作品概要】
1960年に連載を開始した松本清張の同名小説の映画化です。

この小説は松本清張作品の中では、ある理由があって最も映画化しにくいといわれ、松竹が映画化権を取ってから14年後に完成したことでも話題になりました。

脚本の橋本忍と山田洋二が「親と子の宿命だけは永遠のものである」にテーマを絞って物語を再構成

野村芳太郎監督がそのテーマに沿って日本の四季を美しく描写した映像に、映画音楽初挑戦とは思えない、菅野光亮(かんのみつあき)作曲の流麗なシンフォニーが流れます。

本作における今西刑事を演ずる丹波哲郎のセリフはすべて重要な意味を持ち、迷宮入りする事件解決へのヒントを与えてくれます。

語り役として登場するのは稲葉義男が演ずる黒崎警部。彼は今西刑事の上司です。劇中の現在状況を整理したセリフで作品前半のスピード感を出しています。

裏付け捜査担当とでもいうべき吉村刑事は、観客が知りたい情報を押さえてくれます。これら3人のセリフ回しは、観客がストレスなく映画に没頭できるよう、脚本家によって入念に仕込まれています。吉村刑事は現場の所轄である鎌田署の在籍となっていて、森田健作が演じます。

▼映画『砂の器』はHuluでご覧いただくことができます。
映画『砂の器』を今すぐ見る

2.映画『砂の器』のあらすじとネタバレ

この映画は怨恨によると思われる殺人事件の被害者の捜索を通じて浮かび上がる人間模様を軸に、殺害動機をあぶり出して加害者を特定する手法を描いています。本作のテーマはその中に潜んでいます。

犯行の日時と手がかりは以下だけです。
劇中のテロップより(昭和46年は西暦1971年)
昭和46年6月24日 早朝
場所 東京国鉄鎌田操車場構内
被害者の年齢 60~65歳 やや痩型
服装 グレーの背広上下 ネームなし
所持品 なし 身元不明
血液型 O型
死因 前頭部頭蓋骨陥没
石様の物で頭部及び顔面を殴打されており死後轢死を装ったものである
胃の内容物よりアルコール分検出
死後推定3時間乃至4時間経過

劇中の映像より
現場の遺留物 「バァろん」と明記されたマッチ1箱
被害者の着衣 グレーのスーツには相当量の血液が付着
被害者のYシャツ 首から胸にかけて大量の血液が付着
被害者の着用物 メガネなど

物語はたったこれだけを手掛かりに、被害者を特定すべく事情聴取を開始するところから始まります。

凶器による殺害後、わざわざクルマで轢いた跡があり、殺害手法は硬く重い鈍器の象徴である「石様の物」で頭蓋骨が割れるほど強打するなどの検視結果から、捜査本部では怨恨説を念頭に置きます。

唯一の遺留物であるトリスバー「ろん」のマッチを手掛かりに、被害者がこの店で水割りを飲んだことと、若い同席者がいたことが判りました。

捜査本部での事情聴取で、接客をした複数の従業員は、入店は10時から10時半で、被害者は東北弁を喋っていたと捜査員に話します。

東北弁と思った根拠を聞かれると「言葉の調子がズーズー弁とでもいうような」と重要な証言があります。

捜査本部での聴取を終え、被害者の存在証明が取れた現場である、トリスバー「ろん」での聴取に捜査員を繰り出します。黒崎警部、今西刑事、吉村刑事です。ここでも些細にみえる、しかし重要な証言を得るのです。

その証言によると、
 ・被害者と一緒だった若い男の着衣は白いスポーツシャツ
 ・二人に接客した女性従業員は、若い男から「話があるから向こうに行ってくれ」と言われ離席した
 ・被害者は若い男に熱心になにか話しかけていた
 ・話の内容を聞き取りにくい店内環境だったので話の内容は判らず、どのような間柄かも判らない

しかし、「カメダはどうした」や「カメダは変わらないか」など「カメダ」というキーワードを2~3回聞いたとの証言を得る

これらを手掛かりに捜査を開始します。

捜査本部では東北弁のカメダを手掛かりに、東北在住のカメダ姓を持つ人物の照会や、カメダという東北の地名に不審者はいないかを調べるため、今西と吉村を秋田県の亀田駅周辺に派遣しました。捜査員の秋田出張は、次の今西の提言によるものです。

「カメダは人名のようにも思えるが、地名に置き換えてもおかしくない」

東京では重要容疑者が着用していた白いスポーツシャツは、その殺害方法のため、相当量の返り血を浴びていることが確実であり、犯行付近に棄却なり処分したはずだという推測をもとに捜索しますが、その証拠品は出てきません。

東北弁のカメダだけでは犯人逮捕どころか被害者特定すらままならず、いきなり迷宮入りとなってしまい、捜査本部は解散し、少数の捜査員による継続捜査扱いに格下げになりました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『砂の器』ネタバレ・結末の記載がございます。『砂の器』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

思いがけないⅠ、紙吹雪の女

捜査本部解散により継続捜査を外れ、地元の鎌田署に戻った吉村ですが、毎朝新聞のエッセイに偶然目が留まります。

知り合いの川野記者が書いたその記事は「紙吹雪の女」と題され、中央線沿線の山梨県塩山付近での出来事をモチーフにしたものです。

そのエッセイによると、ある女が電車の窓を開け、ハンドバックの中から白い紙切れをつかみ取り、何度となく車外に撒いている様子を「旅をするといろいろ変わった情景にぶつかる」という書き出しで綴っています。

吉村は川野に問い合わせて「この白い紙切れは布切れではないか」と尋ねます。川野の答えは「さぁ、そこまでは判らない」という期待外れものでしたが、思いがけないオファーを受けます。

「なんだったらその女性とお引き合わせしましょうか」

川野はエッセイ執筆後、知り合いの小説家と銀座に飲みに行ったら、ばったり思いがけない場所で、その女性と会ったというのです。

継続捜査担当でない吉村は、単身で川野から聞いた高級クラブのホステス高木理恵子と面会します。

しかし吉村の「あなた最近、中央線に乗っていましたね」という質問には明確に「乗ってない」と即答し「私は最近東京を離れたことはない」と断言され、その後は体よく逃げられてしまいます。

この高級クラブでは思いがけないことがもう一つあります。

それは音楽家の和賀英良が関係者らしき数名を連れて店に入ってきたことです。吉村が和賀英良を見るのは秋田出張に次いで2回目なので誰なのかはすぐに判りました。

思いがけないⅡ、被害者判明

行方不明の義父・三木謙一の捜索願を出していた、岡山県江見町在住の三木彰吉が警視庁を訪れます。東京の警視庁からの照会写真が、義父にあまりに似ているためやってきたのです。

彰吉は警視庁で見せてもらった着衣や遺留品は、義父の所持品であると伝え、大学病院に同行して本人確認します。これで被害者の身元が判明しました。

黒崎は被害者・三木の住所、年齢、職業を彰吉から聞き出すと、三木の最後の足取りを尋ねます。

彰吉は、四国の琴平、大阪・京都・奈良を周って念願だった伊勢にお参りする予定であったことを伝え、お伊勢参りの後は江見町に戻ると書かれた絵葉書を見せました。

被害現場である東京へ行く予定はなかったのです。

警視庁へ戻ると今西は手掛かりである「カメダ」について彰吉に話を聞きます。

しかし江見周辺で三木に関係した「カメダ」という人も土地も心当たりはないという返事が返ってきます。

もう一つのキーワードである東北弁など三木は喋ったことはないし、養子縁組後は東北に住んだこともないという結果でした。婿入りする前の三木は島根県で巡査をしていたことはあったが、東北に住んだことはないだろうというものでした。

黒崎は怨恨説を念頭に三木の関係者・身辺についての事情を彰吉に聞きます。

警察官をやっていると恨みや敵意を持つ人もでてくるが、そんな人はいないかと訊きますが、答えは「絶対そげな人はおらんけぇ」です。面倒見がよく、誰からも尊敬されていると毅然とした態度で断言します。

捜査は振出しに戻りました。

三木が岡山県出身で、学校卒業後に島根県警に奉職し、退職後は島根から岡山に戻ったと供述したことは、三木と「東北弁のカメダ」のつながりが断たれたことになるからです。

思いがけないⅢ、出雲弁のカメダ

三木と「東北弁のカメダ」の不整合を受け、今西は国立国語研究所の桑原教授を訪ねました。東北以外で東北弁を話す地区はないかを尋ねるためです。

しかし返答は「それはありません。東北で使われているから東北弁です」。がっくり来る今西に、桑原は思いがけない小話を披露します。

「しかし音韻が類似している地域はあり、それは出雲地方です」というものです。

ズーズー弁は語尾がはっきりしないのが特徴で、東北以外では出雲地方にその特徴があると説明を受け、小躍りしながら研究所を後にし、出雲地方の地図を購入しに出かけます。

出雲地方の地図に「亀嵩」という駅を発見した今西は、桑原に「亀嵩」の発声を出雲弁で話したときに東京在住者がどのように聞こえるかを尋ねると「読みはカメダカでもカメダケでも、そんなのはどうでもいい。

我々の耳にはカメダに聞こえる」との有難いお言葉を頂戴し、やっと被害者と「東北弁のカメダ」の関連が取れたのです。

おまけに三木の在職中の勤務は島根県内で、しかも亀嵩が中心です。

今西は東海道新幹線と山陰周遊券を手に亀嵩に向かいます。本人と関わりあった人の調査です。

この時今西は、殺人の動機は怨恨であると思っていたので、話の切り口は「三木さんに恨みを持つ者はいないか」でした。

三木を知る警察OBや在職中に入魂の仲であった桐原老人、その他17,8名の人に逢い話を聞きますが、彰吉の言う通り三木は欲得のない誰からも尊敬される善人でした。

話を聞けば聞くほど、三木を「ますます正義感の強い模範的な警官に実証するばかり」で殺人の動機は、この奥出雲には何一つありませんでした。

思いがけないⅣ、理恵子の行方

今西が土産のない出雲出張から警視庁に戻ると、労をねぎらう黒崎が意外なことを言います。吉村が東海道沿線塩山付近を這いまわり高木理恵子が撒いた白い紙切れらしき散布物を探し回っていたのです。

そして見つけた5~6辺は血痕のついた布切れで、検査結果は人間のO型血液でした。

相当量の返り血を浴びた白いスポーツシャツを理恵子が犯人に代わり、証拠隠滅を謀った重要参考人として捜査線上に浮かんだ瞬間でした。

この吉村の大手柄で、元の捜査員が全員召集され捜査本部が再結成されました。当面の捜査対象は理恵子です。犯人との接点を持っている唯一の人物だからです。

理恵子は妊娠していました。父親は和賀英良です。和賀は中絶を断固として譲りませんが、理恵子は生みたがります。

車中で両者が口論となり、たまらず車を出て雨中を走り出したことで流産となり、理恵子は出血多量で死亡してしまいます。

理恵子死亡は捜査本部も和賀も知らず、理恵子の捜索は難航しました。

思いがけないⅤ、なぜ東京に行ったのか?

三木はお伊勢参りをして岡山に帰るはずでした。予定通りなら東京に行くことはなく、被害には逢わなかったのです。突然東京行きを思い立った理由は何なのか?

今西はその答えが伊勢にあると思っていました。

伊勢に行きたいのですが、今まで東北・出雲と、どちらも成果のない出張だったので黒崎に言い出しにくい今西は、出雲出張時に持ち帰った亀嵩村史に目を通す毎日です。

今西は村史の中で、亀嵩村にやってきた哀れな乞食親子の記述が目に留まり、詳しい情報を知らせるよう亀嵩在住の桐原老人に手紙で依頼します。

そのころ和賀は婚約者の田所佐知子と、佐知子の実父である元大蔵大臣の田所重喜と共に都内の料亭で海鮮料理を楽しみながら、重喜からは完成したパンフレットなど万全なバックアップ体制を伝え聞き、チケットの心配すら無用であることも匂わされます。

作品作りに専念すればいい音楽家にとってこの上ない環境です。

一方、伊勢行きに意欲を燃やす今西は、休暇を利用して自費で行きます。二見浦駅に着くと三木が投宿した旅館に向かい、接客した中居の女性と、宿主に話を聞きます。三木がここで2泊したことは彰吉の証言で判っていました。

「最初は東北の人かと思ったんですね?」今西は中居に確認します。

「はい。そういう訛りがありましたゎ」と中居が伊勢弁で答えます。

今西は多くの期待を込めて、「誰か尋ねてこなかったか」、「どこからか電話はなかったか」、「誰かを尋ねて外出しなかったか」を聞きますが、2日ともそれはないと断言されてしまいます。不審な行動は無いように思えました。

しかし聞き込みを続けると、今西にとって不審の念を抱く行動が、三木に一つだけありました。

それは旅館近所の映画館・光座に2日続けて通っていることです。しかも投宿2日目は予定を変えて、岡山に戻る汽車に乗らずに光座にまた行ったのです。

今西は光座に行き、上映映画のタイトルを確認します。知人が出演していて、それが東京行きの動機だったかもと思ったのです。

しかし映画館の上映スケジュールは三木にとって初日と二日目は違う映画だったのです。つまり東京行きの動機は映画の出演者ではありません。

三木が東京行きを決めた理由は映画館に飾ってある、額縁に収められた1枚の写真だったのです。その写真には三重県出身の田所重喜やそのファミリーと関係者に加えて、和賀英良の姿がありました。

思いがけないⅥ、父子の身元

今西が伊勢から戻ると、桐原老人に尋ねた哀れな乞食父子についての問い合わせ結果が届いていました。父子の名前は父・本浦千代吉と息子の秀夫。

手紙によると、千代吉が患ったハンセン病のため、故郷を追い出された父子だったのです。

秀夫の母親は金沢へ奉公に出て、結果親子の関係は切れました。今や6歳の秀夫にとって、父しか身内はいないのです。

この父子は手切れ金のような選別を村人たちに貰って、郷里の住民に病が感染しないように、どこかよその地に流れて行って欲しいという願望をかなえるという、戦前にしか起こりえなかった風習を強制されました。戦前とは1945年以前です。

故郷を出ると待っていたのは壮絶な艱難辛苦です。父子は目的地がなく、希望すらない旅を続けて亀嵩にたどり着き、千代吉はここで病に倒れます。

若き三木巡査は地元の児童に教えられ父子を発見し、介抱します。派出所で茶を勧めながら千代吉に問いかけます。

「今まで医者に診てもろたことはああか?」首を横に振る千代吉に構わず、秀夫には優しく食事を勧めます。

三木は千代吉の病状が当時では隔離を要する感染症だと判断し、療養施設で治療するため、まずは亀嵩村の隔離施設へ送りたい意思を伝えますが、秀夫と別れたくない千代吉は同意しません。

隔離病棟は遠隔地にあり、また面会謝絶が当時の決まりだからです。

しかし秀夫の将来を案ずる三木は、千代吉に対し熱心に説得し、ついには千代吉の同意を得ます。父子に別れの時が亀嵩駅でやってきます。

ここからは今西が和賀に対して逮捕状を請求する過程を織り交ぜ、なぜ三木を殺害せざるを得なかったかを視聴覚で伝えるのです。40分間に及ぶ映像による叙事詩を菅野光亮の組曲が格調高く支えます。

このように三木は流れてきた本浦父子の大恩人であり、同時に秘密を知りすぎた男でもありました。三木殺害の動機は「東北弁のカメダ」にあったのです。

  

3.映画『砂の器』の感想と評価

鑑賞ポイント①長らく制作されなかった理由

この映画は、松本清張の当時では実現不可能なことでも、近未来なら可能であろう、という冒険精神から生まれた推理小説が原作です。

原題の『砂の器』は、はかなく壊れる宿命にあるものとして、いくつものテーマが原作には存在していて、そもそも扱いにくいのです。

しかも原作では殺人者が冷淡で自己都合の解釈で殺人を実行します。娯楽としての映画には不向きな背景があります。

不都合なテーマを列挙すると以下です。

現在の置かれた立場の不条理
・過去を隠して得た、はかない名声
・生まれてきたこと、生きていること
・過去を知らずに関わりあったこと
・過去を知っているがゆえに降りかかること

などがテーマの中に忍び込ませてあります。複数のテーマは映画化に向きません。

更に、松竹が長らくの間、製作に着手しなかった理由と思しきことを記述すると、企画が上がった60年当時の松竹の運営方針があります。

「映画で笑いと勇気を。国民に元気を!」みたいな感じの社風であり、眉間にしわを寄せたり、腕を組んでうなったり、いわんや赤い鮮血が流れる死体が必ず出てくるミステリー作品はあまり好きではなかった」というのがありますが、

松本清張作品の中で、ハンセン病を重大な感染症と捉え、罹患した宿命がテーマの一つだった」という重いテーマを背負ってます。

では何故このような冒険作が世に出たかを考えると、原作を連載した読売新聞・夕刊の存在意義が浮かび上がります。

夕刊は娯楽欄や求人欄、案内広告、新書案内、テレビ・ラジオの番組案内などが主体で、その意義が大きい時代で、夕刊の目玉商品は夕刊小説でした。朝刊とは違う役割の存在だったんです。

当時の発行部数は朝日・毎日・読売の順で、東京・大阪以外の読売は販売部数では2流紙でした。読売は夕刊小説に大物の松本清張を招く上で、執筆上の制約をなくしたと思われます。

夕刊の販売手法は都市圏では駅売り主体なので、ターゲットユーザーはサラリーマンです。

販売部数を夕刊で稼げば利益も大きく、また朝刊とセットで宅配でも部数を稼げる読売は「評判になること」を望み、松本清張は「意欲作を書ける土壌」を欲しがったと推察されます。両者の意向が編集方針でも一致したのが、この冒険小説誕生の秘密です。

夕刊で連載された原作は、現代においても実現不可能な、破綻した理論で構成された殺人手法と、誤った解釈のハンセン病の記述以外は、たいへん出来が良く、読む者を引き込みます。

読売の拡販戦略は大当たりだったと思います。

原作にあり劇中でも披露される、戦災で戸籍をなくした国民が、戸籍復活の手続きで再生可能だというくだりは見事です。

本浦秀夫は三木の要望で三木の養子にするはずが、逃げ出して行方不明となり、大阪の和賀自転車店で丁稚となります。

しかし空襲のため町は大破し、戸籍を失います。この際に戸籍を「本人の申し出」で再生させる手続きを悪用して秀夫は和賀英良となるのです。戦争を知らない世代では考えつかない手法だと思います。

方言の地域特性に触れた着眼点も白眉です。東北弁に似た音韻を持つ出雲地方を設定し、推理小説らしいひねりを加えています

麺類も、西日本では出雲だけが「うどん」ではなく、東日本と同様に蕎麦が主流なのは、何か言語と因縁があるのかもしれません。

この原作をうまく手なずけたのが脚本の橋本忍です。原作を大胆に脚色し、構成を変えてテーマも変えたのが本作です。

面倒な重いテーマは大幅に省略し、脚本も判りやすくしています。本作の成功は脚本の橋本忍と山田洋二の功績が大きいと思います。舞台設定と構成を橋本が、第一校の脚本を山田が担当したのではないかと思います。

この脚本によって本作の後半は父子の絆を伝える感動の叙事詩となり、興行収入は配給計画の2倍近くになりました。監督の野村芳太郎は、この作品で大監督の称号を手に入れたのです。

▼映画『砂の器』はHuluでご覧いただくことができます。
映画『砂の器』を今すぐ見る

鑑賞ポイント②犯行の動機

犯行は、秀夫こと和賀に対して、未だハンセン病で療養施設に入所している千代吉に逢いに行けと迫る三木の執念に殺意を感じ実行します。山田洋二が最も苦心したくだりでしょう。

今やどこに行っても話題になる和賀は過去を蒸し返されることを恐れたのです。三木には和賀の苦悩は理解出来なかったことを感じさせる構成となっています。

まとめ

素晴らしい映画で、原作を超えている数少ない映画の一つと思います。

まだ見ていない方にはぜひ観ていただきたい昭和の職人が作った作品です。

さて、この映画は50分以上にわたり菅野光亮の音楽が流れ、そのうちの40分は後半の重要な父子の絆に関するテーマ部分を組曲で演奏します。

流れる音楽を受け入れられるかどうかで大きく評価が変わるので機会があれば先に楽曲を聞くことをお勧めします。

音楽が気に入れば満足度はだいぶ上がるでしょう。

さて、『砂の器』が観られるHuluでは現在2週間無料トライアルを実施中

▼映画『砂の器』はHuluでご覧いただくことができます。
映画『砂の器』を今すぐ見る

無料トライアル期間に解約をすれば料金は一切かかりませんし、記事でご紹介した作品以外にも映画・海外ドラマ・国内ドラマ・アニメなど、大量の作品が見放題となっています。

作品によって追加料金がかかるVOD(定額制動画配信サービス)もありますが、Huluは全作品見放題というのも安心して使えるポイントですね!

※紹介している情報は2017年11月時点のものです。配信作品の状況が変わっている可能性もありますので、詳細は公式ホームページにてご確認ください。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

池脇千鶴&三田りりや映画『十年』から「その空気は見えない」感想レビュー【十年 Ten Years Japan】

2018年11月3日(土)テアトル新宿、シネ・リーブル梅田他全国順次公開される、映画『十年 Ten Years Japan』。 是枝裕和監督が才能を認めた、5人の新鋭監督たちが描く、十年後の日本の姿が …

ヒューマンドラマ映画

映画『ラースと、その彼女』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

世の中には様々な愛の形が溢れていますが、今回取り上げるのは等身大の人形と恋をした男の物語『ラースと、その彼女』です。 観終わった後幸福感でいっぱいになる、ライアン・ゴズリング主演作『ラースと、その彼女 …

ヒューマンドラマ映画

映画『人魚の眠る家』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も【篠原涼子&西島秀俊共演】

映画『人魚の眠る家』2018年11月16 日(金)全国公開されます。 東野圭吾の同題ベストセラー小説を『天空の蜂』で、すでに東野作品の映像化に経験済みの堤幸彦監督が映画化。 時にソフトな平和な時の家族 …

ヒューマンドラマ映画

インド映画『ガリーボーイ』あらすじと感想レビュー。ラップになったヒンズー語の迫力と字幕のリリックに注目

映画『ガリーボーイ』は2019年10月18日(金)より新宿ピカデリーほかで全国ロードショー! インドのスラム街に住む一人の青年が自身の境遇に縛られ悩みながら、ラップという唯一の武器で一歩を踏み出す勇気 …

ヒューマンドラマ映画

映画『タイガーテール』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。Netflixで配信されたアランヤン監督のすべての“移民へのラブレター”

Netflix映画『タイガーテール』で描かれた、父と娘の心の溝と交差 人生にはいくつかの岐路があります。自分の頭の中に描いた夢のために、大切なものを犠牲にすることもあります。 アメリカのテレビドラマ「 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学