是枝裕和監督が描くヒューマノイドを迎え入れた夫婦の物語『箱の中の羊』
社会に生きる人々を鋭く温かな眼差しで描き、高い評価を得てきた是枝裕和監督が、オリジナル脚本で作り上げた長編映画『箱の中の羊』。
ヒューマノイドが一般的になってきた、少し先の未来でのお話です。
2年前に亡くした息子・翔の姿をしたヒューマノイドを迎え入れた建築家の音々と夫の健介の夫婦。
3人暮らしを始めてみると、ヒューマノイドに対して一種のとまどいを持ちながらも、失った家族の時間を取り戻せたような気分になりました。
ですが、予期せぬ出来事によって、次第に人間とヒューマノイドの相違に気が付き始めます。
主役の夫婦は、綾瀬はるかと千鳥の大悟。ヒューマノイドを家族に迎える戸惑いや葛藤を人間味溢れる演技で、言葉で言い表せない細やかな感情を加えて表現しています。
『箱の中の羊』を、ネタバレありでご紹介します。
映画『箱の中の羊』の作品情報

(C)2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.
【日本公開】
2026年(日本映画)
【監督・脚本・原案・編集】
是枝裕和
【製作】
若松央樹、依田巽、市川南、田中優策
【音楽】
坂東祐大
【キャスト】
綾瀬はるか、大悟、桒木里夢、清野菜名、寛一郎、柊木陽太、角田晃広、野呂佳代、星野真里、中島歩、余貴美子、田中泯
【作品概要】
『怪物』(2023)『万引き家族』(2018)の是枝裕和監督が、亡き息子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れた夫婦の物語をオリジナル脚本で描いた長編映画。
主役の夫婦には、『奥様は、取り扱い注意』(2021)や『リボルバー・リリー』(2025)の綾瀬はるかとお笑いコンビ「千鳥」の大悟が演じます。
夫婦の亡き息子・翔とその姿をしたヒューマノイド役は、オーディションで200人以上の中から選ばれた桒木里夢が抜擢され、清野菜名、寛一郎、、余貴美子、田中泯などの実力派も共演。
2026年・第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品です。
映画『箱の中の羊』のあらすじとネタバレ

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遠くない未来……ある町で建築家の甲本音々(綾瀬はるか)と、工務店の二代目社長を務める健介(大悟)の夫婦が暮らしていました。
2年前に7歳の息子・翔を亡くした2人の基に、RE birth Ltdという会社から、「家族を亡くした遺族に対して、最新型ヒューマノイドを無償でレンタルします」という案内がドローンで届きました。
ヒューマノイドレンタルについて否定的な健介に反し、息子に会いたい音々は、健介を押し切ってその説明会に参加します。
そこで2人が見たのは、人間にしか見えないヒューマノイドの少年でした。
人間そっくりのその姿に心動かされた音々は、翔の写真などのデータでカスタマイムするヒューマノイドを迎え入れることを決心します。
そして、車で音々の家へヒューマノイドの〈翔〉(桒木里夢)がやって来ました。生前の翔と少し間違わないヒューマノイド。音々は「おかえり、翔」と優しく声を掛け、〈翔〉は「ただいま」と自然に答えます。
そんな様子を見ても、ヒューマノイドに納得しきれない健介。「パパだよね?」という〈翔〉に、「おじさん、でいいよ」と答えました。
健介はそれでも、注文住宅などの仕事で忙しい音々に代わって、〈翔〉の相手をしてあげます。
翔が江ノ電の全駅名を暗記していたと聞いた〈翔〉は、同じように駅名を暗唱してみせました。人間の翔と同じ顔で同じことをするヒューマノイドに健介は動揺します。
ある日、健介の忘れ物を届けに工務店を音々と〈翔〉が訪れました。〈翔〉はそこで木工職人の山縣(田中泯)から木切れをもらって樹の話を聞きます。
それをきっかけに、〈翔〉は樹や家造りに俄然興味を持ち始めました。
映画『箱の中の羊』の感想と評価

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ヒューマノイドとの共存
冒頭で「遠くない未来」という言葉から始まる本作の中心にいるのは、ヒューマノイドと子供を亡くした夫婦です。
事件や事故で家族を亡くした遺族に対して、ヒューマノイドを無償でレンタルするというサービスを受けることにした甲本夫婦は、亡き息子にそっくりなヒューマノイドを目にして、本当に息子が生き返ったような気がします。
ですが、ヒューマノイドは人間が作り出したロボットなのです。お風呂は入れません。食事はできません。雇い主からある程度の距離をおくとスイッチが切れてしまいます。怒ったり悲しんだりという感性もありません。
それでも、息子そっくりの愛くるしい顔を見ていると、ぽっかりと開いた心の穴が埋まるような気がして、母である音々は喜びをかみしめます。
ドローンが物を運んできて、町中に多くのヒューマノイドが人間の子供として暮らす近未来。
そこには、ヒューマノイドの‟子供の身代わり”としての役割が与えてくれる幸せもあるのですが、100%人間にとって都合のよいことばかりではありませんでした。
最初うまくいっていた甲本夫婦のケースをみても、ヒューマノイドとの共存の難しさがよくわかります。
もの造りが伝える生命の息吹

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舞台となるのは、建築家の音々が自ら設計した中庭のある一軒家です。模型でみると、まるで箱の中に庭があるような造りで、中庭にはたくさんの植物や樹が植えられています。
感情を持たないはずのヒューマノイドの〈翔〉が、いつのまにか樹木に興味を持ち、樹木が話すその声に耳を傾けるようになります。
人間ではない生命体の樹木と、やはり人間ではないヒューマノイドの〈翔〉には、どこかで通じるものがあったのでしょう。
建築に興味を持った〈翔〉は樹木からいろいろなことを聞き、ラスト近くでヒューマノイドの仲間たちが自分たちの家を造るために、森へ行くことを決めました。
生命力に満ち溢れた森ならきっとヒューマノイドたちも、人間に邪魔されることなく、静かに暮らせるでしょう。この選択は、樹木と対話をする異質なヒューマノイド〈翔〉の努力の結果ともいえます。
異質といえば……甲本夫婦を演じているのは、俳優の綾瀬はるかとお笑い芸人千鳥の大悟です。大悟が演じる「健介」は、喜怒哀楽の感情のはっきりした父親で、作品の中でその存在感が光っていました。
実社会でもいるであろうこんな父親に、リアルな親近感を覚えます。
この作品における「健介」が放つ存在感は、美男美女が居並ぶ俳優陣と比べて異質と思えるお笑い芸人の大悟だからこそ表現できたものに違いありません。
また、本作は、ヒューマノイドとの共存が日常化する近未来の物語です。森を形成する樹木の確かな生命力が感じられることは、コンクリートや鉄筋などの建物ばかりの未来のイメージに明るい希望を与えてくれる作品でした。
まとめ

(C)2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.
子供を亡くした夫婦が、息子の姿をしたヒューマノイドを新しい家族として迎え入れる物語『箱の中の羊』は、これまでさまざまな形で、社会に生きる平凡な人々を活写してきた是枝裕和監督のオリジナル脚本を映画化したものです。
いくら亡くした子供にそっくりでも、ヒューマノイドはヒューマノイド。子供の代わりはできても、本当の子供ではありません。
少し先の未来では、こんなにもテクノロジーによって進化した日常が待っているのに驚くことでしょう。
果たしてどのようにすれば、ヒューマノイドとの生活が上手くいくのでしょう。観客は興味深く観ること、間違いありません。
近未来に生きる夫婦の生き方や新たな家族の形を、是枝裕和監督らしい優しいタッチできめ細かに描き出している作品でした。




































