カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した是枝裕和監督の映画『万引き家族』
第71回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した映画『万引き家族』。。
『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』『三度目の殺人』とヒット作・話題作を連発し、国内外の映画祭、映画賞の常連となっている是枝裕和監督の映画『万引き家族』。
“犯罪でしか繋がれなかった”家族を演じるのは、リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ、樹木希林。さらに、池松壮亮、緒方直人、高良健吾、池脇千鶴、柄本明が脇を固めています。
音楽を担当するのは2019年でデビュー50周年となるYMO/ティンパンアレイ/はっぴぃえんどの細野晴臣が担当。
映画『万引き家族』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【原案・脚本・編集・監督】
是枝裕和
【キャスト】
リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
【作品概要】
『三度目の殺人』や『海街diary』など家族をテーマに描き続ける是枝裕和監督が、東京の下町に住む家族ぐるみで軽犯罪を繰り返す一家の姿を通して描くヒューマンドラマ。
万引きを重ねる父親治をリリー・フランキー、初枝役に樹木希林といった是枝組の常連キャストに加え、信江役の安藤サクラ、信江の妹亜紀役の松岡茉優が共演。
第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、パルムドール(最高賞)を受賞しました。
映画『万引き家族』のあらすじとネタバレ
街角のスーパーに子連れの中年男がやって来ます。
男の名前は治、子どもの名前は祥太、二人は買い物をするふりをしながら、見事な手際と連携で次々と商品を万引きしていきます。
二人は帰り道、団地のベランダで部屋から閉め出されている少女に出会い、家に連れて帰ります。
家には祖母の初枝、妻の信代、信代の妹の亜紀が暮らしていました。
じゅりを連れて来た二人を見て、どうするつもりなのかとぼやきながらも、三人はあれこれと世話を焼きだします。
じゅりを家に戻そうと団地に戻ってきた治と信代。
しかし、窓ガラス越しに二人の耳に「じゅりを産みたくて産んだわけではない」という母親の声が聞こえて来ました。
じゅりを残していく訳にはいきませんでした。
治は日雇いの工事現場へ、信代はクリーニング工場に出勤。学校は家で勉強を教えてもらえない人間の行くところだと思っている祥太はじゅりを連れて近くの駄菓子屋へ万引きにいきます。
一方、初枝は一家の定収入である月々の年金を下ろしに銀行へ向かいます。
亜紀は初枝に付き合った後、JK見学店に出勤。そこでは男性客相手にセーラー服に身を包みマジックミラー越しに下着姿を見せるときもありました。
ある日、テレビで少女誘拐のニュースが流れます。画面に映っていた少女はじゅりでした。
もはや、一家の一員となっていたじゅりは、“りん”と名前を変え、家族として暮らし始めていました。
夏になり、ケガを治した治はその後も仕事に出ず、信代はリストラされてしまいます。
亜紀はJK見学店の常連の4番さんと、密かに交流を持つようになっていました。
貧しさが迫ってきても家族はいつも明るいまま。ある日、家族で海に出かけ大切な思い出もできました。
ただ、祥太だけは自分の仕事に疑問を抱くようになっていました…。
映画『万引き家族』の感想と評価
カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを日本作品として実に21年ぶりに受賞し、普段映画に親しみがないであろう方も含め、作品外で様々な意見が飛び交っています。
お客さんの入りも好調でおそらく最終的には是枝監督作品では最高の興行収入を記録すると思われる話題作。
この記事では純粋に作品の内容や描き出しているものについて、感じたことを書いていこうと思います。
まず、俳優のリアルな演技、緻密に設定された美術や衣装、効果的な照明と美しく切り取られたショット(撮影監督の近藤龍人と照明の藤井勇の名コンビ)、細野晴臣が手掛けた劇伴など、とにかく現日本映画の最高峰を結集したと言えるこの超豪華布陣。
眼福とはまさにこのことで、話の好き嫌いに関わらず全てにおいて圧倒的なクオリティを誇っている作品であることは誰しもが認めるところでしょう。
そしてタイトル。是枝監督は過去作で様々な形の家族について触れてきていますが、本作のタイトルはズバリ『万引き家族』。
当初の題は「声に出して呼んで」だったそうですが、敢えてストレートに家族という言葉をタイトルに入れた意図は何でしょうか?
いざ作品を観てみると、出てくるのは一般的な解釈からすると全く家族とは定義できない人たち。血も戸籍上の繋がりもない彼らは疑似家族として一つ屋根の下に身を寄せ合って暮らしています。
今の日本は、少子高齢化や長期に渡る景気の停滞、賃金が上がらないまま納税額は増加、まさに衰退の一途を辿る国家そのもの。このままだと貧富の差はさらに拡大していくことは間違いありません。
偶然と呼ぶべきか、世界的に見てもそんな時代だからこそ家族を超えた“共同体”について問い直そうとする作品が近年多いように思います。
2016年にパルムドールを受賞したケン・ローチの『わたしは、ダニエル・ブレイク』、現在も公開中であるショーン・ベイカーの『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(ゲップのシーンはまさに共鳴!)、アメコミ原作ものではありますが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズと『デッドプール2』など。
個人的に特に共通項を感じるのは、是枝監督と昨年トークイベントを行なった坂元裕二。
坂元裕二も家族についての作品を数多く生み出してきた脚本家です。
そして、直近のテレビドラマ2作『カルテット』と『anone』で彼が語ろうとしていたのは、まさに家族を超えた共同体そのものでした。
同じシャンプー(メリット)を使うため髪から同じ匂いがし、いつも同じ布団に入って寝ているから体温の違いに気付くことができるのです。その関係を家族と言わずしてなんと呼ぶべきなのでしょうか。
日本の映画界とTVドラマ界を代表する才能が共鳴し合うこと自体がまずもって素晴らしく感動的ではあるのですが、トップランナーの二人がそれだけ今の時代に対して危機感を持っているということでもあります。
血の繋がりには縛られない関係性だって、世間で考えられている家族というマジックを起こすことができる、その可能性を信じているように思います。
本作の中では、骨折した足や腕にある同じ傷跡など、些細な一致を通じ信頼関係を深めるのです。
予告編でも使われている実に印象的なシーンがあります。姿形が一切見えない花火を、縁側に出て眺めるというよりは、空に流れるその音を皆でただ聞く。人生の中にある一瞬の美しさを切り取ったかのようなワンショット。
この場面から伝わってくるのは、世間一般からは見向きすらされないような人たちも同じ空の下で確かに生きているという事実です。
本作は、生き延びるためには犯罪を犯してもいいとは決して言っていませんし、そもそもこの映画の中の人たちは、二人の子どもを除いてロクデモナイ人たちばかりです。
それは前述の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』においてもそのようなバランスで描かれていました。
万引きを繰り返していた駄菓子屋が忌中で閉まり(意味は分からずとも罪悪感は感じたはず)、擬似家族がバラバラになる原因を作ったのは万引きでした。
彼らは現実にいたら絶対お近付きになりたくない人たちのはずです。けれど何故か、自業自得だと割り切って考えながら見つめることはできないのです。
それこそが物語を語るということだと思います。人が何のためにわざわざお金と時間を使って映画を劇場まで観に行くのか。
時間潰しという側面もありますが、その本質は普段の生活では決して関わることのできない人たちの考えや暮らしに触れるためではないかと私は思います。本を読むのも同様です。
まるで彼らと共にあの一軒家で暮らしていたかのような感覚を得た今は、映画を見終わった後も祥太とりんのこれからの幸せを祈らずにはいられません。
そして、もう大人になってしまった3人もあの経験を糧にこれから強く生きて欲しいと願ってしまうのです。
まとめ
是枝監督の集大成とも言える本作は、貧困や児童虐待という厳しい現実問題を描きながら、流れるほとんどの時間が温かいのです。
この突き放しきらない血の通った温かさこそが、是枝作品を愛してしまう理由なのだと改めて気付かされました。
人はただ生きているだけではダメになってしまう生き物なので、本作の登場人物たちのようにゆっくりでもなにかに気付きながら生き続けることが肝心です。
興味のないことは自分とは関係のないこととしてシャットダウンすると、そこで人間としては止まります。
これからどんな考えを持って生きていくのか。
時代を超える名作は鑑賞後に大きな問いを投げかけてくれます。