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Entry 2024/12/09
Update

『お引越し』あらすじ感想と評価レビュー。 4Kリマスター版で相米慎二監督が描いた“少女の葛藤と成長”が蘇る

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『お引越し 4Kリマスター版』が2024年12月27日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開

没後20年以上が経った今も愛され続ける相米慎二監督作品『お引越し 4Kリマスター版』が、30年の時を経て2024年12月27日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開されます。

児童文学作家ひこ・田中の小説『お引越し』を原作に、両親の別居から家族の危機に揺れ動く少女の心を映し出します。

出演は本作でデビューを果たした田畑智子。父親役を中井貴一、母親役を桜田淳子が演じます。

1993年・第46回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品。2023年には4Kリマスター版が第80回ベネチア国際映画祭クラシック部門に出品され、最優秀復元映画賞を受賞しました。

大好きな父と母と一緒に暮らしたいという、少女の切なる願いは聞き届けられるのでしょうか。大人と子供の思いが揺れ動く様を丁寧にすくい取った名作の魅力をご紹介します。

映画『お引越し 4Kリマスター版』の作品情報


(C)1993/2023讀賣テレビ放送株式会社/ひこ・田中「お引越し」

【日本公開】
2024年(日本映画)

【原作】
ひこ・田中

【監督】
相米慎二

【脚本】
奥寺佐渡子、小此木聡

【キャスト】
中井貴一、桜田淳子、田畑智子、須藤真里子、田中太郎、青木秋美、笑福亭鶴瓶

【作品概要】
『台風クラブ』(1985)の相米慎二監督が、児童文学作家ひこ・田中の小説『お引越し』を原作に、両親の別居に揺れ動く主人公の少女の心を躍動感たっぷりに描いた青春映画。

オーディションで抜てきされた田畑智子が主人公レンコ役で鮮烈なデビューを果たし、数々の国内映画賞で新人賞を受賞しました。『壬生義士伝』(2003)の中井貴一が父ケンイチ、桜田淳子が母ナズナを演じます。

1993年・第46回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、2023年には4Kリマスター版が第80回ベネチア国際映画祭クラシック部門で最優秀復元映画賞を受賞しました。

その後、フランスで劇場公開されるや、当初の数館から130館以上に公開拡大する快挙を成し遂げました。フランスを代表するル・モンド紙の一面で取り上げられるなど、各メディアから「30年の時を経て、ついに姿を現した」「青春映画の偉大な作品」と絶賛されています。

映画『お引越し 4Kリマスター版』のあらすじ


(C)1993/2023讀賣テレビ放送株式会社/ひこ・田中「お引越し」

レンコは京都に住む明るく元気な小学6年生。

ある日、両親が別居することになり、父ケンイチは家を出て行ってしまいます。レンコは母ナズナと2人で暮らしはじめました。

最初は家が2つできたと無邪気に喜んでいたレンコでしたが、次第に自身を取り巻く変化の大きさに気づいていきます。

父と母を再び結びつけたいレンコは、母の持っていた離婚届を隠したり、自宅で籠城作戦を決行したり、さらには以前家族で訪れた琵琶湖への小旅行を勝手に手配しますが…。

映画『お引越し 4Kリマスター版』の感想と評価


(C)1993/2023讀賣テレビ放送株式会社/ひこ・田中「お引越し」

両親の離婚をやめさせようと奮闘する少女の姿を鮮烈に描く名作ドラマです。

田畑智子演じる主人公・レンコの澄んだ大きな瞳に吸い込まれそうになります。いつも彼女は駆け続けています。

ほれぼれする走りっぷりですが、その姿がやり場のない悲しみや怒りを振り払おうとする彼女の激しい感情そのものを表していることに気づかされます。

張り裂けそうな悲しみ。爆発する思い。止められない激情。親の離婚がどれほど子供の心を傷つけるかを思い、胸が締め付けられることでしょう

子供の方が、大人よりよほど真実がよく見えており、大人の矛盾した考えを鋭く突く力を持っていることがわかります。

親たちは娘を力で押さえ付けようとし、まるで子供のような振る舞いをします。不仲の父と母は見ていて悲しくなるほど子供返りしてケンカばかり。娘の気持ちに思いを馳せる余裕を無くしています。

恨みが積もり積もってしまう夫婦関係の怖さ。一緒にいた時間の長さだけ、地雷は山ほど埋まっています。娘への深い愛情だけでは埋められない深い溝があり、その事実にも少女の心は傷つくのです

やさしいクラスメイトのみのるとの友情や、家庭の事情を揶揄する友だちとの諍い。子供の世界も色々なことがある中、レンコの逞しい生き様に胸を揺さぶられます。

後半はまったく予想できない展開となっています。レンコの心の揺らぎと共に最後までお楽しみください。

まとめ


(C)1993/2023讀賣テレビ放送株式会社/ひこ・田中「お引越し」

田畑智子が鮮烈なヒロインを演じた名作『お引越し 4Kリマスター版』。演技派の中井貴一と桜田淳子が、憎み合い、別れるしかないところまで追い詰められた夫婦をリアルに演じます。

罪のない子供の、頼るべき両親を失う悲しみと不安、憤りを、余すこと無く映し出す本作どうぞ劇場で、レンコの成長を最後まで見届けてください

映画『お引越し 4Kリマスター版』は2024年12月27日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開です。



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