宇宙の静寂に取り残された2人の宇宙飛行士の物語『ゼログラビティ』
『ゼロ・グラビティ』は、アルフォンソ・キュアロン監督が『ROMA』以前に監督賞を受賞したSF映画です。
キャストは、2002年の『トゥー・ウィークス・ノーティス』などラブコメ作品を中心に活躍するサンドラ・ブロックと「オーシャンズ」シリーズに出演したジョージ・クルーニーの2人。
2人きりで宇宙空間で事故に巻き込まれる恐怖を描き、極限状態での人間の再生をテーマにした作品となっています。
本作はアカデミー賞で監督賞と編集賞、撮影賞、作曲賞、音響賞など7部門を受賞し、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞でも監督賞を受賞しました。
映画『ゼロ・グラビティ』のあらすじや、監督の映像や音響のこだわりについて考察していきます。
映画『ゼロ・グラビティ』の作品情報
【公開】
2013年(アメリカ映画)
【監督】
アルフォンソ・キュアロン
【キャスト】
サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー、エド・ハリス(声の出演)
【作品概要】
本作『ゼロ・グラビティ』の監督を務めたのは、アルフォンソ・キュアロン。『天国の口、終わりの楽園。』がヴェネチア国際映画祭で脚本賞を受賞されるなど世界から注目を集め、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)や『トゥモロー・ワールド』(2006)でも高評価を獲得しました。
2018年には『ROMA/ローマ』で再びアカデミー賞監督賞受賞ほか、外国語映画賞、撮影賞。また、他の数々の映画賞を総なめにしました。
出演者の一人、サンドラ・ブロックはキアヌ・リーブスと共演した『スピード』(1994)で一躍有名になった後、ラブコメ作品を中心に活躍し、最近ではスサンネ・ビア監督のホラーサスペンス映画『バード・ボックス』(2018)で主演と製作総指揮を務めました。
もう1人の出演者、ジョージ・クルーニーは1994年にドラマシリーズ「ER 緊急救命室」で一躍人気俳優になり「オーシャンズ」シリーズなどの人気作に次々に出演し、『コンフェッション』(2002)で初監督を務め、『グッドナイト&グッドラック』(2005)と『シリアナ』(2005)で監督賞、脚本賞にノミネートされ、助演男優賞を受賞。
映画『ゼロ・グラビティ』あらすじとネタバレ
ライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)は自身の医学システム「スキャン・システム」の研究をしている博士で、初めてNASAの任務に来ていました。
訓練を半年積んだものの、宇宙空間での作業中体温は下がり血圧は上昇し、体調を心配されてしまいます。
そんな慣れない状況の中、シャリフという宇宙飛行士と、マット・コワルスキー中尉(ジョージ・クルーニー)と共に衛星の修理を行っていました。そこにロシアが自身の人工衛星を爆破したという知らせが届きます。
当初は危険はないと言っていたものの、急遽その破片が猛スピードでライアンらの元へ向かっているのですぐに非難するようにと指示を受けます。
しかし逃げる間もなく衛星の破片が次々に衝突し、ライアンはその衝撃でエクスプローラーから900メートル離れた空間に吹き飛ばされてしまいました。
ひとりで漂っているところへ、マットが通信を使って迎えに来ました。互いをロープでつなぎ機体へと戻ります。シャリフは顔面に破片が貫通して死んでいました。
機体の中に入ると、ほかの乗組員も死んでいました。
ライアンとマットは宇宙船が必要なのでISS(国際宇宙ステーション)へと向かうことにします。宇宙空間を漂いながら、2人は故郷の話を始めます。
ライアンは幼稚園の鬼ごっこで転んで頭を打って死んでしまった4歳の娘がいたことをマットに打ち明けます。その間にも宇宙服の残り酸素量と燃料がわずかになっていきます。
ISSの近くまできて、エンジンを噴射します。どうにかISSにつかまろうとしますがうまくいきません。2人をつないでいたロープが外れましたが、ライアンの足にISSの機体から出ている何本かのロープが絡まります。
吹き飛ばされそうになっているマットにつながっているロープを、必死の思いで掴んだライアン。
しかし、そのままだと一緒に吹き飛ばされてしまうと判断したマットはロープを手放して、そのまま宇宙空間へと消えていきました。
通信を使って、ライアンに話しかけるマット。目視できる距離にある中国の宇宙船「神舟(シェンズー)」を使って大気圏に突入できるので、そこまでISS のソユーズを使って行くように言います。
ソユーズの訓練では何度も失敗していたと不安をもらすライアンに、ジョークを交えながら必ず帰還できると励ますマット。
酸素量が底をつき、息も切れ切れの中ISSに入りどうにか酸素を吸うことができたライアン。
ISSの中で通信機を見つけてマットへ呼びかけるライアンですが、応答はありません。そして、一方通信でヒュートンへ自分のみが生存していることを報告しました。
ISSの中で火災が発生しました。消火しようとしますが、次々に火は燃え上がり、うまくいきません。
急いで脱出ポッドに乗り込んだライアン。説明書を片手に操作し、どうにか離脱しようとしますが、パラシュートが絡まり機体が振り回されてしまいます。
そして、ISSの本機にパラシュートが絡まり身動きが取れなくなってしまいました。
パラシュートを外すために外に出たライアンでしたが、そこへ衛星の破片が飛んできます。激しく大破するISSからどうにか逃れ、ソユーズに乗ってその場から離れます。
中国の宇宙ステーションに向かうために操縦しますが、燃料切れを起こし起動しません。ヒューストンに一方通信しますが、応答なし。
通信が地球と繋がったものの言語が通じず助けを求めても通じません。犬の鳴き声や赤ん坊の声を聞き、地球との繋がりを感じるライアン。自分がひとりで、もうすぐ死ぬのだと言うことを通信先の男性に話しかけます。
映画『ゼロ・グラビティ』の感想と評価
映像、音響表現へのこだわり
本作は、最高レベルの映像と音響表現が作り出す、新しい切り口のSF映画の一つだと言えるでしょう。また、余分なものを極限まで削ぎ落し「宇宙空間」と「人間の再生」をシンプルかつ濃厚に描いた秀作です。
地球の上空600キロ、音も気圧もなく、もちろん酸素もない宇宙空間で起きる事故の恐怖。決して逃げられない絶望と緊張感が迫力の映像で表現されています。
宇宙空間で、無重力の中に体が投げ出され高速で回転する場面や、火災の中小型宇宙船に乗り込むスリリングな映像は手に汗握ります。
3Dによる映像がほとんどだそうですが、無重力を表現するために俳優を12本のワイヤー装置で吊るして高速で動かし、小型カメラであらゆる角度から撮影することでその臨場感を表現したのだそうです。
また、宇宙空間での光を表現するために「ライトボックス」という装置を独自に開発し、高さ6メートル×幅3メートルの箱型壁面の中に4096個の小型LEDライトを設置することで、より立体感と現実味のある映像を作り出すことにこだわっています。
また、真空状態で音がない宇宙空間を表現するために、ドルビーアトモスシステムを使用し、観客それぞれを包み込むようなサウンドを実現しました。
その結果、アカデミー最優秀音響賞、最優秀音響編集賞、最優秀作曲賞を受賞しています。
この映像や音響へのこだわりは、同監督の作品『ROMA』でも同様のことが言えます。モノクロ映像の中に奥行きのある映像美と臨場感、そして音響表現の素晴らしさは通じるところがあると言えるでしょう。
究極の表現を追及し、歴史に名を残すだろうアルフォンソ・キュアロン監督。彼の今後の作品を観る前に本作を観ておくのは必須と言えるかもしれません。
極限状態で試される人間の再生力
登場人物はほぼ2人きり。会話や説明も最小限。そして宇宙服を着て表情すらはっきり映らないシーンが前半は続きます。回想シーンもなしに心に迫るヒューマンドラマを魅せる巧みさが感じられる作品だといえます。
本作に登場するキャラクターは、サンドラ・ブロック演じるライアン・ストーンと、ジョージ・クルーニー演じるマット・コワルスキーのほぼふたりきり。
ライアンは過去に娘を失い、人生に希望を見いだせずに生きています。一方でマットは生きることの喜びを知っていて、周囲にその幸せを分け与えることができる余裕のある人物です。
生きることを諦めたライアンにマットが語りかけるシーンが本作にとって重要なシーンのひとつだと言えるでしょう。悲しみを乗り越え、大地を踏みしめて前に進むようにマットは語りかけます。
そして意識を取り戻し、まさに息を吹き返したライアンはそこから人生を取り戻します。しかし、マットから貰った言葉は実際のところライアン自身の心の声であると捉えることができます。
ライアンはマットからもらった優しさや生きる姿勢、励ましを思い出します。それは、自らの意思で人生をやり直す道を選んだ感動的なシーンへと続きます。
まとめ
『ゼロ・グラビティ』はアルフォンソ・キュアロンとその息子である、ホナス・キュアロンの共同執筆です。
ホナス・キュアロンはこの後、2015年にガエル・ガルシア・ベルナルを主演に『ノー・エスケープ 自由への国境』というサバイバルサスペンス映画を監督しています。(アルフォンソ・キュアロンは製作に参加)
緊張感たっぷりの映像表現と人間ドラマは『ゼロ・グラビティ』にも通じるところがある作品で、メキシコ国境で繰り広げられるスリリングな逃亡劇は見応え十分。
次作に繋がるホナス・キュアロンの製作力を鍛えあげたともいえる『ゼロ・グラビティ』。
宇宙飛行士たちの極限的状況を最新VFXと3D技術を駆使して描いた技術の集大作と言える作品です。