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Entry 2020/08/22
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映画『ファンファーレが鳴り響く』感想と内容考察。森田和樹監督が描く“青春の危険な叫び”

  • Writer :
  • 山田あゆみ

映画『ファンファーレが鳴り響く』は2020年10月17日からK’scinemaほか全国順次ロードショー

映画『ファンファーレが鳴り響く』は、吃音症の男子高校生と殺人欲求をもつ女子高生の逃避行を描いた危険な青春ドラマです。

主演は藤井道人監督の『デイアンドナイト』やふくだももこ監督『おいしい家族』など話題作にひっぱりだこの笠松将。ヒロインに、今泉力也監督『アイネクライネナハトムジーク』や『左様なら』などでひときわ存在感ある演技を見せる女優、祷キララ。

本作は、2020年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭での特別招待作品に選出されています。

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映画『ファンファーレが鳴り響く』の作品情報

(C)「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
森田和樹

【主題歌】
sachi.『美しい人生』

【キャスト】
笠松将、祷キララ、黒沢あすか、川瀬陽太、日高七海、上西雄大、大西信満、木下ほうか

【作品概要】
監督を務めた森田和樹は2015年にニューシネマワークショップに入学し一年映画を学び、在籍中の実習作品『春を殺して』が新人監督映画祭短編映画部門・準グランプリや函館港イルミナシオン映画祭・実行委員会特別賞等の多数映画祭に入選・受賞を果たしています。

2019年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭では、自主制作映画『されど青春の端くれ』がグランプリ&シネガ―アワード(批評家賞)をダブル受賞した新鋭監督です。
 
主演の笠松将、祷キララのほかにも実力者の面々が揃っています。主人公の母親役を務めたのは、『冷たい熱帯魚』で第33回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞し、『ヒミズ』(2011)や『渇き』(2014)などに出演している黒沢あすか。父親役は『菊とギロチン』(2018)や『羊の木』(2017)などに出演している川瀬陽が務めました。

さらに、『飢えたライオン』(2017)や『ステップ』など数々の映画に出演している日高七海や、『さよなら渓谷』(2013)や『MOTHER マザー』などに出演している大西信満。バラエティ番組「痛快TVスカッとジャパン」や映画『嘘八百 京町ロワイヤル』等で活躍する個性派俳優木下ほうからが脇を固めています。

映画『ファンファーレが鳴り響く』のあらすじ

(C)「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会

吃音症に悩む神戸明彦(笠松将)は高校でいじめに遭い、家では父親に厳しく責められる毎日を過ごしています。

脳内で神を殺す想像をするくらいしか憂さを晴らす術はなく、優しい母と叔父という理解者が居ながらも、鬱屈した高校生活を送っていた。

ある日、クラスメイトの七尾光莉(祷キララ)が野良猫をナイフで殺しているのを見てしまった明彦。

生き物を殺すことに喜びを感じている光莉に「いじめてくる奴らを殺したいと思わない?」と言われてから、しだいに光莉に惹かれていきます。

とあるハプニングから人を刺してしまった光莉と明彦はふたりで町から出て、都会へと逃避行することになりますがその道のりは血塗られたものでした。

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映画『ファンファーレが鳴り響く』の感想と評価

(C)「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会

理不尽で歪んだ世間に問いかける問題作

商業作品として初の長編映画ということで粗削りな部分はあるものの、熱量と勢いが感じられる作品でした。

特に前半に数か所ある、明彦の脳内の妄想シーンが印象的。

本作は青春スプラッター映画という触れ込みですが、ミュージカル要素や絶妙なシュールさが際立ち、この世界観とセンスを持ち合わせた森田監督の今後の作品への期待が自然と高まります。

森田監督は本作について以下のようにコメントしていました。

ニュースを見ては伝えたい事が出てきて、自身の欲をたくさん入れたのが今作です。
枠にハマる映画にはしたくない。好きだと感じた方々を面白おかしくする為だけな撮り方作り方はしたくない。
今の自分にできる精一杯の事を。

2年ほど前に大病にかかり、病が原因で仕事を断られた経緯があったそうで、監督自身の心の叫びや社会で乱発している理不尽な事件について現代に問題提起をする力強い作品だといえるでしょう。

笠松将×祷キララの存在感

(C)「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会
本作は主演の笠松将と、祷キララの圧巻の演技なしでは語ることはできません。

笠松将は吃音症で気弱なキャラクターを見事に演じ切っています。映画『カランコエの花』や『デイアンドナイト』『花と雨』など、どちらかというと強気なキャラクターのイメージがあり、身長182センチのスタイルの良さから快活さが漂う俳優ですが、気弱ないじめられっ子の役を難なくこなす姿はさすがの一言。

現在27歳での高校生役でしたが違和感はなく、もはや母性をくすぐる魅力すら感じられます。

そして、殺人欲求を持つ過激なキャラクターを演じた祷キララ。彼女の奥ゆかしさと狂気が爆発する演技には絶句。彼女特有の謎めいた空気を孕んだ演技には不思議と惹きつけられます。

本作をきっかけにこの2人のファンはさらに増えるのではないでしょうか。大注目のふたりです。

まとめ

(C)「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会

本作は、生きづらい世の中への警鐘と、それでもまっすぐ生きたいと願う若者を照らすような作品といえるのかもしれません。

映画『ファンファーレが鳴り響く』は2020年10月17日(土)より新宿K’s cinemaを皮切りに、横浜シネマジャック&ベティ(神奈川)、名古屋シネマスコーレ(愛知)、第七藝術劇場(大阪)などで全国順次ロードショーです。



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