最愛の父が残したメッセージを探しに、少年の冒険は始まった
今回ご紹介する映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロで、最愛の父を亡くした少年の喪失感を描いている、ジョナサン・サフラン・フォアの同名小説を、『リトル・ダンサー』(2000)、『めぐりあう時間たち』(2002)のスティーブン・ダルドリー監督が映画化しました。
11歳のオスカーが父のクローゼットで、偶然見つけた“鍵”をてがかりに、父が残したメッセージを探すため、ニューヨークの街へ飛び出します。しかしそれは、彼にとってたやすい決断ではありませんでした・・・。
アスペルガー症候群を抱えるオスカーにとって、父の存在がかけがえのないもので、その死を受け入れられないまま1年が過ぎていました。そんな彼を突き動かした“鍵”の存在が、彼にどんな発見をもたらすのでしょう。
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の作品情報
(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
【公開】
2012年(アメリカ映画)
【監督】
スティーヴン・ダルドリー
【原作】
ジョナサン・サフラン・フォア
【脚本】
エリック・ロス
【原題】
Extremely Loud and Incredibly Close
【キャスト】
トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン、マックス・フォン・シドー、ヴィオラ・デイヴィス、ジョン・グッドマン、ジェフリー・ライト、ゾーイ・コールドウェル
【作品概要】
オスカーの父親役は『フォレスト・ガンプ 一期一会』(1995)で、最優秀主演男優賞を受賞したトム・ハンクス。母親役には『しあわせの隠れ場所』(2010)で、最優秀主演女優賞を受賞したサンドラ・ブロックです。
2人のオスカー俳優が共演したことで、重い内容の試練を優しく、解きほぐしていきます。また、オスカーの出会う“間借りの老人”には、ホラー映画『エクソシスト』(1973)で、悪魔払いに挑むメリン神父を演じた、マックス・フォン・シドー。
オスカー役にはスティーブン・ダルドリー監督からオーディションに招かれ、3000人の候補者から選ばれた、トーマス・ホーンが演じますが、彼は演技の経験がほとんどないというなか、その天才的な熱演ぶりが注目を集めます。
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のあらすじとネタバレ
(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
死者の数よりも生きている人の数の方が多い、今生きている人が死んだら、埋める場所がなくなっていく。今、暮らしているビルの下に地下100階のお墓を作れば、解決するだろう。
少年が車窓から墓地をみつめ、空っぽの棺桶に疑問を抱きながら、葬儀の様子を眺め「あれじゃまるで葬式ごっこだ!」と、参列しようとしません。それは彼の父の葬儀でした。少年は父が話してくれた、ニューヨークの“6つ目の行政区”について考えています。
宝石店を営む父のトーマスは、人とかかわることが苦手な息子オスカーと、“調査探検”ごっこをして遊びながら、彼の“苦手”を克服する機会を練っていました。
ある日、トーマスはオスカーに新たな探検クエスト、幻の“6つ目の行政区”を提案し、オスカーに“セントラルパーク”の地図を渡します。
オスカーは何を探すのか訊ねると、トーマスは肩をすくめて“何のこと?”という仕草をします。トーマスは父のこの仕草が好きでした。
第6行政区の痕跡がセントラルパークにあると、オスカーは考え年代別の遺物を探し始めます。石であったり昆虫など・・・、トーマスは調査に必要な情報が得られるよう、オスカーの名刺を作ってくれます。
肩書はアマチュア昆虫学者、親仏家、アマチュア考古学者、平和主義者、発明家です。名前とメールアドレスを名刺に印刷しました。彼は必要な情報を持っていそうな人に、声をかける時にその名刺を渡します。
オスカーはホームレスが集めた古いモノを貰い受け、父に見せながら、“方向性”を確認します。この時もトーマスは“何のこと?”という仕草をしますが、彼に気づくように、赤丸をした新聞の記事をさりげなく置きます。
赤丸をした言葉は「探すの“が”やめない」でした。トーマスはオスカーに冗談のような“第6区”の話しをしますが、オスカーは真剣でした。祖母も巻き込みセントラルパークを調査します。
トーマスは父の宝石店に行き、店の中を物色します。そこにはトーマスの父親、オスカーから見ると、祖父が残したガラクタの類がありました。
トーマスの父は彼が物心つく前に家を出てしまい、なんの記憶も思い出もなく、ドイツのドレスデン生まれで、祖国でつらい体験をし家族を置いて、家を出たという事しか知りませんでした。
その晩トーマスは、“第6区”に関する新聞記事があったと話します。それは公園のブランコで、腰掛け板の裏から“一枚のメモ”が見つかり、そのメモは“第6区で書かれたものである”、というものでした。
オスカーはすかさずメモに書かれた内容を聞きますが、トーマスは書かれていないと言いながら、新聞を隠そうとします。父と子はふざけ合いながら就寝します。そして、それがオスカーとトーマスの最後の会話となりました。
翌日、オスカーはいつも通り学校に行きますが、詳しい説明もないまま生徒たちは早退させられます。
母は仕事で留守にしており、電話には6件の留守番メッセージが残されていました。それは父トーマスにただならぬ事態が起きている、そんな様子を伝えたものです。
その“ただならぬ事態”とは、同時多発テロに巻き込まれたトーマスの、安否を伝えているメッセージでしたが、最後のメッセージでは彼の命が奪われた瞬間を示すもので、オスカーにとって“最悪な日”となりました。
最大の理解者を亡くしたオスカーは、1年が経過したある日、6件8分間のメッセージを思い出しながら、このままでは父とのことが、自分の記憶から消えてしまうのでは?と焦りのようなものを感じはじめます。
そして、1年間ずっと入ることのできなかった、トーマスのクローゼットを物色しはじめ、上着のポケットから赤丸で囲った、「探すの“が”やめない」という言葉の載っていた、新聞の切り抜きを見つけます。
さらに物色を続けけいると、棚の上にあったおじいちゃんのカメラをみつけ、それを取ろうとしたとき、近くにあった青い花瓶を落とし、割ってしまいます。すると割れた花瓶から、鍵の入った小さな袋が飛び出します。
オスカーはその鍵には、何か秘密があるのではと考え、隣りのアパートに住む祖母に訊ねます。しかし、祖母は鍵の存在を知りません。
祖母の家には“最悪の日”から3週間後に来た、“間借り人”が住み始めています。祖母は故郷の古い知人としか教えてくれません。
オスカーはその鍵について調べるため、鍵屋を訪ねると金庫か何かの鍵だろうと教えてくれます。そして、その鍵が入っていた小封筒に“ブラック”と、書かれていると言われます。
オスカーはブラックという名の人物が、鍵の秘密に関わっていると考え、国勢調査の課題だと嘘をついて、コンセルジュから電話帳を借ります。
電話帳にはニューヨーク中に、ブラックという人物が472人も載っていました。オスカーは鍵の真相を探すことが、父との8分間を延長させられると考えていました。
そのためには全ての“ブラック”に会い、鍵穴を探すしかないと決め、“調査探検”の準備を始めます。
以下、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』ネタバレ・結末の記載がございます。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
電話帳を切り抜いいて、ニューヨークのブロック毎に分けていきます。そして、学校が休みの日になると、オスカーは調査探検に出発します。
オスカーにはもともと、苦手なものが多くありました。例えば公共交通機関やエレベーターなどです。パニックになったときには、“タンバリン”の音で落ち着かせます。
父親が亡くなった日から、更に苦手なものが増えました。工事のようなうるさい音、高層ビル、煙の出るもの、叫び声や泣き声、疾走するモノなどで、特に“橋”は、オスカーをパニックにさせました。
最初のブラックには会うためには、橋を渡らなければなりませんが、怖くて立ち往生すると、トーマスが生前、ブランコに乗れないオスカーに、「漕いでるうちに、物事の見方が変わる」と言って、やってみるよう促されたことを思い出します。
「何でもやってみることだ」と言った、父を思い出しながら、タンバリンを耳元で鳴らすと、心を落ち着かせながら橋を走り出します。
フォートグリーンにいる、アビー・ブラックを訪ねると女性が出てきますが、取り込み中で対応してくれません。オスカーは“喉が渇いている”と嘘をつき中に入れてもらいます。
アビー・ブラックは夫と上手くいっておらず、オスカーが一方的に話している間に家を出て行きます。
オスカーは9・11の日に父が“あのビル”にいたことを話し始めると、アビーは耳を貸し始めたので、鍵のことを訊ねます。ところが結局、アビーはトーマスのことを知りませんでした。
そして、オスカーは出会った“ブラック”さん達をおじいちゃんのカメラに収めていきます。
帰宅したオスカーはバスルームに立てこもり、アビーの写真を見ながら、何かの光景を思い出し、心配する母の声もストレスに感じ、気持ちが乱れていきます。
その晩、オスカーは自分の体を傷つけながら、留守番電話のメッセージを聞き、あの日のことを思い出していました。
祖母が心配して訪ねてきますが、オスカーはベッドの下に隠れています。しばらくすると母も帰宅し、トーマスから電話がなかったか、留守電にメッセージがないか聞きますが、オスカーはなかったと首を振ります。
母はトーマスに電話をかけ続けますが、つながることはありませんでした。
オスカーは留守電メッセージのことを母には話さず、だまって録音機を交換してしまいます。これで誰も“あれ”を聞かないで済むと、自分だけの物にして隠しました。
調査探検は続き、母は休みになると出かけるオスカーの行動を心配します。しかし、そんな気持ちも知らずに次々と“ブラック”を訪ね歩きました。
9・11で父を失った話しで、驚くほど人は親切にしてくれます、しかしオスカーの目的とは裏腹に、出会う人達にも物語があり、その話しに彼は耳を傾けていきました。
472人それを繰り返すと、調査には3年かかるとオスカーは計算します。また、いい人ばかりではなく意地悪な人、家自体がなくなっていることもありました。
行き詰まってきたオスカーは苛立ちから、寝ている母を起こし父の“死”と自分の運命と関連付けて口論になります。そして、ビルにいたのが母だったらよかったのにと、口走ってしまいます。
「自分でもそう思っている」と母が言うと、オスカーは我に返って「本心じゃなかった」と弁解します。母は「本心よ・・・」と、彼に言いますが、それには理由がありました。
母にもオスカーには話していないことがあったからです。あの日、ワールドトレードセンターの106階にいたトーマスと、電話で最後に会話をしていたことです。
母とオスカーの間に溝ができ、オスカーは祖母に助けを求めて、トランシーバーを手にしますが、出てくれず代わりに間借り人の部屋から、モールス信号のように灯りが点滅してるのを見ます。
オスカーが祖母の家に行くと、間借り人の老紳士が祖母は出かけているとメモを見せます。そして、間借り人は話すことができないとも伝えました。
オスカーは話せなくなった理由を“死ぬほど怖い体験”か聞くと、間借り人は左の手のひらに書いた“Yes”を見せます。そのあとも素性について質問を続けますが、右手に書いた“No”を見せるだけです。
イライラしたオスカーが何者なのか強く聞くと、「私の話しは、私のもの」とメモを見せて話しませんでした。
ところがそれを見たオスカーは、“もう限界だ”と心でつぶやくと、今まで表に出してこなかった、父の死の苦しみや悲しみから、1年間抜け出せないことや調査探検のことなどを話し始めます。
そして、鍵に合う鍵穴をみつけられたら、心の整理がつくだろうと言います。更にそれまでにあった人の人生と、自分のことを重ね合わせます。
トーマスの残した鍵の意味が分かれば、“生きていける”と思ったけれど、知らない場所は怖すぎて、自分が壊れてしまいそうで、父の恋しさが増すばかりだと訴えます。
その苦しさがきっかけで“悪い事”をしそうだと、体中に付けた傷跡を間借り人に見せます。間借り人はそこまで見ると、“疲れたもう寝る。会ったことは内緒で”と、書き見せます。
そして、ドアのすき間から“よかったら、一緒に探す?”とメモを渡すと、オスカーはできないと心で思いながら、口では行く日の約束を交わすのでした。
約束通り、間借り人は待ち合わせ場所に来てくれます。オスカーはいくつかの約束事を告げますが、その約束事もたやすく破られていきます。
例えば公共交通機関を使いたくなくても、老いた間借り人は効率的に動くため、オスカーを無視し、“恐怖に立ち向かうことも必要”とメモを貼って、地下鉄の改札へ向かいます。
間借り人はトーマスと同じような言葉遊びをしながら、オスカーと地下鉄で移動をしたおかげで、彼は地下鉄を克服することができました。
粗末な桟橋も怖くて渡れそうにありませんが、間借り人が“橋を渡ったら、私の話しをしよう”とメモを残し渡ると、それを追いながら渡り切ることができました。
間借り人は子供の頃、戦争で両親を目の前で亡くしたこと、戦争後に結婚し子供ができたが、親になるのが怖くなったことなど、オスカーに教えますが、“話したくないこともたくさんある”と、伝えます。
オスカーは間借り人に同じ傷みがあることを知り、このまま一緒に探検を続けてほしいと言います。すると彼はトーマスと同じように肩をすくめます。その仕草が似ていてオスカーも間借り人に懐いていきました。
(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
しかし、一ヶ月以上調査を続けても、一向に鍵に繋がる情報は得られず、オスカーは焦りと苛立ちで、自信を失いかけます。オスカーが「鍵は何かを開くか?」と聞くと、間借り人は“Yes”と答え、「鍵穴はみつかるか?」と聞くと“No”と答えます。
この時、オスカーは間借り人が自分の祖父だと確信します。歩き方、肩のすくめ方、祖父が間借り人の話題を避けることなどです。
オスカーは見せたいものがあると、祖父を自分の家に連れて帰ります。祖父は部屋に飾られたトーマスの写真を見つけると、気まずそうににみつめます。
自分の部屋に祖父を通すと、数枚の写真を見せます。それはネットで見つけたという、ワールドセンタービルから落下する人が写ったものでした。
オスカーはその中に父の姿を探していました。そして、あの留守番電話のメッセージを祖父に聞かせます。
オスカーはメッセージ時間と、その時自分がどこで何をしていたかトレースし始めます。祖父はいたたまれなくなり、何度か制止を試みますが、5回目まで2人で聞きます。
しかし、6回目のメッセージでオスカーの手が止まり、メッセージを聞くことができませんでした。
その晩、祖父と祖母が言い争っているところを見たオスカーは、祖母の家に向うと祖父は荷物をタクシーに載せていました。祖父は“君を助けたかったが、逆に傷つけてしまった”と答えて去ってしまいます。
祖父がいなくなり、再び「探すの“が”やめない」の記事をみつめていると、うっすら赤インクのにじみをみつけ、裏返すと“遺品セール”の掲載があり、電話番号を丸で囲っていました。
オスカーがその番号にかけてみると、それは一番最初に会った、アビー・ブラックの電話番号で、鍵の手がかりは元夫が知っていると言います。
鍵はアビーの元夫ウィリアムも探しており、2年前に亡くなったウィリアムの父が残した貸金庫の鍵です。偶然トーマスが遺品セールで手に入れた、青い花瓶に隠されていたのです。
ウィリアムはそのことを知らず、トーマスに譲渡してしまい、疎遠だった父からの手紙で知り、ずっとさがしていたのでした。
ウィリアムは申し訳なさそうに、一緒に貸金庫を開けてみようと提案します。オスカーはそれを断りますが、ウィリアムに誰にもしていない話しを聞いてほしいといいます。
あの日、留守番電話に入っていた6件目の電話が鳴った時、オスカーは事件のこともテレビで見て知っていました。
怖くなったオスカーは6回目にかかってきた電話が、父であると知りながら出ることができなかったのです。
トーマスは「いるのか?」と繰り返し、声の向こうからする悲鳴やヘリコプターの音を聞きながら、電話が切れるまで動けずにいたのです。
家に帰ったオスカーは、調査のために作った資料を破きながら泣き叫びます。母はそんなオスカーをなだ落ち着かせると、これまでのことをゆっくり話しはじめました。
母はオスカーの様子がおかしいと察知し、部屋の中を調べて切り抜かれた電話帳をみつけ、コンセルジュから借りたことを知ります。
そして、様々な資料から“ブラック”という名の人を探す計画だと知ると、母はその訪ねる予定の家を先回りし、事情を説明して歩きオスカーをフォローしていたのです。
落ち着きを取り戻したオスカーは、訪ねたブラック宅と祖父に手紙を書いて出します。祖父は祖母の元に戻り、再び暮らし始めます。
オスカーはふとトーマスが言っていた、ブランコから発見された、第6区のメモについて思い出し、かつて乗ることのできなかったブランコのところへ行きます。
トーマスが好きだと言っていたブランコの裏をみると、そこにはトーマスがオスカーに宛てたメモが隠されていました。
「第6区調査探検を制覇おめでとう、第6行政区の存在を証明できた、知恵と勇気を讃えている」と書かれていました。
オスカーはその父の愛を一心で受け止め、ブランコを漕ぎ始め克服することができます。第6行政区の調査探検は、ブランコの克服のためのトーマスの策でした。
オスカーは清々しい気持ちでブランコを高々と漕ぎ、その顔は自信に満ちあふれています。
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の感想と評価
(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
日本時間では深夜の衝撃でした。遅い時間に帰宅をして、ホッとしたい時間に何気なくテレビを付けると、ブラウン管に映し出されたのは、2棟並ぶ高層ビルの1つから、大量の煙が吹き出している光景・・・。
「なんの映画だ?」と思ったその瞬間、もう1棟の高層ビルに飛行機が突っ込んだ!目の前で展開されている映像の角には、“LIVE”と字幕が出ていて、今起きている事件であることを示していました。
アメリカは1日が動き出したばかりの時間。もし、あの日あの時間にあそこに行かなければ・・・、テロ攻撃による2,763人の犠牲者の家族は、突然大切な人を失い、やり場のない悲しみと怒りに苦しみました。
生きづらさを抱えた主人公にとって、良き理解者の父を失った喪失感は、悲しみや苦しみをうまくコントロールできなかったでしょう。上手くいかなくなると苦悩し、感情を爆発させてしまいました。
しかし、その姿は遺族の気持ちを、代弁しているようにも見ることができました。多くの人はどんなに辛く悲しくても、半ば強引に忘れようとし、立ち直ろうとするからです。しかし、オスカーは忘れることよりもよりも一層、強く父を感じたいと願いました。
日頃から父トーマスはオスカーの生きづらさを、少しでも取り除いてあげようと努力していて、そのことをオスカーもわかっていました。その親子の信頼関係があったからこそ、父亡き後も“調査探検”は再開できたのです。
そして、出会う人々の人生に触れながら、生きている間には辛く苦しいことがあることを学びます。
この作品はアスペルガー症候群を抱えた少年が、最愛の父の死を受入れ立ち直る物語ですが、人を傷つけるのは人で、傷を癒すのも人であり、身近な人との円滑なコミュニケーションが、いかに大切なのかを教えてくれました。
調査探検も母の影のサポートがあったからこそ、やり遂げられたのだと、最後に納得させられますが、アスペルガー症候群を抱えた人の行動や言動などが、作品を通して知り得ることができました。
トーマスと間借り人の親子関係では父の後悔、ウィリアム・ブラックの親子関係では息子の後悔、親子の不仲は珍しいものではありませんが、死んでしまっては分かり合うこともできません。
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』とは、うるさくてうっとうしくても、かけがえのない家族の存在を示しているようにも、考えることができるでしょう。
まとめ
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、9・11の被害者家族となった11歳の少年オスカーが、最愛の父の死を受け止めると同時に、挑戦することの“勇気”が生きる糧になるという、父のメッセージを受け取った物語でした。
日本人も9・11の映像を見て強いショックを受けたように、オスカー役のトーマス・ホーンは、東日本大震災の映像を見て、強いショックを受けたとインタビューで語っています。
その感受性がトーマス・ホーンの天才的な演技に、活かせたのであろうと思います。彼の演技は、傷ついた心の内は吐露し、共感しあう気持ちが人を癒すという、メッセージをしっかり伝えてくれました。