『ダイナマイト・ソウル・バンビ』は2022年9月10日(土)より新宿K’s cinemaにて1週間限定先行レイトショー!その後も全国順次公開予定!
2019年より世界各国の映画祭で上映され、映画ファンを唸らせて話題となった松本卓也監督作品『ダイナマイト・ソウル・バンビ』。
その後も追加撮影や編集を続け、遂に完成した劇場公開版が誕生し先行上映が決定しました。インディペンデント映画界で長らく注目を集めた話題作を紹介します。
CONTENTS
映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
松本卓也
【キャスト】
松本卓也、岡田貴寛、イグロヒデアキ、後藤龍馬、マチーデフ、島隆一、石上亮、工藤史子、志城璃磨、芝本智美、新井花菜、真千せとか、木村仁、三浦ぴえろ、俊平、伊藤元昭、山下ケイジ、森恵美
【作品概要】
低予算の新作商業長編映画制作の機会を得た、インディペンデント映画の若手監督が撮影現場で独りよがりに奮闘する姿を、斬新なアイデアで描く映画メイキング群像劇。
映像製作団体「シネマ健康会」代表の元お笑い芸人で『マイ・ツイート・メモリー』(2013)、『ミスムーンライト』(2017)を監督した松本卓也。
彼が自ら脚本を書き監督・主演を務め、2019年の第23回プチョン国際ファンタスティック映画祭ではワールドファンタスティック・ブルー部門に選出されるなど、世界の映画祭で話題となった作品です。
共演はオムニバス映画『おかざき恋愛四鏡』(2020)の1編『タイフーン・ガール』の岡田貴寛、同じく『おかざき恋愛四鏡』の1編『はちみつイズム』のイグロヒデアキ、『愛のくだらない』(2021)の後藤龍馬らが共演しました。
映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』のあらすじ
インディペンデント映画界で活躍する若手監督の山本(松本卓也)。アクションとバイオレンスに満ちた短編映画『猫と犬』が高く評価され、プロデューサーの天野(森恵美)の目に留まった彼は、低予算ながら新作長編映画を作るチャンスを得ました。
その作品のタイトルは『ダイナマイト・ソウル・バンビ』。山本は今まで映画を作ってきた仲間のスタッフ・俳優だけではなく、プロのスタッフや事務所に所属する俳優、映画の世界に憧れる若者といった、従来とは異なる人々と共に映画制作に挑みます。
今回の新作映画は自分にとって、長らく映画作りを共に続けてきた仲間にも飛躍のチャンス、と意気込む山本。その姿を天野プロデューサーは、山本の先輩格に当たる映画監督・谷崎(岡田貴寛)にメイキング映画として撮影させようと手配しました。
新作映画にかける意気込みが激しいのか、山本の俳優やスタッフに対する態度は実に厳しいものでした。現場には戸惑いの空気が漂いますが、山本と共にインディペンデント映画を作ってきた仲間たちが必死に監督をフォローします。
ところが山本の態度は改まらず、強引な撮影の進め方にプロのスタッフ・俳優たちは不審の念を募らせます。自主映画制作の世界しか知らないスタッフたちと、新たに加わった彼らの間の溝は深まりました。
そしてある山本の態度が、映画の制作現場の雰囲気を最悪にしました。彼はなおも強引に映画を撮り続けようと試みますが、長らく行動を共にした仲間にも見放され始めます。
その一部始終を目撃しカメラに収める谷崎。果たして映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』は完成するのでしょうか…。
映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』の感想と評価
2017年10月に撮影され2年近い編集期間を経て、2019年より様々な国の映画祭に招待され受賞した『ダイナマイト・ソウル・バンビ』。インディーズ映画ファンなら既にご存じの方も多いでしょう。
本作の題材は「映画制作の舞台裏」。映画を完成させるという目的のために集まった人々の、様々な思惑がぶつかりアクシデントが起きた結果、悲喜劇が起きる…映画ファンが愛して止まないジャンルです。
映画監督の意志はスタッフに理解されているのか、その監督は本当に確固たる演出プランを持っているのか。プロデューサー的な視野で映画作りに向き合う「製作」する者と、現場に立って「制作」する者の思いは一致しているのでしょうか。
映画に関わる多くの人々は、当然ながら同じ目的意識や熱量を持っている訳ではありません。それでも映画を愛する者は、どうして困難な「映画制作(製作)」に駆り立てられるのか…全ての映画製作者・映画ファンが自問するテーマかもしれません。
そんな人々の悲喜劇と様々な思惑が渦巻く撮影現場。できれば気楽なコメディ作品にして、ご都合主義でも良いからハッピーエンドで終わって欲しいもの…そんな見る者に心地良い「映画制作の舞台裏」映画が多数あるのはご存じでしょう。
では『ダイナマイト・ソウル・バンビ』は、映画ファンが好むこの題材に、どのように向き合ったのでしょうか。
映画の制作現場を知り尽くしている松本卓也
高校生時代からお笑い芸人として活動した本作の監督、松本卓也。その後独学で映画制作を学び、映像製作団体「シネマ健康会」代表に就任。2010年頃から様々な映画を発表し映画祭に積極的に出品、関係者から広く注目を集めている人物です。
長らくインディペンデント映画界で活動し、商業映画も手掛け俳優として他の監督の製作現場を体験した松本監督。映画制作の舞台裏を知りつくした彼が、自ら脚本を書き主演・監督し発表したのが『ダイナマイト・ソウル・バンビ』でした。
では劇中に登場する問題行動の多い若手監督・山本は、本作監督・松本卓也その人でしょうか?このキャラクターを松本監督は「(映画制作の世界で)見聞きしたものに想像を加え、自分の希望などを少し加えて創造した人物」だと説明しています。
好きで仲間と行っていた映画作りが、商業ベースの制作現場に変化し従来と異なるメンバーが参加する。新たなメンバーには彼らの自身の目的意識、職業人としてプロ意識が存在しており現場は今までのように動きません。
それでも出演者・スタッフたちを情熱…と呼ぶには強引な態度を見せる監督・山本。滑稽でもありますが明らかに矛盾した姿勢や、無責任な態度まで見せれると、映画を見ている観客も不安な気分に陥ります。
今まで山本と映画作りを共にした仲間は、新たに加わったスタッフに彼の振る舞いを弁護しますが、それがかえって新旧スタッフの軋轢を生みます。そんな中で山本は、あってはならぬ行為を行いました。
『ダイナマイト・ソウル・バンビ』のユニークな点は、これを劇中のメイキング監督・谷崎のカメラを通して紹介している事です。
さらに映画には、過去に山本が手がけた映画も引用の形で紹介されます。若手監督・山本の過去作、現在の撮影現場、メイキング監督・谷崎の映像…様々な映像がパラレルに組み合わされ、今まで無かった映画が誕生しました。
劇中の新旧俳優・スタッフからも、『ダイナマイト・ソウル・バンビ』を鑑賞していた観客からも見放される山本。繰り返し強調しますが彼は、本作の監督・松本卓也その人ではありません!果たしてこの映画は、どんな結末を迎えるのでしょうか。
時代を先取りしたテーマに正面から挑む作品
この作品をゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019の、コアファンタ部門の上映作品としてご覧になった方は、今回の劇場公開版を見るとあるシーンが消えた、と驚くかもしれません。
2017年に撮影された後の2019年3月、そして劇場版公開直前の2022年7月に追加撮影が行われた『ダイナマイト・ソウル・バンビ』。監督は完成以降も編集に手を加えながら、世界各国の映画祭に本作を出品しました。
2019年6月~7月に開催されたプチョン国際ファンタスティック映画祭で、上映時間は109分あった本作。しかし追加撮影が行われたにも関わらず、今回の劇場公開版は99分になっています。
これはより良い作品を提供するには、自作を「刈り込む」事を恐れぬ松本監督の姿勢の表れでしょう。映画制作現場の暗い面も、冷静かつ自虐的に捉えた姿勢が全編に漂っています。
映画ファンに待望された『ダイナマイト・ソウル・バンビ』も、時代の波に翻弄されました。コロナ禍は各地の映画祭、そして映画興行に大きな影響を与え、本作が早い時期に多くの観客の目に触れる機会を失った事も否定できません。
そしてこの期間に日本の映画制作現場の暗い面が報道され、多くの人が知る事になりました。もう『カメラを止めるな!』(2017)のように過酷な映画制作現場を、明るいコメディの題材として素直に楽しむのは、しばらくの間は困難かもしれません。
本作の制作・映画祭への出品時期を考えると、インディペンデント映画の監督が商業映画に初挑戦する姿を描いた『ダイナマイト・ソウル・バンビ』は、映画の制作現場が問題視される時代を先取りした作品と呼べます。
そして松本監督は、劇場公開される2022年9月という時期に相応しく本編に手を加えたはずです。果たして彼は、どんな「映画制作の舞台裏」映画を見せてくれるのでしょうか。
まとめ
インディーズ映画と商業映画。その狭間で誕生する映画の舞台裏の、悲喜こもごもの世界をユニークな視点で描く『ダイナマイト・ソウル・バンビ』は必見の力作です。
映画ファンでなくとも何かに打ち込んでいる、打ち込んだ経験のある方や、社会人として初めて働いた、現在あるいは過去に働いた経験のある方なら、皆がいずれかのシーンを我が事のように感じ、あるシーンには深く共感するでしょう。
劇中の若手監督・山本がトンデモない人物だとすれば、それを見つめるメイキング監督・谷崎はこの狂騒劇を俯瞰で眺められる人物なのか。この2人の関係にも予想を越えた展開がある、と紹介させて下さい。
ストーリーの展開や劇中に登場する映像、登場人物もパラレルに描いた本作、なるほど多くの映画祭で認められる作品です。
松本監督は自身や日本映画界の姿を、皮肉を込め描こうと取り組みました。ではこの映画は「映画制作の舞台裏」映画として、観客に厳しい結末を突き付けるのでしょうか。
『ダイナマイト・ソウル・バンビ』という映画は、なぜ自分は困難な「映画制作(製作)」に駆り立てられるのか、と自問した松本監督の解答です。
彼が本作で映画を愛する人たちに提示する「解答」に、多くの観客が納得し多少呆れつつも自分も同感だ。出来ればそうありたい、と共感を覚えるでしょう。どうぞこの映画の結末を目撃して下さい。
『ダイナマイト・ソウル・バンビ』は2022年9月10日(土)より新宿K’s cinemaにて1週間限定先行レイトショー!その後も全国順次公開予定!
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増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)