映画『ドント・ウォーリー』は2019年5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町・ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
世界一有名な風刺漫画家ジョン・キャラハンの数奇な人生を映画化。
名匠ガス・ヴァン・サントが亡き盟友の遺志を継いで作り上げた、しみじみ心に迫るヒューマンドラマです。
笑いと人生への希望をくれる秀作です。
映画『ドント・ウォーリー』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原作】
ジョン・キャラハン
【原題】
Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot
【監督・脚本・編集】
ガス・ヴァン・サント
【音楽】
ダニー・エルフマン
【キャスト】
ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック、マーク・ウェバー、ウド・キア、キャリー・ブラウンスタイン、ベス・ディット、キム・ゴードン
【作品概要】
著名な半身不随の風刺漫画家ジョン・キャラハンの自伝『Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot』の映画化。
監督は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)『ミルク』(2009)などのガス・ヴァン・サント。
主演は『誘う女』(1995)以来、ガス・ヴァン・サントと2度目のタッグとなるホアキン・フェニックス。
彼は車椅子の使い方をマスターし、ジョンの喋り方も細かく真似て、人を食ったような風刺漫画家の人物像を見事に再現しています。
その他、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック、ウド・キアなど実力派のキャストが脇を固めます。
映画『ドント・ウォーリー』のあらすじとネタバレ
車椅子に座った風刺漫画家ジョン・キャラハンは、講演会や禁酒セラピーの集会で自分が半身不随になった理由を語っています。
ジョンが最後に自分の足で歩いたその日。
酒場で飲んでいて出会ったデクスターという男と意気投合したジョンは、2人でいろんな酒場やストリップバーを梯子します。
そして泥酔していたにも関わらず車で移動してしまっていた彼らは電柱に衝突。
目を覚ましたジョンは、固定ベッドの上で動けなくなっていました。
医者は無情にも「おそらく一生麻痺が残るだろう」と宣告。おまけに事故時に運転をしていたデクスターは軽傷で済んだ上に、もう帰ってしまったと言います。
ジョンはそんな状況すべてを呪いました。現状を脱せられるなら悪魔にも魂を売っただろうと彼は振り返ります。
今後への不安に苛まれるジョン。
そんな時に現れたのがセラピストの美女、アヌーでした。
彼女はジョンに寄り添い、リハビリセンターにやって来てジョンに希望を与えてくれました。
彼はかつてのようなユーモアを取り戻し、電動車椅子に乗り日常生活に戻っていきます。
そしてカリフォルニアからポートランドの安アパートに移った彼は、やる気のない介助人マイクに身の回りのすべての世話をしてもらう生活をスタート。
ジョンはあまりに不自由な自分の状態にいらだちを隠せず、また酒に溺れていってしまいます。
彼は、かつて産んだばかりの自分を捨てた母親を以前から憎んでおり、彼女を探し続けていました。
ある夜、母への思い、そして自業自得でこうなってしまった自分の現状の情けなさでジョンが号泣していると、背後になにかの存在を感じます。
そこには母親の幻影がおり、彼に微笑みかけていました。
それをきっかけにジョンは生まれ変わろうと、禁酒セラピーの集会に参加し始めます。
主催者のドニーは、自身もかつてアルコール依存から立ち直った、穏やかでウィットに富んだ人物でした。
ジョンは初めて参加した会で自分の憐れさを語りますが、別の参加者からそれを笑われて怒ります。
ドニーはジョンに、辛いのはみんな一緒だし君は歓迎されているんだと諭しました。ジョンはだんだんとこの場が気に入っていきます。
そして彼は、思うように動かない手と口を使って漫画を書き始めます。
上手い絵ではありませんでしたが、彼の毒のあるユーモアが盛り込まれた味わい深い一コマ漫画でした。
ジョンは漫画が書き上がると車椅子で街中を駆け回り、みんなに見せていきます。彼の漫画は評判でした。
いよいよ意欲を見せ始めた彼は美大にも通い始めました。
そんな中、彼は偶然キャビンアテンダントに転職していたアヌーと再会。彼女に漫画を見せて意気投合し、頻繁に会うようになります。
2人は恋人になりました。
映画『ドント・ウォーリー』の感想と評価
2010年に59歳でなくなった風刺漫画家ジョン・キャラハン。
彼が漫画家デビューしたのは半身不随になった後。その驚異のキャリアの映画化を、90年代から切望していたコメディスターがいました。
それは、2014年に自死してしまった名優ロビン・ウィリアムズです。
彼はキャラハンの人生に感動しただけでなく、90年代半ばに落馬事故で車椅子生活を余儀なくされていた盟友クリストファー・リーヴを勇気づけるために、この企画を進行させていたといいます。
しかし完成前の2004年にクリストファー・リーヴは死去。
ロビン・ウィリアムズも2014年に鬱により自ら命を絶ってしまいました。
そしてその企画を引き継いだのは『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)でもロビンと仕事をしていたガス・ヴァン・サント。
これまでも、カート・コバーンが自死するまでの日々を描いた『ラストデイズ』(2006)や、ゲイの権利拡大のために戦って殺されてしまった政治家の伝記映画『ミルク』(2009)など、数奇な運命をたどった実在の人物を描いてきた彼の作家性は、本作にぴったりでした。
半身不随の人物が主人公ながら、必要以上に悲壮感を出さず、独特のユーモアと乾いたタッチで小気味よく物語は進んでいきます。
本作は構成が独特で、時系列をかなり弄っています。
冒頭に既に車椅子の生活に慣れ、漫画が人気になり、講演会を開くほどになっているジョンの姿が映されるため、事故で不随になったジョンを見ても、悲壮感はありながらそこまで重苦しくは感じさせません。
事故の場面も決定的な瞬間を映さず、起きてしまったことを諦観しつつ描いており、ユーモアすら漂っています。
しかし本作は、人生のやりきれなさもしっかりと描きだしました。
ジョンが母親を捜すのを諦めるシーンは、彼の成長を表しながらも切ないですし、事故を起こした側のデクスターの人生も劇中で描かれていない分、様々な想像が膨らみます。
そしてジョナ・ヒルが味わい深く演じるドニーが終盤で「失いたくない人を失うんだ」と過去を語る場面も印象深いです。
ちなみにガス・ヴァン・サントは、本作主演のホアキン・フェニックスの兄で、若くして亡くなったリバー・フェニックスと『マイ・プライベート・アイダホ』(1991)でタッグを組んでいます。
2014年に亡くなったロビン・ウィリアムズや、本作を見ずに病死したジョン・キャラハンも含め、この「失いたくない人を失う」という言葉には監督の思いも入っているのかもしれません。
まとめ
本作の原題は『Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot』。これは劇中で、ジョンが車椅子の自分をネタにした漫画に書かれていたセリフです。
転がっている無人の車椅子を見ても「あいつは足では遠くに行けないから大丈夫だろう」とのんきに語る保安官の絵。
かなりブラックですが、彼の漫画は大方こう言ったテイストの作風です。彼の漫画は多くの人びとを笑わせつつ、一部の人を怒らせるものでした。
自業自得で半身不随になった自分も、その他の世の中の滑稽な人々やおかしなこともひっくるめて描くジョン・キャラハン。
ジョンは人間すべてを平等に笑い飛ばします。
アル中の自分も、車椅子の自分も、その他の普通に見える人々もみんな「どこか可笑しい」というのが彼の考え方。
そして、どうせおかしいんだからどんなことが起きてもクヨクヨ心配するなよというメッセージも与えてくれます。
『ドント・ウォーリー』というタイトルには、そんな前向きな優しさが詰まっているのではないでしょうか。