“未来の車”を作ろうとした男の波乱万丈な半生。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で一世風靡したタイムマシンのベースカーは、如何にして誕生したのか?
伝説の名車デロリアン(DMC-12)の開発者の半生を描いた映画『ジョン・デロリアン』が、2019年12月7日(土)より新宿武蔵野館ほかで全国ロードショーされます。
CONTENTS
映画『ジョン・デロリアン』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Driven
【監督】
ニック・ハム
【キャスト】
ジェイソン・サダイキス、リー・ペイス、ジュディ・グリア、コリー・ストール、イザベル・アレイザ、マイケル・カドリッツ、エリン・モリアーティ
【作品概要】
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」トリロジー(1985~90)に登場するタイムマシンのベースとして使用され、一躍その名が知れた車・デロリアン(DMC-12)の開発者である、ジョン・デロリアンの波乱に満ちた半生を描きます。
ジョンを演じるのは、「ホビット」トリロジー(2012~14)や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)などに出演するリー・ペイス。
ジョンと奇妙な友情で結ばれるジム・ホフマン役を、『モンスター上司』(2011)、『なんちゃって家族』(2013)のジェイソン・サダイキスが演じます。
そのほか、『トゥモローランド』(2015)、『15時17分、パリ行き』(2018)のジュディ・グリア、『ファースト・マン』(2019)のコリー・ストールといったキャストが脇を固めます。
監督は、カルト的評価を得たサスペンス『穴』(2001)で知られるニック・ハムです。
映画『ジョン・デロリアン』のあらすじとネタバレ
1982年のアメリカで、とある裁判の証人として法廷に向かう一人の男がいました。
その男ジム・ホフマンは、弁護側の質問をジョークで切り返し、法廷内に笑いを起こします。
時はさかのぼり、1977年の南カリフォルニア。
パイロットのホフマンは、自身が操縦する飛行機に妻エレンや子どもたちを乗せて着陸した直後、FBIのベネディクトに包囲されます。
ホフマンは密かに麻薬ディーラーのモーガンの運び屋をしており、機内に大量のコカインを積んでいたのです。
かねてから大物を摘発して手柄を上げようと目論んでいたベネディクトは、ホフマンに情報提供者となるよう強要し、断ると刑務所行きにすると脅します。
やむなくそれを受け入れたホフマンは、サンディエゴ郊外の邸宅を与えられて引っ越すことに。
その隣に建つ豪邸の主が、自分が乗る車「ポンテアックGTO」の開発者であるジョン・デロリアン本人と知り、驚くホフマン。
ゼネラルモーターズ(GM)を退職し、「デロリアン・モーター・カンパニー」を立ち上げたばかりのジョンは、翼のように真上に開くガルウィングのドアを持つ車のデザイン画を描き、「これこそ未来の車だ」とホフマンに説明するのでした。
隣人ということで親しくなったホフマンは、ジョンが開いたパーティーに招かれます。
その席で、デロリアン(DMC-12)のデザイン画を披露したジョンは、幼少時から車好きだったことや、父親がバラバラにした車の部品を、一人で元通りに組み立てたなどの思い出を語るのでした。
そんな中ホフマンは、ベネディクトの命令で体に盗聴器を仕掛け、モーガンの元へ。
しかし気弱になったホフマンは盗聴器をすぐ外してしまい、モーガンにFBIから圧力をかけられていることをバラしたばかりか、彼のご機嫌を取るべく、ジョンが近々開くであろうパーティーに勝手に招待するのでした。
ホフマンの予想通り、豊富な人材や工場を北アイルランドに確保してデロリアン生産を進めていたジョンは、再びパーディーを開催。
テレビ番組の有名ホストのジョニー・カーソンに広告塔目的でデロリアンをプレゼントしていたジョンは、その場で彼の感想をスピーカーフォンで室内全体で聴かせるも、返ってきたのは「故障の多い欠陥車」という辛辣な内容でした。
恥をかかされたと激怒するジョンがスタッフたちと裏で口論する最中、パーティーに来たモーガン夫妻がコカインを吸って大騒ぎとなる事態に。
必死に彼らを止めるホフマンを密かに上階から見下ろすジョンは後日、デロリアンの売れ行きが悪いために、会社再建で3000万ドルもの資金が必要だと告白。
そして、「君の人脈で誰か紹介して欲しい」と頼むのでした。
後日ホフマンは、「ジョンから3000万ドルの麻薬取引を頼まれた」とベネディクトに伝え、モーガンとまとめて逮捕させる代わりに、自身の前科の帳消しとモーガンが稼いだ金の10%を要求します。
ある日の朝、ホフマンとジョンはポンテアックに乗ってサンディエゴを出ます。
2人を待っていたのは、金融業者に扮したベネディクトでした。
ホフマンの仲介で現れたモーガンは、ホフマンを「一番信用できない奴」と言いながらも、ジョンとの麻薬取引に応じます。
数日後、コカインに用立てる金が無いとのジョンの電話を受け、ホフマンはベネディクトに彼に金を貸すよう要求。
FBIが麻薬取引に金を出すのかと呆れるベネディクトでしたが、仕方なくそれを呑むことに。
夜、大量のコカインを車に積んでホフマンの前に現れたモーガン夫妻は、待ち構えたFBIに捕らえられます。
だまされたモーガンは、ありとあらゆる罵声をホフマンに浴びせるのでした。
映画『ジョン・デロリアン』の感想と評価
アメリカンドリームを体現できなかった男
「デロリアン」という車名を知らなくても、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムマシンのベースとなった車と聞けば、多くの人がその姿を思い出せるでしょう。
その車、デロリアン(DMC-12)を作ったのが、本作のタイトルロールでもある人物のジョン・デロリアンです。
自身が理想とする車作りを目指す男の実話を描いた映画といえば他に、フランシス・F・コッポラ監督の『タッカー』(1988)がありますが、本作のジョンもまた、大いなる野望とカリスマ性を発揮してデロリアンを作りました。
ただ、ジョンが『タッカー』の主人公プレストン・タッカーと違うのは、そうした彼が持つ野望やカリスマ性に“もろさ”がある点です。
異常なほどプライドが高くて負けず嫌いな性格は、一方で彼の人間的なもろさを感じさせます。
また、ジョンは「アメリカでは男は仕事で判断される」、「夢の車こそ成功したアメリカ人が憧れる車だ」と、己を鼓舞する言葉をやたらと発します。
ジョンがデロリアン製造に着手する1970年代後半から1980年代前半といえば、レーガン政権が掲げたスローガン「強いアメリカ」が吹き荒れた時代。
本作は、理想の車を作ることで自らも「強いアメリカ」の象徴になろうとするも、あと一歩のところで転落してしまった男の悲劇でもあります。
一番の策士は誰なのか
タイトルこそ「ジョン・デロリアン」という人物の名を冠した本作ですが、真の主役は隣人のジム・ホフマンです。
実在のホフマンは、証人保護プログラムにより現在も行方が分からない状態となっているため、本作では小心でお調子者の、“信用できない語り手”として描いています。
最初こそ華やかな生活を送るジョンに憧れるも、いつしかそれが嫉妬と憎悪に変わり、ついには自身の欲のために彼を罠にはめる――という字面だけ見れば、ホフマンは身勝手な悪者です。
しかし本作では、だまされた側のジョンが完全な被害者とは言えない描写にしているのがポイント。
裁判では、ホフマンとFBIの誘導によりジョンが麻薬取引をしたのか、もしくはジョンの方からホフマンに麻薬取引を持ちかけたのかが争点となりますが、劇中ではあえてその真相をあやふやにしています。
ラストでの2人の再会からも、「ひょっとすると2人は最初から…」と思わせますし、ジョンが時おり見せる微笑みも、どこか不気味さを感じずにはいられません。
傍目こそ両極端なホフマンとジョンの、奇妙にして複雑な友情関係にも注目です。
まとめ
これまで述べてきたように、いくつかの謎を含んだ本作ですが、ジョンの車作りへの情熱自体は、疑いようのない事実でしょう。
そしてもう一つの事実は、その車が故障続出のトラブルを抱えていたということ。
その皮肉が利いたラストに、思わずニヤリとさせられることでしょう。
映画『ジョン・デロリアン』は、2019年12月7日(土)より新宿武蔵野館ほかで全国ロードショー。