小さな村に起きた、奇跡の愛の物語!
『ギルバート・グレイプ』(1993)、『僕のワンダフル・ライフ』(2017)の名匠ラッセ・ハルストレム監督が描く、ファンタジックな映画『ショコラ』。
幸せを呼ぶ不思議なチョコレートを売る母娘と、母娘が来訪した村の人々との心の交流が温かく描かれます。
『イングリッシュ・ペイシェント』(1997)のフランスの名女優ジュリエット・ビノシュが主演を務め、『ギルバート・グレイプ』(1993)でハルストレム監督と組んだジョニー・デップが出演。また娘役を『ポネット』(1997)で注目された子役のビクトワール・ディビゾルが演じます。
人間愛に満ち溢れた作品を生み出す“魔術師”であるハルストレム監督ならではの、味わい深く美しい物語です。
映画『ショコラ』の作品情報
【公開】
2000年(アメリカ映画)
【原作】
ジョアン・ハリス
【監督】
ラッセ・ハルストレム
【脚本】
ロバート・ネルソン・ジェイコブス
【編集】
アンドリュー・モンドシェイン
【キャスト】
ジュリエット・ビノシュ、ジョニー・デップ、ジュディ・デンチ、アルフレッド・モリーナ、レナ・オリン、キャリー=アン・モス、ジョン・ウッド
【作品概要】
ジョアン・ハリスの同名小説を、『ギルバート・グレイプ』(1993)、『僕のワンダフル・ライフ』(2017)の名匠ラッセ・ハルストレム監督が映画化。フランスの片田舎で小さなチョコレート店を開いた女性が、閉鎖的な村を少しずつ変えていく様を描くファンタジックな物語です。
主人公のヴィアンヌを演じるのは『イングリッシュ・ペイシェント』(1997)のフランスの名女優ジュリエット・ビノシュ。
ヒロインと恋に落ちるルーを、『ギルバート・グレイプ』(1993)でハルストレム監督と組んだジョニー・デップが演じます。
ヴィアンヌの娘を演じるのは、『ポネット』(1997)で注目された天才子役のビクトワール・ディビゾル。さらに「007」シリーズの「M」役で知られる名優ジュディ・デンチ、ハルストレム監督の妻で『存在の耐えられない軽さ』(1988)でビノシュと共演したレナ・オリンなど、実力派が個性あふれる村人を演じます。
映画『ショコラ』のあらすじとネタバレ
伝統を重んじる古くからのしきたりに縛られたフランスの小さな村に、冷たい北風とともにこの土地にやって来たヴィアンヌとその娘アヌーク。ふたりは孤独な老女アルマンドを訪ねて店舗を借ります。
掃除をしていた彼らのもとに村長のレノ伯爵が現れて日曜のミサに招きますが、ヴィアンヌは断ります。彼女に結婚歴がないことを知って驚く伯爵。
すぐに噂は広まり、人々の注目を集める中、ヴィアンヌは小さなチョコレート店を開きました。
店の前を通りかかったアルマンドの娘・カロリーヌと息子のリュックをヴィアンヌは招き入れ、ホットチョコをふるまいますが、カロリーヌは断食期を理由に断ります。
客に合うチョコをチョイスするヴィアンヌ。試食した女性客に、ヴィアンヌはご主人の情熱を呼び覚ますからといってグアテマラのカカオをおまけに渡します。
帰宅した女性は余計なお世話だといって捨ててしまいましたが、酔っぱらった夫がみつけて食べたことでふたりの愛の情熱がよみがえりました。
ある日、気狂いだといわれているジョゼフィーヌが来て、チョコを万引きします。知らずにヴィアンヌはひと箱プレゼントしようとしますが、受け取らずにそのまま彼女は出ていきました。
犬を連れた老人のギヨームに、友人のオデルへの贈り物にとヴィアンヌはチョコを進めますが、オデルは1917年に夫を亡くして以来喪中だからと言って彼は断ります。
断食期にチョコレート屋を開いた未婚の母であるヴィアンヌをレノ伯爵は敵視し、町中に悪口を言いふらしてまわります。
映画『ショコラ』の感想と評価
宝石のようなチョコレートの魔法
豊かな自然の中で人間の愛を映し出す“魔術師”ラッセ・ハルストレム監督が描き出す、とびきり素敵な物語『ショコラ』。ひとりひとりの人生に寄り添う、温かなドラマが丁寧に紡がれます。
素晴らしく美しい小さな村で流れていく愛おしい時間。風景、人々の表情、美しいチョコレート。そして、流れ着いた男と女。
「北風」とともに訪れた、魔法使いのような「赤いマント」を着たヴィアンヌとアヌークの母子は、この小さな村にたどり着きました。ファンタジーの主人公のような姿です。
その村では、根は善良ながらも、堅苦しい慣習にがんじがらめになっている人たちが肩を寄せ合うようにして暮らしていました。彼らはよそ者には冷たく接し、自分たちの小さなコミュニティを必死で守ろうとします。
そんな村で彼女が開いたのは、素晴らしくおいしいチョコレートのお店でした。まさに童話『北風と太陽』に出てくる太陽かのように、彼女のとびきり美味なチョコレートはかたくなだった人々の心の鎧を脱がせ、温かく溶かしていきます。
チョコレートの持つ魔力は、映画を観ている私たちも皆よく知っています。たった一粒に詰まった、ウットリとするおいしさ。さまざまなチョコレートに出会えるバレンタインの時期を、自分のために楽しみに待っている方もきっと多いことでしょう。
禁欲的に生きていた村人たちは、たちまちチョコレートの虜に。しかも、ヴィアンヌは本当の魔法使いかのように、それぞれにぴったりなチョコを選んで贈り、彼らの心の内に眠っていた、何より人生には不可欠な愛と情熱を呼び覚ますのです。
村の人たちの心がやさしくほどけていく中で、最後までヴィアンヌを受け入れようとしなかった村長のレノが、ナイフを握りしめて店に忍び込む場面は古典サスペンスを思わせるようなスリル感があります。
しかし、口にとんできたチョコをなめた途端、たちまち我を忘れてむさぼって食べてしまうレノ。本作で一番コミカルなタッチによって描かれる、単純明快で素敵な解決の場面です。
その姿を見てしまったら、誰もがさすがに彼を許さずにはいられません。チョコを受け入れてくれたレノを、ヴィアンヌもまた受け入れるのでした。
大人だって恋をする
村に娘を連れて流れ着いたヴィアンヌは、同じく“流れ者”であるジプシーのルーと出会います。
ルーを演じているのがなにしろジョニー・デップですから、ヒロインが恋に落ちないはずがありません。この上なく魅力的な男性として描かれています。
どこに行ってもつまはじきにされながらも、“自由”を選んで生きてきた彼は、同じように旅をせずにはいられないヴィアンヌに共鳴し、心惹かれていきます。
ふたりがパーティーで踊る場面は、大人の恋がはじまる瞬間の濃密な空気感に満たされています。身を寄せ合って揺れるふたりの心と体の距離が近づいていくさまに、ときめきが止まりません。
娘が流浪の生活を嫌がっていることを告白して涙するヴィアンヌ。自由を何より重んじて生きてきたルーにだけは、自分の思いを理解してもらえると信じられたからこそ吐き出せたのでしょう。
その後、一度はヴィアンヌのもとを去ったルーでしたが、やがて「南風」とともに戻ってきます。彼の好みのチョコレートがホットチョコであることがとうとう判明。最高のチョコレートの魔法にかかったルーは、もう彼女のそばを離れないに違いありません。
この小さな村では、大勢の大人たちが恋をしています。
堅物すぎて妻に逃げられてしまったレノ村長と、未亡人・カロリーヌの恋。そして、老人ギヨームと、1917年に戦死した夫の喪に服し続けてきた老嬢オデルの恋。若いアンリ神父はあからさまに「その歳で!」と驚きますが、「年を重ねてこその恋もあるのですよ」と諭したくなります。
どの恋も、あまりにも純粋すぎて胸が締め付けられるほどです。痛みを知った大人たちの恋ほどピュアで繊細なものはないのかもしれません。
そして本作は、“自分の人生を愛し楽しむこと”を何より大切にする糖尿病持ちのアルマンドと、自分の人生を取り戻すために勇気を出したジョゼフィーヌらの、“本来の自己への愛”にも心揺さぶられる作品でもあるのです。
まとめ
頑なだった人々の心に息づく溢れんばかりの愛を解き放った、とびきりおいしい素敵なチョコレートの魔法を描く作品『ショコラ』。
誰もが心の中に悲しみや寂しさ、悩みを抱いて毎日を過ごしていることでしょう。そんな苦しみをほどいてくれるのは、一粒のチョコレートであったり、やさしくかけてもらえるひと言であったりするのかもしれません。
そのことを、ジュリエット・ビノシュ演じるさすらいのチョコレート職人のヴィアンヌがやさしく教えてくれます。
日々に疲れたと感じたら、おいしいチョコレートをひとかけ、口に入れてみませんか?きっと、素敵な魔法をかけてもらえるかもしれません。