映画『Away』は2020年12月11日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
アヌシー国際アニメーション映画祭、ストラスブール・ヨーロッパ・ファンタスティック映画祭、インターナショナル・アニメーション・コンペティション部門、・アニメスト、新千歳空港国際アニメーション映画祭など世界の名だたるアニメーション映画祭で絶大な評価を受けた革新的アニメーション作品『Away』。
飛行機事故に遭遇し、たった一人生き延びた少年が、森で見つけた地図を頼りにオートバイで島を駆け抜け目的地にたどり着くという物語を、シンプルながら想像力豊かに描きます。
本作をたった一人で手掛けたギンツ・ジルバロディス監督は、ヨーロッパのラトビア出身。8歳からアニメーションを作り始めた当時25歳の青年が、休むことなく3年半の歳月をかけて全てを作り上げた渾身の作品です。
映画『Away』の作品情報
【日本公開】
2020年(ラトビア映画)
【英題】
AWAY
【製作・監督・編集・音楽】
ギンツ・ジルバロディス
【作品概要】
台詞を一切介せず、飛行機事故により未知の島に不時着した少年がオートバイで島を駆け巡る冒険の旅を描いたアニメーション作品で、ラトビアのクリエイター、ギンツ・ジルバロディスが製作・監督・編集など、全てを手掛けて約3年半の月日を経て完成させました。
第43回アヌシー国際アニメーション映画祭でコントルシャン賞に輝くなど、世界各地の映画祭で高い評価を得ています。
映画『Away』のあらすじ
飛行機事故に遭い、ただ一人脱出に成功、生き残った一人の少年。気が付くと彼は一本の木にパラシュートが引っかかりぶら下がった状態でした。
外に目をやると、そこには巨大な謎の黒い影が。少年は慌ててその影から荒野を越え、森の中に逃げます。
森の美しさに見とれていた彼は、ふと一つのリュックサックを発見、その中に見つけた地図から島の端に港があることを知ります。
そして荒野に近い場所に合ったバイクを見つけた彼は、その漂流生活の間に出会った飛べない小鳥と共に港を目指す決意をしました。
度々遭遇する黒い影から逃れ、様々な動物と出会いながら、少年は希望を求めてバイクを走らせますが…。
映画『Away』の感想と評価
故意による“不自然と不完全”という魅力
シンプルなデッサンで構成されたアニメーション作品であり、鑑賞しているとどこか違和感を感じさせるアニメーションです。それはキャラクターの動きを細かく見ていくと、近年の3Dアニメーション技術には一歩及ばない、どこかぎこちない雰囲気があります。
また、多くの鳥や猫といった複数の動物が登場する場面がありますが、その集団性を表す不規則性が足らず、どうしても一部に配列の規則性が見えてしまったりと、映像の完成度に今一歩及んでいない感じが見受けられます。
ところがこういったそれぞれのシーンを、映像ではまるで手持ちのカメラで覗いているようなアングルで映し出します。アニメーションなのに、何か現実を見ているような雰囲気があるのです。
この現実感、非現実感のギャップが、アニメーションの不完全性を逆に物語の枠へと、意図的に引き込んでいるかのようです。
例えば、果たして現実の一場面を描いているのか、あるいは何か現実ではない無意識の中にあるような世界なのか。そういった世界観を巧みにあいまいな形として見せているようでもあります。
こういった作りを監督自身が意図的に狙ったかどうかは定かではありませんが、不自然さを意図して作り上げているようにも感じられ、リアリティを追究する近年のアニメーション傾向とは一線を画した、斬新な手法と見ることもできるでしょう。
塗り絵のように自分なりの物語を楽しむ
物語の主人公には、どこにもバックグラウンドが描かれません。パラシュートで降りてきた一人の青年が、道端で見つけたある手掛かりをもとに旅に出る。また主人公の描き方としても顔には目しかない、表情の全く分からない描き方をしており、台詞すらない。容易に彼の身上を推し量ることはできません。
さらに、要所で使われている音楽の使い方も独特で、非常に緊張感を煽る音使いは時にあれど、そこに例えばキーがメジャーなのかマイナーなのか、つまりは悲観的な場所なのかそうではないのかといった、音楽を手掛かりとした状況、心理の読み取りをも困難にしています。
それは逆に主人公の実態を無くして、見る人の誰もが彼に感情移入できる、「この場面で私だったらこう思うだろう」「こう感じるだろう」という感覚を自発的に生み出すような仕掛けすら感じられるものです。
映像を見るだけであればそのシンプルさのインパクトに終始してしまう作品でありますが、例えば塗り絵のように、人々それぞれの境遇を色として当てはめて、自身の様々な人生に思いをはせる、そんな楽しみ方ができるイマジネーション性の高い作品であります。
また、この物語には様々な動物と、巨大な謎の黒い影というアクセントがあり、様々な解釈ができる象徴的なものとして現れ、非常に見る人自身の人生に『Away』と名付けられたタイトルから、様々なイマジネーションを与えてくれる作品といえるでしょう。
まとめ
本作を制作したギンツ・ジルバロディス監督は、本作のインスピレーションを得た作品に、『未来少年コナン』『キートンの大列車追跡』『ワンダと巨像』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『モーターサイクル・ダイアリーズ』などの映画作品やゲームなどの影響があると語っています。
特にオープニングの孤島のたたずまいは、『未来少年コナン』に登場した「のこされ島」の美しくも少し寂しげなたたずまいの影響を感じるところであります。
また主人公が荒野をオートバイで駆け抜ける姿は、『モーターサイクル・ダイアリーズ』のエルネスト・チェ・ゲバラ・デ・ラ・セルナの姿そのものでもあり、少年に付きまとう黒い影は、何か宮崎駿アニメーションに登場する象徴的なキャラクターをも彷彿させます。
場面一つ一つになるほど言われればという箇所も見られながらも、この作品が独自のカラーを発しているのは、そういった作品から得たインスピレーションが単なる画のインパクトではなく、それぞれの作品の物語が持つテーマにインスパイアされた部分を、本作で綺麗に統合し表しているからにほかなりません。
斬新な作風が見られる一方で、「映画である」「映像による物語である」ということをしっかりとフォローできた詩的な作品といえるでしょう。
映画『Away』は2020年12月11日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショーされます!