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Entry 2019/10/05
Update

映画『キューブリックに愛された男』感想とレビュー評価。逸話を数多く持つ巨匠から愛された“映画を知らない男”

  • Writer :
  • 増田健

映画『キューブリックに愛された男』は2019年11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで、『キューブリックに魅せられた男』と全国カップリング上映!

没後20年、今なお伝説の巨匠として語り継がれる映画監督、スタンリー・キューブリック

長きに渡り巨匠の生活を支え、そして彼と友情を育んだ男の姿が紹介されます。

ひょんな出来事でキューブリックと知り合ったイタリア人、エミリオ・ダレッサンドロ。

ドライバーとして雇われた彼は、映画のことは何も知らぬまま、日常の雑務をこなすアシスタントとして、常に監督の身近で働くことになります。

30年に渡って彼が見つめた、人間・スタンリー・キューブリックの素顔とは

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映画『キューブリックに愛された男』の作品情報


(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

【日本公開】
2019年11月1日(金)(イタリア映画)

【原題】
S is for Stanley

【監督】
アレックス・インファセッリ

【出演】
エミリオ・ダレッサンドロ、ジャネット・ウールモア、クライヴ・リシュ

【作品概要】
映画に関しては完全主義、外部に対しては秘密主義を貫いたスタンリー・キューブリック。彼の身近で30年に渡って働き、気難しい巨匠と友情で結ばれた男の姿を描くドキュメンタリー。

今はイタリアのカッシーナで、静かに余生を過ごすその人物を、監督のアレックス・インファセッリが訪ね、知られざるキューブリックの素顔を明らかにしていきます。

それはキーブリックの人間像だけでなく、映画が創作される舞台裏と、そして長きに渡る2人の男の絆を教えてくれるのです。

2016年にイタリアのアカデミー賞である、ダヴィッド・ディ・ドナッテロ賞の、最優秀ドキュメンタリー賞受賞した作品です。

映画『キューブリックに愛された男』のあらすじ


(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

イタリアからロンドンにやって来た男、エミリオ・ダレッサンドロ。この地で妻子を得た彼は、職を転々としながらも、レーシングドライバーとしてデビューします。

しかしレーサーの職は得られず、タクシードライバーとして働き始めた彼は、妻子と共に平凡に暮らしていました。

そんな1970年の雪の夜、ある映画会社からエミリオに、奇妙な依頼が舞い込みます。それは人を乗せる仕事ではなく、ある“モノ”を撮影スタジオに送り届ける仕事でした。

機転を利かし無事に、ある“モノ”を届けたエミリオ。映画に興味の無い彼は、そこで何が行われているか、誰が直接の雇用主であるかを、特に気にかけていませんでした。

ところが後日映画会社から、わが社の代表が挨拶したいとの連絡が入ります。その人物こそ映画監督、スタンリー・キューブリックでした。

エミリオのレーサーとしての実績を知ったキューブリックは、彼を自分の専属ドライバーとして雇いたいと申し入れます。

それを快諾し、翌日からアボッツ・ミードにある監督の自宅兼スタジオに通い始めたエミリオ。やがてキューブリックは彼に、様々な指示を与えるようになります。それは車に関する事だけでなく、日常生活に関わる雑務も含まれていました。

それらの仕事をこなしていくエミリオ。やがて2人は、互いに信頼し心を許し合う仲になります。

エミリオが見た巨匠の真の姿、創作の舞台裏、そして気難しい人物として有名な、スタンリー・キューブリックの友人となった人物の姿が、明らかにされていきます。

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映画『キューブリックに愛された男』の感想と評価


(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

逸話1:伝説的巨匠の意外な一面

タクシーに入りきらない、大きなある“モノ”を乗せてロンドン市内を走り、無事荷物を送り届けたイタリア人ドライバー、エミリオ・ダレッサンドロ。ちなみにある”モノ”とは、映画『時計じかけのオレンジ』に無くてはならない、大切ものでした

こうして出会ったスタンリー・キューブリックとエミリオ。キューブリックが彼を雇ったのは、エミリオが優れたドライバーであったことが大きな理由でした。

飛行機恐怖症として有名なキューブリックですが、意外な事に自動車マニア。車種へのこだわりに彼らしさが現れています。しかし肝心の運転技術は…、そこでエミリオに目をつけたのでしょう。

映画と接点の無いところから始まった2人の関係は、エミリオの誠実な働きぶりが信頼され、友情あふれるものへと育っていきます。

アメリカからイギリスに移り住んだキューブリック、そしてイタリアから移り住んだエミリオと、互いに異国の地で働き、家族を養う共通の境遇にもシンパシーを感じたのでしょう。

映画関係者や記者たちが語り伝えたエピソードが、数多く残されているキューブリックですが、エミリオという映画と関係ない人物が語る言葉は、今まで知られていなかった意外な素顔を伝えてくれるのです

逸話2:私生活に見るキューブリックらしさ

常に身近で映画の仕事に携われるよう、スタジオを兼ねた巨大な邸宅で妻と3人の娘、そして愛犬と愛猫と共に暮らしていたキューブリック

周囲からは仕事以外では、一歩も外に出なかったという伝説までささやかれた彼の素顔を、エミリオはユーモアを交えて懐かし気に話してくれます。

監督の家に掲げられた12のルールが、彼の完璧主義と神経質かつ論理的な一面を、象徴的に表しています。やがてキューブリックは専属ドライバーであるエミリオに、細かな日常の雑務を依頼し始めます。

それをエミリオが誠実に果たすと、更に注文を増やしてゆくキューブリック。メモや電話で次々指示が与えられ、やがて彼は家族との時間を失い、仕事でも日常においても監督から与えられる、全ての要求を受け入れざるを得なくなります。

それでも忠実に仕事を果たしてゆくエミリオ。信頼した監督は彼を身近に住まわせ、パーソナルなアシスタントとして重用していきます。

彼とキューブリック映画の関わりには、映画ファンならニヤリとさせられるエピソードが豊富で必見です。

監督の邸宅には、映画化の準備の為に集められたものの、企画が流れ乱雑に放置されていた、アルトゥル・シュニッツラーの著した『夢小説』に関する資料がありました。

それを見かねたエミリオは、指示される事なく『夢小説』の資料を分類・整理します。それが後に大きく役立つ事になるのですが…。詳しくは映画をご覧下さい

逸話3:巨匠の不可欠な存在となる男


(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine
このように陰ながら、キューブリックの公私を支え続けたエミリオ・ダレッサンドロ。彼にあらゆる要求を与えながらも、2人の間には友情以上の絆がありました。

エミリオの息子が不幸な事故に遭遇した時には、巨匠の完璧主義な性格が、愛情ある気づかいとして発揮されます。またキューブリックが娘たちの独立に当惑した時、的確にアドバイスできる人物は、彼ただ1人でした。

やがて子供も独立し、親も老いたエミリオはイタリアへの帰郷を決意します。それをキューブリックに伝えると、時間をかけ仕事を引き継ぎ後任を見つけ、ついに監督と円満に分かれます。

こうして故郷・カッシーナに戻り、農場を耕し始めたエミリオ。そこで始めてキューブリックの映画に触れ、その魅力に気付かされます

やがて彼の元に、キューブリックからの電話がかかってくる様になります。エミリオの妻は、これから何が起きるのかを理解していました。

やがてキューブリックの下に戻り、『アイズ ワイド シャット』の製作現場に、夫婦で様々な形で関わる事になったエミリオ。監督が急死した時には、身近で遺族を支える立場にもなりました。

信頼と友情を軸に支え合った2人。監督にとってエミリオは、最後まで無くてはならない存在になりました。気難しい巨匠と、正直で誠実な男の物語はこうして幕を閉じます。

まとめ


(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine
その後故郷カッシーナに妻と共に戻り、エミリオ・ダレッサンドロ。アレックス・インファセッリ監督がこのドキュメンタリー映画で紹介するまで、静かに暮らしていました。

夫婦が暮らす家のガレージには、エミリオの思い出の品々と共に、キューブリックの自筆メモや、譲り受けた映画の小道具が大量に保管されています

それを目にするだけでも映画ファンには、思わずため息が出る事でしょう。

ところで一度イタリアに帰国して、初めてキューブリックの映画に触れたエミリオ。巨匠と再会すると、どの作品が一番好きか聞かれます。

ここで正直者で映画に詳しくないエミリオは、絶対に言うべきでない作品の名を挙げてしまいます

映画ファンなら、別の意味のため息が出るエピソードです。だからこそ、『キューブリックに愛された男』なんでしょうね

映画『キューブリックに愛された男』は2019年11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで、『キューブリックに魅せられた男』と全国カップリング上映!




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