第37回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門『ホワイトバード はじまりのワンダー』
東京から映画の可能性を発信し、多様な世界との交流に貢献するミッションに則る東京国際映画祭。開催37回目となる2024年は、10月28日(月)に開会され、11月6日(水)まで開催されます。
今回はガラ・セレクション部門より、マーク・フォースター監督の『ホワイトバード はじまりのワンダー』をご紹介します。
本作は、世界的大ヒット作『ワンダー 君は太陽』(2017)から生まれたもうひとつの物語です。前作で主人公オギーをいじめた少年ジュリアンと彼の祖母サラ、そして少女時代のサラをナチスから救った同級生ジュリアンにスポットを当てて描いています。
『ワンダー』の話から6年、オギーをいじめた少年ジュリアンのサラおばあちゃんが教えてくれることに、胸が熱くなることでしょう。
映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』は、2024年12月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開です。
【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2024』記事一覧はこちら
映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』の作品情報
【日本公開】
2024年(アメリカ映画)
【監督】
マーク・フォースター
【脚本】
マーク・ボムバック、R.J.パラシオ
【キャスト】
アリエラ・グレイザー、オーランド・シュワート、ブライス・ガイザー、ジリアン・アンダーソン、ヘレン・ミレン
【概要】
映画『ワンダー 君は太陽』(2017)の原作者R・J・パラシオが同作のアナザーストーリーとして執筆した小説『ホワイトバード』を、『チョコレート』(2001)『ネバーランド』(2004)『プーと大人になった僕』(2018)のマーク・フォースター監督が映画化した本作。
名優ヘレン・ミレンがジュリアンの祖母サラを演じ、『ワンダー 君は太陽』(2017)のブライス・ガイザーが、サラの孫のジュリアン役を続投。
少女時代のサラは『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』(2019)のアリソン・グレイザー、サラを助ける同級生ジュリアンは『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(2019)のオーランド・シュワートがそれぞれ演じています。
映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』のあらすじ
同級生へのいじめによって学校を退学処分になり、別の学校に転校したジュリアン。自分の居場所を失っていたジュリアンのもとに、パリから画家として世界的に活躍している祖母のサラが訪ねて来ました。
孫が起こした一部始終を知るサラは、ジュリアンが口にした「あの経験で学んだのは、人に深入りしないこと。意地悪もやさしくもしない。ただ普通に接する」という言葉に胸を痛めます。
サラは、孫の行く末を心配し、本当は忘れたい自らの少女時代の衝撃的な秘密を「あなたのために話すべきね」と語り始めます。
1942年、ナチス占領下のフランスでのこと。日々ナチス勢力が増して、人々は窮屈で暗い生活を強いられていました。
ある日ユダヤ人であるサラは、学校に押し寄せてきたナチスに連行されそうになります。山へ逃げていたところを同じクラスのいじめられっ子の少年ジュリアンに助けられ、彼の家の納屋に匿われます。
クラスでいじめられていたジュリアンに全く関心を払わなかったサラですが、ジュリアンと彼の両親は命懸けで守ってくれます。
ジュリアンは毎日学校から帰ると、外へ出られないサラの元へ通って、勉強を教えてくれました。ジュリアンのお母さんも毎日の食事と入浴など身の回りの世話を焼いてくれました。
両親とも連絡が取れず、自身も行方不明になったままのサラは、ジュリアン一家に匿われて1年がたちました。
その間にサラとジュリアンが絆を深めていき、やがて終戦が近いというニュースが流れるのですが……。
映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』の感想と評価
本作は、世界的大ヒットとなった『ワンダー 君は太陽』(2017)から生まれたもうひとつの物語です。
この作品で主人公をいじめたジュリアンは、その罪を背負って学校を退学になり、別の学校へ転校します。
心が荒れたままで身の置き場のないジュリアンの様子を気にした、祖母のサラはジュリアンに自分の少女時代の話をしました。
それは、1人のユダヤ人の少女が体験した命の尊さと本当の親切、そして初恋の混ざった甘酸っぱい思い出でした。
すべてを昨日のことのように話すサラ。孫のジュリアンに「親切にはどれほどの勇気が必要か。命を危険にさらして人を助ける時、その親切は奇跡に近い」と切々と語ります。
約1年にも及ぶ、ジュリアンの納屋での隠遁生活。誰にも見つからないように息をひそめて生きているサラを、学校の話をしてジュリアンは慰め、空想することで楽しい青春を過ごし、いつしか心を通わせていきました。
この辺りの物語は、同じように隠れ部屋でナチスから逃れて生活していたアンネ・フランクが描いた『アンネの日記』を思い出させます。
あの当時、ナチスの圧政で、どれだけのユダヤ人が犠牲になったというのでしょう。またユダヤ人ばかりでなく、ユダヤ人を匿った人々も同じように罪に問われました。ユダヤ人を匿うには命がけだったのです。
そんな時代を生き延びた祖母のサラが語る自身の苦難の物語は、とても重みのあるものでした。
物語は心ゆさぶる勇気と親切を与えてくれますので、孫のジュリアンのいじけた心にも、真っ直ぐに届いたのに違いありません。
まとめ
世界的大ヒットとなった2017年の『ワンダー 君は太陽』の原作者R・J・パラシオが、『ワンダー』のアナザーストーリーとして小説『ホワイトバード』を書き上げました。
ファンタジーやヒューマンドラマで、突出した才能を発揮してきたマーク・フォースター監督が、その小説を映画化したのが本作『ホワイトバード はじまりのワンダー』です。
いじめた側の救済まで描かなければ、「ワンダー」の真の世界観は完結しないという作者の決意に胸を打たれた『ワンダー 君は太陽』(2017)のプロデューサーたちが再集結して、本作の映画化が実現したと言います。
いじめた側も傷ついたはずであり、その傷はどうすれば癒えるのでしょうか。サラの壮絶な過去がスクリーンに映し出されるとき、観客もきっと胸が熱くなり、優しい気持ちになることでしょう。
映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』は、2024年12月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開です。
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星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。