連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第60回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第60回は、ニール・ジョーダン監督が演出を務めた、映画『ブッチャー・ボーイ』
ニール・ジョーダンが脚本・監督を務めた、1998年製作のアイルランドのブラックコメディ映画『ブッチャー・ボーイ』。
アル中の父親と精神を病んだ母親と暮らす少年が、突然の両親の死と頼りにしていたワル仲間の親友に裏切られたことにより、邪悪な闘志が芽生え凶悪な殺人鬼に変貌してしまう物語とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
闇落ちした凶悪な少年殺人鬼の狂気を笑いに変え、キリスト教や世相をぶった切っていく、R15+指定のブラックコメディ映画『ブッチャー・ボーイ』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『ブッチャー・ボーイ』の作品情報
【公開】
1998年(アイルランド映画)
【原作】
パトリック・マッケーブの『The Butcher Boy』
【監督】
ニール・ジョーダン
【キャスト】
イーモン・オーウェンズ、スティーヴン・レイ、フィオナ・ショウ、ショーン・マッギンレイ、ピーター・ゴーウェン、アラン・ボイル、アンドリュー・フラートン、ジョン・カヴァノー、ブレンダン・グリーソン
【作品概要】
『マイケル・コリンズ』(1996)や『プルートで朝食を』(2005)、『ビザンチウム』(2012)などを手掛けた、ニール・ジョーダンが脚本・監督を務めたアイルランドのブラックコメディ作品。
原作は1960年代初頭にアイルランドの小さな町を舞台に、問題のある家庭生活が崩壊するにつれて、暴力的なファンタジーの世界に後退する少年の姿を描いた、パトリック・マッケイブの小説『The Butcher Boy』です。
『マグダレンの祈り』(2003)や『プルートで朝食を』(2005)などに出演する、イーモン・オーウェンズが主演を務めています。
映画『ブッチャー・ボーイ』のあらすじとネタバレ
1960年代初頭のアイルランド。アル中の元ミュージシャンの父親ベニーと、精神を病んだ母親アニーと暮らしていた少年フランシー・ブレイディーは、厳しい現実から逃避するかのように、頼りにしている親友ジョー・パーセルといつも悪さばかりしていました。
そんなある日、フランシーたちはいつものように、英国帰りを鼻にかけ町の主のように歩く夫人ニュージェントの家から林檎を盗み、同年代の物知りで大人しい息子フィリップ・ニュージェントをいじめていました。
それを見たニュージェント夫人は、怒り心頭でフランシーの家を訪れ、何も知らないフランシーの両親を罵倒しました。
ニュージェント夫人が去り際に言った「ブタ!」という言葉に怒ったベニーは、酒場から帰ってくるなりフランシーを怒鳴りつけ、アニーが怯えて何も言えないことを言いことに、体罰します。
元々精神を病んでいたアニーは、アル中で子供に暴力を振るう夫と、不良少年のフランシーがやったことへのニュージェント夫人からの罵詈雑言に耐えられなくなっていったのでしょう。
アニーはとうとう自殺しようとしましたが、その前にフランシーが帰宅したことで未遂に終わり、精神病院に入院することになりました。
フランシーはそれを機に、さらにニュージェント夫人とフィリップへ嫌がらせをしていきます。
そんなフランシーも、2人で暮らすことになったベニーが上機嫌にトランペットを演奏し、その演奏に合わせてテレビで西部劇を見る時は、無邪気な子供のように喜びました。
しかし久々に訪れた平穏な親子の団欒も束の間、テレビの調子が悪く映らなくなってしまうと、ベニーはたちまち機嫌が悪くなり、テレビを壊してしまいます。
クリスマスを目前に控えたある日、アニーは元気になってフランシーの元に帰ってきました。
ただアニーは、お土産にと買ってきた「ブッチャー・ボーイ」という曲のレコードを流しながら、クリスマスにやってくるフランシーの叔父アロのために、まるで機械のように永遠と彼の好物であるケーキとお菓子を作り続けました。
イギリスで成功を収めているアロがやって来て、フランシーの家は客人で溢れ、アニーが作ったケーキやお菓子を食べて談笑するパーティーは大賑わい。客人たちは皆、アニーたち夫婦の馴れ初めを話して大盛り上がりでした。
しかしベニーは、ハネムーン先でターザンとジェーンの顔パネルで写真を撮ったことを笑い話にされたことで、機嫌は一気に急降下。そうとは知らず、アロは客人を見送るアニーと隠れてキスをしていました。
ベニーは客人が皆帰った途端、酒に酔ったのも相まってアロを罵倒しはじめ、それを庇ったアニーと口論となり、フランシーの目の前で彼女の頬を叩きました。
いつまでたっても終わらない両親の喧嘩に嫌気がさし、フランシーは家出することにしました。
アイルランドの首都ダブリンまでやって来たフランシーは、レストランのレジからお金を盗み、そのお金で映画を観に行きました。
母親が恋しくなったフランシーは、ダブリンでオルゴールを買い、アニーにプレゼントしようと思って家に帰りました。
すると町では、アニーの葬式が執り行われている最中でした。アニーはフランシーの家出で、張りつめていた精神が限界を迎え、自殺してしまったのです。
アニーの死因をフランシーが知ったのは、憔悴したベニーから「母ちゃんは川底で見つかったそうだ、親を自殺に追いやり、葬儀までぶち壊すとは一体何を考えているんだ」と罵倒された時でした。
それからというもの、フランシーのフィリップへのいじめはエスカレートし、鶏が鳴く暗い小屋に連れて行き、暴力を振るい殺そうとします。
そこへジョーが駆けつけ、フランシーたちを引き離し、フランシーに二度とフィリップに近づかないよう誓わせました。
互いの手の平を少しだけ切り、流した血によって「ずっと一緒の血の兄弟」と誓うフランシーたち。そんな2人の元へ、ニュージェント夫人が自身の兄弟2人を差し向け、二度と自分たち親子に近づかないよう懲らしめさせます。
しかし、これが逆に事態を悪化させてしまうのです。怒ったフランシーは、ニュージェント夫人の家へ侵入し、ケーキ作りで有名な彼女が焼いたケーキを床にぶちまけたり、滅茶苦茶にしたりします。
さらにフランシーは、家中に「ブタ」と赤いクレヨンで落書きしました。そして頭の中に響く謎の声に従い、リビングのカーペットに放尿します。
それを帰宅したニュージェント夫人に見つかり、警察に捕まったフランシーは、更生施設に送られました。
入って早々、更生施設の最古参の4人組の少年を手下にし、フランシーは更生施設の労働作業に明け暮れる日々と送っていました。
そんなある日、フランシーの元にジョーから一通の手紙が届きました。嬉々として手紙を読んだフランシーでしたが、そこにはジョーがフィリップと仲良くなったという内容が書かれており、深く落ち込みました。
映画『ブッチャー・ボーイ』の感想と評価
闇落ちした凶悪な殺人鬼フランシー
精神を病んだ母親と、アル中で妻子に暴力を振るう父親との生活は、フランシーにとって精神的に辛いこともありましたが、それでも愛する両親との生活は幸せだったのでしょう。
普通の家族とは違うけれど幸せだった日々を思い出して、フランシーは深い悲しみに暮れ、亡くなった母親を想い号泣しています。
病死した父親の死は、母親の死だけで既に限界に達していたフランシーには、とても受け入れられない現実でした。
ようやく親子の関係を取り戻せそうだった矢先の出来事ですから、フランシーが父親の死を受け入れられないのも無理はありません。
両親の突然の死というだけで精神的にくるというのに、心の拠り所として頼りにしていた親友のジョーが、フランシーを「友達じゃない」と言って彼を裏切ります。
そして幸せだと思っていた両親のハネムーンも、実はその頃から父親が母親に暴力を振るっていたという真実を知り、張りつめていたフランシーの心の中の糸はプツリと切れてしまいました。
短期間で大事な人たちもその人たちと過ごした幸せな日常も、何もかも失ってしまったフランシーが、闇落ちしてしまった姿は悲しいし辛いです。
フランシーに逆恨みされるニュージェント夫人
イギリス帰りを鼻にかけて、まるで町の支配者かのように町中を歩くニュージェント夫人。
ニュージェント夫人は自分が育てた林檎を、フランシーとジョーに盗まれるだけでも怒っていましたが、愛する息子が彼らにいじめられているのを知って、堪忍袋の緒が切れたのでしょう。
ニュージェント夫人はフランシーの家に行き、フランシーとそれを育てた彼の両親に罵声を浴びせまくり、最後は「ブタ!」と言って立ち去っていきます。
ただこのニュージェント夫人の行為は、元々精神を病んでいたフランシーの母親をさらに追い詰めることになるのですが、彼女はそんなことに全く気がつきません。
ニュージェント夫人の怒りは収まることを知らず、自分の兄弟たちを使ってフランシーを懲らしめます。
1人の子供に寄ってたかって暴力を振るう兄弟たちもですが、自分の手は汚さずにフランシーを懲らしめようとするにニュージェント夫人も充分悪者です。
フランシーがニュージェント夫人を殺害したのは、「ジョーも両親も全て失ったのはニュージェント夫人のせいだ」という逆恨みによるものですが、彼女がフランシーにしたことを思えば恨まれても仕方ないのかもしれません。
まとめ
全てを失い闇落ちした少年が、邪悪な心を宿し凶悪な殺人鬼となって、諸悪の根源を断とうと1人の女性を惨殺してしまうという、アイルランドのR15+指定のブラックコメディ作品でした。
本作の見どころは、少年フランシーが闇落ちするまでの過程と、フランシーとニュージェント夫人の因縁です。
フィリップ殺害未遂以降、ジョーはフランシーの内に眠る凶暴性と狂気を悟ったのでしょう。それでもジョーは、そんなフランシーを親友として接していました。
ジョーが心のどこかで、フランシーが凶暴性を抑えただのイタズラする悪童に戻ってくれることを、自分が知る彼に戻ってくることを願っていたと思うと泣けてきます。
フランシーは結局、自分のせいでジョーが離れてしまったことに気づかぬまま、闇落ちして凶悪な殺人鬼へと変貌を遂げてしまいました。
そんなフランシーの狂気を演じるイーモン・オーウェンズの怪演が、凶悪な殺人鬼をさらに恐ろしく感じさせる、R15+指定のブラックコメディ映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。