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Entry 2021/07/19
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映画『ビザンチウム』ネタバレ結末感想とあらすじの評価解説。ヴァンパイア少女が堕ちた‟永遠の孤独”|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー44

  • Writer :
  • からさわゆみこ

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第44回

深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。

そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第44回は、永遠に真実を語れない、孤独な運命を背負うヴァンパイアの少女の姿を描いた映画『ビザンチウム』です。

16歳の少女エレノアと8歳年上の姉クララには、人には語れぬ秘密があり放浪生活をしています。姉妹はさびれた浜辺の保養地で暮らすようになり、エレノアの自我の目覚めから、彼女たちの秘密が明らかになっていきます。

本作は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)のニール・ジョーダン監督が、19年ぶりに吸血鬼作品を制作し話題となりました。

主人公エレノアには『レディ・バード』(2017)でゴールデングローブ賞の映画部門で主演女優賞を受賞したほか、『ストーリー・オブ・マイライフ』(2019)で、各映画賞にノミネートされた若手実力派俳優のシアーシャ・ローナンが務めました。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら

映画『ビザンチウム』の作品情報

(C)Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved

【公開】
2012年(イギリス映画)

【原題】
Byzantium

【監督】
ニール・ジョーダン

【原作/脚本】
モイラ・バフィーニ

【キャスト】
ジェマ・アータートン、シアーシャ・ローナン、サム・ライリー、ジョニー・リー・ミラー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ダニエル・メイズ、マリア・ドイル・ケネディ、ウォーレン・ブラウン、トゥーレ・リントハート、トム・ホランダー

【作品概要】
ニール・ジョーダン監督は『クライング・ゲーム』(1993)で、アカデミー賞脚本賞、『マイケル・コリンズ』(1996)でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞しており、出身国のアイルランドの歴史やゴシック・ホラーなどを題材にした作品で、ハリウッドで活躍するストリーテラーです。

クララ役には『ディストピア パンドラの少女』(2016)、『人生はシネマティック!』(2016)で主演を務め『キングスマン: ファースト・エージェント』(2020)など、ホラーやコメディ、アクションと幅広い作品で活躍中のジェマ・アータートンが務めます。

映画『ビザンチウム』のあらすじとネタバレ

(C)Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved

薄暗い部屋で少女は語ることのできない自らの秘密を抱えて、苦悩していることを手記にしています。

彼女は人目を避けて潜める場所を転々としていて、住む場所を変えるたびに、話すことのできない真実を描き直し、破り捨て誰かの目に留まることを願っていました。

ある日、彼女は手記を破り窓から捨てますが、それを拾った老人と親しくなります。老人は彼女を散歩に誘うと自宅に招き入れます。

老人はアルバムをめくり、一生の愛を捧げた女性の話をし、エレノアの書いては捨てた手記を収集したページを見せると、彼女の秘密について触れます。

老人は「人生にはいつか秘密を語るべき時がくる」と、諭して幼い頃に教会で聞いた、魂を失い生きる“不死なる者”の逸話を話すと、少女はエレノア・ウエッブと名乗ります。

老人はエレノアに心の準備はできていると言い、エレノアは老人の手首に鋭利な爪を刺すと、あふれ出る血液をむさぼりました。

エレノアには売春で生活費を稼ぎ、養育してくれる″姉”のクララがいます。エレノアが老人の家にいるころ、クララはトラブルを起こして店を出ますが、ある男に追われます。

男はクララを捕り抑えると、彼女(エレノア)の存在について追及します。あきらめたクララは男を隠れ家に連れて行って油断させ、ワイヤーで首を切り落として殺害します。

帰宅したエレノアは惨状を見ると激高し、クララはよそへ移ると告げます。そして、殺害はエレノアのためにしたことで、いつかわかる日がくると言いました。

そして、エレノアは殺害された男が誰なのか聞きますが、クララは何も話そうとしません。

クララは部屋に火を放ち2人は出て行きます。そして、ヒッチハイクでトラックに乗り込むと、寂れた海辺の街へとたどり着きました。

エレノアが浜辺に出ると奇妙な光景を目にします。大昔の衣装を着た同じ年頃の女の子が、整列して歩く姿で、その中に自分とそっくりな顔の少女をみつけます。

クララに前にも来たことのある場所か聞きますが、そんなことはないと言われました。

2人はこの海辺の町を新たな居住地に決め、クララはさっそくひと稼ぎすると言って、寂れた夜のリゾート街に立ちます。

エレノアは時間つぶしで町を散策していました。セレブな老人が滞在している保養所のラウンジに、グランドピアノがあるのをみつけます。

エレノアは、吸い込まれるように中に入り、ピアノの椅子に腰かけ、もの悲しい曲を弾き始めます。

その様子を見ていた青年スタッフが、演奏を終えたエレノアに声をかけ、難しい曲を暗譜で弾けるなんてすごいと言います。

彼は老人たちを陽気にさせる曲を…と、リクエストしますが、エレノアはラウンジを出て行き、青年はエレノアにバイトは22時で終わると言います。

クララはカミラという名で仕事をはじめます。そして、初めての客ノエルの身の上話を聞きました。彼は事業に失敗し、母親を亡くしたばかりだと言います。

更に母親が営んでいたホテルも廃業させてしまったと、後悔し嘆いていました。クララはノエルの話を親身に聞きつつ、そのホテルに住むために彼をたぶらかします。

エレノアが時間をつぶすために海岸にいると、ラウンジで出会った青年がやってきました。彼はエレノアが去った後、ラウンジの客たちを廻り、チップをもらったので届けてくれたのです。

そして、連絡先のメモも渡しますが、エレノアは電話は持っていないと言います。彼はエレノアに会えて嬉しいと握手を求めます。

ところがエレノアは親しくならないつもりで、さよならと握手を返しました。

ノエルはエレノアとクララを母が経営していたホテル“ビザンチウム”に連れて帰ります。ノエルは“妹”のために、身を粉にして働くクララを敬いました。

“死を覚悟した者だけが、永遠の命を得る”

エレノアはその晩、クララに岩の砦に連れて行かれる夢を見ます。彼女はエレノアに中に入るよう促すと、数百匹はいたであろうコウモリが、外へ飛び出していきました。

そして、エレノアが中へ進んで行くと、同じような背格好の少女が、血を流しながら立っています。顔をみるとそれは自分でした。

首の傷跡から血を流しながら彼女は「ここで時は終わる」と言い、エレノアの首筋に咬みつきました。

以下、『ビザンチウム』ネタバレ・結末の記載がございます。『ビザンチウム』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved

クララが男を惨殺し放火した事件は捜査が入り、ニュースになっています。エレノアが殺した男が何者なのか尋ねても、化物を退治したとしか答え、しばらく滞在しホテルで昔の商売をして稼ぐと話します。

エレノアは朽ち果てそうな、桟橋を見ながら遠い記憶を見ます。不治の病に侵されたという男がエレノアの前に現れ、彼女の母を知っていると話します。

エレノアは実母は死んだと聞かされていました。男はその母親が宝物を奪って姿を消した代わりに、彼女の宝物も奪うとエレノアに「これを機に大人になるのだ」と告げます。

そんな辛い記憶に打ちひしがれていると、ノエルが心配して声をかけます。そんな優しいノエルにエレノアは、クララが偽名を使って、嘘を言っていると話しだします。

しかし、そこにクララが現れ真実を話したら、ノエルを殺すとエレノアに言い、“守らなければならない掟”だと釘を刺します。

クララがノエルに商売の話をし始めると、エレノアはホテルを出て海岸に行きます。そして、ベンチで寒さに震え今にも死んでしまいそうな女性に話しかけます。

エレノアは200年前にこの土地にいたことを思い出し、若かりし頃のクララと自分の出生を語りました。

クララは貧しい漁師の娘で海で貝掘りを手伝っていました。ある日、彼女の目の前に2人の軍人が現れます。

1人は軍人見習のダーヴェルでクララの掘った貝を試食すると、真珠を一粒プレゼントしました。“真珠は永遠に清らかなもの”。それがダーヴェルのクララへの気持ちでした。

ところがそこに彼の上官、ルヴェンが現れクララをだまして馬に乗せ、娼館で犯した上、娼婦として売り飛ばしてしまいます。

娼婦となったクララはある時身ごもり、生まれたのがエレノアでした。娼館の掟では出産しても、育てることは禁じられていました。

本来であればエレノアは即時で殺されてしまう運命でした。ところがクララの心に芽生えたエレノアへの強い母性愛が、彼女を生かす道へと導きます。

クララはエレノアを“ノーセイブン孤児院”に託し、毎月養育費を送りました。

クララの思いは叶い、エレノアは孤児院で“美徳と謙虚さが人生の幸せ”と学び、成長していきました。

こうしてエレノアは人に話すことのできない出生の秘密を海に物語り、手記を破り捨てていると、再び中世の少女達と海岸で出会います。

あとを追うと彼女たちは、ノーセイブン孤児院へと入って行きますが、エレノアが我に返ると孤児院は学校になっており、学生たちが通っていました。

エレノアがフラフラと入口へ歩み寄ると、接触しそうになった自転車が転倒します。自転車に乗っていたのは、ラウンジで出会った青年でした。

彼は手首を切り出血が止まりません。エレノアは慌ててハンカチで押さえ、彼を自宅まで見届けます。彼の名は“フランク”。両親が慌てて病院へと連れて行きました。

フランクは血液が大量に浸みこんだハンカチを落とします。それを見たエレノアは、渇望し理性がもうろうとします。

その頃、警察はエレノアが最期を与えた老人の遺体を発見し、血を吸った傷跡を確認していました。

一方、クララは売春婦達の元締めを殺害し、彼女たちをビザンチウムに集め、娼館を始める準備をします。

エレノアがフランクの入院する病院へ見舞いに行くと、母親から彼が白血病の治療中であることを知り、エレノアは病室をあとにします。

枯渇しているエレノアは無意識に死期の近い患者を嗅ぎつけ、病室へ入っていきます。すると老いた患者は「天使が来たのね」と訊ね、エレノアは「あなたに平安を」と言います。

数日後、エレノアは孤児院だった学校へ編入し、自分の物語を紐解く暮らすに入ります。それが未来への創造につながるという学びです。

エレノアは就寝している孤児院の部屋を天窓から覗く、“母親”クララの姿を思い出していました。死んだと聞いていた彼女ですが、クララを幽霊とも生者とも見えませんでした。

講師は授業の最後に「自分が誰なのか考えてほしい」と言い、“私は(I am)”という題で作文の宿題を出し、そこには“真実”だけを書くよう言います。

エレノアはフランクと親しくなります。彼は白血病の治療が高額なため、医療費が無料のこの町へ越してきたと話します。

フランクは母がエレノアを彼女だと思っていると話すと、彼女は秘密を抱えいつも独りぼっちな生き方を変えるには、どうしたらいいか意見を聞きます。

フランクは自分にその秘密を話してほしいと言いますが、エレノアは走り去ってしまいました。

エレノアが6才の頃、クララは肺の病気になり、生にしがみつくように生きていました。ルヴェン大佐が戦地から帰還したある冬の夜、ある男も娼館を訪れました。

それはダーヴェルでした。陽の光が差し込む部屋で彼の姿を見た、ルヴェンは驚き怯えながら、死んだ彼を見たはずと言います。

ダーヴェルはルヴェンを奪いに来たのではなく与えに来たと言い、夕刻に来訪すると帰っていきました。

ルヴェンとダーヴェルは、アイルランド反乱軍の制圧に行ったのですが、ダーヴェルはそこで負った傷がもとで熱を発症し、死の間際にいました。

金持ちのダーヴェルには相続人もおらず、世間知らずだったため、ルヴェンは彼の死を望み、その財産を狙っていました。

ところがダーヴェルは死の淵にいながら、図書館で何かの古文書を調べていて、そこに2人の学者らしき人物が現れ、どこかの地図を手渡します。

その地図は絶海の孤島にある、“癒す力を秘めた古代神殿”を示す地図でした。

ダーヴェルはルヴェンの協力でその孤島に行きます。滝岩に囲まれた神殿にたどり着いた2人ですが、ダーヴェルはルヴェンの気をそらし、1人で中に入っていきます。

神殿から無数の鳥が飛び立つと、滝からは血のように真っ赤に染まった水が湧き出てきます。

ルヴェンは神殿の中でダーヴェルの遺体をみつけ、彼の貴金属を盗み、帰国後も彼の財産を奪い取って、贅沢三昧の暮らしをしました。

(C)Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved

エレノアはこうした真実を書きフランクに渡しました。夜更けにフランクはエレノアの住み家を訪ね、クララに物語を読んだと伝言を残します。

真実を伝えるための物語はフランクには、物語を通して表現した孤独な生い立ちと思われ、真実とは信じてもらえませんでした。

そして、売春婦の元締めの遺体が発見され、警察の手は海辺の町に迫っています。

そして、フランクだけに明かした秘密の物語は、彼によって学校の講師の手に渡ります。

エレノア達の運命が大きく動き出しました。講師はエレノアの精神状態と家庭環境を危惧しはじめます。

ダーヴェルは夕刻に再びルヴェンを訪ね、神殿の秘密を明かします。ルヴェンとクララは、死を覚悟した者だけが、魂と引き換えに永遠の命が手に入る話を聞きました。

物語はクララがルヴェンの足を銃で撃ち、地図を横取りして孤島の神殿へ向うところで終わっていました。

この物語を読んだ学校の講師は、クララに即日中に連絡するようノエルにに伝言します。

フランクは吸血鬼だというエレノアに、太陽を恐れないことや殺し方など聞きます。エレノアの場合は、死期の近い人間の同意がない限り、命は奪わないと話します。

フランクには半信半疑で、エレノアを哀れな子だと思います。彼は自分のバースデーパーティーに招待し、エレノアは孤島の地図をプレゼントします。

クララは永遠の命と嘘を見抜く能力を得ます。しかし、吸血鬼の同盟は女人禁制だったため、永遠の命を得た彼女の身柄は審問会の判断に委ねられました。

“正義の爪”と称された同盟でクララは、“弱者を食い物にして、暴力を振るう者を罰する”と誓いを立てますが、掟を破らない限り階級は下層のまま見逃すとされました。

その“掟”とは、新たな吸血鬼を創造しないことです。

ルヴェンは16歳に成長したエレノアを連れ出し、彼女を犯してクララと同じように娼婦になれと言います。

エレノアがルヴェンに連れ出されるところを見たクララは、エレノアを探しましたが間に合わず、ルヴェンを殺してエレノアを吸血鬼へと創造したのです。

全てを話したクララは講師の命を奪いました。

フランクは病気と向き合う生活に疲れ、エレノアとキスをすれば生きられるのかと聞きます。エレノアはキスをしますが、無意識に彼の手首に爪をあてて傷を負わせてしまいます。

フランクは余命を感じ殺してもいいと同意しますが、エレノアはプレゼントを開けて、私を待つよう告げ家に戻ります。

その頃、学校では殺害された講師が発見され、エレノアの殺人事件を追う2人の刑事もいます。2人の正体は“同盟”の男達で、掟を破ったクララを追っていました。

ビザンチウムで鉢合わせになった、エレノアはエレベーターに閉じ込められ、その隙にクララはフランクの命を奪いに向かいます。

エレベーターに閉じ込められたエレノアは、同盟の男たちに捕獲され、クララをおびき出すための人質にされます。

エレノアは同盟の1人ダーヴェルに、クララがもらった真珠のネックレスを見せ、助けてほしいと懇願します。

クララは同盟のボスに追い詰められ、ダーヴェルによって斬首されそうになります。ところがダーヴェルは、クララではなくボスの首を落とし2人を救いました。

ダーヴェルはクララとエレノアを助けるために、長年探していたと話しますが、同盟の追手も避けられないと告げます。

クララはエレノアを手放すことを決意し、彼女を解放しダーヴェルと共に生きる道を選びました。そして、エレノアはフランクを孤島の神殿に連れて行き、エレノア・ウエッブの新たな物語が始まります。

映画『ビザンチウム』の感想と評価

(C)Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved

映画『ビザンチウム』は幼気な少女を食い物にする軍人によって、人生を狂わされたクララと、その娘エレノアの辛く悲しいヴァンパイア物語でした。

ニール・ジョーダン監督の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』も、冷酷な吸血鬼と他人の命を奪って生きることに抵抗のある吸血鬼という、対称的な姿を現していました。

本作は母が愛する娘をそばに置いて彼女を守るために吸血鬼にしたのに、他人の命を奪うことに抵抗のある娘の姿を描いていました。

いずれも“永遠の命”を得た孤独と、苦悩を描いた作品でしたが、『ビサンチウム』には男尊女卑という、命題も含んでいて古い“掟”によって生じる、人生のゆがみを現代に表していたとも観れました。

新しいヴァンパイアの姿

古来から表されているヴァンパイアは、人の首筋に牙を立てて生き血を吸うという姿が、多くあります。

本作は親指の爪が伸びて、動脈のどこかを刺し血を吸うというスタイルでした。しかも、血を吸われた者がヴァンパイアになってしまうというものでもありません。

起源がどういうものなのかはわかりませんが、寿命を迎えた高貴な階級の“男子”だけが、吸血鬼として永遠の命を受け継ぐことができる。そんな設定でした。

作中ではその爪を“正義の爪”と呼び、正義のために使う命のように語られていましたが、ダーヴェルはラヴェルの裏切りを知ってか知らぬか、同盟に招き入れようとしていました。

ダーヴェルや他の同盟者は刑事となり、犯罪者を追うという正義の下で、クララたちを追っていましたが、クララの横取りがなくラヴェルが吸血鬼になったら、果たして正義のために生きたのだろうか疑問です。

永遠の命を受けたものには、他にも特殊な能力が具わるという流れでしたが、ダーヴェルは純粋なものを見抜く能力があって、クララとエレノアを助けるべきと判断したように感じました。

変わりゆく“掟”の予感

永遠の命との引き換えに“魂”が無くなると言われていましたが、人間に対する扱いは冷酷であったものの、同類に対してはとても愛情深かった印象です。

しかも、エレノアに関していえば、孤児院での教育の賜物があったとはいえ、死期の近い人間の同意があっての搾取というのが、冷酷なヴァンパイアには必ずしもならないと象徴しています。

エレノアには人の寿命がみえる能力が具わっていました。きっとフランクの死期も見えていたはずです。それでも彼の命を奪えなかったのは、彼を愛したからです。

クララが愛する娘に永遠の命を与えたように、エレノアもまた愛する人に永遠の命を授け、同盟の掟を破りました。しかし、そこには若干違いがありました。

クララは何の説明もなく、一方的な愛情でエレノアに永遠の命を与えましたが、フランクの場合は、彼がエレノアの真実に理解が伴っていたということです。

運命を共有できることで、エレノアは孤独ではなくなりました。クララもダーヴェルと共にすれば、独りで抱え込まずに生きていけるでしょう。

さて、フランクにはどのような能力が授かるのか…?そこが気になるところですが、こうして古い掟も時代によって塗り変わっていくのです…。

伝統あるイギリスは多くのしきたりや掟のある国ですが、古き善き掟は守られ、時代にあわせた改革も成されていると感じます。

古き善きしきたりなのか? 吸血鬼が他人の家に入る時には、家人に招き入れられないと入れないというものがあり、この作品にもそういうシーンがありました。

そこからは相手をよく見て、用心深い行動をとる大切さを物語っていることがうかがえます。

まとめ

(C)Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved

映画『ビサンチウム』は、これまでのヴァンパイア物語とは全く違う設定でした。新しいヴァンパイアの姿です。

ジェマ・アータートンが演じるクララが痛々しくも、母親の強さと無償の愛の表現が圧巻でした。その愛を理解しつつ、母親の運命に振り回される娘エレノアの孤独と苦悩も、シアーシャ・ローナンの透明感のある演技で際立ちました。

現代も弱者を食い物に富を得る人や、望まぬ妊娠で悩み苦しむ女性、貧困や虐待は今も昔も変わらずあって、正直者だけが馬鹿をみるような時代でもあります。

実際に永遠の命はないにしても、“世襲”という性質がある意味、受け継がれる悪しき習慣の場合もあるので、新しい血を入れることで、より良い影響を社会に繋げる意味も含んでいたように感じる作品です。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら

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