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Entry 2021/09/04
Update

ヘルレイザー|ネタバレ結末感想とあらすじの考察解説。ラストでピンヘッドら魔導士が“与えるもの”とは|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー50

  • Writer :
  • 増田健

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第50回

深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。

そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第50回は、数々の続編を生んだ伝説の大人気ホラー映画『ヘル・レイザー』

「血の本」などで知られる、ホラー&ダークファンタジー小説家として有名なクライヴ・バーカーが、自作の小説を1987年に自ら監督した作品です。

“究極の快楽”を体験できるパズルボックス“ルマルシャンの箱”。それを解いた時、異界から「ある者には悪魔、ある者には天使」となる存在“魔導士(セノバイト)”が現れる。

顔面および頭に釘を打った“ピンヘッド”を筆頭とする4人の魔導士は、パズルを解いた者に「究極の快楽の源となる、究極の苦痛」を、未来永劫与え続けるのだ……。

妖しくも魅力的なボンテージファッションに身を包んだ”魔導士”の姿は、ホラー映画ファンを越え多くの人々に愛され、後の日本のコミックなど様々な分野に大きな影響を与えた「ヘルレイザー」シリーズ。その原点となる作品を、解説いたします。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら

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映画『ヘル・レイザー』の作品情報


(C)New World Pictures

【公開】
1987年(イギリス映画)

【原作・脚本・監督】
クライヴ・バーカー

【キャスト】
アシュレイ・ローレンス、アンドリュー・ロビンソン、クレア・ヒギンズ、ショーン・チャップマン、ダグ・ブラッドレイ

【作品概要】
クライヴ・バーカーが自らの世界を映像化し、”魔導士ピンヘッド”の姿と共にホラー映画ファンを虜にした「ヘルレイザー」シリーズの原点となる作品。

本作が映画デビュー作である、ヒロインを演じたアシュレイ・ローレンスは『ヘルレイザー2』(1988)、『ヘルレイザー3』(1992)、そしてシリーズ第6作目となる『ヘルレイザー リターン・オブ・ナイトメア』(2002)に出演しています。

共演は『ダーティハリー』(1971)で、ハリー・キャラハン刑事の宿敵・殺人鬼スコルピオを演じたアンドリュー・ロビンソンに、ホラー映画『ザ・コンヴェント』(2018)に出演のクレア・ヒギンズ、『女王と祖国のために』(1988)のショーン・チャップマン。

“魔導士ピンヘッド”を演じたダグ・ブラッドレイはこの役で怪奇スターの仲間入りを遂げ、世界中のホラー映画ファンから愛される存在になりました。

映画『ヘル・レイザー』のあらすじとネタバレ


(C)New World Pictures

太古より存在する謎のパズルボックス“ルマルシャンの箱”。手に入れたフランク(ショーン・チャップマン)が部屋でそれを解いた時、突如鉤爪の付いた何本も鎖が体に突き刺さります。苦痛に絶叫を上げるフランク。

そして部屋の中には、鉤爪付きの鎖に引き裂かれ、細かく寸断されたフランクの肉片だけが残されていました。その部屋に“魔導士(セノバイト)”たちが現れます。

魔導士の1人“ピンヘッド”(ダグ・ブラッドレイ)がルマルシャンの箱を元に戻すと、部屋の中にあった物は全て姿を消しました……。

それから月日の経ったある日。主のフランクがいない家に、彼の弟であるラリー(アンドリュー・ロビンソン)とその後妻ジュリア(クレア・ヒギンズ)がやって来ます。かつて兄弟が育ち、その後フランクが隠れ家のように使っていたこの家で暮らそうとする2人。

そこにラリーの娘カースティ(アシュレイ・ローレンス)から電話がかかります。ラリーは娘とこの古い家で暮らすことを望んでいましたが、先妻の子であるカースティは父の再婚相手ジュリアに気を遣い、家の近くに1人で済むアパートを見つけていました。

父娘が電話で話している間に、ジュリアはフランクが部屋に残したいかがわしい写真を隠します。ラリーの兄フランクに、特別な感情を抱いているジュリア。

引っ越しでラリー夫妻が荷物を運びこんだ日、カースティも手伝いのため家に現れます。一方継母のジュリアはフランクの思い出にひたっていました。彼女は2階にある、フランクが使っていた部屋に入っていきます。

かつてラリーとの結婚を控えたジュリアに、フランクは言い寄りました。彼女は夫とは異なる加虐的なフランクとの肉体関係に溺れ、今も忘れられずにいました。

そこに荷物運びで手を負傷したラリーが現れます。血を見るのが苦手な彼は、妻に助けを求めました。彼の手から流れた血は床に落ちますが、それは床板に吸い込まれていきます。床板の裏側で血を吸収し、怪しくうごめき始める肉片。

誰もいなくなったその夜、フランクの部屋の床から何かが姿を現します。それは骨や脳髄の形をとると繋がって1つになり、やがて不完全な人間の形になりました……。

その夜ラリーは引っ越し祝いのパーティに、娘カースティや親しい人々を招きます。しかしジュリアは関心の無い様子で、先に席を立ちます。部屋を出た彼女は、フランクの部屋の怪しい物音に気付きます。

部屋に入ったジュリアは足首を掴まれ悲鳴を上げます。逃げようとする彼女を引き留める、床をはって迫り来る血肉と皮膚が欠けた人体……それは復活を遂げたフランクでした。

フランクは、弟ラリーが流した血により復活したとジュリアに告げます。しかし完全な姿の人間として復活を遂げるには、より多くの人間の血が必要だと訴えるフランク。

フランクの部屋から出て、厳しい表情で無言で立っているジュリアの姿を、義娘のカースティは目撃します。

カースティはパーティで親しくなったスティーヴとアパートに戻ります。その道筋で、彼女を見つめる怪しい男の存在に気付きました。

その夜、フランクとの関係が忘れられないジュリアは、ひそかに彼の元を訪れ完全な復活を手助けすると約束します。同じ頃、悪夢にうなされてスティーヴに起こされ、不安に駆られ父ラリーに電話をかけるカースティ。

ラリーは無事で彼女は安心します。しかしその会話を盗み聞きしていたフランクは、若いカースティに興味を示したようでした。

翌日、街に出たジュリアは酒場で男を誘惑し家に誘い、フランクが潜む2階の部屋に案内します。部屋に入れると、彼女は隙をみてハンマーで男を殴り殺します。

返り血を浴びて立つジュリアの前に、フランクが現れ部屋から出ろと命じます。部屋に戻ったジュリアが目にしたのは、無残な姿になった男の死体と、皮膚の無い状態にまで再生したフランクの姿でした。

そこにラリーが帰ってきます。ジュリアは男の死骸を片付け夫の目を欺きますが、彼女に更なる犠牲者を要求するフランク。

ペットショップで働くカースティの前に、パーティの夜に見かけた怪しい男が現れます。声をかける彼女に構わず、バッタの入ったケースに手を入れ、掴んだバッタをむさぼり喰う男。スティーヴが現れた時、不気味な男の姿は消えていました。

犠牲となる新たな男を誘い込んだジュリアは、前回と同じ手口で殺害します。男の死体から血を得るフランク。彼の意に従うジュリアに良心の呵責は無く、まるで殺人を犯す快感に目覚めたように見えました……。

以下、『ヘル・レイザー』ネタバレ・結末の記載がございます。『ヘル・レイザー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)New World Pictures

ジュリアが殺害した男の血で、より完全な姿に近づいたフランク。どうしてこうなったのか説明を求めるジュリアに、彼はルマルシャンの箱を見せました。

箱に触ろうとするジュリアに、それは危険な世界への門を開くパズルだと警告するフランク。そして天国か地獄につながる異界への「悦びへの扉」を開く箱だと説明します。

退廃的な男フランクは、究極の快楽を求めてルマルシャンの箱を開きました。現れた魔導士は彼に限界を超えた体験、痛みと不可分である快楽を永遠に与えたのです。そのイメージにショックを受けるジュリア。

フランクは現世に復活したことで、魔導士が与える永遠の悦びと責め苦から逃れました。もう彼らは追って来ないだろうと言うフランクに、ジュリアは共に生きると約束します。

夫と居間で過ごしていても、全く無関心な態度のジュリア。雷鳴に紛れフランクの叫び声が聞こえます。止めようとする彼女に構わずフランクの部屋に入るラリーですが、中に誰もいません。

そのままジュリアの体を求めるラリーですが、姿を現したフランクを見て彼女は夫を拒絶します。

妻に疑念を抱いたラリーは、その後カースティと食事をした際に、ジュリアが何かを自分に隠していると打ち明けます。妻には自分には理解できない秘密があると語るラリー。

同じ頃フランクはジュリアに、お前はラリーを愛することは出来ないと告げていました。自分が望んだように、復活のために夫ラリーを殺せと迫るフランク。そして彼女が拒絶すると、フランクは代わりとなる男をすぐに差し出せと命じます。

ジュリアは新たな男を誘惑し家に誘い込んでいました。しかし父から話を聞いていたカースティが、それを目撃していました。

手慣れた様子で男を部屋に案内し、ハンマーで殴りフランクの餌食にするジュリア。何か異様な出来事が起きていると察したカースティは、父の家に入ります。

物音がすると気付き、2階に上がったカースティの前に犠牲となった瀕死の男が、それに続き皮膚を持たぬ姿のフランクが現れます。悲鳴を上げる姪に、自分は叔父だと名乗るフランク。

血みどろの姿のフランクは部屋に彼女を引き込むと、美しく成長したなと告げ協力を迫ります。フランクから逃げようとしたカースティは、部屋にあったルマルシャンの箱を思わず掴みました。

動揺しそれを返せと叫ぶ叔父フランクの姿に、カースティは箱が何か重要なものだと悟ります。窓の外に箱を投げ、その隙に家から逃げ出したカースティ。

呆然自失の状態で歩き、やがて意識を失った彼女の手には”箱”が握られていました。

意識を取り戻したカースティは病院のベッドにいました。彼女は父ラリーに電話をしたいと医師に訴えますが、まだ容態が悪いと拒否されます。また医師は記憶を取り戻す手助けになるだろうと、倒れていた彼女が持っていたルマルシャンの箱を置いていきました。

病室に1人残されたカースティは、美しく奇妙なパズルボックスを手に取ります。その一部が開いた彼女は、魅入られたように箱を操作し始めます。

動かしていると突然電流が走り、彼女はショックで箱から手を離します。ルマルシャンの箱は独りでに、新たな形へと変型し光を放ちました。

病室の壁が開きます。異界への扉が開いたのでした。思わず異界への通路を歩み出すカースティ。

通路の先に醜悪な姿のモンスターがいました。迫りくるモンスターから慌てて逃げ出すカースティ。彼女は何とか元の病室に逃れました。

異界の通路は消えていましたが、壁の向こうからモンスターのうなり声が聞こえます。この状況から逃れようと、彼女は箱を操作します。

ルマルシャンの箱が光ると、今度は壁が光を放ち周囲は異変に襲われます。彼女は病室から逃れようと試みますが、部屋から出られません。

そして部屋に顔面が破壊され、歯がむき出しになった魔道士チャタラーが現れ、捕らわれてしまうカースティ。

続いて肥満した体を持ちサングラスをかけた魔道士バターボール、針金に貫かれ喉を割かれた魔道士フィメール、そして魔道士たちのリーダーであるピンヘッドが姿を現しました。

何が起きたか理解出来ないカースティに、我々は快楽の領域を広げる案内人と告げ、召喚したのはお前かと尋ねるピンヘッド。4人の魔導士は、彼女を苦痛と快楽に満ちた地獄へ連れて行こうとします。

必死に逃れようとするカースティはピンヘッドの言葉から、魔導士たちが彼らを呼び出したものの、のちに逃亡したフランクを追っていると気付きました。

フランクの行方を教えるので解放して欲しいと訴えるカースティ。我々を騙したらお前の魂を引き裂くと告げ、他の魔導士と共に姿を消すピンヘッド。

その頃ジュリアはフランクに、義娘のカースティは目撃したことを父ラリーに警告し、警察にも話すと不安を訴えます。しかしフランクの望みは、新しい皮膚を手に入れることでした。そこにラリーが帰ってきます……。

スティーヴが見舞いに訪れた病室に、カースティの姿はありません。彼女は父の家に向かっていました。

激しくドアをノックする彼女を、継母のジュリアが迎え入れます。無事なラリーの姿を見て思わず抱きつくカースティ。

彼女は2階に恐ろしい姿の叔父フランクが潜んでいて、父を殺そうとしていると訴えます。しかしラリーは、フランクは死んだから安心するように告げました。

狂気に囚われた兄フランクの魂を解放した、と説明するラリー。優しく血を見るのも苦手な父の言葉と思えず、カースティは動揺します。

フランクの死体を見たいという義娘を、ジュリアが部屋に案内します。そこには皮膚の無い死体が転がっていました。部屋で1人になった彼女の前に、魔導士たちが現れました。

フランクの身柄を要求する魔導士たち。カースティは目の前の死体は父ラリーだと訴え、部屋を飛び出します。その彼女の行く手を遮るジュリア。

カーステイは義母の手を逃れ、現れた父に家から逃げようと叫びます。しかし私たち家族は一緒にいるべきだと話すラリー。

彼女は父の正体に気付き、頬を引っ掻きます。その皮膚は簡単に破れ傷付きました。目の前にいるのは父ラリーの皮膚を身にまとった、叔父フランクでした。

ナイフを取り出したフランクは、ジュリアに捕らえられたカースティに襲い掛かります。彼女が身をかわした結果、刃はジュリアに刺さりますが、そのままナイフを突き立て、彼女から精気を奪い始末するフランク。

父の姿をしたフランクに追われ、2階に追い詰められるカースティ。そこには犠牲者の遺体がありましたが、彼女は必死に耐え悲鳴を上げません。

しかし緊張に耐えられず、隠れ場所を出たカースティの前にフランクが現れます。彼女は叔父に追われフランクの部屋に入ります。そこにはラリーの死骸が横たわっていました。

勝ち誇るフランクの前に、4人の魔導士が現れます。彼はカースティが魔導士を呼び出したと悟ります。彼女を襲おうとして、魔導士が操る鉤爪付きの鎖に囚われたフランク。

魔導士たちとカースティが見守る中、フランクは次々と鉤爪付きの鎖に体を拘束され、四方に体を引かれました。肉体が引き裂かれる直前、フランクが味わっていたのは究極の苦痛、それとも快楽だったのか……。

やがてカースティの前に魔道士フィメールが現れます。魔導士から逃れようとルマルシャンの箱を元の形に戻そうと試みるカースティ。彼女の背後には魔道士ピンヘッドが現れます。

彼女にも永遠の悦びと責め苦の世界を見せようと告げるピンヘッド。カースティはパズルボックスを元の形に戻し、ピンヘッドを異界に戻しました。

家が崩壊する中、箱の力でフィメール・チャタラーも異界に帰したカースティ。彼女を助けに現れたスティーヴに襲い掛かった魔道士バターボールは、崩れ落ちたガレキの中に姿を消します。

スティーブが玄関を開けようとした時、箱は独りでに形を変えました。ドアを開くと、出現した異界のモンスターに襲われた2人。

奪われそうになるルマルシャンの箱を、カースティは必死に元の形に戻します。モンスターは姿を消し、2人は外に出ることが出来ました。

カースティは恐るべき箱を、焚火にくべて処分しようと試みます。そこに彼女の前に何度も現れた、怪しい男がやって来ます。

男は焚火の中に入ると箱をつかみ取り、炎に包まれます。その姿は異形の怪物に変わり、箱をつかんだまま飛び去って行きました。

そして、どこか遠い地でルマルシャンの箱は、究極の快楽を求める新たな所有者の手に渡されていました……。

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映画『ヘル・レイザー』の感想と評価


(C)New World Pictures

SM的世界をダーク・ファンタジー風に描いた、「ヘルレイザー」シリーズの原点となるスプラッター・ホラー。スタイリッシュなボンテージファッションで登場する“魔導士(ゼノバイト)”について、監督のクライブ・バーカーはこう語っています。

「パンク文化、カトリック教会、そして訪れたNYとアムステルダムにあるSMクラブに影響を受けて誕生した」と。

その強烈な姿は後のサブカルチャー、特に日本のコミックに大きな影響を与えています。荒木飛呂彦もこのキャラクターを絶賛していますが、彼の代表作「ジョジョの奇妙な冒険」の連載開始は、『ヘル・レイザー』が製作されたのと同じ1987年でした。

最も影響を受けたコミックと言えば三浦建太郎の「ベルセルク」。この人気作を代表する場面といえば、第12巻・13巻で描かれた異界から怪物があふれ出す“蝕”のシーン。怪物こと使徒の頂点に立つ、4人の“ゴットハンド”が登場しますが、その姿は「ヘルレイザー」シリーズの“魔導士”からインスパイアされたものです。

人間界とは異なる異界の存在、激しいバイオレンス描写……設定など様々な面でも本作から影響を受けた「ベルセルク」は、1989年から不定期連載が開始されました。

ゲームの世界にも大きな影響を与えています。1996年に発売された、「バイオハザード」シリーズに登場する敵キャラクターの姿にも、“魔導士”からの影響が見てとれるでしょう。

多くのクリエイターを刺激したホラー映画の傑作『ヘル・レイザー』。過去のホラー映画へのオマージュとパロディ満ちた作品『キャビン』(2012)にも、本作が元ネタのキャラクターとアイテムが登場しています。

原作者こだわりの世界を自ら映像化


(C)New World Pictures

スティーブン・キング作品に代表される、「モダンホラー」と呼ばれるホラー小説たち。日常に潜む恐怖を描くなど様々な特徴が指摘されていますが、その一つが濃厚で綿密な描写。これは新世代のホラー作家が、映画やテレビの映像によって表現された恐怖に影響を受け触発された結果と言われます。

クライヴ・バーカー作品はその代表で、極めて詳細に残酷でグロテスクな描写を描いています。活字であっても苦手、という人なら逃げ出す記述と言ってよいでしょう。

劇作家として舞台演出に関わり、イラストレーターとしても活躍しているクライヴ・バーカー。短編映画の監督経験もある彼は、自作を映像化した映画に並々ならぬ思い入れがありました。

しかし彼の原案・脚本を映画化した『アンダーワールド』(1985)、『ロウヘッド・レックス』(1986)は彼が満足する作品にはなりません。これらは恵まれた環境で作られたとは呼べないものでした。ならば自ら製作・脚本を担当し、監督も務め望む映画を作ろうと挑んだのが『ヘル・レイザー』です。

グロテスクだけではない、どこかセンチメンタルな作風

参考映像:『ミディアン』(1990)

彼の望むビジュアルを目指した『ヘル・レイザー』。当時爛熟期を迎えていた特殊メイク技術を使い、現在見ても強烈な人体破壊シーンを登場させています。

光学合成や異界のモンスターの造形など、当時の技術的ではご愛敬といった要素もありますが、彼の世界観を見事に映像化した作品です。人によっては作りものの怪物や残酷描写より、本物の虫やネズミのシーンの方が苦手、という方もいるかもしれません。

ちなみにアメリカでは映倫にSMじみたシーンが問題視された『ヘル・レイザー』。イギリスでは「撮影でネズミが傷付けられていないか」が審査の対象になった、と本作のプロデューサーは証言しています。“魔導士”が聞いたらどんな顔をするでしょうか。

極めて悪趣味な映画と思われがちですが、『ヘル・レイザー』は「邪悪な悪い継母から、父を守ろうとする娘」のお話。物語の根幹にはおとぎ話的要素があります。

その悪い継母も、許されぬ関係とはいえ夫の兄へ一途で盲目な愛を捧げています。SM的拷問をテーマにした猟奇的な映画ながら、ロマンチックな雰囲気を漂わせているのも見逃せません。

また劇中ではキリスト教的なアイテムが否定されています。これは宗教への反発というより、世間の常識・良識の名の元に行われる抑圧を否定した態度と受け取るべきでしょう。

「究極の快楽」を求めてしまう。そんな一般とは異なる価値観を時に抱く、それが人というもの。歪な思いを抱くマイノリティーへの関心が、クライヴ・バーカー作品に貫かれているのです。

彼は次に原作・脚本・監督を務めた映画『ミディアン』(1990)で、そんな異形の者たちへの憧れ……煩わしく、連続殺人鬼の精神科医(演じるのはデヴィッド・クローネンバーグ!)に追われる人間社会より、闇の世の住人が住む異界の方が幸せかも……といった憧れを描きました。

まるで泉鏡花や水木しげる作品のように、異形の者が住む世界への憧れを描くクライヴ・バーカー。これが血みどろホラー以外の面で、多くの人々に愛されている理由です。

まとめ


(C)New World Pictures

「ヘルレイザー」シリーズの映画は、2018年までに合計10本が作られました。しかし第1作に満足したのか、クライヴ・バーカーは2作目以降は製作総指揮、やがて原案のみと製作の現場から離れていきました。

その結果、シリーズはジェイソンの「13日の金曜日」(1980)シリーズ、フレディの「エルム街の悪夢」(1984)シリーズ同様の迷走を繰り広げます。

そんな作品に触れるのも、B級映画の楽しみ方の一つ。これらの作品を通して登場したのは“魔道士ピンヘッド”であり、ほとんどの作品でこの役を演じたダグ・ブラッドレイこそ、このシリーズの顔と呼ぶべきでしょう。

しかし。アメリカのHBOが「ヘルレイザー」シリーズのドラマ化を発表。パイロット版は製作されましたが、パンデミックの影響で以降のエピソード製作は停止。まだリリース日は未定ですが、2021年中に製作が再開される予定になっています。

そして2022年公開を予定して、第1作『ヘル・レイザー』のリブート版も製作されています。監督は『ザ・リチュアル いけにえの儀式』(2017)のデヴィッド・ブルックナー、そして製作・脚本にはクライヴ・バーカーが久々に参加しています。

ドラマだけでなく、ついに原作者が参加して製作される新作リプート版待機中の『ヘル・レイザー』。その原点をお楽しみ下さい。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら




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