連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第28回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第21回は、映画『エクソシスト ビギニング』です。
本作は1973年に公開され世界中にオカルトブームをまき起こした、映画『エクソシスト』で、悪魔に憑りつかれた主人公のリーガンに、悪魔祓いを施したメリン神父にフォーカスし、彼がエクソシストとなったきっかけを描いた作品です。
監督は『エルム街の悪夢4』(1989)が、ハリウッド初監督でこの作品のヒットによりブルース・ウィリス主演のヒットシリーズ『ダイ・ハード2』(1990)、シルベスタ・スタローン主演『クリフハンガー』(1993)などが代表作となった、レニー・ハーリンが務めます。
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CONTENTS
映画『エクソシスト ビギニング』の作品情報
(C)2004 Morgan Creek Productions.
【公開】
2004年(アメリカ映画)
【原題】
Exorcist: The Beginning
【監督】
レニー・ハーリン
【脚本】
ウィリアム・ウィッシャー、アレクシ・ホーリー
【キャスト】
ステラン・スカルスガルド、 ジェームズ・ダーシー、イザベラ・スコルプコ、レミー・スウィーニー、アンドリュー・フレンチ、ジュリアン・ワダム、デイビッド・ブラッドリー、アラン・フォード、ラルフ・ブラウン、アントニー・カメルリング
【作品概要】
主演は『The Simple-Minded Murderer』(1982)で、ベルリン国際映画祭の男優賞を受賞し、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのビル・ターナー役、第76回ベネチア国際映画祭で賛否両論をまき起こしながら、ユニセフ賞を受賞した『異端の鳥』(2020)に出演した、ステラン・スカルスガルドがメリン神父役を演じます。
共演は『007 ゴールデンアイ』(1995)のボンドガール、イザベラ・スコルプコがドクター・サラ役、『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』(2011)のジェームス・ダーシーがフランシス神父役を務めます。
映画『エクソシスト ビギニング』のあらすじとネタバレ
(C)2004 Morgan Creek Productions.
おびただしい数の兵士の遺体が横たわり、それに群がるカラスのいる砂漠に、1人の司教がさまよい歩いている。
彼は怯え切った表情のまま祈りを唱え、ある若き神父の亡骸を見つけるとに近づいた。
神父の手元には悪魔を模った像の頭が転がっていて、司教がそれを拾おうとしたとき、突然神父は司教の腕を掴み、何かを訴えると絶命します。
風が吹き荒れる中、司教の目の前には軍の兵士や先住民が、逆さの十字架にはりつけとなった地獄絵図が遥か遠くまで広がっていた。
第二次世界大戦の終戦から4年が経った1949年、世界中の遺跡を巡る、聖像(イコン)を専門の考古学者ランカスター・メリンは、エジプトのカイロに辿り着いていました。
メリンがバザールの酒場で酒を飲んでいると、収集家の秘書をしているという男のセメリエが、「電報を打った」がと声をかけてきます。
セメリエの用件は東アフリカで発見された、5世紀ころの教会の遺跡から、古代神話に出てくる悪魔の彫像を捜し、持ってきてほしいというものでした。
メリンは5世紀ころの東アフリカにはまだ、キリスト教は広まっていないと話すが、セメリエは実際にイギリスが発見し調査がはじまっていると、古い悪魔の顔の革細工のようなものを出します。
セメリエは「それと同じような顔をした彫像を持ち帰ってくれ」というと、興味を示したメリンに現金を差し出し、発掘にメリンが参加する許可まで取り付けていると告げます。
ケニアのナイロビにあるイギリス軍司令部に、メリンは訪れ軍隊の行進訓練の足音を聞きながら、神父をしていたころのことを思い出しかけていました。
発掘担当者のグランヴィル少佐は遺跡の場所を、トゥルカナ地方のデラーティだと説明していると、部屋に宣教師のフランシス神父が入ってきます。
フランシスは遺跡への同行者です。彼は神学校時代にメリンの書いた、儀式に関する著作は力作だと敬意を示しました。
彼は布教で訪れたタイミングで遺跡が見つかり、教皇庁から“汚されないように見張れ”と命ぜられたと話します。
フランシス神父は誰がどんな目的で建てた教会なのか、教皇庁の記録には残っていない教会で、手探りな状況だとメリンを頼りにしました。
メリンとフランシスは通訳のチューマに、発掘現場まで案内されます。途中多くの小さな十字架が立ち並ぶ墓地にさしかかりました。
チューマは50年前に流行した、疫病で死んだ者達の墓だと説明します。メリンが何人亡くなったのか聞くと「村人全員だ」と答えます。
現地の村に到着すると酒場で現場監督のジェフリースと、医師のサラ・ノバックに会います。
顔に奇妙な疱瘡があるジェフリースは、建物はしっかりしているが、誰も教会に近づこうとしないため、調査作業は進んでいないと伝えます。
ジェフリースは多くを語らず5分後に現場へ行くと言って酒場を出ました。メリンはなぜ村人は教会に近づかないのかと、サラに聞くと「悪霊がいると信じているから」と答えます。
サラは悪霊の存在を信じていないが、メリンは“神父”だから信じるかと問われると、今は考古学者だと答えます。フランシス神父がメリンを神父だと紹介していたのです。
フランシスは布教活動に使っているホテルのオーナー、エメクイと2人の息子兄ジェームスと弟のジョセフにも「神父」としてメリンを紹介します。
メリンとフランシスは教会のある遺跡現場へ向かいます。メリンは屋根の部分だけ出土した教会に近づき、壁に付いた土を掃い装飾されたタイルを見ると言います。
「何か変だ・・・。1500年も経っているのに風化していない。まるで完成してすぐに埋められたようだ」
映画『エクソシスト ビギニング』の感想と評価
(C)2004 Morgan Creek Productions.
映画『エクソシスト ビギニング』は、「エクソシスト」で救世主となったメリル神父の過去に迫ったストーリーでした。「エクソシスト2」でもこのメリル神父は謎の存在として登場し、1人のアフリカ人少年を悪魔から救い、成長して存在している・・・という、くだりが出てきます。
その少年が“ジョセフ”なのかと思いましたが、「エクソシスト2」で言われる少年の名前は“コクモ”なので、これとは繋がりませんでした。
「エクソシスト」シリーズは、リーガン、サラと女性に憑りつく悪魔が出てきますが、その題材となっている悪魔は主に“パズズ”と呼ばれる魔人で、『エクソシスト ビギニング』に出てくる彫像もパズズです。
魔人パズズと妻の魔人ラマシュトゥ
メソポタミア文明から誕生した、魔人パズズはその醜い顔によって、あらゆる悪魔をもたじろがせた力があったため、魔除けに使われていたともいわれています。
また、パズズには妻がいたともいわれ、それが“ラマシュトゥ”と呼ばれる魔の女神です。ラマシュトゥはパズズと別れたあと、宿敵関係になったと言い伝えられています。
ラマシュトゥは生まれたばかりの赤ん坊や妊婦に興味を持ち、子供を誘拐したり、妊婦から胎児を引きずりだし喰らう悪魔だといわれ、犬などの獣も巧みに操ります。
ラマシュトゥはパズズの醜い顔を恐れたので、メソポタミア時代では、幼い子供のいる母や妊婦は護符として、パズズを持ちラマシュトゥから保護していました。
また、ラマシュトゥは男性を誘惑する、“淫魔”とも呼ばれているので、エクソシストに登場する悪魔は“ラマシュトゥ”という説も考えられるでしょう。
この2つの悪魔が元夫婦で敵対していたと知ると、ベシオンがサラに対して冷淡になったことで、夫婦関係が微妙になったサラに憑依した要因とも考えられます。
もう1つの『エクソシスト ビギニング』
(C)2004 Morgan Creek Productions.
「エクソシスト」シリーズといえば、製作に関わった関係者に不幸が起こるという、曰くつきの作品です。本作に関しては当初、監督がジョン・フランケンハイマーで決っていたところ急逝し、ポール・シュレイダーによって撮影されました。
ところが完成したものを見た製作会社から、“恐怖”が少なく地味な仕上がりだとダメ出しがあり、レニー・ハーリンの監督でシーンが追加され再構成し、劇場公開がされたという経緯がありました。
よって、映画『エクソシスト ビギニング』には2パターンあり、DVD化し仕上がりの違う2つの“ビギニング”を見比べる・・・といった企画も持ち上がりましたが、それは幻となりポール・シュレイダー作品は、2005年期間限定で劇場上映がされました。
ポール・シュレイダー監督のビギニングも気になりますが、“地味”という意味では、2019年の監督作品『魂のゆくえ』のような精神に訴えるイメージを思い浮かべます。
やはり、「エクソシスト」シリーズは一筋縄ではいかない、曰くの多い作品だといえるでしょう。
まとめ
(C)2004 Morgan Creek Productions.
映画『エクソシスト ビギニング』は、第二次世界大戦時にナチスの残虐行為により、神に仕える神父でありながら、その片棒を担がされてしまったメリンが、自責の念と神の存在に疑念を抱き、神父を辞め葛藤の末、悪魔と対峙したことで、エクソシストとしての一歩を踏みだしました。
何を信じていいのかわからない。自分でさえも信じられなくなる・・・生きているとそういう壁や場面にぶつかることもあるでしょう。
逃げていてもなんの解決にもならないことや、疑心暗鬼は和を乱すということを映画『エクソシスト ビギニング』は、疑似的にそれを感じさせました。
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