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【ネタバレ】デイ・オブ・クライシス|あらすじ感想評価と結末解説。社会派アクション映画が描く“フィンランドNATO加盟問題”|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー103

  • Writer :
  • 秋國まゆ

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第103回

深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。

そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第103回は、アク・ロウヒミエス監督が演出を務めた映画『デイ・オブ・クライシス ヨーロッパが震撼した日』です。

12月6日、フィンランドの首都ヘルシンキにある大統領宮殿ではフィンランド独立記念日の式典が行われていました。しかしテロリストの襲撃を受け、大統領をはじめ世界各国の要人が人質に。

戦争犯罪人の釈放と逃走用の飛行機を要求するテロリスト相手に、人質にされた要人の奪還に挑むEU合同警察捜査官の姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。

2021年製作のフィンランドのポリティカル・アクション映画『デイ・オブ・クライシス ヨーロッパが震撼した日』をネタバレ有りあらすじとともにご紹介いたします。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら

映画『デイ・オブ・クライシス ヨーロッパが震撼した日』の作品情報


(C)Cinematic Productions S Oy 2021

【日本公開】
2022年(フィンランド映画)

【原題】
Omerta 6/12

【原作】
イルッカ・レメス『6/12』

【監督】
アク・ロウヒミエス

【キャスト】
ヤスペル・ペーコネン、ナンナ・ブロンデル、スヴェリル・グドナソン、キャシー・ベルトン、ニカ・サボライネン、ペルッティ・スベホルム、ヨハン・ウルフサク、ドラゴミール・ムルジッチ

【作品概要】
アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』(2019)のアク・ロウヒミエスが製作・監督を務めた、フィンランドのポリティカル・アクション作品。

新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2022/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2022」(2022年7月15日~8月11日)にて上映された作品です。

原作はフィンランド出身の作家イルッカ・レメスのベストセラー小説『6/12』。また主演を『ラップランド・オデッセイ』(2011)や『ブラック・クランズマン』(2019)のヤスペル・ペーコネンが務めています。

映画『デイ・オブ・クライシス ヨーロッパが震撼した日』のあらすじとネタバレ


(C)Cinematic Productions S Oy 2021

ロシアからのサイバー攻撃に頭を悩ませていた欧州連合(EU)が設立した、対サイバー犯罪専門の組織「EU合同警察部隊(EJPO)」。その人員はEU加盟国各国から集められ、彼らの任務は非公式扱いになることも多々ありました。

とある祝日、エストニア・タリン。EJPOの捜査官マルクス・タナーとシルヴィア・マドセンはある隠密作戦を遂行しようとします。

作戦内容は、サイバー犯罪者のレオニド・ティトフ逮捕に必要な彼のノートパソコンを、ティトフ一家が不在の間に自宅から持ち出すというもの。

最初こそ順調に事を進めていたタナーたちでしたが、いないはずのティトフの子どもが2階の寝室にいたり、売り物件となっているはずの隣家から4人の人間が近づいてきたりなど、予想外の事態が発生。ついにはタナーを急襲した少年を、シルヴィアが誤って射殺してしまいます。

二児の母親でもあるシルヴィアは、血を流して倒れた少年を見てパニック状態に陥ります。

タナーはそんなシルヴィアを連れて、EJPO本部から無線越しに聞こえる指示に従って家から脱出。すぐそばに停められていた味方の車に乗り込み、その場から急いで立ち去りました。

後日のベルギー・ブリュッセル。EJPO本部を訪れたタナーは、この隠密作戦の指揮官であるEJPOのマリー・ルクレールから、ノートパソコンの中身の解析結果を知らされます。

解析の結果、マネーロンダリングや情報操作など、ティトフには不都合なサイバー犯罪の証拠がどっさりと出てきました。

ですが、これらの証拠品はもう使えなくなったと、ルクレールは言います。タナーたちの姿を見られただけでなく、シルヴィアが撃ったのはティトフの息子だったこと、ティトフにはロシアという強力な後ろ盾に守られているためでした。

そのため本作戦で起きたことは組織の規定に従い、EUは関与を否定した上で「ヤク中の強盗犯による強盗殺人事件」として処理されることになりました。

それからルクレールは、タナーたちにひとまず任務から外れてもらい、スウェーデンにいるEJPOの精神科医によるカウンセリングを受けて休養するよう命じます。

それからさらに数日後、徐々に元気を取り戻してきたシルヴィアは仕事に復帰することに。シルヴィアから誘いの電話をもらったタナーは、ヘルシンキにあるビリヤードバーで彼女の復帰を祝います。

シルヴィアはタナーに、新しくEU軍事委員会の委員長に選ばれた、フランスのモレル将軍の護衛につくことになったと報告。タナーから本当に護衛するだけかと怪しまれたものの、シルヴィアは言葉を濁します。

モレル将軍はフィンランドの軍事史に大変深い関心を寄せており、フィンランドのコスキボー大統領と旧知の仲でした。彼がフィンランドとロシアの間に影響を及ぼすのではないかと懸念されている人物だと、タナーは事前にルクレールから聞いていました。

またモレル将軍はこれまで、北大西洋条約機構(NATO)との連携や、EUが協力して防衛力をあげることを推し進めていたのです。

話題を変えようとしたシルヴィアは、タナーになぜ家庭を持たないのかと尋ねました。タナーはシルヴィアの目を見つめながら「一緒に家庭を作ろうと思える理想の相手はいるが、その相手と家庭を作るのは不可能だ」と答えました。

12月6日、ヘルシンキ。フィンランド独立記念日の式典が開かれている大統領宮殿を、テロリストが襲撃しました。

犯人グループは監視カメラを使用不能にして専用サーバーをダウンさせ、さらに周辺の基地局の大半のサーバーもダウンさせて外部との通信を遮断。この高度な電波障害を起こした上で、全ての扉に爆発物を設置しました。

大統領宮殿を掌握したテロリストによって、大統領夫妻とモレル将軍とシルヴィア、そして世界各国の要人たちを人質に。この襲撃事件を受け現場へと急行したタナーは、地元のヘルシンキ警察とフィンランド国家捜査局(NBI)によって編成された対策チームと合流します。

テロリストたちのリーダーであるヴァーサ・ヤンコヴィッチは数百人の人質を解放した上で、衛星電話を使って交渉人のタナーに三つの要求を伝えました。

一つ目は、ヴァーサの父である戦争犯罪人のボリスラフ・ヤンコヴィッチ大佐の釈放。二つ目は、ヘルシンキ・マルミ空港に逃走用の飛行機を燃料満タンの状態で用意すること。

そして三つ目は、30分以内に暗号資産を送受信できる人物を手配し、ビットコインで1億ユーロを送金することでした。

タナーと彼の上司でもあり本件の捜査指揮を担当するヘルシンキ警察のピーター・ニールンドは、コスキボー大統領の救出を最優先に考え、全ての要求を飲むことにしました。

以下、『デイ・オブ・クライシス ヨーロッパが震撼した日』ネタバレ・結末の記載がございます。『デイ・オブ・クライシス ヨーロッパが震撼した日』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)Cinematic Productions S Oy 2021

タナーは現場に駆けつけたフィンランド陸軍のコルテ大佐率いる特殊部隊とともに、大統領宮殿に突入。特殊部隊はホールにいた人質たちの安全を確保しました。

タナーは現場の責任者であるヘルシンキ警察のコスキ警部の指示に従い、犯人グループの脱出経路と思われる地下トンネルへ。トンネルには先行していた味方の警官が四人いるはずでしたが、タナーが駆けつけた時には既に全員殺されていました。

一方テロリストたちは、ヤンコヴィッチ大佐と合流してから二手に分かれていました。

テロリスト三人は人質四人を連れて屋上へ行き、ヘリを使って大統領宮殿から脱出。そのままマルミ空港へ向かいます。

ヤンコヴィッチ親子とテロリスト一人は大統領宮殿の電気を一部復旧させ、エレベーターを使って地下トンネルに降り、警官四人との交戦の末に脱出。逃走用のグレーのボルボの車に乗り込み、マルミ空港へ向かいます。

しかしここで、タナーが運転する車に後をつけられていることに気づき予定を変更。ヘルシンキ郊外の高速道路で落ち合おうと仲間に指示を出します。

タナーは繁華街の地下駐車場にて、逃走車を視認し追跡しました。しかしカーチェイスの末に追い詰められた逃走車に、ヤンコヴィッチ親子の姿はありませんでした。

一方マルミ空港では、ニールンドの指揮の下、ヘルシンキ警察の特殊部隊によって空港周辺の道路を封鎖。ニールンドはヘリにはコスキボー大統領が乗っていると考え、ヘルシンキ警察の特殊部隊に監視を命じました。

やがて、ヘリから七人が全員出てきました。ところが、犯人グループと人質たちは全員同じ服に同じマスクを着用しているため、敵が味方か区別することができません。

したがって人質のうちの一人、シルヴィアが大統領夫妻とモレル将軍の救出のために反撃に出るも、味方の援護を得ることができず………。

テロリスト二人はシルヴィアとモレル将軍を連れて飛行機に搭乗。もう一人は残った大統領夫妻を目がけて銃を発砲し、飛行機に乗り込みました。

この銃撃を受けたのはコスキボー大統領でした。マルミ空港に駆けつけたタナーは、ストレッチャーに乗せられたコスキボー大統領と、悲しみに暮れる大統領夫人を見て、大統領が殺されたことを悟りました。

その後、タナーとニクルンド、ルクレールはフィンランドの高官と情報のすり合わせを行う協議に参加しました。

リモートで参加したルクレールは、テロリストたちとシルヴィアたちが乗った飛行機は国境を越え、ベラルーシの空域に入ったという、NATOから提供された情報を報告。またヴァーサの目的は父親の救出であり、大統領暗殺は別の誰かの指示によるものだという自身の推理を伝えました。

これを聞いたタナーは、事件の黒幕はティトフと、フィンランドのNATO加盟を阻止しようとしているロシアだと推測。協議後、タナーとヘルシンキ警察は駆けつけたフィンランドの首相に、部隊の追加投入を要請しました。

これに対しフィンランドの首相は、コスキボー大統領を殺したテロリストの目的を理解した上で、今は大統領の死を国民に発表することと、新しい大統領を決めて国の防衛力を強化することが先決だと答えました。

ニールンドも、「これから喪に服すフィンランドにEUからの支援を頼むにしても、実際にことを動かすには面倒な手続きで雁字搦めになる」との見解を示し、後は世界トップクラスを誇るフィンランドの情報機関「安全保障情報庁(SUPO)」に任せるしかないと言いました。

ならば自分が二人の救出のためにベラルーシに行こうと決断したタナーは、ルクレールにシルヴィアをモレル将軍の護衛につかせた責任をとるべきだと言って協力を求めました。

実はシルヴィアの本当の任務はモレル将軍の護衛ではなく、彼を監視・偵察することでした。それはモレル将軍がヤンコヴィッチを拘束した作戦の指揮官であり、NATO支持派としてロシアへの制裁強化を勧めている人物であったからです。

多少なりとも責任を感じていたルクレールは、衛星での監視と国境からの脱出手段を提供するつもりですでに動いていました。

ルクレールはテロリストたちを乗せた飛行機の行き先は、ベラルーシ空軍基地だとタナーに教えます。そこはイギリスのEU離脱の際にサイバー犯罪集団が使っていた古い工場跡地にあり、その一帯はベラルーシの国家権力も及ばない無法地帯でした。

またベラルーシに向かうタナーへの支援として、ルクレールは中止になった隠密の軍事作戦のために待機させていたEJPOの傭兵ジョンジーとシンクレアを派遣しました。

タナーはヘリを使って国境を越え、ベラルーシとリトアニア間の国境でジョンジーたちと合流。土地勘がある彼らにベラルーシ空軍基地まで案内してもらい単身潜入します。


(C)Cinematic Productions S Oy 2021

一方テロリストたちは、ベラルーシ空軍基地に到着。そこにはティトフと彼を守る傭兵部隊が待ち構えていました。ティトフはヴァーサに「親父さんのことは気の毒だった」と言いました。

ヤンコヴィッチ大佐はここへ来る途中、飛行機のパイロットとして潜入していたヘルシンキ警察の警官に銃撃され、死んでしまいました。

ティトフが軽く挨拶をすませると、建物屋上にいた傭兵たちがヴァーサと一緒にいたテロリスト三人を射殺。ティトフは基地内に築いた自らのアジトに、ヴァーサとシルヴィアたちを招き入れました。

傭兵に隣の建物へとヴァーサを連れていかせた上で、ティトフはモレル将軍に「ロシアを後ろ盾にした極右グループの一員」という本当の顔を世間に公表するよう命じます。

モレル将軍の告白を録画した後、ティトフはシルヴィアに「自分の子供に危害を加えられたくなければ、私の子供を殺したのはヤク中の押し入り強盗犯ではなく、お前だと世界に公表しろ」と脅迫。そして、私の子どもが殺された任務の責任者と、その任務に関わったEUの連中全員の名前も吐き出せ」と付け加えました。

その頃タナーは、ルクレールの静止する声を聞かず、敷地内で見つけたヴァーサを追跡。

襲いかかってきた傭兵のセルゲイを始末した上で、ヴァーサに「将軍たちは?」「ヘルシンキでお前たちを支援していたのは誰だ?」と尋ねます。これに対しヴァーサは「将軍たちはこの隣の建物にいる」「俺たちを支援していたのはロシアだ」と答えました。

シルヴィアが口を開こうとしたその時、その場にいた傭兵が持っていた無線から「警戒せよ、人質(ヴァーサ)が逃げた」との声が聞こえてきます。

その声にティトフたちが気を取られた一瞬の隙をついて、シルヴィアはティトフから銃を奪い、その銃を使って傭兵たちを次々と射殺。倒した傭兵から機関銃を奪ったシルヴィアは、モレル将軍にも銃を持つよう言い、彼を連れて部屋の窓から屋上に逃げ込みます。

ティトフは他の階にいた傭兵たちに、屋上に逃げたシルヴィアたちを追うよう命じました。

ヴァーサはこの混乱に乗じて、車を奪ってベラルーシ空軍基地から脱出。シルヴィアはモレル将軍と共に傭兵部隊と交戦しつつ、EJPO本部に空からの支援を要請します。


(C)Cinematic Productions S Oy 2021

タナーは手榴弾を使って、ティトフとその一味が所有するデータの大半を建物もろとも破壊していきました。またシルヴィアからの支援要請を受け、ルクレールは部下にヘリを派遣するよう命じます。

ティトフによって大勢の傭兵が屋上へと送り込まれていく中、タナーは屋上にいるシルヴィアたちと無事合流。発煙筒を上げ、空からやって来たヘリに居場所を知らせます。

タナーが敵への目くらましのために発煙筒を追加で上げたおかげで、シルヴィアたちは無事保護されました。タナーもヘリへと急ぐものの、敵があまりにも多すぎてこのままでは撃墜されるからと判断したパイロットは、彼を待たずにヘリを上昇させてしまいました。

それを聞いたルクレールは、ベラルーシ空軍基地にこのままタナーを置いていくと決断します。

残されたタナーは自力でベラルーシ空軍基地から脱出。敵からの集中攻撃を受けている彼を、ジョンシーたちが援護します。

後日。ロシア・サンクトペテルブルクに逃亡したティトフのもとに、謎の女が現れました。

彼女の名前はアーニャ。大統領宮殿襲撃事件の2週間前にヴァーサに弁護士と名乗って接触し、甘い言葉を囁いて彼をテロ行為に加担させた人物です。

「あなたの御父上は無実の罪を着せられて刑務所に収監されている。そしてEUはあなたの国の歴史を都合よく書き換えた」「お父上の国への貢献に報いるため、私の雇い主はあなたたち親子に再起するチャンスを差し上げたい」と言って。

「俺は傭兵でも犯罪者でもない」と答えたヴァーサに対し、アーニャは「元軍人の中にはあなたの御父上と、戦死したあなたのお兄様に今でも忠誠を誓っている者が多い。彼らがあなたを助ける」と言って安心させます。

父親を助けて息子だと認められたい、借金返済のための大金がほしいという気持ちが強かったヴァーサは、アーニャの誘いに乗ってしまいました。

そんなアーニャに、ティトフは「ヴァーサはあの大統領暗殺作戦では確かに使える男だったが、逃亡者となった今や野放しになった」「あいつを見つけ出して始末してくれ。俺の上の連中があいつの死を望んでる」と言いました。

アーニャは席を立ち、「残念ね、私の上の連中が望んでるの」と言ってティトフの首にナイフを突き刺して殺します。

さらにアーニャは、スイス・ジュネーブでバカンスを楽しんでいたモレル将軍を注射を使って暗殺した上で、カナリア諸島・テネリフェ島に逃亡していたヴァーサの元を訪れました。

ヴァーサは、アーニャは自分を始末しに来たとばかり思って死を覚悟しました。ですがアーニャは、ヴァーサを殺しにきたのではなく、アルゼンチン・ブエノスアイレスにいる友人が面倒を見てくれると伝えにきただけでした。

タナーはフランス・パリにいるルクレールのもとを訪れ、ベラルーシでなぜ自分を置き去りにしたのか尋ねます。

ルクレールは「あなたも私もプロとして、与えられた任務を全うしなければならない」、「私は命令を下し、あなたはそれに従う」と答えました。

タナーがなぜコスキボー大統領は殺されたのか尋ねると、「大統領はフィンランドがNATOに加盟できるように、国の世論を導いていた」「ティトフを背後から操っていたロシアの連中は、フィンランドのNATO加盟を遅らせたがっていた」とルクレールは答えました。

そしてルクレールは、「ティトフはいずれ捕まるし、ヴァーサのあの一件で用済みとなった」と言い、タナーに仕事に復帰できるか尋ねます。

その頃シルヴィアは、スウェーデン・ハパランダで2人の娘と幸せな時間を過ごしていました。

タナーはシルヴィアと再会し、話したいことがあると改めて伝えます。それに対しシルヴィアは、「言っとくけどマルクス・タナー、不可能なんてないから」と答えました。

映画『デイ・オブ・クライシス ヨーロッパが震撼した日』の感想と評価


(C)Cinematic Productions S Oy 2021

人質救出のために奮闘したタナー。実は彼は、ティトフのノートパソコンを手に入れるための任務で一緒になった同じFJPOの捜査官のシルヴィアに好意を寄せていました。

タナーは意を決して任務直前にそのことを打ち明けようとしますが、その任務でシルヴィアが精神を病んでしまったため、結局伝えることはできず………。

シルヴィアはタナーが自分に好意を寄せていることを察していたのでしょう。タナーが本心を言うチャンスを与えます。

ですがタナーは、シルヴィアは既婚者で2人の娘がいる母親であること、自分の本心を伝えたことで今の関係が壊れてしまうのではないかと色々考えた上で、胸に秘めたままでいることを選びました。

シルヴィアへの好意を匂わせておきながら、彼女のことを考えて本心を言うのを躊躇するタナーをもどかしさを感じつつ、彼の複雑そうな表情を見ると切なくなってきます。

ですがタナーが単身ベラルーシ空軍基地に潜入し、窮地に陥っていたシルヴィアを救ったことで、彼らの関係は大きく変化しました。

その証拠に物語のラストで、改めて話があると言ったタナーに対し、シルヴィアは彼の告白を受け入れるかのような言葉を贈りました。

また後日談におけるシルヴィアは、二人の娘と三人で食事している姿しか描かれていません。とすると、シルヴィアはシングルになったのではないかと推察できます。

まとめ


(C)Cinematic Productions S Oy 2021

EJPOの捜査官が人質救出のため、たった一人でフィンランドの大統領を殺したテロリスト集団のアジトに潜入する、フィンランドのポリティカル・アクション作品でした。

本作の見どころは、タナーたちのヘルシンキでの戦いと、物語の後半に描かれるヘルシンキ空軍基地での銃撃戦と壮絶な脱出劇、そしてタナーとシルヴィアの関係性の変化です。

ヴァーサは金持ちになるほどの大金を得るため、そして戦死した兄だけでなく、自分も血の繋がった息子だと父に認められたい一心で、テロリストとなってしまいました。

そんなヴァーサを雇ったアーニャという自称弁護士の女性。アーニャは一体何者なのか、彼女の雇い主は一体誰なのか、結局最後まで作中で明かされることはありませんでした

また本作では、現実世界で進行しているフィンランドのNATO加盟問題。ロシアのウクライナ侵攻によって世界が目撃したヨーロッパの危機が、とても他人事とは思えないほどリアルに描かれています。

超リアルかつタイムリーなポリティカル・アクション超大作が観たい人に、とてもオススメな作品です。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら




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