連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第122回
疎遠だった母を亡くしクリスマスに帰省した小説家と、「生みの母」を探し続ける女性の出会いと心の交流を描き出したNetflix映画『ノエルの日記』。
監督を『花嫁のパパ』(1991)『アルフィー』(2004)などで知られる大ベテランのチャールズ・シャイアが務めています。
それぞれの母の輪郭を追う旅の果てにたどり着いた、愛おしい絆と未来とは?
本記事ではネタバレあらすじとともに、映画『ノエルの日記』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『ノエルの日記』の作品情報
【配信】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
The Noel Diary
【原作】
リチャード・ポール・エヴァンス
【監督】
チャールズ・シャイア
【脚本】
チャールズ・シャイア、レベッカ・コナー、デビッド・ゴールデン
【キャスト】
ジャスティン・ハートリー、バレット・ドス、エッセンス・アトキンス、ボニー・べデリア、ジェームズ・レマー、アーロン・コスタ・ガニス、ジェフ・コーベット、アンドレア・スーチ、ルシア・スピーナ
【作品概要】
疎遠だった母を亡くしクリスマスに帰省した小説家と、「生みの母」を探し続ける女性の出会いと心の交流を描き出したロマンスドラマ。
監督は『花嫁のパパ』(1991)『アルフィー』(2004)などで知られる大ベテランのチャールズ・シャイア。ジェイク役をドラマ『ヤング・スーパーマン』(2001〜2011)のジャスティン・ハートリー、レイチェル役を『STATION 19』(2018〜)のバレット・ドスが演じる。
映画『ノエルの日記』のあらすじとネタバレ
クリスマスが近づく12月。愛犬エヴァともに暮らすベストセラー作家ジェイク(ジェイコブ)・ターナーの元に、一本の電話が入ります。
電話の主は弁護士のマット。ジェイクの母ロイスの遺産管理人であるという彼を通じて、ジェイクは長い間疎遠だった母の死を初めて知ります。
遺産相続の手続き、そして独居生活であった母が遺した家の掃除・整理をするため、クリスマスに帰省するジェイク。それは18歳で家を出てパリへと渡った彼にとって、ほぼ20年ぶりの帰省でした。
年月を経てあちこちが痛んでいる家に入ろうとした時、街灯の下に立ち、家の様子を窺っている女性をジェイクは見かけます。
母が引きこもり状態であったこともあり、家の中はゴミだらけ。実家の隣人である老婦人エリーとの再会を喜びながらも、家の中の掃除を少しずつ始めます。
掃除を進めていく内に母ロイスの私物がしまわれた箱、そして誰かの日記を見つける中、以前見かけた女性が家を訪ねてきます。
女性の名前はレイチェル・キャンベル。「生みの母を探している」という彼女は、生みの母が昔ターナー家に住み、子守として働いていたことを明かし、生みの母探しに協力してもらえないかと頼みます。
レイチェルの生みの母が働いていたのは、ジェイクが4歳だった頃。記憶がほとんどないゆえに最初は断ろうとしましたが、隣人のエリーなら事情を知っているのではと思ったジェイクはその場を去ろうとするレイチェルを引き止めます。
デートアプリで出会えた恋人とエリーが出かけている間、彼女の帰りを車中で待とうとするレイチェルをレストランへと誘うジェイク。そこはかつて、子どもの頃に母ロイスとよく通っていた店でした。
世間話をする中、語学が堪能であるレイチェルは現在、国連での通訳の仕事に応募していること。しかし一方で税理士アランと婚約しており、仕事・婚約の両面で悩んでいることをジェイクは知ります。
「養子になって以来、喪失感を埋めようとしてきた」「常に安心と確実性を求めてきた」……自身のしたい仕事を望みながらも、それでもアランとの婚約が必要と感じる原因に触れながらも、生みの母と見つけることで「大きな不安」を解決できるのではと語るレイチェル。
翌朝。ようやく帰ってきたエリーに、レイチェルの生みの母について尋ねる二人。
エリーはやはり知っており、確かに17・18歳ほどの妊娠した女性が当時ターナー家で働いていたこと、お腹の中の赤ん坊を生む前にターナー家を去ったこと、その名前は「クリスティーナ」「ジョイ」のような「クリスマスっぽい名前」であったことを語り聞かせます。
しかし「ジェイクのお父さんなら覚えている」とエリーが言った途端、「僕には無理」と嫌がるジェイク。彼は父スコットが母と自身を家に残して失踪して以来、35年近く口を聞いていなかったのです。
母ロイスの葬式に訪れた父本人から聞いたエリー曰く「バーモント州の山の中の小さな町コーンウォールブリッジでひとり暮らしている」というスコット。35年来の再会を強いられる不安に苛まれながらも、それでもレイチェルの母探しに協力すべく、彼女と愛犬エヴァとともに父の家へ向かいます。
その道中で立ち寄ったガソリンスタンドで、ジェイクが発見した日記を偶然読んだレイチェル。日記に綴られた言葉や年月日、そして「ノエル(フランス語で「クリスマス」の意)」という名前から、それが生みの母ノエルがターナー家で働いていた頃に書き残した日記であると悟ります。
敬虔なキリスト教徒であるがゆえに「婚外子の出産」を嫌悪した両親に、家を追い出されてしまったノエル。信頼する人々全員に見捨てられた中で、「住み込みの子守」として親切に雇ってくれたのがスコット・ロイス夫婦であり、ノエルは当時7歳だった長男ベンジャミン、そして当時4歳の次男ジェイクの子守をするようになったのです。
ベンジャミンの現在についてレイチェルから尋ねられ、ジェイクは答えます。
映画『ノエルの日記』の感想と評価
母ノエルの日記が捨てられなかった理由
レイチェルの生みの母ノエルをめぐって、彼女の実娘レイチェル、子守として働いていた彼女に愛をもって接してもらえたジェイクが出会い、心を通わせてゆくNetflix映画『ノエルの日記』。
本作の物語のキーアイテムとなるのが、映画タイトルにもある通り、かつてノエルが書き残した日記。しかしながら、至極単純な疑問として気になるのは、ジェイクの母ロイスがなぜノエルの日記を大切に保管していたのかという点です。
作中での描写を見ても、1年以内に出産のためにターナー家を去ったと思われるノエル。そこまで短い期間での関係性であったノエルが残していった日記を、亡くなるまで保管し続けていたロイスの心中は、果たしてどのようなものだったのでしょうか。
ジェイクが母ロイスの死を電話で知らされた場面から物語が本格的に進み始めるため、長男ベンジャミンを亡くした後に心を病んでしまったことなども含め、映画にてロイスの心情が直接描写された場面はありません。
そこで重要なヒントとなるのが、映画終盤にてジェイクが実家内で見つけた、父スコットが送り続けていた手紙たちです。
父スコットの手紙が捨てられなかった理由
ターナー家の長男ベンジャミンの事故死により夫婦の関係が破綻し、「妻ロイスを孤独にしてはいけない」ともう一人の息子ジェイクを残した上で、家を立ち去ったスコット。のちに彼は数年間にわたって、離れ離れとなったジェイクへ手紙を送り続けます。
しかし、それがジェイクの元に届くことはありませんでした。母ロイスが手紙をジェイクに渡さず、その全てを隠して保管していたためです。
ここでも、「なぜロイスは元夫スコットの手紙を破り捨てずに、わざわざそれを亡くなるまで保管し続けていたのか?」という、ノエルの日記と同様の疑問が浮かび上がります。
これはあくまでも想像でしかありませんが、ロイスは「スコットが息子ジェイクを連れて行かずひとりで家を去ったのは、自分を孤独にさせまいとする、夫婦関係が破綻してもなお妻を気遣った彼なりの優しさだった」と察していたのではないでしょうか。そしてそれでも、「スコットのことを許さない」という形で彼に触れることから逃げ続けていたのではないでしょうか。
夫の想いから逃げ、自分自身からも逃げ続けてしまった中で、もう一人の息子ジェイクとともに暮らすことすらも逃げてしまった。その結果が、ジェイクとの長年の仲違いだったのかもしれません。
逃げ続けた果てに、誰もいなくなったターナー家に引きこもり、その生涯を終えたジェイクの母ロイス。それでも彼女がスコットの手紙とノエルの日記を保管し続けたのは、「かつてターナー家に何が起こったのか?」の証拠品であるそれらを持ち続けることが、深く傷ついてしまった彼女の精一杯の「逃げなかった」の証だったからとも考えられます。
ただ何よりも、手紙・日記を通じて「子に愛を直接伝えられない親」の孤独を目にした彼女が感じとったものこそが、それらを捨てられなかった一番の理由なのかもしれません。
まとめ/『素晴らしき哉、人生!』が描く夫婦の未来
ちなみに『ノエルの日記』作中、スコットが暮らす家に向かう途中で一泊した町にて、ジェイクとレイチェル、そして犬のエヴァが野外上映で鑑賞していた映画は、監督フランク・キャプラの名作『素晴らしき哉、人生!』(1946)。
『ノエルの日記』と同じくクリスマスを描いた映画であり、アメリカではクリスマスの日にテレビ放映される映画の「定番」として知られている作品でもあります。
多くの波乱に満ちた半生を送ってきた男ジョージがついに絶望へ陥るも、の手助けと妻メアリー、天使クラレンスをはじめ、自身が善意によって接してきた多くの者たちのおかげで自身の幸福に気づく姿を描いた『素晴らしき哉、人生!』。
「人生、何が起こるかわからない」「だが、それが“素晴らしき人生”なのだ!」と伝えるかのようなその物語は、『ノエルの日記』作中でレイチェルが囚われ続けていた「安心」と「確実性」がある人生とは異なる人生を描いています。
何がジェイクとレイチェルにとっては何が「素晴らしき人生」であり、そんな人生を目指して二人が選びとる「未来」なのか。その問いを意識させるための演出として、映画『素晴らしき哉、人生!』を観る二人……と一匹の姿を映し出したのでしょう。
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