連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile170
1年に一度、12時間だけ殺人を含むすべての罪が免除される”パージ(浄化)”の時間。
人間の根幹にある暴力性の解放を題材とした恐怖心を煽る美術と、現代のアメリカを激しく社会風刺した内容が話題となり「パージ」はアメリカを中心に大ヒットを連発するシリーズとなりました。
今回はそんな「パージ」シリーズの5作目となる映画『フォーエバー・パージ』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『フォーエバー・パージ』の作品情報
【公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
The Forever Purge
【監督】
エベラルド・ゴウト
【脚本】
ジェームズ・デモナコ
【キャスト】
アナ・デ・ラ・レゲラ、テノッチ・ウエルタ、ジョシュ・ルーカス、レヴェン・ランビン、ウィル・パットン
【作品概要】
ドラマを含めた「パージ」シリーズの全作で監督もしくは脚本とした携わるジェームズ・デモナコが脚本務めた5作目の映画作品。
『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021)に出演したアナ・デ・ラ・レゲラと『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』(2022)でメインヴィランとなるネイモアを演じたテノッチ・ウエルタが主演を務めました。
映画『フォーエバー・パージ』のあらすじとネタバレ
チャーリー・ローンが大統領選を制しパージ法が廃止されてから月日が流れ、新建国の父(NFFA)が政権を奪取したことでパージの日が再開されることとなりました。
メキシコから不法な手段でアメリカに入国したアデラとフアンは、不法入国を手引きする少年に「困ったらバラを追え」と言われ、バラが描かれたカードを貰います。
10ヶ月後、パージの夜、ディランの経営するテキサスの牧場に勤めるフアンでしたが、メキシコ人であることを理由に、ディランや同僚のカークから距離を置かれていました。
パージの時間が迫り、退勤するフアンはカークがパージの時間に他人を殺害することを示唆しているのを聞きます。
アメリカを訪れてから初めてのパージに不安を覚えるアデラとフアンは、防衛設備のある施設へと身を寄せることにしました。
パージの時間が始まり、街は暴力と狂気に染まり始めます。
街では白人至上主義者たちが移民を殺害して回っていましたが、施設に身を隠すアデラとフアンは被害を受けることなく、パージの時間が終わります。
しかし、今年はパージの時間が終わっても一部の人間は暴力行為を止めようとせず、アデラはウサギの仮面を被った人間に襲撃を受けます。
アデラの働く精肉業者のボスであるダリウスによってアデラは解放され2人は襲撃者を殺害しますが、駆けつけた警察官に逮捕されてしまいます。
一方、ディランの家から銃声が聞こえ、駆けつけたフアンと同僚のTTはディランとその家族が拘束されている姿を目撃。
「永遠のパージ」を謳う襲撃者たちは金持ちや移民を襲撃することを宣言し、ディランの一家を殺害しようとします。
ディランたちを拘束した襲撃者の1人はカークであり、カークはディランの父親ケイレヴを射殺。
その様子を見たフアンとTTが襲撃者たちを強襲しカークを殺害しディランとその家族を救うことに成功しますが、襲撃者たちは応援を呼んでおり、次々と農場に増援が現れました。
ディランの車に乗り農場を脱出したフアンは、アデラが警察に連行されていることを知ります。
テキサスの街はパージの時間を終えても襲撃者たちによる暴動が収まらず、パニックに陥っていました。
アデラの場所を知ったフアンは1人で彼女を助けに行こうとしますが、フアンに助けられたディランの妹ハーパーとTTは彼に同行することを決めます。
警察車両が襲撃を受け、警察官が殺害される中、意を決したディランとその妻キャシーが乗る車とフアンたちが助けに現れ、アデラを救出。
ダリウスは家族を探すためアデラと別れます。
近隣のガソリンスタンドに身を寄せたフアンたちは、テレビのニュースからこの騒動はテキサスだけでなく全米で起きていることや、戒厳令が発令されたことを知ります。
緊急事態を受けアメリカの隣国であるメキシコとカナダは6時間の間だけ国境を非武装の人間にのみ無制限開放することを宣言。
フアンたちはメキシコに向け移動を開始することにします。
車でメキシコの国境付近まで迫った6人でしたが、検問付近の街は大量の暴動者と避難を求める人間、そしてNFFAが戦闘を行っており、検問所に近寄ることができませんでした。
映画『フォーエバー・パージ』の感想と評価
希望となったルールが崩壊するシリーズ最大のスリラー
アメリカ中が血と暴力に染まる恐怖の時間”パージ”。
良心的な人間はこの時間が過ぎ去るのをただ待つしかなく、「12時間」という時間制限は恐怖の対象であると同時に希望でもありました。
しかし、シリーズ第5作となる『フォーエバー・パージ』では、”パージ”の時間が終わってもなお殺戮を続ける人間たちによって、血と暴力の時間は終わることがなく恐怖の延長戦に突入することになります。
“パージ”を運営する組織ですら、違反者たちを取り締まり切ることの出来ない孤立無援のアメリカから、逃げることを余儀なくされる市民たち。
生き延びることすらも絶望的な状況下だからこそ、ただ待っているだけでは救われないと悟り、大事な人のために動き出す主人公たちの格好良さが光る作品でした。
強烈な社会風刺と現実とのリンク
貧困層による富裕層への対抗を謳って始められた”パージ”ですが、実際は身を護る術を持たない貧困層同士が殺し合い、さらに裏では支配層が貧困層を間引きする手段として運営。
「パージ」シリーズはアメリカの社会情勢を常に風刺しており、貧困層と富裕層の分断が進む現代を壮絶な世界観を使って皮肉っています。
シリーズを手がけるジェームズ・デモナコは5作目となる本作では、トランプ政権下において進められていたメキシコ国境における分断を作品に取り入れたと語っています。
さらに撮影終了後、トランプを支持する顔にペイントをした襲撃者たちによって複数の人間が死亡した連邦議会議事堂襲撃事件が発生。
奇しくも『フォーエバー・パージ』が描く分断されたアメリカを象徴する事件が起きてしまい、監督が考える最悪な未来を描いた「パージ」の世界が近づいていることを感じさせました。
まとめ
本作が上映されていたカリフォルニア州の映画館で銃を乱射する事件が発生し、本作という存在そのものもアメリカの社会情勢を映し出す作品となってしまいました。
2作目『パージ:アナーキー』(2015)と3作目『パージ:大統領令』(2017)でフランク・グリロが演じた主人公レオを掘り下げる続編も計画されており、社会情勢を描く「パージ」シリーズはまだまだ続いていくこととなりました。
映画を通して映し出される現実社会が今後どうなっていくか、恐ろしくも注視したいシリーズです。