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Entry 2022/03/14
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映画『ベルファスト(2021)』あらすじ感想評価と考察解説。歴史と北アイルランド紛争を通じてケネス・ブラナーは“諦め覚悟する記憶”を描く|のび編集長の映画よりおむすびが食べたい5

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『のび編集長の映画よりおむすびが食べたい』第5回

「Cinemarche」編集長の河合のびが、映画・ドラマ・アニメ・小説・漫画などジャンルを超えて「自身が気になる作品/ぜひ紹介したい作品」を考察・解説する連載コラム『のび編集長の映画よりおむすびが食べたい』。

第5回で考察・解説するのは、2022年3月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー公開の映画『ベルファスト』です。

俳優・監督・演出家として活躍し続けるケネス・ブラナー監督の出身地である北アイルランド・ベルファストの激動の時代を舞台に、困難の中でも大人へと成長してゆくある少年の姿をモノクロの映像で描き出した映画『ベルファスト』。

ブラナー監督自身の幼少期が投影されている自伝的作品でもある本作を、作中で描かれる「北アイルランド紛争」の解説を交えつつもご紹介いたします。

連載コラム『のび編集長の映画よりおむすびが食べたい』記事一覧はこちら

映画『ベルファスト』の作品情報


(C)2021 Focus Features, LLC.

【日本公開】
2022年(イギリス映画)

【原題】
Belfast

【監督・脚本】
ケネス・ブラナー

【撮影】
ハリス・ザンバーラウコス

【美術】
ジム・クレイ

【衣装】
シャーロット・ウォルター

【編集】
ウナ・ニ・ドンガイル

【音楽】
バン・モリソン

【キャスト】
カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン、キアラン・ハインズ、ジュード・ヒル

【作品概要】
北アイルランド・ベルファストの激動の時代を舞台に、困難の中でも大人へと成長してゆくある少年の姿をモノクロの映像で描き出す。『オリエント急行殺人事件』『ナイル殺人事件』など俳優・監督・演出家として活躍し続けるケネス・ブラナー監督にとってベルファストは自身の出身地であり、本作はブラナー監督自身の幼少期が投影された自伝的作品でもある。

少年バディを演じたのは本作が映画デビューとなるジュード・ヒル。そして「007」シリーズの3代目「M」役で知られ、本作ではバディの祖母グラニー役を演じた世界的大女優ジュディ・デンチをはじめ、カトリーナ・バルフ、ジェイミー・ドーナン、キアラン・ハインズなどイギリスとアイルランドの実力派俳優たちが集結した。

「アカデミー賞の前哨戦」として名高い第46回トロント国際映画祭にて最高賞にあたる観客賞を獲得。そして第94回アカデミー賞でも作品賞・監督賞ほか計7部門にノミネートされた。

映画『ベルファスト』のあらすじ


(C)2021 Focus Features, LLC.

ベルファストで生まれ育ったバディは家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごす9歳の少年。たくさんの笑顔と愛に包まれる日常は、彼にとって完璧な世界だった。

しかし1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。プロテスタントの暴徒が、街のカトリック住民への攻撃を始めたのだ。

住民すべてが顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。

暴力と隣り合わせの日々の中、バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断に迫られる……。

映画『ベルファスト』の感想と評価


(C)2021 Focus Features, LLC.

そもそも北アイルランド紛争とは?

映画『ベルファスト』作中で描かれる、北アイルランド紛争の始まり。

北アイルランドの領有権をめぐって1960年代後半から長きに渡り続いたその争いは、1998年・本作の舞台であるベルファストにてイギリス・アイルランド間での和平合意が実現。2021年4月にもベルファストを含む北アイルランド各地にて暴動が発生するなど、争いの火種は「北アイルランド問題」としていまだ燻り続けています。

16世紀、宗教改革によりイングランド(なお現在のイギリスこと「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」は、イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドによる同君連合から成る)から来たプロテスタント移民者による植民地化が本格的に進行したアイルランド。17世紀末にはプロテスタント優位体制が確立し、19世紀初頭には当時のイギリスに併合されたという過去を持ちます。

無論、アイルランドの王国からの独立を目指す闘争は自然と始まり、最終的にイギリスは1920年にアイルランド統治法を発布し、アイルランドの「アイルランド自由国(現在のアイルランド共和国」としての独立を認めました。しかしその一方で、1921年の英愛条約ではアイルランド島を独立国「アイルランド自由国(島の南部26県)」とイギリス領「北アイルランド(島の北部6県)」に分割した上で、それぞれの自治を決定したのです。

北アイルランドでは多数派であるプロテスタントに優位な体制が残り続け、それゆえに植民地化が進む以前からその土地に住んでいたようなカトリックへの多方面での差別も強く残り続けていました。やがて1950年〜60年代にアメリカで展開された公民権運動の影響を受け、1960年代後半からカトリックへの差別撤廃・是正を訴える運動が北アイルランド内で始まります。

当初は平和なデモ活動であったものの、ロイヤリスト(イギリス帰属を維持することを支持する人々。ユニオリストとも)との衝突を経てその活動はエスカレートしてしまい暴動が多発。やがて「カトリック対プロテスタント」×「ナショナリスト(アイルランド共和国との統合によるイギリスからの独立を支持する人々)対ロイヤリスト」という対立は激化し、イギリス軍の介入も相まっていよいよ泥沼化していったのです。

「理不尽な変化への諦めと覚悟を知った時」を描き出す


(C)2021 Focus Features, LLC.

北アイルランド紛争の始まりの時代となった1960年末のベルファストを知る、ケネス・ブラナー監督の幼少期が投影されているという主人公バディ。作中ではベルファストで始まった転換期を、9歳の少年バディの「大人」への転換期と重ねて描き出しますが、その「転換期」は決して明るいものではなく「理不尽な変化への諦めと覚悟を知った時」といえます。

「理不尽な変化への諦めと覚悟を知った時」……それは年齢に違いはあれど、人生の中で誰しもが経験することになる瞬間でもあります。

仲良しだった家族が、両親の都合によりバラバラになった時。他国からの攻撃により、祖国を離れ難民にならざるを得なくなった時。未曾有の自然災害により家も思い出も何もかも飲み込まれてしまった時。そして、愛すべき隣人が「隣人」でなくなった時……時間も場所も状況も異なる中で、誰もが世界にぶつけられた理不尽な変化に悲しみ、苦しみ、それでも「生きねば」と思う瞬間を経験するのです。

ブラナー監督は、2020年に起きたコロナ・パンデミックによる最初のロックダウンが始まった頃に、それまで内に秘めてきた自身の記憶に基づいて本作の脚本を書き始めたこと。その行動もまた、世界的なコロナ・パンデミックによる社会混乱という理不尽な変化の中で「自身は何をすべきか?」という諦めと覚悟によってもたらされたものといえます。

映画『ベルファスト』の主人公バディとその家族は、理不尽な変化への諦めと覚悟を知った時、その先でどのような選択をするのか。それは1960年代末のベルファストと2022年の現在の世界をつなぐ、普遍的な答えといえます。

まとめ/「ベルファストは物語の街だ」


(C)2021 Focus Features, LLC.

ブラナー監督は自身の故郷であるベルファストについて、「ベルファストは物語の街だ」と語っています。

北アイルランド最大の都市であり、幼いブラナー監督をはじめ多くの市民とともに激動の時代を経験し、数え切れないほどの傷を負いながらも、それでも残り続けてきたベルファスト。その姿に「人生」の比喩にも用いられる「物語」を評するのは、ブラナー監督の故郷ベルファストに対する思いが垣間見られます。

幼少期に北アイルランドをめぐる暴動と「敵」と化す隣人たちに恐怖を覚えながらも、それでもベルファストという土地がブラナー監督にとっての「故郷」で在り続ける理由とは何か。

その答えは、他国の攻撃による死と隣り合わせながらも「故郷」で戦い続ける理由、災害によって何もかもを失ってもその場所を「故郷」と呼び続ける理由でもあります。

そして映画『ベルファスト』には、その答えが描き出されているのです。

次回の『のび編集長の映画よりおむすびが食べたい』も、ぜひ読んでいただけますと幸いです。

連載コラム『のび編集長の映画よりおむすびが食べたい』記事一覧はこちら




編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

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