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【ネタバレ考察】ドリームシナリオ|元ネタThis Man×結末ラストシーン解説で探る《悪夢的な現実=夢を台無しにするもの》【のび編集長の映画よりおむすびが食べたい16】

  • Writer :
  • 河合のび

どこまでも《現実的》な物語が描くのは
夢の世界を台無しにするもの……

映画情報サイト「Cinemarche」編集長・河合のびが気になった映画・ドラマ・アニメなどなどを紹介し、空想・妄想を交えての考察・解説を繰り広げる連載コラム『のび編集長の映画よりおむすびが食べたい』。

第16回でご紹介するのはスタジオ「A24」のもと『ミッドサマー』の鬼才アリ・アスターが製作を、名作から迷作まであらゆる映画に出演する名優ニコラス・ケイジが主演を務めたSFスリラー『ドリーム・シナリオ』です。

平凡に暮らしていた大学教授が「そっくりな男が何百万もの人々の夢の中に現れた」と注目されるも、夢の中の自身が悪事を働き始めたことで《世界の嫌われ者》になってしまう不条理な物語を描き出した本作。

本記事では映画『ドリーム・シナリオ』のネタバレ言及とともに、作中の夢にまつわる謎を考察した先に見えてくる、どこまでも《現実的》な本作の物語に込められた意味を解説していきます。

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映画『ドリーム・シナリオ』の作品情報

【日本公開】
2024年(アメリカ映画)

【原題】
Dream Scenario

【監督・脚本】
クリストファー・ボルグリ

【製作】
ラース・クヌードセン、アリ・アスター、タイラー・カンペローネ、ジェイコブ・ジャフク、ニコラス・ケイジ

【キャスト】
ニコラス・ケイジ、ジュリアンヌ・ニコルソン、リリー・バード、ジェシカ・クレメント、マイケル・セラ、ティム・メドウス、ディラン・ゲルラ、ディラン・ベイカー

映画『ドリーム・シナリオ』のあらすじ

平凡な日常を送っていた、大学教授のポール・マシューズ。

ところが「世界各地の何百万という人々の夢の中に、ポールそっくりの男が現れる」と話題になったことで、彼は一躍有名人になる。

メディアの取材を受けるほどに注目を浴び、「人々の夢を通じて、商品を宣伝できるのでは?」と広告代理店に声をかけられ、夢だった本の出版にもわずかな希望が見え始めたことで、ポールは天にも昇る心地だった。

しかし、夢の中の自身が様々な悪事を働くようになったことで、現実世界のポールは大炎上。「あくまで夢の話だ」「現実の私は何もしていない」と訴えても人々は聞き入れず、ポールは一転して世界の嫌われ者になる。

現実世界では何もしていない男ポールが、夢が見せた希望と絶望の果てにたどり着く世界とは?

映画『ドリーム・シナリオ』夢の謎を《現実的》に考察・解説!

ミームにされた男が、ミームにされた男を演じる

「自分と同じ顔の男が世界中の人々の夢の中に現れたことで注目を浴びるも、夢の中の自分が人々に危害を加えるようになったことで、何もしていないはずの現実の自分が非難されるようになる」……。

「世界中の人々の夢にだけ現れる、同じ顔の男」という触れ込みで2009年頃からネットミーム化&都市伝説化した《This Man》を彷彿とさせつつも「もし実在の人物が《This Man》の顔に選ばれてしまったら、その人物の人生はどうなってしまうのか?」という素朴な疑問を突き詰めた物語といえる『ドリーム・シナリオ』。

《This Man》の顔に選ばれてしまった主人公ポールにトレントら広告代理店の人間が商談を持ちかけてくる展開も、《This Man》が2010年には「ゲリラ・マーケティングの一環として展開した広告であり、画像の男は架空の人物に過ぎない」と公表されてしまった結末……文字通り「夢の終わり」というべき結末から引用しているのだと思われます。

そして、本作が《This Man》の都市伝説としての側面ではなく、あくまでもネットミームとしての側面に注目して作られた作品であることは「《夢の中の男》の顔に選ばれてしまった主人公ポールを、《ニコラス・ケイジ》という俳優が演じている」という点だけでも、十分に理解することができます。

「スキャンダラスかつ波瀾万丈な人生を送り、人々に愛されたり・嫌われたりを繰り返すハリウッド・スター俳優」……ニコラス・ケイジという俳優のキャラクター像はもはや確固たるものであり、ニコラス・ケイジというキャラクターそのものを題材に盛り込んだ主演作『マッシブ・タレント』(2023)が製作されるほどに、彼のキャラクター像は人々の記憶に定着しています。

また過去作での自身の演技を切り抜かれた動画がネットミーム化し、本人の演技の意図とは全く異なる形で世界に《自身の顔》が拡散された経験も持つニコラス・ケイジ。「《夢という名のメディア》でミームになってしまった男」を演じる男に彼を選んだ時点で、製作陣の意図は察せるはずです。

夢にまつわる謎の数々の《現実的》な考察

なぜポールは、世界中の人々の夢に現れるようになったのか……その答えは、映画作中でも明確には語られません。

ポールは夢の中の自分によって人々から注目された状況を「自身《新しい扉》を開けるチャンス」と捉えていたことから、「新しい扉」=「未知の世界への入り口」を見つけたいという欲求が、他者の夢という未知の世界を彷徨うポールの分身を生み出してしまったとも考えられます。

しかし、ポールは「メガネにヒゲの小太りハゲオヤジ」というどこにでもいる容姿であることからも、曖昧な夢の記憶が他人の空似を通じてポールの顔という虚像を結び、さらにはマスコミ・ネット上でミーム化してしまったことで……あるいは「自分もポールを見て、トレンドの一部になりたい」と人々が欲したことで、世界規模の他人の空似が発生してしまったと考える方が《現実的》かもしれません。

また「今までは『立っているだけ』『見ているだけ』と何もしてこなかった夢の中のポールが、人々に悪事を働くようになった」という展開も「夢の中のポール……と錯覚された男は、夢で何もしない場合も、悪事を働く場合もあったが、一度『悪事を働く夢』が注目されたことで、皆『悪夢』ばかりを報告するようになっただけでは」と考えることができます。

悪夢の方が、眠りから覚めた後も記憶に残りやすい」……それは夢を見たことがある方なら、誰しもが経験があるはずです。また夢に関する記憶だけでなく、現実世界の出来事に関しても「嫌な出来事」の方が記憶に残りやすいことも、同じく心当たりがあるはずです。

記憶に残らない平凡な夢よりも、記憶に強く焼き付いた悪夢の方が、報告件数が増えてしまうのは当然のことでしょう。そして、悪夢の報告件数がある時期から急増したのも、ポールが悪事を働く夢が世界中のトレンドとなるにつれて「この悪夢を報告したら、現実世界のポールを傷つけてしまうかも」という人々の良心のタガが外れたからに他なりません。

現実世界が台無しにする、未知と可能性の夢の世界

娘ハンナの学芸会を観ようと体育館の出入り口に向かったポールは教師と揉み合いになり、教師が体育館の扉を無理やり閉じたことで負傷。ポールは周囲の人々に取り押さえられますが、それ以降ポールが人々の夢に現れることはなくなりました。

教師という他者が扉を閉じた=「他者の夢という未知の世界への出入り口」を象徴する扉を閉じられたことで、ポールの深層心理にて「もう扉は開けない」という認識が生まれ、夢を彷徨うポールの分身も姿を消した

……とも考えられますが、結局は「誰もが他者の夢に入れるデバイス」が世界中のトレンドを攫い、ポールはただ「過去の人」になり人々の記憶から忘れられ、夢を報告する人間も激減したからと考えるのが、やはり《現実的》でしょう。

インフルエンサーたちの広告空間と成り果て、満ち溢れてたはずの未知も可能性も失われた夢の世界。それは、世界中の人々をつなぐことで《夢の世界》を創造できるはずだったインターネットが産み落とした《情報の掃き溜め》としての現代社会の姿とも、新たな《夢の世界》として期待されているメタバースが近い将来にたどり着く末路とも捉えられます。

「他者の夢の世界に入れる」という、夢を現実にしたかのような発明。それは文字通り、現実の常識では通用しない未知の領域であるがゆえに魅力的だった夢の世界を、どこまでもつまらないしくだらない現実の世界に変えてしまう代物でした。

夢の世界が現実の世界を蝕むのではなく、現実の世界が夢の世界を蝕む……「世界中の人々の夢の中に現れる男」というロマン溢れる夢の物語が「ゲリラ・マーケティングの一環として展開した広告」という現実によって破壊された《This Man》を題材に、『ドリーム・シナリオ』はどこまでも《現実的》な物語を描き出したのです。

まとめ/《悪夢的》な現実だけが残った果てに

夢の一件により、妻ジャネットと娘たちとの生活も破綻してしまったポール。後には「初めて他者の夢に入り、人々に悪夢を見せ続けていた男」というレッテルと、「悪夢の男」というレッテルなくしては生きていくこともできないという《悪夢的》な現実だけが残りました。

また、本来は現実とは異なる世界であったはずの夢の世界も、デバイスの発明によって現実世界の一部と成り下がり、インフルエンサーたちが他者の夢に土足で上がり込んできては商品の宣伝ばかりをしていく、同じく《悪夢的》な現実と化す始末。

映画のラストにて、デバイスによってジャネットと夢の中で再会したポールは、短い時間ながらも心を通わせた後に「現実なら良かった」と呟きます。

しかしながら、ポールが「生きたい」と心から思える現実も、現実に苦悩する精神のセーフハウスとしての夢も、最早どこにも存在しないのでしょう。

眠りから覚めてもそこにいるのは、アリの巣やシマウマの群のような生きる場所も、行く場所も失くしてしまった、孤独な生き物だけなのです。

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編集長:河合のびプロフィール

1995年静岡県生まれの詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部として活動開始。のちに2代目編集長に昇進。

西尾孔志監督『輝け星くず』、青柳拓監督『フジヤマコットントン』、酒井善三監督『カウンセラー』などの公式映画評を寄稿。また映画配給レーベル「Cinemago」宣伝担当として『キック・ミー 怒りのカンザス』『Kfc』のキャッチコピー作成なども精力的に行う。(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche






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