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【ネタバレ】映画『プロフェッショナル』感想評価とラスト結末まであらすじ。リーアム・ニーソンが許されざる者に扮した“アイリッシュ西部劇”【すべての映画はアクションから始まる54】

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第54回

日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅して、ピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。

第54回は、2025年4月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中の『プロフェショナル』

「96時間」シリーズ(2008~15)のリーアム・ニーソンが、自身の故郷北アイルランドを舞台に繰り広げるハードボイルドノワールを、ネタバレありでご紹介します。

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映画『プロフェショナル』の作品情報

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【日本公開】
2025年(アイルランド映画)

【原題】
In the Land of Saints and Sinners

【製作総指揮・監督】
ロバート・ロレンツ

【製作】
フィリップ・リー、マーカス・バーメットラー、ボニー・ティマーマン、キーラン・コリガン、ジェラルディン・ヒューズ、テリー・ローン

【製作総指揮】
マーク・ジェイコブソン、ビクター・ハディダ、エフド・ブライベルグ、ニコラス・ベネット、ダニー・ディムボート

【脚本】
マーク・マイケル・マクナリー、テリー・ローン

【撮影】
トム・スターン

【編集】
ジェレマイア・オドリスコル

【音楽】
ディエゴ・バルデンベーク、ノラ・バルデンベーク、リオネル・バルデンベーク

【キャスト】
リーアム・ニーソン、ケリー・コンドン、ジャック・グリーソン、キアラン・ハインズ、デズモンド・イーストウッド、コルム・ミーニー

【作品概要】
『シンドラーのリスト』(1993)、「96時間」シリーズのリーアム・ニーソン主演のハードボイルドドラマ。ニーソンの故郷でもある北アイルランドを舞台に、田舎町に逃げ込んだアイルランド共和軍(IRA)過激派テロリストとの予期せぬ抗争を描きます。

『マークスマン』(2022)でニーソンとタッグを組んだ監督のロバート・ロレンツを含め、クリント・イーストウッド作品に携わってきたスタッフが参加。

『イニシェリン島の精霊』(2022)のケリー・コンドン、テレビドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のジャック・グリーソン、『ベルファスト』(2021)のキアラン・ハインズ、『探偵マーロウ』(2023)でニーソンと共演したコルム・ミーニーらが脇を固めます。

映画『プロフェッショナル』のあらすじとネタバレ

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1974年。北アイルランド紛争が続くベルファストで、アイルランド共和軍から分裂した民族主義武装集団IRAが関係者暗殺を目論み、爆弾テロを仕掛けます。メンバーはリーダーの女性デランとその弟カーティスに、コナン、シェーマスの4人。

ところが、爆弾を仕掛けた車の付近を子供たちが通りかかります。慌てたデランはその場を離れるよう叫ぶも車は大破し、辺りは火に包まれるのでした。テロリスト4人は車を替え、人里離れた海岸沿いの田舎町グレン・コルム・キルへと逃げます。

一方、そのグレン・コルム・キルに暮らすフィンバー・マーフィーは、表向きは古本売買業者、裏稼業として殺し屋を生業としていました。

心優しい隣人女性リタや、射撃の腕前を賭けて競い合う警察官のビンセントらと交流を重ねるフィンバーはある日、暗殺仕事を取りまとめるロバートから、地元の名士バート・マクギネスの暗殺を依頼されます。

フィンバーに拉致されたマクギネスは、殺し屋稼業から足を洗った経緯を語り、「この地は我々のような者が死ぬにふさわしい場だ。死ぬ前に善いことををしろ」と説き、射殺されます。

裏稼業に疲れたフィンバーはガーデニングを始めるという理由でロバートに引退を申し出、後を若手の殺し屋ケビンに継がせるよう告げるのでした。

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ある日、地元パブ「ライツ・パブ」の店主シニードの幼い娘モヤの体に虐待の跡を見つけたフィンバー。

実はシニードとベルファストから逃亡してきたデランは親戚関係にあり、その立場を利用して弟のカーティスが住居に居座っていました。

カーティスがモヤを虐待していると知ったフィンバーは、ケビンに彼を始末させるようロバートに頼むも、IRAとは関わらない方がいいと断られます。やむなく自らカーティスを始末しようと拉致するも、抵抗されます。

代わってカーティスを始末したのは、ロバートの命令を受けたケビン。その夜、パブに行った2人でしたが、殺し屋稼業を楽しんで語るケビンをフィンバーが叱責します。

一方、突如消えたカーティスの行方を追ってロバートのもとを訪ねたデラン。弟を殺したのがフィンバーであることを聞きだすとロバートを射殺し、住居を突き止めます。片やフィンバーもロバートが殺されたと知り、自宅を襲撃するデランたちを監視することに。

フィンバーが自分たちを遠くから張っていると察知したデランは、見せしめとしてリタを暴行し立ち去ります。

リタを救助した後にケビンの家に隠れたフィンバーは、彼が金を貯めてカリフォルニアに行き、歌手になるという夢を持っていると知ります。

デラン、コナン、シェーマスら逃亡犯が指名手配された新聞記事から、彼らがロバートを殺した犯人と断定し、フットボール場でデランと接触したフィンバー。フィンバーがカーティスを始末したと信じているデランは、カーティス殺しの依頼者が誰かと問い詰めます。

フィンバーは自分の意志で暗殺したことを隠して「依頼人を引き渡す」と約束し、その夜8時にライツ・パブで落ち合うことにします。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『プロフェッショナル』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


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パブでの決着に協力を申し出るケビンを断り、カリフォルニアに行くよう全財産を渡したフィンバーは、その足で飼っていた猫をモヤに託します。

日が落ち、パブでデランを待つフィンバーに声をかけたビンセント。古本売買業が本職ではないと察し、何かあれば力になると告げるも断られます。その直後、コナンやシェーマスら見慣れぬ者たちの姿を見て取ったビンセントは、ただならぬ気配を察します。

フィンバーは現れたデランに「依頼人は外にいるから店を出よう」と告げるも拒絶されます。そこへ「僕が依頼人だ」と言ってケビンがデランに近づきます。

デランがケビンを撃ったのをきっかけに銃撃戦が開始。ケビンは腹部を撃たれるもデランに弾丸をぶち込みます。

ビンセントはコナンが店に持ち込んだ爆弾入りのカバンを持って外に出るも、シェーマスに奪われます。爆弾をパブに投げ込もうとしたシェーマスでしたが、フィンバーに撃たれます。

爆弾は店前で爆発。ケビンを撃ち殺したデランは逃亡し、フィンバーはナイフで襲いかかってきたコナンを返り討ちにします。

瀕死の状態で教会に逃げ込んだデランを追ってきたフィンバーは、「死ぬ時ぐらいは安らかに逝け」と息絶えるのを見届けた後、亡骸をカーティスの隣に埋めるのでした。

全てが終わり、リタに別れを告げ去っていくフィンバー。一方、デランたちが車で壊したグレン・コルム・キルの案内板を修復し終えたビンセントのパトカー内に小さな包みが……。

中身はフィンバーが読んでいたドストエフスキーの『罪と罰』に、以前に射撃の賭けをした際、小細工をしてビンセントから手に入れた1アイルランドポンド紙幣が挟まっていました。

渋くてコクのあるアイリッシュ地産地消ムービー

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本作『プロフェッショナル』の舞台となる北アイルランドは、1920年代のイギリスからの独立運動の流れを経て、いわゆる北アイルランド紛争と呼ばれる宗教闘争が勃発した地。

ここに暮らす少数のカトリック宗派によって組織されたIRAが、イギリス帰属継続を求めるプロテスタント派を狙い、主要都市のベルファストを対象に過激な武力行使を続けたのです。

1998年の和平(ベルファスト合意)成立以降は沈静化したものの、今なお火種がくすぶっている両派の紛争。

ジャッキー・チェン主演の『ザ・フォーリナー/復讐者』(2019)は、2000年代に入り、ロンドンの爆破テロで娘を失った中国人男性の復讐劇でしたが(原作小説の「チャイナマン」が書かれたのは1992年)、本作の時代設定となる1974年は、そのIRAテロが激化していた時期です。

『マイケル・コリンズ』(1996)でアイルランド独立戦争の英雄を演じたリーアム・ニーソンを筆頭に、ケリー・コンドンやジャック・グリーソン、キアラン・ハインズにコルム・ミーニーといった主要キャストに加え、制作スタッフもアメリカ人監督のロバート・ロレンツを除く大半をアイルランドや北アイルランド出身者で揃えた、アイリッシュ地産地消映画といえます。

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アクション映画に特化した当コラムですが、ハッキリ言うと本作はアクション演出においては地味です。

ニーソン主演アクション映画の代名詞ともいえる「96時間」シリーズのような激しいカット割りの肉弾ファイトもなければ、「ジョン・ウィック」シリーズ(2014~23)のような緻密に計算・洗練されたコレオグラフィもありません。

要となるガンファイトも、クライマックスでのニーソン扮するフィンバーが猟銃A.H.フォックスと拳銃を武器に、テロリストたちと相対するクライマックスに集約。

総発砲数もおそらく「ジョン・ウィック」の10分の1にも満たないと思われ、さらに戦地となるグレン・コルム・キルが高層建築も無いのどかな町並みということも手伝ってか、全編を通して牧歌的なムードに包まれています。

それなら派手さに欠けてつまらない作品なのでは…と思うかもしれません。しかし個人的には、味わい深くコクがある内容。

70代に入ったニーソンの円熟味はもちろん、脇を固めるキリアン・ハインズやコルム・ミーニーといったベテラン勢の渋い演技が実に効いています。

ライフルを用いて戦うということは、ワンショットで敵を仕留めるという意思表示。まさにプロフェッショナルな覚悟を背負うフィンバーの闘いぶりは、まるで西部劇です。

リーアム・ニーソン版『許されざる者』?

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本作の特徴に、キャスト及びスタッフがアイルランドや北アイルランド出身者で占めているとは前述しましたが、もう一つ、主要スタッフがクリント・イーストウッド作品に関わってきたことも挙げられます。

監督のロバート・ロレンツと撮影のトム・スターンは、『ブラッド・ワーク』(2002)からイーストウッド作品に長年参加し、製作のジェラルディン・ヒューズも『グラン・トリノ』(2007)を手がけています。

だからというわけではありませんが、本作はイーストウッドの『許されざる者』(1992)を彷彿とさせます。

まず、フィンバーが妻に先立たれ殺しを生業としてきた男という設定が、『許されざる者』でイーストウッドが扮したウィリアム・マニーと重なれば、フィンバーを慕う若者ケビンは、マニーのような殺し屋になろうと近づくスコフィールド・キッドとダブります。

フィンバーがA.H.フォックス、マニーがスペンサーというライフル銃をそれぞれ愛用している点も共通します。

そして何よりもフィンバーにケビン、さらに敵対するデランらIRAテロリストは、罪を背負った“許されざる者”。そういった意味でも、本作に西部劇のテイストを感じるのもあながち偶然ではないでしょう。

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パブでの銃撃戦を経てラスト、ケビンに撃たれ虫の息状態となりながらも無人のカトリック教会堂に向かったデラン。

カトリック宗派からなるIRAに属し、「すべての行いは神の啓示によるもの」という歪んだ信仰心で爆破テロを繰り返してきた彼女は、先に死んだ弟カーティスを思い、フィンバーに看取られ息絶えます。

序盤でフィンバーは、元殺し屋のマクギネスに「この地は俺たちのような者が死ぬにふさわしい場。死ぬ前に善いことををしろ」と諭されます。カーティスの隣にデランを埋めたフィンバーは、善き友人のリタやビンセントに別れを告げます。

フィンバーが読んでいたドストエフスキーの『罪と罰』に置き換えると、フィンバーはラスコーリニコフで、リタやビンセントはソーニャ。ソーニャがラスコーリニコフを許したように、リタたちはフィンバーの罪を責めませんでした。

本作の原題は『In the Land of Saints and Sinners(聖人と罪人の地で)』。聖人に許された罪人フィンバーは、その贖罪として、“罪人が死ぬにふさわしい場”グレン・コルム・キルを死せずして去っていくのです。

次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。

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松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219


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