連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第27回
世界の各国の映画、中には大笑い必死の映画も紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第27回で紹介するのは『シティーコップ 余命30日?!のヒーロー』。
芸術の国フランス。様々な傑作・佳作映画を生んだ国は、実はコメディ映画大国。
それもコテコテの笑いをドタバタ騒ぎで見せる、誰もが楽しめる抱腹絶倒の作品を数多く生み出しています。
ファウンド・フッテージ、残された映像に写っていたのものは…という映画手法は、ホラー映画やモンド映画で使われてきました。
それをコメディに取り入れたのが、フランスの『真夜中のパリでヒャッハー!』(2014)『世界の果てまでヒャッハー!』(2015)。
『ヒャッハー!』シリーズと、『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』(2018)のキャスト・製作陣が放つ映画の登場です。
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CONTENTS
映画『シティーコップ 余命30日?!のヒーロー』の作品情報
【日本公開】
2021年(フランス映画)
【原題】
30 jours max / 30 DAYS LEFT
【監督・脚本】
タレク・ブダリ
【出演】
タレク・ブダリ、フィリップ・ラショー、ジュリアン・アルッティ、ヴァネッサ・ギード、ジョゼ・ガルシア、リーム・ケリシ、ニコラ・マリエ、シャンタル・ラデス、マリ=アンヌ・シャゼル
【作品概要】
ドジを繰り返すダメ警官が、余命30日と知り覚醒。命知らずの男として難事件に挑みますが、大騒動を巻き起こしてしまうドタバタアクションコメディ。
監督・脚本・主演は『ヒャッハー!』シリーズ、『シティーハンター~』に出演のタレク・ブダリ。
彼と同じ作品に関わり『シティーハンター~』では監督・主演を務めたフィリップ・ラショー、同じくジュリアン・アルッティらお馴染みのメンバーが集結。
『アラジン 新たなる冒険』(2015)と『アラジン 悪しき王子と二人の魔人] (2018)、『ピッチの上の女たち』 (2018)のヴァネッサ・ギードらが共演した作品です。
映画『シティーコップ 余命30日?!のヒーロー』のあらすじとネタバレ
パトカーの中で、後部座席に乗せた容疑者と会話する警官のライアン(タレク・ブダリ)。
同僚のステファニー(ヴァネッサ・ギード)に告白するなら、こんな言葉が良いかとライアンは、熱心に容疑者と相談します。
ステファニーが現れ告白しようとすれば、彼女はマッチングアプリでお相手募集中。その隙に容疑者はスタコラ逃げ出しました。
逃亡を無線で報告する彼女に急かされるまで、容疑者を追いもしない実に頼りない警官がライアンです。
男はアクション映画のお約束で、高い建物の屋上を逃げます。しかし臆病者のライアンは、渡された細い板の上を進めません。
まごまごしている間に容疑者は逃げました。現れたステファニーの前で、ゴミ捨て場に転落するライアン。
全く警官向きでない彼にステファニーは呆れますが、ライアンの肩にネズミが乗っており、彼は首を噛まれます。
2人が警察署に戻ると、特殊部隊が出動準備をしています。警視長(ニコラ・マリエ)はライアンたちにも、麻薬組織の取引を押さえる作戦に参加しろと命じます。
ライアンは作戦を理解しないまま出動します。フランス警視監も注目する大捕り物を指揮し、署の刑事部長の警視長は大ハリキリです。
特殊部隊員が展開する現場にいたライアンに、同居中の祖母のラヤン(マリ=アンヌ・シャゼル)から電話が入ります。任務そっちのけで祖母と話すライアン。
ラヤンはライアンを溺愛し、亡き父の形見の警察バッジを今も持っているか尋ねました。そんなラヤンおばあちゃんは、TVのショー番組に夢中です。
取引の情報があった現場に、麻薬組織のボス・テディ(ジョゼ・ガルシア)が現れます。警視長は部下に取引が終わるまで待機しろと命じました。
カバンを持って車から降りたテディを、ご近所さんだと気付いたライアンが近づき、声をかけたからたまりません。
ここで犯罪組織の取引がある、警察が張り込んでて危ないから帰ってね、とご親切に教えてたライアン。
忘れかけたカバンを渡し、泥にタイヤを取られたテディの車を押してあげる親切ぶり。警視長の作戦はぶち壊しです。
結局書類係に降格されたライアン。同僚たちは彼をからかう動画を見て大笑いしますが、鈍感な彼はそれに気付きません。
警視長の部屋に入ったライアンは、彼の失態を補おうと張り切る刑事トニー(フィリップ・ラショー)と、その腰巾着のピエール(ジュリアン・アルッティ)から負け犬扱いされます。
トニー刑事にいいように利用され、警視長からは捜査に関わらず、荷物の配達ついでにネズミに噛まれた傷を診てもらえ、と言われたライアン。
ライアンは化膿した傷を医師に診てもらい、帰り道ではアパート前にたむろするチンピラにからかわれました。
自宅にはラヤンおばあちゃんと元カノのリンダ(リーム・ケリシ)がいます。浮気され別れたリンダを追い出せず、逆に部屋から追い出される始末です。
祖母はライアンとステファニーの付き合いを望んでいましたが、彼女は今トニーたちと怪しい家へ捜査に向かっていました。
問題の部屋をステファニーがノックすると、老婆がヨボヨボと玄関に向かいます。それを待てずバッテリングラム(破城槌)を使うチニーとピエール。
見事ドアは破壊され開けようとした老婆も吹っ飛びました。トニー刑事も相当のバカと判明しますが、犯罪組織に利用された老婆の部屋から麻薬と手帳が押収されました。
非番のライアンは近所で麻薬組織のボス、テディが経営する高級ケバブ料理店に招かれます。
高級ケバブ店とは、日本で言えば「高級たこ焼き料亭」みたいなものですが、資金洗浄とケバブに始末した輩の肉が使用可能で、テディには一石二鳥です。
テディは麻薬取引捜査をブチ壊したライアンを協力者と考え、報酬1万ユーロで押収された手帳を取り戻せと依頼しました。ライアンは断りますが医師から電話が入りました。
病院を尋ねると検査の結果、ネズミに噛まれた傷からレプトスピラ症を発症、重症化し手遅れで最大で余命30日と宣告されるライアン。
しっかり診察料を請求されライアンは家に帰ります。能天気な元カノ、リンダの態度にブチ切れ彼女の水パイプを窓から捨てました。
パイプは外でたむろしていたチンピラたちに命中、文句を言われますが、余命僅かなライアンに怖いものは無し、彼らとミニバイクの目隠しチキンレースで対決します。
目隠しのまま一般道を突き進み、赤信号を無視し2人がかりで運ぶガラス板を割って…のはずが強化ガラスで割れず転倒するライアン。命知らずな走行に彼に心服するチンピラたち。
度胸が付いたライアンはテディの店に乗り込み、警察が押収した取引を記した手帳は渡す、ただし報酬は10万ユーロで、先払いで寄こせと要求します。
一方的な要求にテディは怒りますが、銃を向けても動じぬ態度を本気と見込み、彼は承諾しライアンに金を支払いました。
彼は警官の制服と父の形見のバッジを捨てます。しかし悪に染まるつもりもありません。祖母のラヤンに札束を渡し、自分は1人旅に出ると告げます。
こうして思い残すことなく、ライアンはラスベガスに向かいます。一方ラヤンが大金を得たと知って、TVに出演したい彼女のためプロデュースを買って出るリンダ。
ラスベガスに到着したライアンは、映画『ヒャッハー!』シリーズよろしくバカ騒ぎを満喫します。
しかしホテルの1室に戻ると、カメラに向って皆に遺す、最期のメッセージを録画しました…。
そのころ遠く離れたフランスでは、彼に余命30日を告げた医師が、検査結果の見間違いの誤診だと気付きます。
ライアンの元には、ヤブ医者より先にテディから電話が入りました。ライアンは金を持って高飛びし、手帳を渡す意志など無いと気付き、激怒したテディ。
怒りにまかせ、テディはお前の父親同様始末すると叫びます。ライアンの父を死なせたのは、今は麻薬組織のボスのテディでした。
テディの脅迫よりも、残り少ない人生で父の仇を討つと決意し帰国するライアン。
頭の悪いトニー刑事とピエール刑事がいる警察署に、サングラスに皮ジャンでキメたライアンが帰ってきます。
警視長にテディを捜査すると直談判するライアン。署内で容疑者が銃を奪い、トニーを人質にする事態が発生します。
皆が動けず、ピエールがトンデモない行為する緊張状態の中、間抜けながら行動を起こし、天井の照明を銃で撃つライアン。
照明器具は落ちて容疑者、では無く人質のトニーに命中。それでも事件は解決しました。
活躍に同僚は拍手喝采、警視長もライアンにステファニーと組んで捜査に復帰しろと命じます。
面白くないのはトニーとピエール。彼らはライアンと競う姿勢を見せますが、そんな時にYouTubeで大人気の、ラヤンおばあちゃんの動画が話題になりました。
ライアンの元カノ、リンダのプロデュースが成功し、TVショー出演を夢見るばあちゃんは人気上昇中。これではテディ一味に彼女の行動はバレバレ、恰好の標的です。
慌てて電話したライアンですが、人気ユーチューバーは忙しいのか、まともな会話になりません。
証拠の麻薬取引を記した手帳を見ても、トニーとピエールはトンチンカンな答えしか導けません。それでも公園が取引現場と睨んだライアンとステファニー。
覆面パトカーが出払っているので、4人は警視長ご自慢の愛車を拝借し出動します。
公園の前に怪しいバンが止まっていました。トニーが調べると、中から出たのはピエールのお母さん(シャンタル・ラデス)。
彼女はバンを使い路上で男相手に商売しています。気まずい雰囲気ですが、気にしないピエールのママに挨拶して立ち去る一同。
公園内ではサーカスが行われていました。怪しいピエロが売人だと睨み、トニーが囮を演じて声をかけます。
所持した銃を見られ、刑事とバレたトニー。ピエロは迷惑にも観客の少女を巻き込み逃亡しました。
ピエロを追うライアン。ステファニーはピエールのママのバンを運転して追跡、後ろで真っ最中のママとお客は災難です。
サーカスの人間大砲でピエールを発射し、ピエロを捕らえようとするトニー。発想が馬鹿過ぎてロクな結果になりません。
地下鉄に逃げ込み、衣裳のネタの仕掛けでライアンから逃れたピエロ。その彼に車をぶつけて捕らえたステファニー。
余命短いライアンに怖いものはありません。ピエロを高架橋から逆釣りにして脅し、情報を引き出しました。
喋ったピエロを引き上げられず落としたライアン。ピエロはピエールのママのバンに命中、彼女の商売も色々大変です。
ライアンとステファニーは、ピエロから聞いた密輸の事情を知る女、カミラの家に向かいます。無茶ばかりするライアンを心配するステファニー。
トニーとピエールが病院に運ばれるピエロに付き添い、ラヤンばあちゃんはリンダとミュージックビデオ撮影現場に乱入、ウケる動画を撮影中します。
入院したピエロの口封じに麻薬組織の者が現れると睨み、ピエールと待ち伏せするトニー。
敵に気付かれないよう隠れようと、病室前のステレッチャーで眠る患者と入れ替わるトニー。それに気付かぬ看護士に手術室に運ばれました。
ライアンたちがカミラのマンションに着くと、怪しい2人組が彼女の部屋に向かっています。
そこで屋上から『ダイ・ハード』のブルース・ウィリスよろしく、消火ホースを体に巻いて飛び降り、カミラの部屋に突入した命知らずのライアン。
ところがホースの固定具が外れて落下、引っ張られ彼は地上へ転落します。間抜けな彼に頭を抱えるステファニーですが、彼女の活躍で2人組は逮捕されました。
警視長の愛車の屋根の上に落ち、どうにかライアンは無事です。カミラから空港にメキシコから麻薬が着くと聞いたステファニー。
ライアンの命知らずの捜査は、騒動を引き起こしながら核心に近づいていました。
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映画『シティーコップ 余命30日?!のヒーロー』の感想と評価
昭和のドリフのコント番組、クレイジーキャッツの映画や香港映画、ピーター・セラーズ出演作やジョン・ランディス監督作などを思わせる、実にベタなコメディ映画です。
同じチームのフランス映画、『ヒャッハー!』シリーズや『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』をご存知なら、どんな映画か想像できるでしょう。
古典的な、だから楽しいドタバタコメディ映画と信じて良い作品ですが、仏でYouTube、Instagram、TikTokで活躍中のインターネットセレブリティも出演している作品です。
「新しい酒は、新しい革袋に」は聖書の言葉。「古い酒は、新しい革袋に」はSF小説・アニメの「銀河英雄伝説」のセリフ。
「ベタな笑いも、新しい革袋に」が本作製作チームの姿勢でしょうか。流石は『シティーハンター~』を実写化し、成功させた男たちの映画です。
コメディ以外の様々な映画もアイデアの源
参考映像:『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』(2018)
本作は過去のコメディだけでなく、様々な映画からアイデアを得たと語る監督・主演のタレク・ブダリ。
具体的には『ダイ・ハード』(1988)に『ミッション・インポッシブル』(1996)シリーズ、『シャーロック・ホームズ』(2009)シリーズの名をあげていました。
笑いを作るには先人が示した通り、体をはった苦労を重ねるしかありません。『ダイ・ハード』のパロディの、屋上からの突入シーンがあります。
このシーンは8度目でやっと成功し、9度目も同じものが撮影できたと振り返るタレク・ブダリ。用意した撮影用ガラス10枚の中で、どうにかシーンを作り上げました。
今回は脇でタレク・ブダリのサポートに徹した、ピエール役のジュリアン・アルッティ。彼は多くのコメディ映画の主人公は、自分はおかしな人物ではないと信じている、と話しています。
タレク演じる主人公は、体をはった無謀なアクションを繰り返すが、コミカルで馬鹿馬鹿しいことを行うのは彼の周囲の人物。それを演じるのは楽しかった、と語るジュリアン・アルッティ。
このインタビューでタレク・ブダリは、、コメディーで最も面白くないのは主人公で、最もおかしいのは二番手の登場人物の事例が多いと説明しています。
素朴な疑問から始まった前向き映画
仲間たちとアイデアを出し合って映画を作るタレク・ブタリ。ある時「人生が残り僅かならどうするか」、という疑問が話題にのぼります。
馬鹿げた質問だが、映画の出発点に良いアイデアだと彼は考えます。残る人生が30日間ならどうする、それを考えるだけでアイデアが沸き、そして誕生したのが本作でした。
我々は自分の人生に壁を置いてしまう。しかし大切なのは行動することだと語る監督。
その結果、落語か吉本・松竹新喜劇のようなお話が誕生した訳ですが、マンネリで面白くないと感じる方はいないでしょう。
とはいえ主人公に与えられた設定は、かなり特殊な状況です。そういう意味では善良だがTVを見るだけの生活をしていた、ラヤンおばあちゃんこそ我々に近い人物です。
そんなおばあちゃんが、インターネットセレブリティ目指し大暴走、じつに充実した時間を過ごします。実はこちらこそ身近な存在の、「余命30日?!のヒーロー」かもしれません。
もっとも、迷惑系ユーチューバーにはならないで下さい。
まとめ
ベタな笑いで楽しめる、家族で楽しめる許容範囲(?)の下ネタ豊富な『シティーコップ 余命30日?!のヒーロー』。頭を空っぽにして楽しんで下さい。
「エスプリ」=軽妙で辛辣な言葉を、すぐに口にできる軽妙な才知、との意味の言葉があるフランス。だから仏コメディは高尚だ、という誤解がありますが、そうではありません。
人間の思想や行動、創作活動など個人の意見を重んじるフランスでは、ベタな笑いだって恥じることなく表明できます。よって本作のようなタイプのコメディ映画も続々誕生するのです。
劇中に売春する刑事のママが登場しますが、仏では売春の合法・非合法を巡り議論が繰り返され、制度的禁止の方向にシフトしていますが、まだまだ議論が続いています。
単純な倫理観を元にした善悪論にとどまらず、そういった職を生業とする方にとって最善なのは何か、あらゆる面から分析するのはお国柄ゆえでしょうか。
多くの国では建前的に絶対禁止、でも水面下では、といったうやむやな状況も許される中、真正面から異論をぶつけ合うのはフランス人らしい姿勢といえるでしょう。
映画の表現も、笑いの表現も同じで、様々な表現が許されます。一方で完成した作品への攻撃や批判もまた激烈。そんな環境で仏映画は磨かれていると言ってよいでしょう。
本作のような能天気な映画を作る人々にも、創作にはブレない真摯な姿勢が垣間見えるのは、フランス映画ならではの現象でしょうか。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回第28回は父のために魔女と契約した、女子高生を襲う恐怖を描くサタニックホラー映画『魔女の密約』を紹介します。お楽しみに。
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