連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第89回
ノオミ・ラパス主演映画『マヤの秘密』が、2022年2月18日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開されます。
「ミレニアム」シリーズ、『プロメテウス』(2012)のノオミ・ラパスが主演と製作総指揮を務めた本作は、ナチスから暴行を受けた過去を持ち、妄想と現実を行き来する悪夢に囚われた女性の姿を追ったサスペンスです。
かつてナチスの軍人だった男から戦時中に暴行を受けた主人公マヤは、街中で偶然その男を見かけ、復讐心から男を誘拐し、夫の力をかりて自宅に監禁するのですが……。
マヤが持っている秘密がやがて周りの家族をも巻き込んでいき、想像もできない結末を迎えます。
映画『マヤの秘密』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
The Secrets We Keep
【脚本・監督】
ユヴァル・アドラー
【製作総指揮】
ノオミ・ラパス
【製作】
ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、エリク・ハウサム
【音楽】
ジョン・パエサーノ
【撮影】
コーリャ・ブラント
【キャスト】
ノオミ・ラパス、ジョエル・キナマン、クリス・メッシーナ、エイミー・サイメッツ
【作品概要】
『マヤの秘密』は、ナチスから暴行を受けた女性が妄想と現実の狭間を行き来するような悪夢に悩まされ、自分を苦しめた相手を捉えて心の闇と葛藤する姿を描きだします。
主人公マヤ役を『ストックホルム・ケース』(2020)のノオミ・ラパス、監禁された男役を「スーサイド・スクワッド」シリーズのジョエル・キナマン、夫のルイス役を『夜に生きる』(2016)のクリス・メッシーナがそれぞれ演じ、リメイク版『ペット・セメタリー』(2019)のエイミー・サイメッツも脇を固めます。
監督は『ベツレヘム 哀しみの凶弾』(2013)のユヴァル・アドラー。
映画『マヤの秘密』のあらすじ
1950年代後半、アメリカ郊外の街でのこと。
ある日、ロマ民族のマヤ(ノオミ・ラパス)は、街で子どもと遊んでいましたが、通りで犬を呼ぶ男の指笛を聞いた瞬間、“ある悪夢”が蘇ってきました。
最近、近所に越してきたその男は、戦時中に自分を暴行し、妹を殺したナチスの軍人のようでした。この記憶は、マヤが今でも悩まされる悪夢の元となるものでした。
マヤは復讐心から男を殺すつもりで誘拐しましたが、その場では殺せませんでした。仕方なく、夫・ルイス(クリス・メッシーナ)の手を借りて自宅の地下室に監禁しました。
トーマスと名乗るその男(ジョエル・キナマン)は、マヤの話を聞くと人違いだと主張し続けます。
当時の記憶がおぼろげなマヤは男を殺したいほど憎み、当時の事実を知りたいと、罪の自白をトーマスに強要し続けます。
一方、トーマスの方もマヤの話を否定し続けるものの、何かを隠しているような表情をみせはじめました。
マヤを信じたい夫は、妻の狂気じみた行動と知らなかった彼女の秘密を知り、真実を突き止めようと奮闘します。
さらに、監禁されたトーマスの妻(エイミー・サイメッツ)は、トーマスの安否を心配しながらも、自らの素性を話さなかった彼への不信感を募らせ、近づいてきたマヤにそれを打ち明けます。
それぞれの秘密が明らかになるにつれ、新たな疑念が生まれていきました……。
映画『マヤの秘密』の感想と評価
マヤが受けた精神的ダメージ
映画『マヤの秘密』は、終戦を迎えても消えることのない心の傷と、悪夢となって日夜悩まされる残酷な記憶に苦しむマヤが遭遇した一連の日々を描いています。
マヤが心に受けた傷は、何年たっても癒えることがありません。
幼い子供と優しい夫のルイスがいて、幸せな日々を送っているはずなのに、街でトーマスと名乗る男を見つけた途端に蘇ってきた忌まわしい記憶。
夜ごと繰り返される残酷なシーンの記憶は、マヤの精神をも痛めつけていますので、それがどんなに深く残酷なものだったのかがわかります。
戦争中に自分に暴行をしたトーマスへの復讐に燃えるマヤ。
脳裏から消えないナチスの記憶にもてあそばれ、その苦しみから逃れようと拉致した男と繰り広げる密室での対極は凄まじいものでした。
むごい体験したマヤにはどうしても許すことの出来ない相手のトーマスですが、彼にも現在は妻がいて子供がいました。
しかもマヤの記憶も断片的で確かなものではありません。殺したいほど憎いトーマスは人違いだと言い張り続けてマヤをじらせ、拉致の共犯者となったルイスを揺さぶります。
誰が真実を言っているのかわからないまま、お互いの本音を探り合う人々の姿に、人の弱さが見え隠れしています。
秘密を抱えるということは……
マヤには夫のルイスにも言えない秘密がありました。ルイスはその秘密を感じ取りますが、マヤを信じたいので真実を明らかにしようと奮闘します。
一方、マヤが憎むトーマスの妻は、自らの素性を話さなかった夫のトーマスに対して、不信感を募らせていました。
犯人として拉致したトーマスですが本当にマヤの憎む相手だったのでしょうか? そしてトーマスが隠し通そうとしている真実とは何なのでしょう。
殺人をもしかねないマヤの怒りの矛先にいるトーマスと、妻であるマヤを信じたいけれども真実を見極めなけれいけないと、自らを律するルイス。
2人の対照的な男の心の葛藤劇が終盤を迎えるころ、全てが明るみに出ます。
仲の良い夫婦と思っていたのに、実は相手はとんでもない秘密を抱えていたという事実は、パートナーの未知の部分を知ることであり、新たな夫婦の局面を迎えることでもありました。
そして、誰にも言えない秘密を持つということは、文字通り墓場まで秘密を抱えていく覚悟をしなければならないようです。
果たして自分がマヤの立場ならどうするでしょうか。
秘密を持つことの重大性とともに、夫婦としてパートナーの全てを知っているのかと、作品から問われることでしょう。
まとめ
映画『マヤの秘密』は、ナチスから暴行を受けた過去を持ち、妄想と現実を行き来する悪夢に囚われた女性の姿を追ったサスペンスです。
実弾が飛び交う戦場での戦いだけが戦争ではありません。終戦後の記憶には、戦時中敵対する人間は鬼となって映し出されています。
本作は、終戦後の記憶との戦いとも言える作品ですが、戦争だけに限らずに、生きていく上で「秘密」を持つことがどういうことなのかと、鋭く問いかけています。
作品では、「これこそが私が探していた映画!」と出演を快諾したノオミ・ラパスの熱演が光ります。映画冒頭の優しい母親の顔からスパイのように眼光鋭い表情に変わる彼女の演技もお見逃しなく。
映画『マヤの秘密』は、2022年2月18日(金)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。