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映画『フォートレスダウン』ネタバレ感想と考察評価。自国を持つために”弾圧”と闘うクルド人を描いた力作|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録23

  • Writer :
  • 増田健

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第23回

日本劇場公開が危ぶまれた、様々な国籍のあらゆる映画を紹介する、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第23回で紹介するのは『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』。

「世界最大の少数民族」、あるいは「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人。彼らの多くが住むクルディスタンは、トルコ・イラン・イラク・シリア4カ国にまたがる地域です。

いずれも紛争や民族問題を抱える、政情不安定な国々であり、その中で自分たちの国を持とうとするクルド人たちは、激しい弾圧を受ける歴史を歩んできました。

2015年12月、クルド人が多く暮らすトルコ南東部のディヤルバクルで起きた、クルド人勢力とトルコ軍・警察部隊の攻防戦。その姿をクルド人側の視点で描く映画が、世界に向け公開されました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら

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映画『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』の作品情報


(C)Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

【日本公開】
2020年(シリア映画)

【原題】
Ji Bo Azadiye / The End Will Be Spectacular

【監督・脚本】
エルシン・チェリック

【キャスト】
アリホン・ベイサル、デリル・パーラン

【作品概要】
トルコとクルド人勢力、クルディスタン労働者党(PKK)は2012年から和平交渉を行っていました。しかし隣国シリアの内戦が激化、過激派組織ISが勢力を広げ情勢が変化すると、その影響を受け交渉は決裂します。

その結果2015年7月から発生した、クルド人勢力とトルコ側との争いを、12月から始まったディヤルバクルの包囲戦を元に描く、クルド人の窮状を世界に訴える目的で作られた戦争映画です。

監督はトルコ出身のジャーナリストで、何度も逮捕された経験を持つエルシン・チェリック。彼がシリアの都市コバニで、多くのクルド人たちの支援を得て本作を完成させました。

出演者は地元の住人、そしてクルド人のために実際に闘った人々です。困難の中多くの人々の協力を得て、当事者にしか描けないリアルな描写を持つ、壮絶な市街戦を描いた作品です。

映画『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』のあらすじとネタバレ


(C)Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

2015年10月、トルコ領内の北部クルディスタン地域。青年がタクシーに乗り込みます。クルド人の自治を目指し、密かに活動を続けている彼は、運転手のそぶりが怪しいと気付きます。

何かと理由をつけ、目的地に向かおうとする運転手。青年は強く命じ車を停めさせました。しかし何者かが現れ、彼に銃撃を加えます。彼を救おうと仲間が必死に運びました。

トルコ領内で自治を求めるクルド人に対し、トルコ政府は過去40年に渡り弾圧を加え、その犠牲者は6万5千人に上るともいわれています。

トルコのみならず各国からも弾圧され、クルディスタンを含む中東地域で戦乱が続く間に、3000万人以上のクルド人が故郷を追われました。

それでも2013年から、トルコとクルディスタン労働者党との間で和平交渉が行われます。しかし隣国シリア内戦の激化と、過激派組織IS(イスラム国)の勢力拡大が情勢を変化させます。

トルコ政府によるクルド人弾圧が強まり緊張が高まる中、ディヤルバクルなどトルコ南部で選挙が行われました。この機会に自治権の獲得を願う、北部クルディスタンに住むクルド人たち。

この映画は、実在の人物と事実に基づいて作られました。

2015年11月15日。ディヤルバクルに向かうバスに、クルド人の若い女性ジラン(アリホン・ベイサル)が乗っていました。

バスはトルコ側の治安部隊による検問で停められ、乗客も降ろされ皆が身体検査を受けます。それを終えバスは出発しますが、横暴な扱いに悪態をつくバスの運転手。

ジランは紛争の絶えない、故郷ディヤルバクルの世界遺産の地でもある街スール地区から、家族と共に安全な土地に移住していました。

しかし彼女の弟アンドクは、身の危険を恐れず故郷に戻り、理想を求めてクルド人の自治を目指す闘いに身を投じ、そして命を落とします。

彼の足跡を追ってスールに帰ってきたジラン。スールに到着した彼女は、デモをする人々とその鎮圧に向かう治安部隊を目にします。街は政治スローガンを書いた落書きで溢れていました。

彼女は無事到着したと母に連絡し、1人カフェにいると男が声をかけてきます。彼は下心があったのでしょうか。それとも彼女を反政府クルド人組織の人間と睨み、接近したのでしょうか。

彼女はその男から離れます。ジランはこの地のクルド人組織と連絡を取っていました。彼女は密かに地区の若きリーダー、ユルマズ(デリル・パーラン)同志を訪ねます。

ジランは弟の死を知る人物に会おうとします。紛争の地から逃げたと引け目を感じる彼女に、故郷に戻るのに理由はいらないと語りかけるユルマズ。

彼はジランを亡きアンドクの姉と紹介し、信用する同志の元に預けました。こうして彼女は5年ぶりに戻った故郷に迎え入れられました。

しかし弟の死について、ユルマズが話してくれないと感じるジラン。

彼女は仲間から治安部隊の目を逃れ、どの様に行動しどこで仲間と合流するか教えられます。こうした慎重な行動で、クルディスタン労働者党(PKK)のメンバーは密かに集まります。

幹部であるユズマルらは、抗議デモと市長選挙に望みを託していました。一方で軍事部門のメンバーは、激しさを増す治安部隊の鎮圧活動を懸念していました。

狙撃銃を持ち前線の女指揮官として動くヌジャンも、トルコ側の動向に目を光らせます。

今日もデモが行われますが、治安部隊の発砲するゴム弾には殺傷能力があり、負傷者は仲間の手で運ばれます。しかし病院に連れて行けば逮捕されるので、やむなくクルド人の獣医の元に運ぶデモ参加者たち。

専門でない獣医が全力を尽くしても、その能力には限りがあります。ユズマルたちは、自分たちの病院を持たねばならない、と痛感しました。

今日も街頭で行わるデモをジランは目撃し、治安部隊の制圧行動は過激さを増していきます。

その夜、クルド人住民たちは選挙の結果を受け集会を開きます。集まった老若男女のクルド人たちの周囲を、治安部隊が取り囲んでいました。

集会において、クルディスタンの人々と国際世論に対し、クルディスタン労働者党の政治部門の指導者が声明を読み上げます。

トルコは過去90年間、クルド人を同化する弾圧政策をとり続けていた。しかしスール地区の人民は、ここに自治を宣言する。それを聞き、集会に集まった人々は歓声を上げました。

人々は輪になって踊りだし、花火が打ち上げられます。しかしそれが合図になったかのように、治安部隊は集会にガス弾を撃ち込みます。

集会に警棒を持った部隊がなだれ込み、人々を追い散らすとPKKの主要な者を逮捕すると、次々と装甲車に乗せていきました。

トルコ人の力を見せてやると叫び、クルド人の自治を否定する治安部隊の幹部。

周囲が騒然とする中、ジランも思わず石を掴んで投げました。しかし部隊は群衆に対し発砲で応じます。混乱の中、何とか逃れることができたジラン。

何人もの負傷者が発生し、クルド人たちは自分たちで作り上げた病院に彼らを運び込みます。しかし命を落とす者が続出しました。ジランはユルマズの姿を探し求めます。

しかし混乱の中、ユルマズに会うことは出来ません。彼女はクルド人組織の仲間の間を、必死に動き回りました。

ついに治安部隊との全面対決を決意する、クルディスタン労働者党の軍事部門のメンバーたち。

2015年12月5日、この日がスール地区包囲戦の始まりとなりました。トルコ側の支配者であるディヤルバクル行政府は、住民に指示に従うよう放送で呼びかけていました。

一方ユズマルは、ISとの戦闘経験を持つメンバーを呼び集め、そのリーダーのチャゲルと共に住民を加えた新たな組織、市民防衛隊(YPS)を組織します。ジランもその1員に加わります。

自動小銃を与えられ、狙撃銃を持つ指揮官ヌジャンらが指揮する、市民防衛隊女性部隊(YPS-Jin)のメンバーとなったジラン。

ユズマルとチャゲルは市街地に塹壕を掘り、街路にバリケードを築くにはパワーショベルのような、建設用重機が必要だと気付きます。

治安部隊はYPSが立てこもる地域を遠巻きに包囲し、怪しい動きのある場所を激しく攻撃します。しかし損害を避けようと慎重に行動しているようでした。

ある夜要塞化した陣地に、キャタピラの音が響きます。戦車が攻めて来たのかと緊張が走りますが、正体は陣地強化に待ち望んだ建設用重機でした。重機の到着に喜ぶ隊員たち。

包囲戦14日目。ヌジャンは敵を狙撃すると反撃を避け、すぐに場所を移動します。その抵抗に包囲するドルコ軍・警察部隊も手を焼いているようでした。

市民防衛隊は要塞化したスール地区の、狭い路地を戦車や装甲車が攻め寄せてきた場合に備え、遠隔操作できる地雷を用意します。

敵はグレネードランチャーを撃ちながら進み、装甲車が包囲陣に突入します。ところが肝心の地雷が爆破しません。第一線を突破され負傷者が出て、混乱するYPSの隊員たち。

対戦車ロケットを持った隊員が敵車両を攻撃し、ヌジャンと共にジランも反撃に加わります。こうして市民防衛隊は敵の力攻めを阻止しました。

しかし負傷した隊員の1人が治安部隊に捕まります。彼は降伏を口にしませんが射殺され、その遺体は車両に引きずられ、その姿は撮影され晒されます。

大きな危機を乗り越えた要塞陣地。しかし犠牲を強いられた隊員たちは無力感に襲われます。そして地雷を爆破させるケーブルが、何者かにより切断されていたと気付きました。

負傷者や包囲陣内の住人を脱出させる、外部につながるトンネルを掘る必要がある、と判断したユルマズたち。

トルコ側からの砲爆撃が絶え間なく続き、市民防衛隊内部には裏切り者が潜んでいるようです。戦闘の行方を見つめていたジランも、先行きに不安を覚えていました。

以下、『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』のネタバレ・結末の記載がございます。『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

戦いはシリア領内でテロ組織、IS(イスラム国)との戦いを経験した者にも、過酷な状況が続いていました。

それでも市民防衛隊(YPS)のメンバーは、スール地区包囲陣内に残る市民や子供たちと交流しつつつ、トルコ軍・警察部隊の攻撃に備えていました。

弟の死の真相が知りたくてディヤルバクルを訪れたジランも、市民防衛隊女性部隊(YPS-Jin)の1員として、指揮官のヌジャンと共に戦います。

狙撃兵として活躍するヌジャンは鏡を使い、包囲陣の外を監視します。しかし包囲陣の中には、仕掛けた地雷を爆破するコードを、密かに切断する者がいるのです。

包囲陣の外と連絡をとろうと、地下にトンネルを掘り進める市民防衛隊たち。

ジランは日記を破り棄てている女性隊員に気付き、ヌジャンに報告します。ヌジャンがその意図を尋ねると、隊員はこれは外部に伝えるべき記録を記したノートと答えます。

しかし外部との連絡手段を失い、もはやノートは無意味になってしまった、と告げる女性隊員。ヌジャンはその心情を察したのか、それ以上追求しませんでした。

夜になると、その女性隊員は包囲陣を出て行きました。その姿を目撃すると、急ぎヌジャンに報告したジラン。

投降してきた女性隊員に対し、包囲する治安部隊も慌ただしく反応します。自爆ベルトなどを身に付けていないか、止まって上着を脱ぐよう指示します。

情報があるので殺すなと訴えた女性隊員は、何も身に付けていないと示し、このノートに陣地内の配置や、YPSの攻撃計画が記してあると訴えました。

彼女は治安部隊に拘束され、指揮官にノートを差し出しました。それを開いた指揮官は、ノートに爆薬が仕掛けてあると気付きます。

爆発が起きました。指揮官と何人かの治安部隊員を道連れに、命を落とした女性隊員。

ユルマズやチャゲルら市民防衛隊幹部は、要塞化した陣地の強化を指示します。しかしトンネルを掘っていた隊員は、振動が迫ってきたと気付きました。

トルコ側は戦いに戦車を投入してきました。拠点と思われる建物に砲撃を加え、道に積まれたバリケードを破壊しながら戦車は前進します。

防衛隊員たちは移動して砲撃から身をかわします。要塞化された防御陣が混乱する中、外部からスール地区に入って来る男の姿が見えました。

市街に残った市民に危険が迫り、隊員たちにも動揺が広がります。幹部は去りたい者は既に去った、残っているものは戦う決意を固めたものだと叫び、士気を鼓舞します。

しかし砲撃は続き、隊員たちは危険と隣り合わせで治安部隊に向き合います。ついに残っていた市民に退去を指示するユルマズ。

多くの市民が僅かな荷物を持ち、スール地区から去って行きました。後には決意を固めたYPS、YPS-Jinの若者たちだけが残ります。

その60人余りの若い市民防衛隊員の中に、ジランの姿もありました。

包囲戦開始から52日目。攻略に数千の兵員を投入したトルコ軍・警察部隊。

包囲陣の中では、仕掛け地雷を操作するケーブルを切断した者が、ついに捕えられました。それは包囲陣内外を出入りしていたあの男です。

男は報酬と引き換えに、YPSの幹部の位置や陣地の場所を携帯電話でトルコ側に伝え、地雷のケーブルの切断行為を重ねていました。

椅子に男を縛ると、自分たち幹部の位置をトルコ側に対し、電話で告げるがいいと命じたチャゲル。

電話が終わると市民防衛隊の面々はその場から立ち去ります。男だけが残った場所はトルコ側の砲爆撃に晒され、破壊されました。

死んだ弟の足跡を求めスール地区にやって来たジランは、元は大学生に過ぎません。

その彼女も、今やクルド人のために闘うゲリラの1員です。こうして故郷の為に闘った弟の心境を理解したジラン。

彼女は長らく戦闘員として活動していた、弟アンドクの友人に出会い、ようやくその死の真相を聞かされます。

彼はアンドクと共にISの罠で誘い出され、タクシーを降りたところを襲撃され、アンドクは撃たれました。彼はアンドクを背負って命を救おうと必死に走りました。

彼は衝撃を感じます。放たれた銃弾はアンドクに当たり、彼の体内で止まります。

その銃弾がアンドクの命を奪い、背負っていた男はそれで救われました。俺はアンドクを背負い全力で走ったが、銃弾には勝てなかった。こうして弟の死の一部始終を知るジラン。

スール地区攻防戦は、開始から84日目を迎えていました。

トルコ側治安部隊の攻勢と砲撃に、市民防衛隊員は退却を余儀なくされます。さらに治安部隊は建設用重機を多数導入し、建物を1軒づつ破壊しながら前進します。

ヌジャンが重機を狙撃し、ジランも銃撃して作業の妨害を試みますが、装甲を施した車両からの機関銃掃射や、戦車からの砲撃で反撃されました。

戦車は壁やバリケードを崩しながら進んできます。細い路地に入った所を地雷で爆破して、なんとか進撃を食い止める防衛隊員たち。

不幸なことに外部と連絡をつなごうと、掘り進めたトンネル内には水が湧き出し、これ以上の作業の続行は不可能になりました。

残る弾薬も少なくなり、敵に対する反撃も制限されました。終末を迎えた攻防戦がクルド人にとって、政治的・戦略的に勝利となる道を模索するユルマズとチャゲル。

2016年3月12日。スール地区包囲戦は開始から100日目を迎えました。ユルマズたちは最後まで戦い抜き、独立を求めるクルド人の意志の強さを示そうと決意します。

それを世界に伝えるには、誰かが脱出せねばなりません。ユルマズはジランら7名の隊員を、脱出させる者として指名しました。

ユルマズや軍事部門のリーダー、チャゲルら幹部は残るメンバーと留まり、最後の闘いを挑む覚悟です。その覚悟を決めた姿をビデオカメラに収めるジラン。

包囲陣に残る仲間と抱き合い、最後の別れを告げる脱出メンバー。言葉を交わすことなく互いを映像に収め合い、その姿を世界に伝えようと脱出を開始します。

脱出メンバーを送り出すと、チャゲルは残る仲間に無線で指示を伝えます。その無線にトルコ軍治安部隊の少佐が割り込んできました。

少佐は状況は不利だと説き、市民防衛隊の降伏を要求します。そのやり取りを無線を通じ、包囲陣に残るクルド人ゲリラ兵士は皆聞いていました。

それを意識して皆に聞かせるように、我々は降伏しないと宣言するチャゲル。続いて仲間たちに持ち場に付くよう命じました。

トルコ軍・警察部隊の最後の攻撃が開始されました。戦車や装甲車と共に攻め込み、建物の1軒1軒、1部屋1部屋の窓に手榴弾を投げ込み、制圧して進む兵士たち。

市民防衛隊も仕掛け地雷や爆薬で、攻め込んで来た兵士たちを吹き飛ばします。戦車を対戦車ロケット砲で破壊し、少なからぬ損害を与えます。

市民防衛隊員は次々倒れていきます。密かに設置された病院にトルコ軍部隊が突入しますが、そこはもぬけの殻でした。

部屋の中や街のあちこちに、クルド人たちの書いたメッセージが残されていました。スール地区を圧倒的な戦力で、徐々に制圧してゆくトルコ治安部隊。

残された防衛隊員は最後の抵抗を行い、ユルマズやチャゲルたちは死んでいきました。ジランたちは無事脱出に成功し、ディヤルバクルの包囲戦の実態を伝える役割を担います。

2016年3月。トルコ治安部隊に包囲されたスール地区で、最後まで戦った勇士の42名が命を落としました。7名が脱出し、持ち出した日記などを通じ、激しい戦いの実態をクルド人社会に、そして世界に対して伝えます。

その内の2名は、この映画にも出演しています。

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映画『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』の感想と評価

参考映像:『バハールの涙』(2018)

あらすじ紹介では紹介し切れない、リアルな戦闘シーンの数々。これだけでも戦争映画ファンにおすすめしたい作品です。

国を持たない民クルド人ですが、彼らが多く住むクルディスタンと呼ばれる地域は、20世紀末から現代まで、テロや紛争の絶えない地域となりました。

支配国の弾圧を受け、テロ組織と闘い、大国の思惑に振り回される彼らの姿を描く、様々な映画が続々登場しています。

クルド人武装勢力の1員として、ISと闘う女性たちを描いた映画『バハールの涙』や、この映画が製作されたシリアの街コバニで、ラジオ局を始めたクルド人女性を描いたドキュメンタリー映画、『ラジオ・コバニ』(2018)などがあります。

この映画はシリア映画と紹介されていますが、それは作られた場所がシリアである、という意味しか持ちません。

本作はトルコ出身の元ジャーナリスト、エルシン・チェリックが、シリア領内のクルド人解放地域の街コバニで、様々なクルド人団体の支援を得て、スペインの製作会社と共同で製作した映画です。

ロケ地もコバニであり、トルコに近い環境で内戦や紛争に巻き込まれた地元のクルドの人々が、この本作に多数出演し、リアルな雰囲気を持つ映画として完成させました。

では改めて『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』が、どの様な映画か紐解きましょう。

クルド人側の視点で描いた弾圧への抵抗


(C)Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

この映画はトルコのディヤルバクル歴史地区と呼ばれる、世界遺産の地スールで行われた、クルド人への弾圧とそれに対する抵抗の姿を描いています。

トルコ政府とクルド人の抵抗運動の中心勢力、クルディスタン労働者党(PKK)は長い対立の歴史を持ちます。2011年から隣国シリアで内戦が勃発すると、その状況に大きな変化が生まれます。

2013年から両者は和平交渉を行っていましたが、シリア内戦がトルコ国境に近づき、PKKがシリア国内のクルド人勢力、シリア・クルド民主統一党(PYD)を支援し始めると関係は悪化します。

2015年7月、トルコ治安部隊とPKK武装勢力の停戦は破られます。トルコ側は公式に軍事作戦を開始、クルド側は自治政府宣言を出し、スール地区にバリケードや塹壕を作って対抗します。

クルド側のテロ攻撃に対し、トルコ側は軍事行動や重武装の治安部隊を投入で対抗、状況は混沌となり両者の対立は激化しました。

12月にトルコ側はスール地区の一部に無期限の外出禁止令は発令、住民に退去を呼びかけます。これが映画で描いた、包囲戦の始まりと言って良いでしょう。

映画ではこれ以前のクルド人勢力のテロ攻撃は描いていません。またトルコを含め国際社会はこの包囲戦を、明確な始まりと終わりを持つ、一つのは戦いと認識していないようです。

映画は包囲陣の中と外を明確に分けていますが、実際はもっと入り組んだ、複雑な戦いだった模様です。更に周囲ではシリア領内の内戦も含め、各勢力の複雑な軍事行動が行われていました。

そして映画は包囲戦終了という一つの結末で終わりましたが、現実にはその後トルコ側が治安維持を名目に、住人を強制的に立ち退かせて街を破壊、再開発を行いました。

この経緯を見ると、ディヤルバクル地区のクルド人が体験した苦難を俯瞰的に捉えず、あえて1つのストーリーに絞り、抑制的に描いた劇映画だと解釈できます。

確かにこの映画は、クルド人の視点に寄った、クルド人の描いたストーリーによる、プロパガンダ色のある映画だ、と指摘できるでしょう。

では、この作品を公平性に欠けるものだと、簡単に断罪して良いのでしょうか。

困難な環境で声を上げた告発の映画


(C)Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

映画を見た人は、リアリズムに徹した戦闘描写の数々に間違いなく驚かせられます。

内戦の戦場に近い地で作られ、実際に包囲戦に参加した人物が映画に出ており、さらに出演したクルド人の方々が、身近に紛争を経験した当事者ということが大きな理由です。

また監督のエルシン・チェリックが、身の危険に晒されながら、紛争を報道してきた本物のジャーナリストであることも、映画に漂う客観性の維持に役立ったのでしょう。

この作品をプロパガンダ映画と見ると、ありがちな女子供を虐待するトルコ軍、といった感情に訴える部分が少ないことに気付きます。いわゆる悪役の描写も控え目です。

トルコ側の暴力描写を掘り下げることはありません。むしろ身内の裏切り者を描く、ある種の達観のような視点すら感じられます。

これはクルドの人々は、敵とはいえ相手を侮辱するような行為を良しとしない、誇り高い人々だからでしょうか。おそらくそうではないでしょう。

映画に登場する敵はトルコ側のみ(ISも背景として登場しますが)。トルコ側を支援していた、またクルド側と敵対した、様々な外国勢力は登場しません。

シリア領内のクルド人支配地域で作られた本作、関係する相手を不用意に刺激する内容では、製作が中断するどころか、出演者の身の安全にも関わるでしょう。

ドラマ以外の唯一センセーショナルなシーンとして、クルド人の遺体を引きずる車両が登場しますが、これは2015年10月に世界に対し公開された、実際のビデオ映像を基にしています。

映画とは時系列が異なりますが、プロパガンダとしてトルコ側を責めるにしても、自由にフィクションを創作するのではなく、否定し難い事実を選び出しているのです。

また煽情的な描写は、作品そのものの客観性を疑わせ、反対意見を持つ者に攻撃の材料を与え、映画の価値を貶めることになりかねないという、冷静な判断もあるのでしょう。

この映画は確かにプロパガンダです。しかしそれは、今も弾圧者と向き合う環境で声を上げるために、言葉と表現を慎重に選んで作られた、「告発映画」と呼ぶべき作品です。

もっとも日本で公開された本作は、プロデューサーに編集され、オランダの映画祭で公開された112分版。それに先立って上映された監督編集版は141分でした(135分版もあるようです)。

監督版には別のメッセージがあるかもしれません。この事実を指摘させて頂きます。

世界から黙殺状態の映画が日本で公開された

参考映像:エルシン・チェリック監督のメッセージ

クルド人問題には長い歴史がありますが、近代史的には第1次大戦中結ばれたサイクス・ピコ協定で、クルド人の存在を無視して、現在の国境線が引かれたことに原因を見ることができます。

映画の舞台となった当時、アメリカはISと戦いシリアの反政府勢力を支援するため、トルコの協力を必要としていました。

その結果米国は、シリアのクルド人勢力PYDとは共闘し、一方でトルコ政府の求めに応じて、トルコのクルド人勢力PKKはテロ組織認定するという、捻じれた状態にありました。

シリアの政府側を支持するロシアと、クルド人勢力は敵対関係にあります。関係国から都合よく利用され、利用価値が無くなると黙殺される歴史は今も変わりません。

本作の完成後、世界各国のジャーナリストは、クルド人自身の手で作られた意義ある作品が誕生したとして、大いに報道しました。

しかし欧米諸国は興行的価値を見出せなかったのか、劇場公開していません。現在は映画はネットでも見れる時代ですが、その方法で見れる地域も限られているようです。

さらに不幸なことに、コロナ感染症の世界的な広がりが、本作の興行や各地の映画祭での上映にも、悪影響を与えたことも間違いありません。

映画をネットで見る比率が高いロシア、中東、中国でも劇場公開されておらず、ネットで鑑賞することも難しいようです。

クルド人と対立関係にある国や、自国に民族紛争を抱える国には、触れたくない話題を訴えた作品だからでしょう。

様々なB級映画ですら、ネットを通じ世界中で鑑賞可能な時代に、各国の本作の扱いには異様な印象を受けます。困難な地で告発のために作られた映画は、世界から黙殺されるのでしょうか。

そんな作品が日本では、「未体験ゾーンの映画たち」で文字通り、様々な事情で公開が危ぶまれた作品の1本として、劇場公開されたことは誇ってよいと思います。

ただし現実としては日本人の、クルド人問題に関する無関心・無頓着が、かえってこの作品の公開を可能にした、と判断するのが正解でしょう。

まとめ


(C)Rojava Film Komina, Alba Sotorra SL, Demkat Film Production

アクション映画として見ると、リアルで淡々と積み重ねられる戦闘描写が凄い『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』。戦争映画ファンなら唸る描写で、間違いなく鑑賞の価値ありです。

確かに本作はクルド人側に寄った作品です。しかしこの映画が作られた背景を理解すれば、公平性が無いという意見は、安全な場所にいる人間の、おごった意見と言えるでしょう。

プロパガンダ色が強いと、冷静にこの映画を判断する姿勢は大切です。しかし告発性の高い本作が、敵への憎しみを抑制して描いた事実に、本作が生まれた環境に想いをはせるべきです。

政治的に正しいとされる、攻撃的なメッセージを発する人間は、何を吠えようが我が身は安全、と確信できる場所から、何らかの利益や自己満足のために行っているのが大多数です。

それに対して、本当に弾圧される当事者はメッセージを発しようにも、多くの者には語る術すら無く、語る機会を得ても慎重に言葉や表現を選ばねばなりません。

そうして発せられたメッセージや、本作のような映画に対し、世界は多くの場合目を閉ざします。トレンドでも無い、利益にならない叫びに無関心なのは、今も昔も変わりありません。

政治的な話になってしまいましたが、本作が誕生した環境と背景を探っていくうちに、世界の現状に気づかされた次第です。

メディアの報道よりもこの映画が、この映画を作られた背景が、そしてこの映画の完成後の扱いが、クルド人問題の根深さを教えてくれました。

映画の様々な部分を深読みすることの大切さを教えられた本作。こんな視点で映画を眺めて見る姿勢も、決して間違いではないはずです。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…

こうして全23作品を紹介しました。次回・最終回は締めくくりとして、独断と偏見によるベスト5作品を紹介させて頂きます。それではお楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら




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【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学
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