Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/04/22
Update

NETFLIX映画『ルシッドドリーム』ネタバレ感想と考察。明晰夢を使いSFとミステリーを融合させた秀作|SF恐怖映画という名の観覧車99

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile099

寝ている間に見る「夢」は自己の欲求を表現しているとも、または脳が自動的に記憶の整理を行っているとも言われていました。

基本的に自身が見ている夢の中で「夢である」と認識することは困難ですが、しばしば「夢である」ことを自覚出来る夢があります。

今回はそんな「明晰夢」と呼ばれる現象を使い、息子を攫った犯人を捜す父親を描いたサスペンス映画『ルシッドドリーム/明晰夢』(2016)をネタバレあらすじでご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『ルシッドドリーム/明晰夢』の作品情報

【日本公開】
2016年(NETFLIX独占配信映画)

【原題】
루시드 드림

【監督】
キム・ジュンソン

【キャスト】
コ・ス、ソル・ギョング、カン・ヘジョン、パク・ユチョン、パク・イナン

【作品概要】
『白夜行-白い闇の中を歩く-』(2009)のコ・スや『監視者たち』(2013)のソル・ギョング、『オールド・ボーイ』(2003)のカン・ヘジョンが出演したNETFLIX独占配信作品。

キム・ジュンソンは本作が長編映画として初の監督作品となりました。

映画『ルシッドドリーム/明晰夢』のあらすじとネタバレ

大物政治家キムの裏金問題を暴いた記者のテホは妻を早くに失い、息子のミヌを周囲の力を借り育ててきました。

休日、ミヌと共に遊園地を訪れたテホは途中、カメラで自分たちを撮る老人や、ぶつかってきた青年を訝しく思うものの、2人は楽しい時間を過ごしました。

息子がメリーゴーランドに乗ると言い、その姿を見守るテホでしたが、ほんの一瞬目を離した隙にミヌの姿が見えなくなります。

さらに自身も睡眠薬を注射されたかのように意識が昏倒し、その場に倒れてしまいました。

3年後、未だにミヌは見つからず、身代金の要求すらもないことから、犯人自身が犯罪を暴いた人間たちの誰かではないかと疑うテホは、政治家などに殴り込みをかけ問題を起こす日々を過ごしていました。

3年間捜査を続けているソン刑事から話しを聞くも進展がなかったことに苛立つテホ。行方不明者捜索サイトに載せられていた、はっきりとした意識を持ったまま夢を見る、いわゆる「明晰夢」がFBIでは捜査に流用されているという事実を知ります。

明晰夢の研究をしているのが知人のソヒョンであることを知ると、テホはソヒョンに協力を求めます。

夢の中に自身が見落とした記憶が眠っていることに期待するテホは、夢の中で3年前の遊園地を再体験しているうちに、自身の記憶に存在しない「男」を見かけ彼を追いかけました。が、記憶の中に存在しない行動を取ったことで夢から醒めてしまいました。

テホは「男」のことをソヒョンに話すと、彼女はその「男」は「This man」と呼ばれ、多くの人の夢の中に現れる特殊な存在であり、気にするべき相手ではないと言います。

その後もテホは幾度となく明晰夢に入り、事件の日と同じ行動を取りつつ周りを観察し、徐々に事件の様相を掴み始めます。

明晰夢が事件解決のカギになると確信したテホは、ソンに明晰夢を体験させることで有用性を教え、警察の協力を得ることに成功。

ソンには身体を悪くしている娘がおり、自身の子供のために必死になるテホに同情していたのです。

警察の捜査と明晰夢から犯人がテホに麻酔針を打ち込んだ人間と、ミヌを誘拐した手に刺青のある男の2人であることを知るテホ。

さらに彼は針に指紋がついていないことから、麻酔針を打ち込んだ人間が手袋をしていた可能性に気付き、明晰夢から遊園地で風船を配っていた男に辿り着きます。

その男の現在を調べるべく、テホは人探しのプロフェッショナルである人間に調査を頼みます。

次に実際にミヌを攫った刺青の男を調べるテホは、明晰夢の中で刺青の男が遊園地の売店から飲み物を買っている様子を目撃。

3年前から売店で働いている男性に協力を依頼し、男がクレジットカードを使い飲み物を買ったことが分かったので、クレジットカードの情報から、刺青の男が前科を持つチェと言う男であることに辿り着きます。

しかし、チェは2年前に交通事故を起こして昏睡状態となり、意識の回復は絶望的であると知り、テホはショックを受けます。

人探しのプロフェッショナルであるシルバー人材センターの人間からの連絡で、テホに麻酔針を打ち込んだ男を特定し、東京行きの飛行機で男が逃げようとしているところまで知ったテホ。

空港内でユと言うその男を見つけたテホは襲い掛かるユを倒し尋問をしますが、ユはチェがミヌを攫った後に殺害したと言い、駆けつけたソンたちに逮捕されます。

ミヌが既に死んでいると言われたテホは、深い深い絶望の中に沈みます。さらに、警察署内でユが首を吊った自殺体で発見されます。

駆け付けたテホはソンに警察の失態を責めますが、ソンは逆に警察署内で自殺と偽装しユを殺害するほどの大きな権力の存在をにおわせます。

明晰夢での捜査を始めてから鼻血が出るようになったテホは、ソヒョンに会いに行くと、明晰夢の実験場から出てくる大手企業の会長チョの姿を発見しました。

ソヒョンの話しではチョ会長は明晰夢での心的治療の後援者であり、彼自身が息子を失った経験から明晰夢で息子に会っているということでした。

テホはチョ会長に恨まれる覚えがあり、記者仲間に情報を集めさせます。かつてテホはチョ会長の息子が親の権限を利用し、不当な兵役逃れをしていたことを告発した過去がありました。

その息子は2年前の事故により重傷を負いましたが、MkMk型という珍しい血液型であったために輸血が足らずに死亡したと後輩の記者から聞いたテホは、息子のミヌも同じ血液型だったことからチェに疑いを持ちます。

チェの経営するショッピングモールでチェを尾行するテホは、尾行の最中に夢に出てきた「This man」とうり二つな男を見つけ、逃げるその男を捕まえます。

ヨンヒョンと言うその男は足が不自由で車椅子に乗っており、他人の夢に侵入する方法を見つけ楽しんでいたとテホに話します。

ソヒョンのPCをクラッキングしテホの夢の中に入ったと語るヨンヒョンに、他者の夢の中に自身も入れるのかを聞くテホ。

ソヒョンを呼び出し「共有夢」というその現象の話しを聞きますが、明晰夢とは違い非常に危険であると言われます。

それでも息子のために命を懸けると誓うテホは夢に侵入する相手を意識不明となっている男チェに決めます。

意識不明のチェの夢の中でテホはチェが意識不明となったきっかけである自動車事故が何者かによるものであったことや、チェがミヌの誘拐を誰かに指示されただけでなく、その誰かはMkMk型の血液型の人物をリスト化していたことを知ります。

夢から戻りMkMk型の血液型の人物を3年前に必要としていたのは、MkMk型の血液型の息子が事故を起こし輸血を必要としていたチョ会長以外にいないと目星をつけたテホは、ソンに強制捜査に踏み出すよう懇願します。

しかし、共有夢を捜査理由に使うことは出来ないとソンが言ったことで、テホはソヒョンの協力を得てチョ会長を誘拐。

チョ会長を脅迫し真相を聞き出そうとするテホでしたが、追いかけてきたチョ会長のボディガードたちに捕まってしまいます。

チョ会長はテホに自身の息子が事故を起こした際にMkMk型の血液型の人間のリストを作らせたが、それはミヌが誘拐されるよりも前の話しだったと言い、自身はミヌの誘拐とは無関係だと言います。

チョ会長は自身を誘拐したテホに苛立ち、それ以上の情報を与えずにその場を去ろうとしますが、テホが息子のために命懸けであることを知ると、MkMk型の血液型の人間のリストは何者かに奪われ、その何者かは間違いなくリストの中の人間の身内だろうとテホに話します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ルシッドドリーム/明晰夢』のネタバレ・結末の記載がございます。『ルシッドドリーム/明晰夢』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

テホは改めてリストを確認すると、そこにはソン刑事の娘の名前が記載されていました。ソンの娘は入院中です。

ソンの娘の病室に入ったテホはソンの娘が心臓を患っており、その心臓のドナーとしてミヌが最適であったことを知ります。

自身の暗躍に気づかれたソンはテホを誘拐し、3年前に娘のためにユやチェを使いミヌを誘拐させたものの、チェは誘拐と殺害を快く思っておらず、ユやソンにも内緒でミヌをどこかへ隠してしまったと言い、ミヌがまだ生きていることをテホに話します。

ソンの娘は容態を悪化させており、ソンはミヌの心臓がどうしても必要であり、そのためにテホの話した「共有夢」を使ってチェから情報を抜き出そうとしていました。

ソンは殺し屋にテホの始末を任せ、「共有夢」に入るためヨンヒョンのもとへと向かいます。テホを追いかけていたシルバー人材センターの老人にテホは救われると、すぐさまソンを追いかけます。

ソンはヨンヒョンを脅迫しチェの共有夢へと入りました。

一方、ヨンヒョンから共有夢への入り方を教わっていたソヒョンの力を借り、テホもチェの夢へと入りました。

しかし、チェの容態は悪化し始め、チェの死亡と同時に夢も消えます。それまでに脱出できなければ永遠と夢と現実の狭間に取り残されることになるのです。

チェの夢の中でミヌの居場所を知ろうとするテホとソンは殺し合い、テホはソンの足に重傷を負わします。現実のチェが心臓マッサージを必要とするほどになり夢が崩れ始めます。

ミヌを誘拐したことを後悔するチェは、テホにミヌには父は死んだと伝え南海聖堂という教会に預けてあると話し、チェは崩れていくビルから落ちていきました。

南海聖堂の写真を手に入れたテホでしたが、現実へと戻るチャイムを押す手前でソンに襲われます。

娘のためにどうしてもミヌを殺して心臓を手に入れたいソンは、テホを殺害しようとしますが、逆にテホに現実へと戻るチャイムを奪われてしまいます。

崩れていくビルの中で現実へと戻るチャイムを押したテホ、一方ソンはビルに飲み込まれていきました。

数日が経ち、ソヒョンと共に南海聖堂を訪れたテホは、そこでペドロと名付けられたミヌと再会します。死んだとされていた父と再会するミヌは、テホの髭がなくなったと冗談を言うと2人で抱き合いました。

映画『ルシッドドリーム/明晰夢』の感想と評価

「超能力」のようなファンタジーや現代科学を超越した「SF」のようなジャンルと、事件の謎を追う「サスペンス」や「ミステリー」はどうしても相性の悪いジャンルといえます。

物語の終盤まで犯人について二転三転させるストーリーが、事件の謎に一撃で迫れるはずの能力や科学と矛盾してしまい、矛盾部分に適格な理由がない場合はその部分が大きなマイナスとなってしまいます。

もちろん『マイノリティ・リポート』(2002)のように、マイナスになりかねない矛盾点を逆手に取り物語を展開させていく名作もあり、相性の悪いジャンルと一概にいえるわけではありません。

本作『ルシッドドリーム/明晰夢』も、現代技術では成しえていない「明晰夢」を意図的に体験させる技術を用い、事件の様相に迫っていく「SF」と「サスペンスミステリー」のジャンル融合作品です。

しかし、「明晰夢」は意識がはっきりとしているだけで所詮は「夢」であり、自身が「見たことがあるもの」以上に迫ることが出来ないという要素が、事件の真相に届きそうで届かない良い具合の「ミステリー」感を引き出しており、物語の終盤までハラハラできる映画でした。

まとめ

全力を尽くし、なりふり構わず突撃するような性格の主人公テホは、暴走しまくりでありながらそのすべてが「息子のため」と言う部分もあり、どこか好感が持てます。

「なぜ息子は攫われたのか」「誰が事件の黒幕なのか」、しっかりと伏線が張られた事件の真相は丁寧かつ驚きのあるものとなっています。

NETFLIX独占配信作品『ルシッドドリーム/明晰夢』をぜひ、時間の空く休暇時間にご鑑賞してみてはいかがでしょうか。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile100では、オリジナルキャストで蘇る大人気アニメシリーズ最新作『攻殻機動隊 SAC_2045 シーズン1』をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。

4月29日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『願い』あらすじと感想評価レビュー。SKIP映画祭の最優秀作品賞に輝いたマリアセーダル監督自身の経験から得た死への思い|2020SKIPシティ映画祭9

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020エントリー・マリア・セーダル監督作品『願い』がオンラインにて映画祭上映 埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典が、2 …

連載コラム

『夜明けの詩』あらすじ感想と評価解説。《韓国版ジョゼと虎と魚たち》キム・ジョングァン監督が描く“葛藤からの脱却”|広島国際映画祭2023リポート4

広島国際映画祭2023・特別招待作品『夜明けの詩』 2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前前身として誕生した「広島国際映画祭」は、世界的にも注目されている日本の都市・広島で「ポジティブ …

連載コラム

【映画ネタバレ】ポストモーテム 遺体写真家トーマス|あらすじ感想と結末の評価解説。ホラー幽霊が彷徨う”死後村”の恐怖を描く!【未体験ゾーンの映画たち2022見破録24】

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第24回 映画ファン待望の毎年恒例の祭典、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が2022年も開催されました。 傑作・珍作に怪作、異色 …

連載コラム

水川あさみ×濱田岳が『喜劇 愛妻物語』にて、東京国際映画祭のレッドカーペットに登場|TIFF2019リポート4

第32回東京国際映画祭は2019年10月28日(月)から11月5日(火)にかけて10日間開催! 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭がついに2019年10月28日(月)に …

連載コラム

映画『レモ第1の挑戦』あらすじと感想評価。ブルーレイが発売された“労働者階級の007”の製作秘話とは|すべての映画はアクションから始まる2

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第2回 “労働者階級のジェームズ・ボンド”が、裁けぬ悪を成敗する! 日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学