連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile086
2020年のアカデミー賞ノミネート作品の一覧が発表され、各賞をどの作品が受賞するのか世界中で話題となっています。
しかし、その裏で2019年に世界を席巻し、歴代興行収入ランキング1位に輝いた映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)が視覚効果賞以外の賞から選外となったことに疑問を持つ方も多くいました。
そんなわけで今回は、一見アカデミー賞とは無縁に思われがちな「SF」や「ホラー」映画と近年のアカデミー賞との関わりをご紹介していきます。
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作品賞の受賞は未だかつてない鬼門
参考画像:第41回アカデミー賞ノミネート『2001年宇宙の旅』
実は「SF」や「ホラー」映画のアカデミー賞の受賞自体は珍しいことではありません。
その年の最も優れた視覚効果を使った映画が受賞対象となる「視覚効果賞」では、『2001年宇宙の旅』(1968)や『エイリアン』(1979)、『ジュラシック・パーク』(1993)など数多くのSF・ホラー映画が受賞しており、この賞の受賞が両ジャンルの目標とも言われていました。
しかし、一方でアカデミー賞の主要5部門と呼ばれる「作品賞」「監督賞」「主演男優賞」「主演女優賞」「脚本賞」ではノミネート自体が珍しく、その年の最優秀映画を決める「作品賞」では一度も受賞前例がありません。
2000年代の初頭まではアカデミー会員の投票によって選ばれる「作品賞」では、エンターテイメント性に特化した作品は忌避されがちでした。
ですが、2003年にある作品が「作品賞」を受賞したことにより、徐々にこの風潮も変わっていくことになります。
作品賞の傾向が一新された2000年代
参考画像:第90回アカデミー賞ノミネート『ゲット・アウト』
2003年、J・R・R・トールキンの小説「指輪物語」を映画化した「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの完結作『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2004)が「作品賞」を受賞したことでノミネート傾向が大きく変わり始めます。
それまでも『スター・ウォーズ』(1978)や『レイダース/失われたアーク』(1981)のように「大衆娯楽作」と呼ばれる作品もノミネート自体はしていたものの、ファンタジーの「大衆娯楽作」である『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』がアカデミー賞の11部門を制したこの年はアカデミー賞の革命の年だったと言えます。
その後も残念ながらSFやホラー映画が「作品賞」を受賞することは2020年の現在まで1度もありません。
しかし、2009年にはジェームズ・キャメロンが新技術を駆使し描いた『アバター』(2009)と、地球に避難した宇宙人の差別と陰謀を描いた『第9地区』(2010)が揃って「作品賞」にノミネート。
2010年には『インセプション』(2010)、2013年には『ゼロ・グラビティ』(2013)、2015年には『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)と『オデッセイ』(2016)など、2000年以前には考えられなかったほど数多くのSF映画が「作品賞」にノミネートし始めます。
そして2017年、1973年の『エクソシスト』(1974)でのノミネート以来、ジャンル的に不可能とさえ言われていた「ホラー」のジャンルから『ゲット・アウト』(2017)がノミネートし、アカデミー賞を震撼させました。
話題となったスティーヴン・キングの言葉
参考動画:第92回アカデミー賞ノミネート『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』
1月中旬、アカデミー賞の映画候補を決める1票を持った映画芸術科学アカデミーの会員である作家のスティーヴン・キングがSNSに投稿したある文章に各界から様々な批判が相次ぎました。
「候補作を選考するにあたり最重要なものは多様性ではなくクオリティである」としたその文章は、「多様性の存在もクオリティの中に含まれる」と言う意見や「時代に逆行する考え方」と言う意見が相次ぎ、ちょっとした騒動となっています。
この文章の次にキングは「性別や肌の色、志向に関わらず全員が同じチャンスを与えられなければならない」と投稿しており、近年の受賞傾向である差別を題材にした作品に対する批判ではないことは明かです。
しかし、前述したように「SF」や「ホラー」と言う「大衆娯楽作」が「作品賞」と言う名誉を受けれない時代があったように、性別や肌の色によって長年正しい評価をされない人や映画が多くありました。
もちろん、「作品賞」には「クオリティの高い映画」の受賞が求められるものの、その「クオリティの高い映画」と言うくくりが性別や肌の色、そして国やジャンルに縛られない「多様性」に富んだものであることがアカデミー賞が目指すべき目的地なのかもしれません。
まとめ
残念ながら2020年の「作品賞」にはSF・ホラー映画のノミネートはないものの、SF映画の決戦場である「視覚効果賞」には『アベンジャーズ/エンドゲーム』と『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)がノミネート。
マーティン・スコセッシが人生を込め、街並みもリアルに再現した『アイリッシュマン』(2019)や「超実写版」と銘打つのほどの毛並み1つ1つまで作り抜いたCG映画『ライオン・キング』(2019)、戦場の表現を壮大なスケールで再現した『1917 命をかけた伝令』(2020)など、受賞作の予想がつかない「視覚効果賞」は今回の授賞式の見どころの1つ。
韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2020)が「作品賞」を受賞するのか、波乱の予感の授賞式は日本時間の2020年2月10日月曜日に全世界で同時中継されます、お見逃しなく!
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile087では、「映画のようなゲームとゲームのような映画」、進化していく映画の形を「SF」作品に絞り解説していこうと思います。
1月29日(水)の掲載をお楽しみに!