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NETFLIX映画『上海要塞』ネタバレ感想とレビュー評価。評判は賛否両論の中国産SFの魅力とは|SF恐怖映画という名の観覧車81

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile081

「アベンジャーズ」シリーズや「スター・ウォーズ」シリーズのように本格的な「SF」映画は、費用や長年培ってきたCGなどの技術が多く必要となり、映画の本場ハリウッドでさえ成功と失敗を繰り返す製作難易度の高いジャンルと言えます。

特に2000年代以降はCGの技術が飛躍的に向上したことにより鑑賞者の目が肥え、技術力の低いCGは「チープ」に感じてしまうようになりました。

そんな中、圧倒的な映画製作の費用を持つ中国がSF映画の世界へと本格的に参入。

今回は莫大な費用を投じて製作されたNETFLIX独占配信映画『上海要塞』(2019)をネタバレあらすじを含めて、批評における賛否とその注目点をご紹介していこうと思います。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『上海要塞』の作品情報


NETFLIX映画『上海要塞』

【日本公開】
2019年(NETFLIX独占配信映画)

【原題】
上海堡垒

【監督】
タン・ファータオ

【キャスト】
ルハン、スー・チー、シー・リアン、カオ・イーシャン、ワン・ゴンリャン、ワン・セン、スン・ジアリン、ヴィンセント・マティル

【作品概要】
韓国映画『リメンバー・ミー』(2000)をリメイクした『スカイ・オブ・ラブ』(2003)を手掛けたタン・ファータオ監督が製作した中国産SF映画。

主演は歌手やダンサーとして中国で絶対的な人気を持ち、今年日本でリメイクされ話題となった韓国映画『ブラインド』(2011)を中国でリメイクした『見えない目撃者』(2016)でW主演を務めたルハンが本作でも主演を務めました。

映画『上海要塞』のあらすじとネタバレ

数十年先の未来、中国の宇宙船が地球に持ち帰った物質「シエントン」は、既存のエネルギーに取って代わるほどの強大なエネルギーで技術の発展に寄与しました。

しかし、シエントンを狙う宇宙人の母船が地球に飛来し、アメリカや日本などの世界の主要都市は次々と破壊。

残ったエネルギーを防衛機構に充てたことが功を奏し、最後の主要都市である上海は母船からの攻撃に耐えていました。

シエントンの防御システム内で働く青年のチアンは、上司のリンに恋しながらも戦闘機乗りとしての高い才能を見出され訓練を受けています。

ある日、チアンが休暇を取っている最中に宇宙人の母船が上海の攻撃を始めます。

圧倒的な宇宙人の技術により、あっさりと上海を覆うシールドの一部が破壊され、宇宙人たちの戦闘機が上海に侵入。

一瞬にして戦火は街へと広がり、司令センターも脅かされ始めますが、シールドが復旧したことで母船を一時的に追い払うことに成功します。

今回の防衛の成功と敵戦力の大まかな推測から、連合軍は上海キャノンと呼ばれる大型兵器による母船の破壊を提案しますが、防衛用のエネルギーを攻撃に転じるその計画の穴を知るシャン将軍は作戦に反対し、会議は平行線を辿ります。

シャンに上海の地下に張り巡らされたシエントンのエネルギー施設を案内されたリンは、上海キャノンの使用によってシールドが機能しなくなる可能性について説明されます。

チアン、パン、ルー、ツァンと言う4人の候補生を戦闘機のパイロットとして育てる「AV28計画」は、シールド機能の代用として彼らを投入する計画であることを告げられるリン。

一方、チアンを含めた4人の候補生は宇宙人撃退後の未来を語りますが、その時突然本部からの呼び出しを受けます。

母船からの再攻撃が開始され、穴の開いた部分を修復するため一部にエネルギーを集中させたことが仇となり、他部分のシールドを突破され多数の宇宙人の侵入を許してしまいます。

チアンたち「グレーイーグル」がドローンを操作し司令塔を守る中、チエン司令官が上海キャノンを起動します。

グレーイーグルが防衛を務めることで時間を稼ぎ、遂に上海キャノンが発射。

母船は跡形もなく消滅し、シールドが復活したことで再びの防衛に成功します。

母船を撃破したことにより、平和を取り戻した上海。

上海キャノンの発射を強行したチエン司令官は准将に昇進し、グレーイーグルの面々も功績が認められ、正式に司令官として採用されます。

仲間たちの後押しもあり、チアンはリンに誕生日プレゼントとして花を渡しますが、リンはその意味に気が付いていないようでした。

夜、チアンはリンをデートに誘いますが、リンは装備の点検のことだと勘違いし、そのまま二人は装備の点検に向かいます。

点検の最中、リンは世の中の平和こそが自身の望むものであり、恋愛や家庭に現を抜かしている暇はないことをチアンに語り、その日は解散となりました。

翌日、上海の一部の地域で地割れが発生し、シャンはこれがシエントンのエネルギーを過剰に使用した上海キャノンの余波であることを告げます。

その直後、前回の襲撃でシールド内に潜伏していた宇宙人が司令塔内に奇襲を仕掛けます。

グレーイーグルの面々や司令塔を守る隊員たちは必至の抵抗を行いますが、内部からサーバにアクセスされシールドを停止させられてしまいます。

パンが自身を犠牲にした自爆によって予備サーバでのシールド復旧が可能となり、上海は再び防衛に成功。

しかし、今回の攻撃では多くの人間が命を落とし、破壊したはずの母船が健在であることをシャンは上海が滅びる前に、シールド用のエネルギーを上海キャノンにすべて費やし母船を攻撃する計画を実行に移すことを決断し、チエンもその考えに従います。

防衛はグレーイーグルが搭乗する有人戦闘機「AV28」に一任する無謀な計画でしたが、パンを失ったチアンたちはこれを了承します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『上海要塞』のネタバレ・結末の記載がございます。『上海要塞』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

命を落とす覚悟を決め、リンに愛を伝えるメールを送信中のまま保管箱に入れAV28に搭乗するチアン。

上海キャノンへのエネルギーの充填が始まったことでシールドが解除され、母船は再び上海を攻撃し始めます。

エネルギー施設を守るため手薄となった司令基地は攻撃され、シャン将軍は崩壊する基地を運命を共にします。

敵に襲われるルーの機体を守るため、自身の機を敵にぶつけたチアンの機体は損傷し、激しい地上戦が行われるエネルギー施設付近に不時着。

絶体絶命のピンチに陥るチアンでしたが、ルーがAV28で助けに来たことで救われます。

パンを失い、悲観に暮れるルーは機体をチアンに託すと時間を稼ぐために爆弾で自爆し宇宙人もろとも吹き飛びました。

上海キャノンの充填が完了しチエンは上海キャノンを発射しますが、母船がシールドを発したことで失敗に終わります。

エネルギーの急激な減少により、上海の地盤が沈み始めたことを地下のエネルギー施設を守るリンが全員に伝えます。

その後の世界のことを残りの人間に託すと、リンは崩れた地盤に飲み込まれるのでした。

上海キャノンの中にまで宇宙人が侵入し、チエンが負傷した上に誘導装置が破壊されてしまいます。

それでもエネルギーの充填は終わり、チアンはある決断をします。

チアンはチエンに赤外線装置を使い自身の機体を狙うように指示。

それを聞いたツァンはチアンの作戦を理解し、自身を囮として敵軍を引きつけ撃墜されます。

ツァンの犠牲によって母船のコアに辿り着いたチアンはチエンに上海キャノンの発射を求めます。

上海キャノンは母船のコアを直撃し、母船は粉々に砕け散りました。

5年後、キャノンに巻き込まれる寸前に脱出ポッドを使い生き延びていたチアンは英雄として称えていました。

復興しつつある街を歩きながらグレーイーグルの面々やリンのことに想いを馳せるチアン。

部下から戦地で見つかった保管箱を手渡され、保管箱を開けると5年前に任務前に送信していたリンへのメッセージに対しリンから「受け取った」と返信が来ていたことに気が付きます。

いつも彼女が送ってくれていたように、チアンはリンに「よく眠って、おやすみ」と涙をながしながらメールを送信。

一方、リンの保管箱にはチアンが渡した花が入っているのでした。

映画『上海要塞』の感想と評価

2019年、中国産SF映画『流転の地球』(2019)が公開され、その圧倒的な映像と壮大なスケールの世界観が世界のSF映画好きから絶賛を受けることになります。

長年の積み重ねを持つハリウッドに一歩も引かない姿勢を見せつけた『流転の地球』に続き同年、本作『上海要塞』が公開されましたが、本国における評価と売上は芳しくない結果となってしまいました。

ですが、本作はありきたりとも言える展開を大規模に描いた好感度の高い作品であり、「好きな人は好き」と言う言葉が適切な表現に感じる映画であったと言えます。

特に莫大な予算と技術力を投入した「映像効果」のクオリティは見ごたえがあり、有人戦闘機「AV28」のデザインや動き、そして戦闘シーンはかつて「SF映画に求めていたもの」を思い出させてくれるような格好良さです。

そして、本作を語る上で外すことの出来ない要素が劇中に登場する「上海キャノン」と言う力強さを体現した兵器。

名前の響きからすでに力強い「上海キャノン」ですが、地下から登場するギミックの演出は「メカ」と言う雰囲気を前面に押し出す、子供心をくすぐられるような気持ちの良さがありました。

本国の評価を気にせず、『バトルシップ』(2012)や『パシフィック・リム』(2013)のように、「SF」に「メカ」や「熱い戦い」を求める人にぜひ観ていただきたい作品でした。

まとめ

設定や展開に穴はあれど、主人公チアンの周囲における青春と恋愛模様、そして宇宙人との熾烈な戦いの先にあるラストは「戦争」が引き起こす「悲劇」を感じさせてくれる物語に仕上がっています。

宇宙人との派手なバトルと「上海キャノン」と言ったトンデモ設定の数々が好きな方、みんなでワイワイと盛り上がりながら見る方にぴったりな『上海要塞』。

日本ではNETFLIX独占配信となる本作をぜひご覧になってください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile082では、「SF映画おすすめ5選!2019年のランキング傑作選【糸魚川悟セレクション】」と銘打ち、2019年に公開したSF映画の傑作をランキング形式で振り返りたいと思います。

12月25日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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