連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile043
以前、「ホラー映画は嫌い」と言っていた知人がいました。
その理由を詳しく訪ねてみると、ドキッとさせられる描写が苦手なのかと思いきや、ホラー特有の「スッキリ」しない終わり方が嫌いなのだそう。
確かにホラーと言うジャンルでは、鑑賞後にも心に強い印象を残すため「スッキリ」としない終わり方をすることが、他のジャンルに比べて多いと言えます。
ですが、ホラー映画の世界にも「スッキリ」と救われた気分で終わる映画がいくつもあるんです。
そんな訳で今回は「家族」の意味を問いかける、暖かなアメリカ・スペイン合作ホラー『マローボーン家の掟』をご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『マローボーン家の掟』の作品情報
【原題】
Marrowbone
【日本公開】
2019年(アメリカ・スペイン合作映画)
【監督】
セルヒオ・G・サンチェス
【キャスト】
ジョージ・マッケイ、アニャ・テイラー=ジョイ、チャーリー・ヒートン、ミア・ゴス、マシュー・スタッグ、カイル・ソーラー、ニコラ・ハリソン
映画『マローボーン家の掟』のあらすじ
“フェアバーン”と言う姓を捨て、“マローボーン”と名乗り、人里離れた山奥で身を隠し暮らすローズ(ニコラ・ハリソン)とその4人の子供。
やがてローズは病に倒れると、長男のジャック(ジョージ・マッケイ)に21歳になるまで自身の死を隠すことを誓わせます。
ローズの死後、ジャックは兄弟と共に仲睦まじく過ごしていましたが、日々見る悪夢とマローボーン家を調べようとする弁護士のトム(カイル・ソーラー)に神経をすり減らすことになり…。
様々なジャンルを感じられる新感覚ホラー
本作の魅力は、1作の中に様々なジャンルの楽しみが高純度で詰まっている部分にあります。
主人公のジャックが母の死を知られないために、訪ねてくる弁護士のトムをやり過ごすサスペンス感や、鏡の中にいるとされる「何か」に脅かされるホラー感、そして彼らの隠す秘密が徐々に明らかになるミステリー感など本作に込められたジャンルは多岐にわたります。
ジャンルを詰め込んだ作品はちぐはぐなメッセージ性になりそう、と危惧する方もいるかもしれません。
しかし、本作は様々なジャンルを結合しながらも、その全てがラストに向かって収束する秀逸な脚本が光り、決してちぐはぐになることなく「スッキリ」とした鑑賞後感を楽しむことが出来ました。
青春+ホラー
『マローボーン家の掟』の物語の胆は「青春」にあります。
「外に秘密を漏らしてはいけない」と言う掟に従い抑圧されながらも、隣の山に住むアリーに恋をするジャック。
しかし、彼には「掟」を守ったところで決して幸せにはなれない、自身を縛る枷がありました。
本作の主題は、自身の内なる「絶望」と「恐怖」と向き合うこと。
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)のように「青春」+「ホラー」の融合作として、主人公が「恐怖」と向き合う様に胸が熱くなります。
注目のキャストたち
『はじまりへの旅』(2017)でメインキャストを勤め、日本でも話題となったジョージ・マッケイが主人公のジャックを演じた本作。
実は本作には名作ホラーのリメイク作『サスペリア』(2019)で主演に大抜擢されたミア・ゴスを始め、今、注目すべき俳優たちが数多く出演しています。
この項ではその中でも、2019年のホラー映画界で外すことの出来ない2人の俳優をご紹介させていただきます。
アニャ・テイラー=ジョイ
本作のヒロインに当たるアリーを演じるアニャ・テイラー=ジョイ。
サンダンス映画祭で初上映された『ウィッチ』(2017)での演技が高く評価された彼女は、近年の「ホラー」ジャンルでは欠かすことの出来ない存在と言えます。
M・ナイト・シャマランが監督した、アニャ演じるケイシーが23もの人格を持つ男に攫われるスリラー映画『スプリット』(2017)。
襲われるがままのヒロインではなく、様々な機転と複雑なバックボーンを持った女性として物語に深みを作り、続編となる映画『ミスター・ガラス』への出演も果たすことになります。
そして2019年、ホラー映画に新たな歴史が刻まれる1作が登場します。
有名アメリカンコミックの実写化として大人気のシリーズ「X-MEN」。
6月には最新映画『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019)の公開も控えたこのシリーズですが、何と2019年はもう1作の公開が予定されています。
『ザ・ニュー・ミュータンツ』(2019)と名付けられたその作品は、シリーズ初でありアメコミ映画の中でも類を見ない「ホラー」ジャンル。
そんな『ザ・ニュー・ミュータンツ』の主演を射止めたのが、『マローボーン家の掟』でヒロインを演じるアニャ・テイラー=ジョイなのです。
ホラー映画界で今後大注目となること間違いなしの俳優、アニャ・テイラー=ジョイの活躍に胸が高鳴ります。
チャーリー・ヒートン
アニャ・テイラー=ジョイに続いて「ホラー」ジャンルで注目される俳優チャーリー・ヒートン。
本作では次男のビリーを演じ、長男や掟に鬱屈した想いを抱えつつも家族のことを優先に動く熱い青年として物語の中枢を担いました。
アニャと同じく『ザ・ニュー・ミュータンツ』への出演が決定しており、それだけで「ホラー」ジャンルとしては大注目の俳優なのですが、あるドラマの存在が彼への期待度を大きく上げています。
動画配信サービス「Netflix」が手掛けるSFホラードラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』。
全世界で人気を集めるこのドラマシリーズは、メインキャストの1人であるミリー・ボビー・ブラウンが『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)でメインキャラクターを演じることが決まるなど、キャスト面でも話題の作品。
そんなドラマで家族のことを第一に考え、他者とあまり関わろうとしない奥手の一匹狼ジョナサンを演じたチャーリー。
同じ「家族想いの青年」を演じながらも『マローボーン家の掟』とは真逆と言える性格を繊細に演じ分ける彼の演技力は並外れており、7月に始まる『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のシーズン3と併せ、注目すべき俳優の1人であると言えます。
まとめ
絶対的な安息地であるはずの「家」と言う存在に「異物」が混じることへの不気味な閉塞感。
ドキッとする「恐怖描写」は少なく、ただただ雰囲気の作り込みで何かが「いる」恐怖を与える舞台設定の巧妙さが味わる本作。
全ての違和感が繋がる切ない真実と、「絶望」を乗り越える力強さとその先に待つラストに感動できる晴れやかな作品。
「驚かされる演出が苦手」、「スッキリしない終わり方が嫌い」と言う人にも自信を持ってオススメできるホラー映画『マローボーン家の掟』は2019年4月12日より全国で公開です。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile044では、『奇想天外映画祭』開催記念第1弾としてカルト映画『バスケットケース』をご紹介させていただきます。
4月10日(水)の掲載をお楽しみに!