Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/01/24
Update

『ミスターガラス』ネタバレ感想と結末考察のあらすじ。シャマラン監督が超人に込めた想いを解説|サスペンスの神様の鼓動8

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回、取り上げる作品は2000年に公開された『アンブレイカブル』の続編で、2016年公開の『スプリット』と世界観を共有する、3部作の完結編『ミスター・ガラス』です。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

『アンブレイカブル』と『スプリット』

『ミスター・ガラス』は、『アンブレイカブル』のその後を描きながら、『スプリット』の世界観を共有しています。

まずは、この2作品を振り返りましょう。

『アンブレイカブル』


©Buena Vista Home Entertainment, Inc.
フィラデルフィアで、131名もの死者を出した悲劇的な列車事故が発生します。

列車事故の、たった1人の生存者デヴィッド・ダンは、コミックのコレクターで、コミック関連の画商をしているイライジャと出会います。

イライジャは難病を患っており、人生で何十回も骨折を経験している男でした。

イライジャは、自分とは逆の存在である屈強な男を探し求めており、ダンこそ自身が探し求めていたヒーローだと主張します。

当初はイライジャの考えを否定していたダンでしたが、次第に自分の超人的な能力を自覚するようになり、ヒーローとして目覚めていきます。

しかし全ては、「ミスター・ガラス」こと、イライジャの陰謀でした。

『アンブレイカブル』の面白い所は、悪に対抗する為の正義の存在ではなく、悪を存在させる為の正義、つまりイライジャがコミックの世界を、現実世界に持ち込もうとした所です。

今でこそ、アメコミのヒーローは「マーベル」や「DCコミック」のキャラクターが映画化され、エンターテイメントの中心になっています。

ですが『アンブレイカブル』がアメリカで公開された2000年は、アメコミのヒーローはまだまだ下火でした。

そして、そんな時代に、かなりの変化球でスーパーヒーロー映画を製作したシャマラン監督。

『アンブレイカブル』は公開当時、作品の評価があまりよくなく、シャマラン監督は3部作の構想を持ちながらも「次に進む事にした」と語っています。

少し早すぎた作品だったのかもしれません。

『スプリット』


(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
父親を亡くし、叔父に引き取られた女子高生ケーシー。

しかし、叔父には性的な虐待を受けており、次第に周囲に心を閉ざすようになります。

ある日ケーシーは、2人のクラスメイトと共に誘拐され、生活に必要な最低限の設備し整っていない建物に監禁されます。

3人の前に姿を現した誘拐犯ケヴィンは、23もの人格を持つ男でした。

建物の中から脱出しようとするケーシー達の前に、ケヴィンの24番目の人格で、獣のような強さを持つ「ビースト」が現れます。

本作のラストでは、ケヴィンは「群れ」と呼ばれる殺人鬼として報道されるようになります。

そのニュースをダンが見た事から、今作『ミスター・ガラス』の物語は始まります。

公開から年月が経ち『アンブレイカブル』が、カルト的な人気作となった事で『スプリット』は『アンブレイカブル』と『ミスター・ガラス』を繋ぐ物語として製作されました。

多重人格の殺人鬼ケヴィンは、元々は悪の存在として『アンブレイカブル』に登場する予定でしたが、シャマラン監督がダンとイライジャの物語に集中する為に、削られたという過去があります。

『ミスター・ガラス』は、シャマラン監督が18年越しで放つ、『スプリット』を経由した『アンブレイカブル』の完結編となります。

『ミスター・ガラス』観賞前に、前2作はチェックしておいた方が良いでしょう。

映画『ミスター・ガラス』のあらすじ


(C)Universal Pictures All rights reserved.
多重人格の殺人鬼「群れ」を捕まえる為に、独自に捜査を行うデヴィッド・ダン。

ダンは唯一の弱点である水から、自分の体を守る為に、常にレインコートに身を包んでおり、ネット上では「監視人」と呼ばれるようになりました。

ダンは「群れ」の行動パターンから、潜伏エリアを割り出し、「群れ」と呼ばれる多重人格者、ケヴィンを探し出します。

ケヴィンのアジトに監禁されていた女性達を救出したダンの前に、ケヴィンの24番目の人格、獣のような強さを誇る「ビースト」が現れます。

激しい戦いを繰り広げるダンとビーストですが、ケヴィンのアジトを包囲した警官隊に拘束され、フィラデルフィアの精神病院に送り込まれます。

精神病院内では、ダンの弱点である水や、ケヴィンの弱点である強力な照明が設置されており、2人の超人的な能力は封じられてしまいます。

2人の前に現れた精神科医のステイプルは、超人的な能力を全否定し「妄想だ」と主張。

ステイプルは自身の主張を明確にする為に、ダンとケヴィンにカウンセリングを行います。

そして、ステイプルのカウンセリングを受ける男がもう1人、フィラデルフィアでの列車事故の首謀者「ミスター・ガラス」こと、イライジャでした。

戸惑うダンですが、ステイプルはカウンセリングを続けます。

ステイプルの主張通り、3人の能力は妄想なのか?

事態はやがて、思わぬ方向へ進んでいきます。

サスペンスを構築する要素①「『アンブレイカブル』の逆を進む内容」


(C)Universal Pictures All rights reserved.
本作の主軸は「特殊能力を持った超人は、本当に存在するのか?」という点です。

精神科医のステイプルは、ダンの悪を察知する能力や、ビーストの持つ強靭な肉体など、超人的な能力を全て否定します。

理論的に全てを否定するステイプルを前に、ダンやケヴィンは困惑し、超人としての自信を失い始めます。

アメコミヒーローが下火の時代に『アンブレイカブル』で超人に覚醒するダンを描きながら、アメコミ・ヒーローの映画が世界的なブームになった今、「ヒーローなんていない」というスタンスの作品を製作する、シャマラン監督の作家性が光ります。

『アンブレイカブル』の逆を進む展開を見せる、本作の着地点は何処なのか?

先が読めない展開が続きます。

サスペンスを構築する要素②「何故タイトルが『ミスター・ガラス』なのか?」


(C)Universal Pictures All rights reserved.
ステイプルのカウンセリングにより、超人としての自信を失っていくダンとケヴィンですが、驚異的な頭脳を持つイライジャはどうなのでしょうか?

映画前半、イライジャは鎮静剤の効果により、意識が朦朧としている状態が続きます。

精神病院のスタッフは、意識が無いイライジャに油断し、弄ぶように接したり、精神病院内のセキュリティを説明し「脱出不可能である」事を強調します。

しかし、本作のタイトルは『ミスター・ガラス』、物語を動かすのはイライジャなのです。

イライジャは収集した数々の情報を組み合わせ、ミスター・ガラスとしての新たな陰謀を計画します。

ミスター・ガラスが再び動き出す時、全ては彼の掌の上となり、何もかもがコントロールされていきます。

ミスター・ガラスの計画に必要な情報は、映画前半に全て出てきます。

何がどう組み合わさって計画が進むのか?

ミスター・ガラスの目的は何なのか?

ここが映画中盤の見どころとなっており、是非、悪の天才に弄ばれる快感を味わっていただきたいです。

サスペンスを構築する要素③「メッセージの込められた衝撃のどんでん返し」


(C)Universal Pictures All rights reserved.
シャマラン監督作品の持ち味は、ラストのどんでん返しにあります。

本作でも、どんでん返しは巻き起こりますが、そこには熱いメッセージが込められています。

ここからは、ネタバレを含む考察をしていきます。

3人の超人的な能力を否定していたステイプルは、精神科医ではなく、ある組織から派遣されていました。

その組織の目的は、超人の存在を世の中から隠す事。

ミスター・ガラスの計画により、病棟から抜け出したダンと「ビースト」と化したケヴィンは、精神病院の庭で激突していました。

全てはミスター・ガラスの手引きです。

2人の戦いを止める為にSWATが派遣され、その中には、ステイプルが所属する組織のメンバーが紛れており、超人の消去に動きます。

ダンは水中に顔を押し付けられ窒息死、ケヴィンも元の人格に戻った所を狙撃されます。

また、ミスター・ガラスは18年前に起こした列車事故により、乗車していたケヴィンの父親が死亡した事が判明し、怒り狂った「ビースト」の攻撃により絶命します。

世界の脅威になる可能性のあった3人の超人は、絶対的な正義も悪も必要としない、ステイプルの組織により存在を消されてしまいます。

この展開は、アメコミ・ヒーローに否定的な目を持っていて「現実離れしていて、共感できない」と言う人達への、シャマラン監督の答えとも言えます。

超人的な力を持つヒーローや悪役は、現実に存在するが、それを表に出さない何らかの力が働いていると。

ステイプルは、アメコミを読んで、超人の情報を探っていました。

アメコミの内容は作り話ではなく「実在した超人達を記録した文献」という解釈ができ、シャマラン監督のアメコミ愛を強く感じます。

では、本作はアメコミ・ヒーローへの愛が溢れただけの作品なのかと言うと、それは違います。

ここから、更に話が展開していきます。

精神病院でのダンと、ケヴィンの戦いはカメラに記録されており、全世界に配信されます。

これは、超人の存在を世に示そうとした、ミスター・ガラス最後の仕掛けでした。

ステイプルの組織は、ミスター・ガラスの頭脳に敗北した事になります。

超人の存在が世界に知れ渡った事で、人々は「常識」という概念を超えた、自らの力を信じるようになるでしょう。

ここには、人間という存在が持つ未知の可能性と、それを信じる重要さ、つまりは自分を信じる事の素晴らしさが込められています。

本作で、ダンの息子ジョセフは、ネットを駆使して「群れ」の捜索を手伝い、かつてケヴィンに誘拐されたケイシーは、ケヴィンに寄り添う事で、人格をコントロールし救い出そうとしました。

イライジャの母親は、最後まで母の優しさでイライジャを包み、驚異的な頭脳が暴走する事の抑止力となっていました。

これらは全て、立派な特殊能力であり、誰もが超人となる事ができるのです。

『アンブレイカブル』と『スプリット』は、自分の能力を信じ覚醒させる話です。

『ミスター・ガラス』のラストにより、前2作の完成度は上がり、間違いなく作品の輝きは増しました。

どこまで計算されていたかは分かりませんが、シャマラン監督恐るべしです。

映画『ミスター・ガラス』まとめ


(C)Universal Pictures All rights reserved.
シャマラン監督は、1999年の映画『シックス・センス』が大ヒットし、一躍世界にその名を轟かせますが、2006年の映画『レディ・イン・ザ・ウォーター』の失敗を受けて、人気監督の地位から転落し、長らく不遇の時期を味わいました。

それでも、不屈の闘志で作り上げた『ミスター・ガラス』は、作品に込められたメッセージに、今のシャマラン監督だからこその説得力があります。

『ミスター・ガラス』は日米同時公開され、シャマラン監督作品の中でも、最高のオープニング記録となりました。

批評家の評判は悪かったと言われているので、まさに最大のどんでん返しと言えるでしょう。

本作で完全復活を果たしたシャマラン監督の次回作は、テレビシリーズとも言われています。

今後、何を仕掛けてくるのか?非常に楽しみですね。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…


(C)2018 SIRENS PRODUCTIONS LIMITED BONA ENTERTAINMENT COMPANY LIMITED MORGAN & CHAN FILMS LIMITED
山下智久さんの初海外進出作品としても話題の、タイミリミットサスペンス『サイバー・ミッション』を、ご紹介します。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『ボイス深淵からの囁き』ネタバレ感想と結末の考察解説。ガチで怖い心霊ホラー・魔女映画はスパニッシュブーム再来なるか⁈|Netflix映画おすすめ3

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第3回 世界の配信映画ユーザーが待ち望むのが、まだ見ぬホラー映画の数々。 その期待に充分応えた作品が、ホラー映画大国のスペインから登場しまし …

連載コラム

映画『台北セブンラブ』感想と内容解説。愛と時間を求め現代人は彷徨う|銀幕の月光遊戯27

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第27回 CM・MV監督としても知られるチェン・ホンイー監督が、建築ラッシュに沸く台北のデザイン事務所を舞台に、男女7人が繰り広げる恋愛模様を鮮烈に描き出す! クラウドファ …

連載コラム

映画『運命のイタズラ』ネタバレあらすじ感想と結末の考察評価。リリー・コリンズで描く不運な鉢合わせが招く“運命のイタズラ”|Netflix映画おすすめ94

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第94回 今回紹介する映画『運命のイタズラ』は、別荘に強盗に入った男と、その別荘の夫婦が不運にも鉢合わせしてしまい、思いがけない事態に展開し …

連載コラム

映画『ひかり探して』あらすじ感想と評価解説。韓国女性監督パク・チワンが特別な女性の絆と連帯感を描く|映画という星空を知るひとよ86

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第86回 韓国映画『ひかり探して』が、2022年1月15日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開されます。 本作は、『10人の泥棒たち』のキム・ヘスと『パラサ …

連載コラム

映画『ザ・バウンサー』感想とレビュー評価。ヴァン・ダムが娘のために犯罪組織に挑む|すべての映画はアクションから始まる3

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第3回 日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアク …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学