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Entry 2019/02/05
Update

映画『サイバーミッション』ネタバレ感想と評価。非現実的な世界で描かれるリアル|サスペンスの神様の鼓動9

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回、取り上げる作品は、ハッカー同士の激しい攻防戦を描いた、タイムリミット型アクション・サスペンス映画『サイバー・ミッション』です。

山下智久初の海外進出作品としても話題の、本作の見どころをご紹介します。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『サイバー・ミッション』のあらすじ


(C)2018 SIRENS PRODUCTIONS LIMITED BONA ENTERTAINMENT COMPANY LIMITED MORGAN & CHAN FILMS LIMITED
アニメ好きのオタク青年ハオミン。

彼は友達もいない孤独な毎日を送っていましたが、「海賊船長」のハンドルネームを持ち、「ハッキング大会」でも優勝するほどの凄腕のハッカーでした。

ある日ハオミンは、偶然コンビニで知り合った女性スー・イーと仲良くなり、連絡先を交換します。

スー・イーに恋をしたハオミンは浮かれながら毎日を過ごしていましたが、突然、香港警察に拘束されます。

香港警察のチョウ警部はスー・イーの恋人で、「ゼブラ」のコードネームを持つ裏世界のハッカー、チャオ・フェイの動きを探っており、チャオがハオミンに接触すると読んでいました。

ハオミンはわけも分からないまま、香港警察の潜入捜査官になる為の特訓を受けさせられます。

スー・イーへから返信をもらいま浮かれるハオミン

ですが、すでに自宅へ侵入していたスー・イーに気絶させられ、連れ去られてしまいます。

車の中で意識が戻ったハオミンはチャオと対面。

スー・イーは実はチャオの恋人でした。

かつて「ハッカー大会」でハオミンに敗れたチャオは、新たな仕事の相棒としてハオミンを仲間に引き入れようとします。

当初は困惑していたハオミンでしたが、疾走する車から降りれない事と、潜入捜査を目的にチャオと手を組みます。

ハオミンはチャオと共に、裏組織のハッカーのボス、モリタケシと会います。

モリタケシに与えられたミッションは、マレーシアの交通設備を統括しているインフラ管理システム「Oasis」をハッキングする事でした。

世界最高峰のシステムである「Oasis」はトップクラスのセキュリティを誇っており、侵入もハッキングも不可能な状況。

果たして、ハオミンとチャオ、スー・イーは「Oasis」のハッキングに成功するんでしょうか?

また、ハッキングを指令したモリタケシの目的は?

サスペンスを構築する要素①「人種が入り乱れる独特な世界」

本作は、序盤は香港を舞台に、中盤以降はマレーシアを舞台にしています。

香港、マレーシア共に多国籍企業が進出しており、さまざまな人種が暮らしているという特徴があります。

本作も、さまざまな国籍のキャストが出演しており、主人公のハオミンを演じるハンギョンと、メインキャラクターの1人、スー・イーを演じるリー・ユエンは中国人ですが、チャオ・フェイを演じるリディアン・ヴォーンは台湾人とイギリス人のハーフです。

裏社会のハッカー集団の構成員はヨーロッパ系のキャストが多く、作品の中ではアラブ系の企業も登場します。

こういったさまざまな国籍の人種が登場する世界を作る事で、本作はどこか別次元の近未来的な世界観を作り出しており、後半の「Oasis」を巡る、少し現実離れした攻防にも説得力を持たせています。

この、多国籍の人種で構成された近未来的な世界で異質な存在感を放っているのが、裏社会ハッカー集団のボスであるモリタケシを演じる山下智久。

山下智久にとって初の悪役ですが、体重を6kg落とし、体毛を剃り落とす事で役作りを行い、不気味な風貌を漂わせています。

モリタケシは、自身を能面師と言っており、最後まで一切表情を変えません。

これにより、モリタケシの目的や正体がミステリアスになり、作品序盤を引っ張る主軸となっていきます。

サスペンスを構築する要素②「巻き込まれる主人公」


(C)2018 SIRENS PRODUCTIONS LIMITED BONA ENTERTAINMENT COMPANY LIMITED MORGAN & CHAN FILMS LIMITED
本作の主人公ハオミンは序盤から中盤にかけて、かなりお人好しでまぬけな印象を与えるキャラクターとなっています。

ゲームと漫画オタクで、生活の全てをネットワーク上で終わらせているハオミンですが、凄腕のハッカーだったばかりに「Oasis」を巡る戦いに巻き込まれてしまいます。

一応、香港警察の潜入捜査官という形でチャオやスー・イーと行動を共にしますが、ハオミンに捜査のスキルがある訳ではなく、出来ることはチャン警部への報告のみ。

確実に動き始めたモリタケシの真の目的に気づくわけがありません。

そして、チャオの正体にも。

本作はモリタケシやチャオ、さらには香港警察など、さまざまな思惑が入り乱れる展開となります。

完全に巻き込まれた形となり、ハッカーのスキル以外は無力に等しいハオミンがどのように真相に辿り着くか?

ここが作品中盤の見どころとなっています。

サスペンスを構築する要素③「モリタケシの目的とチャオの正体」


(C)2018 SIRENS PRODUCTIONS LIMITED BONA ENTERTAINMENT COMPANY LIMITED MORGAN & CHAN FILMS LIMITED
本作の結末は、一体どうなるのでしょうか?

ここからネタバレを含む考察となります。

ハオミンとチャオは、外側と内側からウィルスを流し「Oasis」のハッキングに成功します。

「Oasis」の開発者パクは、新型システム「Oasis2.0」を発表しようとしますが、会場に姿を見せたチャオから「Oasis」がハッキングされた事を知らされ、モリタケシに売却するように伝えられます。

ハッキングされた事実を隠したいパクは、言われるがままにモリタケシへ「Oasis2.0」を売却します。

新たにマレーシアのインフラ管理システムとなった「Oasis2.0」は、モリタケシが自由にコントロールできるシステムに改造されていました。

その事に気づいたチャオは、ハオミンとスー・イーを逃がそうとしますが、動きを察知したモリタケシの部下にスー・イーが拘束されます。

ハオミンとチャオはモリタケシのアジトへ乗り込み、スー・イーを救出しますが、その間にモリタケシは逃亡、「Oasis2.0」を使いマレーシア航空の通信を切断します。

マレーシア航空の飛行機には金融機関のCEO4人が乗っており、通信を切断された事で行方不明となって、パニックが起きます。

モリタケシの目的は、マレーシアの金融機関を混乱させ、ユーロを暴落させる事でした。

この陰謀に気づいたハオミンとチャオ、スー・イーはモリタケシを追います。

ですが、これ以上ハオミンとスー・イーを巻き込みたくないチャオは、自身の正体を明かします。

チャオは、欧州警察機関のサイバー犯罪センター、通称「ユーロポールEC3」の潜入捜査官でした。

恋人であるチャオに嘘を吐かれていた事に怒ったスー・イーは、1人で立ち去ってしまいます。

ハオミンとチャオは2人でモリタケシを追いかけますが、「Oasis2.0」を自在に操るモリタケシを捕まえる事が出来ません。

そこへスー・イーが再び加わりますが、モリタケシが牽制で撃った銃弾により、命を落としてしまいます。

怒りに燃えるハオミンとチャオは、逆に「Oasis2.0」をハッキングしモリタケシを追い詰めます。

追い詰められたモリタケシは、所持していた銃で抵抗しますが、銃の暴発により負傷し、倒れます。

金融機関のCEO4人も救助し、スー・イーの敵を討ったハオミンとチャオは、固い友情で結ばれるようになりました。

本作は、前半を国際的なハッカーの陰謀と、それを阻止したい香港警察、その両者に巻き込まれたハオミンの姿をコミカルに描き、中盤は不可能とも思える「Oasis」ハッキングミッション、そして後半は「Oasis」によりマレーシアの交通機関を掌握し、自由に操るモリタケシとの追走劇をスリリングに描いています。

また映画中盤で、暗躍するモリタケシの陰謀や、チャオの正体を明らかにし、善と悪の構造が明確になるのもサスペンス要素が上手く活かされており、興味深い展開になっています。

「潜入捜査官がハッキング成功させてどうするんだ!」などのツッコミどころもありますが、そこも含めて香港エンターテインメントの魅力が詰まった作品となっています。

映画『サイバー・ミッション』まとめ

近年の映画に登場するハッカーは、あらゆるセキュリティをかいくぐり、全てをハッキングできる超人的なキャラが多いですね。

本作の後半は特に、何もかもがハッキングできて操れてしまう為、同様の感想を持つ方もいるかもしれません。

特に、モリタケシはパソコンだけで旅客機をハイジャックしましたが、そんな事は可能なんでしょうか。

実は2018年に、wifiを使えばハイジャック可能である事が実証され、アメリカで問題になっています。

ハッキングの技術は我々の想像を超えたレベルまで来ており、映画に登場する超人的なハッカーもあながち嘘だとは言い切れないですね。

また、主人公のハオミンを演じたハンギョンは「ホワイトハッカー」と呼ばれる人達から実際に話しを聞いて、役作りの参考にしたそうです。

チャオが所属する欧州警察機関のサイバー犯罪センター、通称「ユーロポールEC3」も実在します。

世界観やストーリーなど現実離れした設定のように見えますが、現実に存在する世界や人物で、実際に起こりうる犯罪を描いたという点が本作の面白い部分ではないでしょうか。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…


(C)「赤い雪」製作委員会
30年前に起きた誘拐事件の「被害者」と「容疑者」に関わる人々のドラマを描く重厚なサスペンス映画『赤い雪 Red Snow』を、ご紹介します。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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