連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第9回
今回ご紹介する映画『インフィニット 無限の記憶』は、アメリカの小説家D・エリック・マイクランズのデビュー作『The Reincarnationist Papers』が原作です。
監督は『リプレイスメント・キラー』(1998)で長編映画監督デビュー、「イコライザー」シリーズ、『マグニフィセント・セブン』(2016)、『ギルティ』(2021)のアントワーン・フークアが務めます。
前世の完全な記憶を持つという“インフィニット”は、能力を善き未来へ導くために使う“ビリーバー”と、その能力を呪いと考える“ニヒリスト”の二大勢力に袂を分け闘います。
ところがビリーバーであるエヴァンの記憶は完全ではなく、悪夢だと思い込み悩み暮らしていました。ある事件をきっかけに彼の目の前に、謎の人物が現れ次第に“記憶”の重大さを知ります。
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CONTENTS
映画『インフィニット 無限の記憶』の作品情報
【公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Infinite
【監督】
アントワーン・フークア
【原作】
D・エリック・マイクランズ
【脚本】
イアン・ショア
【キャスト】
マーク・ウォールバーグ、ディラン・オブライエン、ソフィー・クックソン、ヨハネス・ハウクル・ヨハネソン、ジェイソン・マンツォーカス、ルパート・フレンド、トビー・ジョーンズ、キウェテル・イジョフォー
【作品概要】
エヴァン・マコーリー役は『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001)、『ミニミニ大作戦』(2003)など話題作に出演し、『ディパーテッド』(2006)ではアカデミー助演男優賞にノミネートされたマーク・ウォールバーグが務めます。
敵役バサーストには『トゥモロー・ワールド』(2006)、『アメリカン・ギャングスター』(2007)の話題作から、『それでも夜は明ける』(2013)では主演を務めた、演技派俳優のキウェテル・イジョフォーが演じます。
映画『インフィニット 無限の記憶』のあらすじとネタバレ
人間の中には前世の記憶を完全に持つ者がいて、彼らはインフィニットと呼ばれ秘密裏に日常を送っています。
彼らは500人にも満たない能力者で、2つの勢力に分かれて存在します。1つは“ビリーバー”という能力で人類をより良い未来へ導く勢力、もう1つは“ニヒリスト”という能力を呪いと考え、世界の終わりを望む勢力です。
ビリーバーのトレッドウェイは人類を守るため、ニヒリストと戦う中で人類滅亡の鍵となる何かを手に入れ、メキシコの街中を逃走します。
トレッドウェイは自分に何かあったら、「俺の中を探せ」と仲間のアベルとノーラにメッセージを残します。
しかし、逃亡中に2人の車は、ニヒリストによって事故を起こします。2人は再びある場所で落ち合うことを約束すると殺害されてしまいます。
ニューヨークで暮らすエヴァン・マコーリーは、就職活動をはじめてから4度の不採用をうけていました。原因は過去の暴行事件、統合失調症による2週間の入院です。
エヴァンは現実感のある夢に悩まされていて、日頃から抗精神病薬“クロザピン”を服用していました。仕事がなければ家賃が払えないばかりか、薬を服用できなければ、まともに生きられないため焦り始めます。
エヴァンはなぜか身に覚えのないスキルがあり、刀工技術を使い日本刀を造り上げると、麻薬の売人に持ち込みクロザピンと引き換え用とします。
しかし、手下が薬の数を誤魔化そうとしトラブルになります。エヴァンの身体は勝手に売人達の攻撃を交わし、手下の指を切り落とすと、刀と薬を持って逃げ出します。
ところが突然エヴァンは、見覚えのない山岳が広がる幻覚を見てそのまま気を失ってしまいました。
エヴァンは発砲騒動で駆けつけた警察に逮捕され、彼は取り調べに来たある男と面会します。男は何故かエヴァンの事を知っている様子ですが、エヴァンは覚えがありません。
男は拳銃に弾を1つだけ装填しながら、古めかしい品をいくつか出して並べ、「見覚えはあるか?」と聞きます。エヴァンが「知らない」と答えると、男は拳銃の引き金を引き脅します。
エヴァンが適当に答える度に引き金を引きますが、ある皮製の道具を手にした時、彼の脳裏にその道具を使う記憶が浮かんできました。
男はエヴァンの反応に変化があると「懐かしき友」と呼び近づきます。するとその直後、取調室に謎の自動車が突っ込んできます。
運転していた女がエヴァンに乗るよう叫び、彼を連れ出していきます。彼女は男や警察とカーチェイスを繰り広げ、追跡を振り切ります。
彼女はノーラ・ブライトマンと名乗り、男の名をバサーストだと教えます。
そして、自分やバサーストを含む500人あまりの人間が、前世の記憶を全て持って生まれ変わっている、インフィニットと呼ばれる存在だと説明します。
インフィニットの組織には2つの勢力があることと、ノーラは“ビリーバー”で、バサーストが“ニヒリスト”であることも説明します。
ノーラはエヴァンが“ハインリッヒ・トレットウェイ”という名のインフィニットなのに、なぜか過去の記憶を取り戻していないことに疑問を持っていました。
ノーラはエヴァンは、学んでもいない日本刀を造る技術、夢の中で知らない国の言語を話している経験はないか聞きます。
エヴァンは困惑しますが、精神疾患の検査では異常がなかったことから、彼女の話しには信憑性があると感じました。
ノーラは記憶を取り戻したくはないか訊ねます。エヴァンは自分の身に起きていることをはっきりさせるため、“ビリーバー”の本拠地へ向かうことにします。
映画『インフィニット 無限の記憶』の感想と評価
映画『インフィニット 無限の記憶』はメキシコシティやニューヨーク、ロンドン、スコットランド、タイ王国、アルプス山脈などで撮影が行われ、壮大かつ迫力あるアクションシーンなど、見ごたえのあるSFアクション映画でした。
それもそのはず、本来は2020年8月に劇場公開の予定だった作品で、COVID-19の大流行により公開延期も叶わず、まずアメリカでParamount+より配信されたのち、日本では2022年1月よりAmazon Primeにて配信が開始されました。
過去の記憶を保ちながら何回も生まれ変わるというストーリーは、ある世代の人には少年コミックの「超人ロック」も連想させたかもしれません。
超人ロックは超能力者で生まれ変わっても同じ姿(この点は違います)で、彼もまた過去からの記憶や超能力に苦悩しています。
彼の場合は長い歴史の中で心身ともに培ったスキルから、達観して運命を受け入れる術を得て「正義」を貫き悪と戦います。
2つの“無限”の価値観
インフィニットにとって“無限の記憶”とは、培ってきた記憶を活かし、未来に平穏を与える能力であり、逆に無限の地獄を見る能力でもあります。
その「記憶」を未来の人類のために役立てようとする“ビリーバー”と、「記憶」を永遠に引き継ぐ苦しみから解放されたい、“ニヒリスト”の対立を生みました。
“ビリーバー”達には「平和」という正義があり、“ニヒリスト”には「破壊」という正義がありました。
人類を平和に導こうと数千年も闘い続けても、人類が自ら「平和」へ向おうと意識が変らなければ、バザーストのように、学ばない人類は無用と考える者も出るでしょう。
それは彼は聖人でなく、特殊な能力をもっただけの人間だからです。人は重ねた「徳」の分だけ成果を期待します。
しかし、バーサスはいつまでもそれが叶わない現実に絶望し、終止符を打てるのは自分だと考え、それが彼なりの「正義」でした。
片や“ビリーバー”は平和的理想郷を作ろうとはしていません。生まれ変わった時代の中で、「悪」の芽を摘んで人類に平和をもたらす役割を担おうとしています。
まさに「超人ロック」的な生き方です。しかし、通常の人間たちとの関わりが少ない分、親しい人との死に別れという、辛い悲しみはロックよりは少ないといえます。
苦悩を最低限にした“ビリーバー”達にあるのは、受け継がれていく「永遠の正義」という使命感なのです。
「輪廻転生」からの解脱
本作は“輪廻転生”を題材にしています。命あるものは繰り返し(輪廻)、生まれ変わる(転生)という、古代インドの思想によるものです。
限りなく生と死を繰り返すのが輪廻ですが、実際は前世の記憶など残っていません。ところがその前世の行い次第で、現世にその影響が引き継がれる・・・というのが「輪廻転生」の基本的な考え方です。
ですから生存することは苦しいことと見て、二度と再生を繰り返すことのない「解脱(げだつ)」を最高の理想、という思想も生まれました。
まさにバーサスの考えたのは「解脱」の道でした。迷い苦しむ心の境地からぬけ出て、真の自由の境地を目指し、命がけの苦行も行っています。
さらに地球上の命あるものを破壊し、自らも消滅させるという究極のネガティブな発想です。
ところが真の「解脱」とは心の中の“我”を捨て葛藤の原因となる、“煩悩”を捨てた時に静寂と平和が訪れることです。
我を捨てて無になるというのは、非常に難解です。しかし今、生きている時代でどう生き学ぶか(輪廻)で、未来に理想の世界を生みだせる(転生)という発想であれば、地球の未来は可能性が「無限大」であると、この映画では訴えています。
まとめ
映画『インフィニット 無限の記憶』は人類に課せられた、無限大の可能性に懸けた“ビリーバー”の「正義」を描いた作品でした。
世界には前世の記憶の一部を持っているという人もいます。物心のない幼い時に、見たことも行ったこともない場所の景色を話したり、人の名前やできごとを話すこともあると聞きます。
「誰かの生まれ変わり」みたいなことは、全否定できることではないです。ダライラマなどがその例でもあります。
とても神秘的な精神世界、宗教観ではありますが、文明が進めば進むほど人には、“平和的”な哲学や思想が必要となるでしょう。
そして、“忘れていく人類”に向け、過去に学び未来に活かす生き方をするよう、この映画では呼びかけています。
いつまでも同じ過ちを「輪廻」していれば、その先には破滅という「解脱」があると予知している作品ではないでしょうか……。
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