連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第116回
『コロンバス』(2020)のコゴナダ監督が、アレクサンダー・ワインスタインの短編SF小説『Saying Goodbye to Yang』を映画化した映画『アフター・ヤン』。
映画会社A24 × オリジナル曲・坂本龍一で贈る、近未来を舞台にした映像表現の粋を尽くした物語が展開します。
人型ロボットが一般家庭にまで普及した近未来。慎ましく幸せに暮らしていた一家のAIロボット・ヤンが故障で突然動かなくなります。
ヤンの修理に奔走する一家の主人が気が付いた、ヤンのメモリーに隠された秘密とは……。
主役を務めるのは、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016)や『ジェントルメン』(2019)のコリン・ファレル。
美しく切ない映像美で魅せる『アフター・ヤン』は、2022年10月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開されます。
映画公開に先駆けて、『アフター・ヤン』の魅力をご紹介します。
映画『アフター・ヤン』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原作】
アレクサンダー・ワインスタイン「Saying Goodbye to Yang」(短編小説集「Children of the New World」所収)
【監督・脚本・編集】
コゴナダ
【撮影監督】
ベンジャミン・ローブ
【音楽】
Aska Matsumiya
【オリジナル・テーマ】
坂本龍一
【フィーチャリング・ソング】
「グライド」Performed by Mitski, Written by 小林武史
【出演】
コリン・ファレル、ジョディ・ターナー=スミス、ジャスティン・H・ミン、マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ、ヘイリー・ルー・リチャードソン
【作品概要】
独創性豊かな作品を手がける映画会社A24と『コロンバス』(2020)が注目をあびたコゴナダ監督がタッグを組んだ作品。
小津安二郎監督の信奉者として有名なコゴナダ監督は、派手な視覚効果やスペクタルに頼らず、唯一無二の世界観を本作で構築し、オリジナル曲は坂本龍一が担当。近未来を舞台に映像表現の粋を尽くす、切なく美しい物語となりました。
主演はコリン・ファレル。『ウィズアウト・リモース』(2021)のジョディ・ターナー=スミスやジャスティン・H・ミンが共演。『コロンバス』(2020)で主演を務めたヘイリー・ルー・リチャードソンが、物語の鍵を握る謎の女性を演じています。
映画『アフター・ヤン』のあらすじ
今から数十年先の近未来では、人型ロボットが一般家庭にまで普及していました。
小さな茶葉の販売店を営むジェイク(コリン・ファルレ)と妻カイラ(ジョディ・ターナー=スミス)は、中国系の幼い少女ミカを養女として育て、慎ましくも幸せな毎日を過ごしていました。
この家族にはもう1人、ミカの兄のような存在としているのが、‟テクノ”と呼ばれる精巧な家庭用ロボットのヤン(ジャスティン・H・ミン)。
ヤンは幼いミカに常に寄り添い、アジアの文化や歴史などの多様な知識を教えていました。
お互いを「グァグァ」(兄)、「メイメイ」(妹)という愛称で呼ぶ2人は、仲睦まじい日々を過ごしています。
ある日、突然にロボットのヤンが故障で動かなくなりました。
ヤンを慕うミカはとても落ち込み、そんなミカを心配したジェイクは、ヤンの修理に乗り出しました。
ヤンの修理方法を模索する中で、彼の体内に毎日数秒間の動画を撮影できる装置が組み込まれていることに気付きました。
そこに記録されていたのはジェイク一家に向けられたヤンの温かいまなざしと、ヤンが巡り合った謎の若い女性の姿……。
ヤンが元通りに再起動する可能性が絶望視され、カイラもミカも彼の不在を悲しむ中、ジェイクは‟謎の若い女性”の素性を探り始めます。
映画『アフター・ヤン』の感想と評価
家庭用ロボットが存在するという近未来のSFムービー。
映画からは、ジェイク一家の慎ましい生活ぶりから、ロボット・ヤンの存在が家族を支えているのがわかります。
ヤンがいかに楽しく家族と過ごしているのか。それは、ジェイク一家が没頭しているファミリー部門のダンスバトルにも表れています。
ジェイク、カイラ、ミカ、ヤンは4人家族部門のチーム対抗ダンスバトルに参加し、息の合ったチームダンスを披露します。
このバトルは、各家庭がリモートでダンスをして出来栄えを競い合うもの。
複数の参加家族のダンスの様子も映し出され、スクリーンがダンス会場になったかのような臨場感あふれるシーンが続きます。
リアルなダンスバトルに息をのみながらも、そのリズムと音楽を楽しめることでしょう。
日常的な生活ばかりでなく、ヤンの体内に隠されたメモリからは、彼の記憶にある昔のジェイク一家の様子や、緑豊かな美しい自然描写が映し出されます。
映像の美しさと躍動感あるカメラワークは、ヤンのロボットとは思えない温かな感情を捉えます。
この辺り、いまだかつて見たことない映像体験を叶えてくれる”A24”ならではの手腕が窺えることでしょう。
そして、坂本龍一が手がけたオリジナルテーマも心に残ります。また、ミカが歌うラストソングにもご注目ください。
まとめ
ここ数年急速にファン層を拡大している映画制作・配給会社「A24」が手がけた『アフター・ヤン』をご紹介しました。
A24は、第89回アカデミー作品賞に輝いた『ムーンライト』(2016)や、日本でも社会現象化した『ミッドサマー』(2019)など、イケてる作品を数多く世に送り出しています。
そんなA24の独創性と、オリジナルティな世界観で観客を魅了するコゴナダ監督のタッグ、それに音楽を担当した坂本龍一が加わって、『アフター・ヤン』は作られました。
家族愛にあふれるヒューマンドラマとも、AIが繁栄する近未来のSFドラマともとれる本作。観る人の心にきっと何かが残るはずです。
『アフター・ヤン』は、2022年10月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開されます。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。