連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第230回
『零日攻擊 ZERO DAY』は、人民解放軍による台湾島侵攻と、それに至るまでの出来事というフィクションを描いた、2025年に放送予定の台湾の空想科学テレビドラマです。
台湾ドラマ『零日攻擊 ZERO DAY』は、2025年に台湾で放送予定!
『スパイの妻』(2020)や『岸辺露伴ルーヴルへ行く』(2023)などの高橋一生がキャストとして参加し、香港スターのドゥ・ウェンゼや台湾の人気スターのリアン・ユーハンを始めとする豪華キャストとともに、禁断のドラマに挑みました。
製作費は10億円を超え、台湾政府も全面協力した本作。“中国軍による台湾侵攻”という、これまで台湾ドラマでは取り上げられることのなかった異例のテーマを10話のドラマで綴ります。
約18分という長い予告編も解禁されたドラマ『零日攻擊 ZERO DAY』の見どころを解説をいたします。
CONTENTS
台湾ドラマ『零日攻擊 ZERO DAY』の作品情報
【台湾放送】
2025年(台湾ドラマ)
【原作】
黄鵬仁(ティン・チウェン)
【監督】
ジム・ウー、リン・ジール、チャオ・シュアン、リウ・イー、ルオ・ジンレン、スー・イーシュアン、ルオ・ジンレン
【脚本】
ウー・ジエン
【プロデューサー】
鄭新梅、鄭心媚
【出演】
高橋一生(日本)、ドゥ・ウェンゼ(香港)、リアン・ユーハン、ヂュアン・カイシュン、リー・シン、ラン・ウェイホア、チェン・ユー、柯一正、チェン・ウェンビン、ヨウ・アンシュン、デン・ジウユン、シュウ・シーハオ、謝章英、レン・ミンシアン、ホン・チュンジュン
【作品概要】
『零日攻擊 ZERO DAY』は、2025年放送予定の中国による台湾侵攻をテーマにした全10話の台湾制作のドラマ。
台湾と中国の間での政治的緊張が軍事衝突に発展した架空の戦争「台湾海峡戦争」を背景に、この戦争がもたらす影響や、それに対処する人々の姿をリアルに描き出します。
香港や台湾の人気俳優が名を連ねる中、日本からは『スパイの妻』(2020)や『岸辺露伴ルーヴルへ行く』(2023)などの高橋一生が、台湾と日本の混血役で台湾ドラマに初出演をしています。
台湾ドラマ『零日攻擊 ZERO DAY』のあらすじ
台湾(中華人民共和国)の高齢の現職総統は、若い女性候補に再選を逃し、その職を譲る準備をしています。
政権移行が進行中で就任式が近づく中、中国人民解放軍海軍の陝西省Y-8対潜水艦戦闘機が台湾南東の海上で墜落しました。
負傷しながらも唯一生き残った乗組員は、近くの中華人民共和国海軍の軍艦に救助されました。
中国は行方不明の飛行機の捜索救助活動を行うという名目で台湾の周囲を海上封鎖。これによって、台湾への国際輸送が完全に停止し、続いて株価暴落と銀行取り付け騒ぎが起きました。
台湾の軍隊が侵攻に備えて動員され、外国政府が台湾から自国民を避難させ始める中、米国と日本は軍の即応態勢を強化します。
台湾ドラマ『零日攻擊 ZERO DAY』の感想と評価
台湾海峡戦争ドラマの背景
ドラマの台湾海峡戦争は、台湾と中国の間での政治的緊張が軍事衝突に発展した架空の戦争のこと。
この戦争は、台湾が独立を求める動きと、中国が一つの中国政策を強化しようとする姿勢が対立した結果として描かれています。
現実にも、中国が台湾に対して行う言論や武力による威嚇は度を過ぎたものが見られます。それはなぜでしょう。気になる中国と台湾の歴史を紐解いてみました。
複数の史料では、清が中国を支配し始めた17世紀に初めて、台湾が完全な支配下に置かれたことが示されています。17世紀から年月がたち、1895年に日清戦争に敗れた中国は、台湾島を日本に明け渡しました。
ですが、1945年に日本が第2次世界大戦に敗れると、台湾島は再び中国の支配下に置かれます。その後中国大陸では、蒋介石率いる国民政府勢力と毛沢東率いる共産党との間で内戦が勃発。
1949年に毛沢東の共産党が勝利し、北京を支配下に置きます。蒋介石と中国国民党の残党は台湾に逃れ、その後台湾を統治して現在に至っています。
このような歴史過程を引き継ぐ中国と台湾。中国は台湾は自分の国の一部と考えているのですが、台湾側は中国の一部だったことはなく、ちゃんとした独立国家だと思っているのです。
複雑な歴史的背景を抱え、国家というものに対する認識が違う中国と台湾の間に、争いが絶えないのは当然と言えます。
ここでの軍事衝突は、実際に昔から懸念されているのですが、政治的にもビジネス上でも極めて慎重に扱われるべき問題であることなどから、今まで台湾のテレビドラマで、正面から取り上げられることはほとんどありませんでした。
今回リアル過ぎるほどの状況が描かれた本作が放映されることで、中国と台湾の動向に世界中が注目することでしょう。
平和な社会を求める
解禁となっている約18分の予告編では、人民解放軍が捜索救助活動を装って台湾を海上封鎖するという架空のプロットやサイバー攻撃による市民のインフラ破壊、中国政府の協力者による戦争の前段階での妨害工作などが描かれています。
キャストでは、俳優の高橋一生が台湾と日本の混血役で出演し、戦争の脅威が迫る中での人間関係や政治的な駆け引きも詳細に表現。
また、多国籍の豪華な顔ぶれのキャストを取り揃え、中国語、英語、日本語のセリフに挑戦した高橋一生が演じる台日ハーフが、リェン・ユーハン演じるかつての恋人・台湾のアナウンサーとの再会が、ドラマの大きな見どころとなっています。
ドラマにあるように外部からの脅威に脅えるのは、いつもか弱い庶民なのです。情報をいち早く知ることができる権力者が情報を操作し、国民を意のままに動かそうとする企みが生じることも考えられます。
企みを実行するかのように抗争へ導くのは、極悪非情な指導者といえるでしょう。ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・ガザ地区の軍事衝突など、こんな例は後を絶ちませんし、近年世界を揺り動かしている武力抗争が、中国と台湾に来ないはずがありません。
また、作品では、潜水艦、ヘリコプター、戦車、銃撃など、台湾島に物々しい軍隊装備が登場します。最新の武器を手にし、侵略しようとする敵から自分たちの生活を守ろうとする兵士たちですが、その胸中は如何なるものでしょう。
厳しい指揮系統で動く縦社会では、上司の命令には絶対服従で、パワハラまがいの命令にも逆らえません。心で思い描く正義とのギャップも多々あることです。
正義感あふれる一般市民なら政府のやり方をどう思うのか。ドラマの出演者たちと軍隊上層部との抗争に対するやりとりも見どころの一つと思えます。
戦争をひき起こすのが人間なら止めさせるのも人間です。それは、軍隊に命令を下す国のトップ次第! よりよい平和な社会を願うなら、トップとなる人物の人間性の見極めが大事と言えます。
それは台湾や中国に限らず、自分たちが住んでいる国でも同じです。有事の際に出動して人々を助ける組織は必要ですが、いつ何が起こるかわからないという緊迫感を持って、自分の身は自分で守るという気持ちを持つべきでしょう。
この作品に描かれたテーマは、「対岸の火事」とは決して言えないのですから。
まとめ
中国と台湾で戦争が起こる? 本作『零日攻擊 ZERO DAY』は、緊迫した2つの国の状況から勃発する災禍を描いた台湾ドラマです。
台湾ドラマ『零日攻擊 ZERO DAY』は、2025年に台湾で放送予定!!
ドラマでは、中国の台湾侵攻に至るまでの経緯、戦争勃発の引き金、それらの事情が全10話で描かれます。
隣国からの圧迫を感じるのは日本も同じではないでしょうか。決して他人事とは思えぬ状況を描くこのドラマから、自国を守るには今何をすべきかと深く考えさせられます。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。