連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第132回
第95回アカデミー賞インド代表(国際長編映画賞)の映画『エンドロールのつづき』。
本作は、チャイ売りから映画監督へと、夢をつかんだ少年の驚くべき“実話”から生まれた感動の物語です。
“映画”への溢れんばかりの愛情を込めて本作を監督したのは、インド出身で今や国を超えて活躍するパン・ナリン。
大きな夢を抱く主人公のチャイ売りの少年サマイ役は、3,000人の中から選ばれた新人、バヴィン・ラバリが務めました。
また本作は、日本で初めて一般公開されるグジャラート語映画です。
パン・ナリン監督の映画への愛と夢が詰まった映画『エンドロールのつづき』は、2023年1月20日(金)新宿ピカデリー他全国公開。
映画公開に先駆けて、『エンドロールのつづき』をご紹介します。
映画『エンドロールのつづき』の作品情報
【日本公開】
2023年公開(インド・フランス合作映画)
【原題】
Last Film Show
【脚本・監督】
パン・ナリン
【プロデューサー】
ディール・モーマーヤー
【出演】
バヴィン・ラバリ、バヴェーシュ・シュリマリ、リチャー・ミーナー、ディペン・ラヴァル
【概要】
『エンドロールのつづき』は、チャイ売りの少年が映画監督の夢へ向かって走り出す姿を、同国出身のパン・ナリン監督自身の実話をもとに描いたヒューマンドラマ。
主人公サマイは、オーデイションで選ばれた新人バビン・ラバリが演じています。
トライベッカ映画祭ほか、世界中の映画祭で5つの観客賞を受賞し、さらにバリャドリード国際映画祭では最高賞にあたるゴールデンスパイク賞をインド映画として初めて受賞。
また、世界中の映画祭から喝采を浴びた本作は、第95回アカデミー賞インド代表(国際長編映画賞)に決定し、さらにロスで行われた「アジア・ワールド・フィルム・フェスティバル2022」でも最優秀作品賞を受賞しました。
映画『エンドロールのつづき』のあらすじ
インドの田舎町。9歳のサマイは家族そろって、生まれて初めての映画を観に映画館に行きました。
サマイの父はチャイ売りです。サマイは普段は学校に通いながら、汽車の駅で乗客にチャイを売る手伝いをしています。
厳格な父は映画を低劣なものだと思っていますが、信仰するカーリー女神の映画が上映されると知り、その映画は特別と、家族で街に映画を観に行くことにしたのです。
映画館は人で溢れ返っていました。やっと席に着くと、目に飛び込んだのは後方からスクリーンへと伸びる一筋の光……・
そこにはサマイが初めて見る世界が広がっていました。
映画にすっかり魅了されたサマイは、映画を観たくなり再び映画館に忍び込みますが、チケット代が払えずつまみ出されてしまいます。
それを見た映写技師のファザルがある提案をします。料理上手なサマイの母の手作り弁当と引換えに、サマイは映写室から映画を見せてもらうことになりました。
サマイは映写窓から観る色とりどりの映画の数々に圧倒され、いつしか「映画を作りたい」という夢を抱きはじめるのですが―。
映画『エンドロールのつづき』の感想と評価
映画大好き少年が夢を追う
映画『エンドロールのつづき』の主人公はインドの田舎町に住む9歳の少年サマイ。
それまで見たことのない映画を見たことで、彼の一生は変わりました。予告編の言葉でいうならば、彼は映画に恋をした、のです。
なんとしても映画を見たいと思うサマイは、映画技師のファザルと取引をします。母の手作り弁当をファザルにあげる代わりに、映写室で映画を見せてもらうことになりました。
ご飯よりも映画を見たかったサマイ。映画へのその情熱はますます膨らみ、「映画ってどうやって作るんだろう」「どのようにしたら映画を映すことができるのだろう」と、技術的なことへの興味もわいてきます。
その結果、サマイとその仲間たちは映画をみんなで観るためにさまざまなことをやらかしますが、それは映画に取りつかれた少年の憧れと夢を追いかける姿の現れだったのです。
大きな円盤状の映画フィルムを大切な宝物のように抱えて走るサマイ。映写機に映るワンカットのフィルムを1枚1枚丁寧に見るサマイ。
映画上映から製作や映写まで一連の流れを愛おしむように体験するサマイは、映画の世界で生きるべき素質があったと言えるのではないでしょうか。
映画に取りつかれ、その夢を叶えようとする主人公サマイを演じるのは、オーディションで選ばれた新人バヴィン・ラバリ。
夢を叶えるために行う大胆な行動と、誰もが思いもかけないことを思いつく発想力を自然体であらわしています。
彼の表現する‟サマイの夢みる表情”が印象深い作品です。
名作インド映画と料理が魅了する
サマイが映写室から見る映画は、インド映画を代表する作品でした。
アクシャイ・クマール主演作『Zulmi(悪人)』(1999)、時代劇『Jodhaa Akbar(ジョーダーとアクバル)』(2008)、アミターブ・バッチャンの主演作『Khuda Gawah(神に誓って)』(1992)、『Aks(影)』(2001)etc。
ノリの良い音楽にあわせてのダンスもふんだんに盛り込まれた楽しい作品もあり、サマイの映画熱を煽ります。
中でも彼が夢中になったのは、ヒンディー語映画! 有名スターの出演があり、多額の製作費を使って作られるヒンディー語映画は、‟ボリウッド映画”と呼ばれています。
‟ボリウッド映画”とは、製作中心地ムンバイの旧名「ボンベイ」と映画の町「ハリウッド」をかけたもので、インド映画の代名詞ともなっているそうです。
また、インド映画の名作の一部が見られるということに加えて注目したいのは、料理上手なサマイの母が作るお弁当です。
野菜と香辛料を上手く使ってインド料理を丁寧に作るサマイの母。我が子への愛情も込められていますが、何よりも本当に美味しそうです。
監督の出身地であるグジャラート州にこだわった本作は、大自然の描写も取り入れ、映画館でしか映画を見られなかった時代ののんびりした毎日を思い起こさせます。
本作では、映画の中に存在するインドの風景ののどかさ、美しさも魅力の一つとなっていました。
まとめ
映画に魅せられた、チャイ売りの9歳の少年・サマイの物語『エンドロールのつづき』。
本作は、ボリウッド映画に心酔するサマイが「映画を作りたい」と夢を見つけた瞬間を捉えています。まさに一期一会の出会いと言えるでしょう。
また、日本で初めて一般公開されるグジャラート語映画であり、映画を通して惜しみなく詰まった監督の映画への愛と夢が感じられます。
映画『エンドロールのつづき』は、2023年1月20日(金)新宿ピカデリー他全国公開。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。