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Entry 2021/06/19
Update

映画『ジャッリカットゥ牛の怒り』感想解説と考察評価。暴走牛VS1000人のパニックスリラーを描く

  • Writer :
  • タキザワレオ

映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』は2021年7月17日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

第93回アカデミー賞国際映画賞のインド代表作品として選出された牛追いスリラー・パニック映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』。

監督は驚くべき視覚的トリックと、奇想天外のアイデアでインドにおいてカルト的な人気を集めるリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ。

最新作である本作は本年度アカデミー賞インド代表作品に選ばれ、国内の賞レースを席巻しています。

本作の主役とも言える水牛は、ほぼCG技術を使わず、実物の牛とアニマトロニクスを駆使した圧倒的な恐怖と躍動感を演出。本作にて血湧き肉躍るアクションをみせています。

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映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』の作品情報


(c)2019 Jallikattu

【日本公開】
2021年(インド映画)

【原題】
Jallikattu

【監督】
リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ

【キャスト】
アントニ・ヴァルギース、チェンバン・ヴィノード・ジョーズ、サーブモーン・アブドゥサマド

【作品概要】
『ジャッリカットゥ 牛の怒り』は、奇想天外な視覚的トリックとアイデアで、インドでカルト的な人気を集めるリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ監督作品です。原作はS・ハリーシュのマラヤーラム短編『マオイスト』。

怒り狂う暴走牛と1000人の村人たちが繰り広げる戦いを描いたインド発のパニックスリラー。村中が牛騒動でパニックに陥る中、密売の罪で村を追放された荒くれ者たちが呼び戻されます。牛追い騒動は、いつしか人間同士の醜い争いへと展開していきます。

映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』のあらすじ


(c)2019 Jallikattu

舞台は、南インド・ケーララ州最奥のジャングルに位置するとある村。

さえない肉屋の男アントニが一頭の水牛を屠ろうと鉈を振ると、命の危機を察した牛は怒り狂い、全速力で脱走します。

ディナー用の水牛カレーや、婚礼用の料理のために肉屋に群がっていた人々が、慌てて追いすがるも、まったく手に負えません。

暴走機関車と化した暴れ牛は、村の商店を破壊し、タピオカ畑を踏み荒らします。

アントニは恋心を寄せるソフィに愛想を尽かされていましたが、一番はじめに牛を捕まえて汚名を返上しようと奮闘します。

農場主や教会の神父、地元の警察官、騒ぎを聞きつけた隣村のならず者らを巻き込み、村中は大パニック。

一方、かつて密売の罪で村を追放された荒くれ者クッタッチャンが呼び戻されます。

猟銃を携えた彼は、かつてソフィをめぐっていがみあい、自分を密告したアントニを恨んでいました。

牛追い騒動が、いつしか人間同士の醜い争いへとなっていき…。

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映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』の感想と評価


(c)2019 Jallikattu

男子校の体育祭のような映画

「モリウッド」とも呼ばれるマラヤーラム語映画は、インド国内で4番目の規模を誇っています。

また、写実的なタッチで国内外から高い評価を受けているマラヤーラム語映画ですが、本作は映画冒頭の人物の顔に寄ったカットから、従来のマラヤーラム語映画とは異なる作風であることを予感させています。

イドゥッキ地区の丘の上の街カッタパナを舞台とした本作は、周辺を深い緑の森が囲んだ地域で、公権力よりも近所間の連帯意識が強く、お互いの生活を支え合うため結託しています。

屠殺に失敗し、脱走した水牛を追いかけるアントニに協力する街の男たちは、誰かがリーダーシップをとるわけでもなく、次から次へと松明を手に森へ駆け込みます。

本作にもキチンとした人間ドラマはあるものの、余計な心情吐露や感情の共有に時間を割かず、二つ返事で捜索に向かう男たちには清々しさを感じてしまいます。

命の危険を感じた水牛は怒り狂い、追いかける人々を振り払い、屋台や銀行を破壊して森へ逃走します。

近隣住民を巻き込む騒ぎを起こしてしまった張本人、アントニには、周囲の失望から挽回しようと奮闘するドラマがあり、負けず嫌いな落ちこぼれの「舐めんなよイズム」が炸裂していました。

その一方で、水牛騒ぎに巻き込まれた農場主、教会の神父、そして過去の密売で村を追放されたクッタッチャンの物語から、共存していた村人たちは精神のレベルでは何一つ分かりあっていなかったことが次第に明らかになっていきます。

未解決のまま放置されていた人間関係の綻びが混ぜ返され、その上に水牛騒ぎの興奮が上乗せされ、次第に歯止めの効かない大事態に発展していってしまうという映画的な盛り上がりは、少しずつ積み上げられてきた本作前半部の、一見退屈な日常の蓄積によって結実します。

興奮とアジテーションが飽和状態に達した村の男たちが、鬼の形相で雄叫びや怒声を上げながら水牛を追う、純度の高い情熱とそのエネルギッシュさは、チアリーディングや見世物としての華やかさのない男子校の体育祭のようです。

またそれ以前に、次から次へと大量の人間が、画面を覆い尽くすほどに右から左から縦横無尽に走り回るその絵面に驚かされます。

CGではない実在のエキストラ1000人が、まるで映画『ワールド・ウォーZ』(2013)やカイリー・ミノーグの『All The Lovers』のMVのように、組んず解れつ取っ組み合ったり、水牛を追って駆け回るその絵面の強烈さは筆舌し難いものがありました。

サファリ精神の源流にあるもの


(c)2019 Jallikattu

前述の通り、本作の魅力は何と言っても、水牛の追跡にかける人々の情熱的な姿

そして思わず声を上げてしまいそうになるほどの圧倒的な臨場感で描かれる人vs水牛の構図です。 

大掛かりな水牛捕獲シーンは、CGではなくアニマトロニクスを使用したことで、水牛の存在感を極限まで高め、土地の特異性を活かしたカメラワークも相まって、手に汗握る緊張感を生み出していました。

限定的な空間で繰り広げられる原初的なパニック映画でありながら、本作における水牛の扱いや、猛獣捕獲に奔走する人々の描写は、さながら怪獣映画のようです。

水牛の脱走という外的要因が人間関係の崩壊を引き起こしていくという本作のプロットも、怪獣を起点に進行する物語で奔走する人間ドラマに近く、本来の目的から離れたテーマに帰結する展開も、作劇が錯綜しがちな他怪獣映画と比較しても、理想的なバランス配分であると感じさせます。

荒れ狂う猛獣を手懐け、手中に収めることで男らしさを体現する、という前時代的なマッチョ信仰に基づいたサファリの精神性を、本作の登場人物全員が引き継いでいるという極端な設定により、水牛を狙う男たち全員が映画『ハタリ!』(1962)のジョン・ウェインになりきって男らしさの称号を求めるのです。

村での尊敬がそこまでの価値があるのかと疑問に思われるかもしれませんが、本作は水牛を捕らえたいというささやかな導入から根源的なテーマの奥深くを掘り下げていくのです。

それは独占欲や所有欲といった本質的な欲求にまつわる問題提起であり、単調な説明台詞では陳腐化してしまう「人間の本能」といったものを視覚的に見せ、芸術的手段でもって観客に提示しているのです。

人々は我先に水牛を捕獲し、称号を勝ち取ろうと、まるで赤いマントを目にし興奮した牛のように、獲物を追って猛ダッシュします。

過去の因縁が水牛をきっかけに再燃し、無意味な殺し合いを始める者が現れるほどに、命の優先順位は下がり、怨恨や自身の欲求に一直線。視野狭窄を助言する暇もなく、物語の進行と共に、人間の野性性がむき出しになっていきます。

ぼんやりと映画を鑑賞し気付いたら壮大なテーマにまで行きついてしまったという驚きもさることながら、見世物としての面白さを手放さなかったのは、エンターテインメント性との両立を図った本作の巧みなバランスでしょう。

やがて壮大なエンディングへと向かうまでの道中で、水牛を求めて争う人間の野蛮さを真正面から描き、記号的に配置された怪獣としての水牛の無機質な恐怖と常に死と隣り合わせの緊張感が、後半のアクションに起伏を与え、およそ90分のジェットコースターを盛り上げていました。

まとめ


(c)2019 Jallikattu

「とんでもない映画を観た」という衝撃では、2021年公開作品の中でトップクラスに入ること、間違いありません。

既に世界中でカルト的な人気を得つつある本作は、生涯ベストの一本になるレベルのポテンシャルを充分に秘めています。

畳み掛けるような後半のアクションは、観客の想像をはるかに超える圧倒的な視覚効果、芸術性の高い音楽演出がなされており、表層的な魅力もさることながら、監督の意図を越えるほどの奥深いテーマ性、工夫と労力がにじみ出てくるような舞台裏の垣間見える制作技術の高さにも感心させられます。

兎にも角にも本作から放たれる胃もたれするほどの過剰なエネルギーは、観客の五感を刺激し、他では得難い奇妙な映画体験をもたらしてくれるでしょう。

これを観たあなたも、有史以前に狩りをして生き延びていた頃の本能が呼び起こされるはず。

本作観賞後に走って帰りたくなるのは間違いありません。

映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』は2021年7月17日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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