Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/08/07
Update

カルト映画『ハロルドとモード』異色のラブストーリー。死生観と行動の哲学とは|偏愛洋画劇場3

  • Writer :
  • こたきもえか

連載コラム「偏愛洋画劇場」第3幕

今回取り上げたい作品はハル・アシュビー監督による映画『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』 (1971)。

海外でカルト的人気を博す作品です。

かなりユニークな物語でありながら、私たちの背中を押してくれる今作についてご紹介します。

【連載コラム】『偏愛洋画劇場』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』のあらすじ


(C)1971 Pramount Pictures Corporation

主人公は19歳の少年、ハロルド。

過保護な母親の元で育てられた彼の趣味は、色々な形で自死を演じるという決して褒められたものではありません。

そしてもう一つは他人のお葬式に参列するというもの。

ある日彼はお葬式の場で 79 歳の女性、モードと出会います。

ハロルドと同じようにお葬式に忍び込むことが好きだというモード。

かなり風変わりでアナーキーな彼女に、いつしかモードは60歳という歳の差を超えてモードに惹かれるようになっていきます。

しかし80歳の誕生日の日、彼女は…。

19歳の少年と79歳の女性の恋愛を取り扱った異色のラブストーリーである今作。

しかしこの物語は恋愛物語だけでなく、誰もが経験する青春の終わり、人間にとって避けられない死、そして再生の物語でもあるのです。

“死”の捉え方とは


(C)1971 Pramount Pictures Corporation

ハロルドは過保護ながらも自分に真摯に向き合おうとしない、自分のレールを轢きたがる母親の興味を引くべく狂言自殺を繰り返しています。ある時は首を吊る真似を、ある時は腹を掻き切る真似を。

彼が自死を演じるオープニングは衝撃的でありながら、私たちを映画の世界に引き込みます。

母親から車をプレゼントされても、彼が改造したのはなんと霊柩車の形。

ハロルドは死や破滅というものに好奇心を抱き、物事の終わりに強い憧れを抱いているのです。

反して79歳のモードはアグレッシブ。人の車や自転車を盗んでは無免許運転、排気ガスにさらされている街路樹を盗んでは森に植え直しに行き、花を育て、時にはヌードモデルだって引き受けてみせる。

彼女が身につけているもの、彼女が取り囲まれているものは全て快活な暖色で、青白く生気が感じられるハロルドと対照的に描かれています。

モードは死に対してネガティブな考えを持っていません。「あらゆる生命は生と死を繰り返しな がら命を育んでいる」彼女は新たな旅立ちを祝福するものとして、お葬式に参列していたのです。

生き方を肯定する彼女の考え方は、徐々にハロルドを変えていきます。

スポンサーリンク

行動の重さ、価値


(C)1971 Pramount Pictures Corporation

全ての行動にはどれくらいの意味があるのでしょうか。木を植えること、料理を作ること、車を運転すること、誰かと恋に落ちること、そして死を選ぶこと。

それぞれどんな価値があることなのでしょうか。

しかしその行動の大きさは違えど、“何か一つ、自分で決めてアクションを起こす” ということについては同じなのではないでしょうか。

今まで“見せかけの自死”という形でしか自分の意思表示をすることができなかったハロルド。

モードは物語終盤、今まで彼女が日常生活の中で自分のとりたい道を選んできたように、幸せだと言って躊躇することなくその道を選びます。

彼女のその決断にハロルドは未熟だった自分の考えを悔いたことでしょう。

そして生きながらも死んでいた人生を自らの意思で生き続けることを選ぶのです。

『さらば青春の光』を彷彿とさせる、崖を車が転がり落ちてゆくシーンは鬱屈した青春時代の終わりと新しい人生を告げる美しいものとなっています。

まとめ

“19 歳の少年と79歳の女性の恋”強烈なインパクトと共に暖かく不思議な余韻を残す『ハロルド とモード/少年は虹を渡る』。

どんな小さなことでも一つ行動すれば、次もまた何か成し遂げることができると教えてくれる素晴らしい作品です。

モードのような人物は、もしかしたら私たち の身近にすでにいるかもしれない存在なのかもしれません。

そして私たち1人ひとりがハロルドにとってのモードのような存在になることができるのかもしれません。

次回の『偏愛洋画劇場』は…

次回の第4幕はデヴィッド・クローネンバーグ監督の『戦慄の絆』をご紹介します。

お楽しみに!

【連載コラム】『偏愛洋画劇場』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『検察側の罪人』評価。ロケ地やラスト結末から制作側の意図を読み解く|舞台裏の裏の裏話1

連載コラム「舞台裏の裏の裏話」その1 『日本で一番長い日』や『関ヶ原』の原田眞人監督の最新作であり、原作は「月刊文藝春秋」にて2012年9月号から2013年9月号まで連載された雫井脩介による小説の実写 …

連載コラム

映画『タイムガーディアンズ』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の解説。異界の魔女と時をかける少女のファンタジーアドベンチャー|未体験ゾーンの映画たち2021見破録37

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第37回 世界各地の名だ見ぬファンタジー映画も紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第37回で紹介するのは『タイム・ガーディアンズ 異界の …

連載コラム

映画『雨の方舟』あらすじと感想評価レビュー。瀬浪歌央監督が描いた若者の共同生活から見えてくる社会問題|2020SKIPシティ映画祭14

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020エントリー/瀬浪歌央監督作品『雨の方舟』がオンラインにてワールドプレミア上映! 2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産 …

連載コラム

『Her/世界でひとつの彼女』あらすじと考察 。なぜ彼らは孤独なのか|偏愛洋画劇場11

連載コラム「偏愛洋画劇場」第11幕 テクノロジーが発達した現代、社会には欠かすことのできない存在、人工知能。私たちをサポートしてくれる実態のない“彼ら”と、肉体のある人間同士のような関係を作ることはで …

連載コラム

映画『バスケットケース』ネタバレ感想。ラスト結末までのあらすじ紹介も|SF恐怖映画という名の観覧車44

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile044 新宿の映画館「K’s cinema」で6月8日より開催される「奇想天外映画祭 Bizarre Film Festival~F …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学