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Entry 2021/01/22
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映画『クイーンズ・オブ・フィールド』あらすじ感想と解説評価。サッカーを通じてユーモアたっぷりに社会における男女のあり方を描く|銀幕の月光遊戯 71

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第71回

解散の危機にひんした伝統ある町のサッカーチームを救うため、立ち上がった女性たちの奮闘を描くフランス映画『クイーンズ・オブ・フィールド』が、2021年3月19日よりロードショーされます。


(C)2019 ADNP – KISSFILMS – GAUMONT – TF1 FILMS PRODUCTION – 14EME ART PRODUCTION – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE

監督を務めたのは『La Vache』(2017/日本未公開)がアルペデュエズ国際コメディ映画祭などで高い評価を得たモハメド・ハミディです。

『オーケストラ・クラス』(2017)のカド・メラッド、『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』〈2018〉のアルバン・イヴァノフ、『メゾン ある娼館の記憶』(2012)のセリーヌ・サレットのほか、サブリナ・ウアザニ、ロール・カラミーらフランスの名優が顔を揃えたハートフルコメディーです。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『クイーンズ・オブ・フィールド』の作品情報

【公開】
2020年公開(フランス映画)

【原題】
Une belle equipe

【監督】
モハメド・ハムディ

【キャスト】
カド・メラッド、アルバン・イヴァノフ、セリーヌ・サレット、サブリナ・ウアザニ、ロール・カラミー、アンドレ・ウィルム、コリン・フランコ

【作品概要】
存続危機にある町のサッカーチームを救うため、ダメな男たちに代わって女性たちが立ち上がるフランス産のハートフルコメディ。

主演のコーチ役には『コーラス』、『オーケストラ・クラス』などのカド・メラッド。『メゾン ある娼館の記憶』でフランスで将来有望な女優に送られるロミー・シュナイダー賞を受賞したセリーヌ・サレットがチームのリーダー役を務め、女子サッカーのフランス代表として89試合に出場しているDFコリン・フランコも出演している。

映画『クイーンズ・オブ・フィールド』のあらすじ


(C)2019 ADNP – KISSFILMS – GAUMONT – TF1 FILMS PRODUCTION – 14EME ART PRODUCTION – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE

サッカーが盛んな北フランスの町クルリエール。伝統のあるチームSPACは、負け試合が続いていて、このままではチーム消滅の危機にありました。そんな中、試合中に乱闘騒ぎが起こり、メンバー全員が出場停止となってしまいました。

メンバーが11人しかいないので、このままでは残りのリーグを戦うことができません。そうなれば今でも最下位なので、チームは自動的に消滅してしまいます。

頭を抱えるコーチのマルコに、娘が言いました。「女性でチームを作ればいいわ」と。

話にもならないとばかりに首を降るマルコでしたが、父親のパビーからそれしか方法はないと言われ、チームの会合でそのことを提案してみました。

夫たちは反対しましたが、妻たちは「やるわ!」と手をあげました。女性たちの勢いに押されマルコは選手集めに奔走。専業主婦、シングルマザー、セレブ妻、女性警官、女子高生たちが集まりました。

やる気満々の彼女たちは練習を積み、いよいよ試合の日がやって来ました……。

映画『クイーンズ・オブ・フィールド』の解説と感想

チームを守るために立ち上がる女性たち

この「チームSPAC」は、おそらく安価の入場料金を取り、シュートを決めた人にはささやかな賞品が出るというような、アマチュアとプロの中間くらいのレベルのリーグに所属するチームだと思われます。

今は選手数もぎりぎりの11人で、弱小チームに成り下がっていますが、長い歴史を持った名門で、なにより町のサッカーチームとして、人々の精神的支柱となってきただろうことは容易に想像できます。

ところが乱闘騒ぎのせいで選手全員が出場停止になり、さぁ大変! このままではチームが消滅してしまいます!

これまでにも弱小チームが起死回生を狙って秘密兵器を導入したり、様々な工夫で上昇しようという作品はありましたが、選手が男性から女性にがらっと入れ変わるという作品が他にあったでしょうか。そこが本作のユニークなところです。

女性たちは「私たちだってサッカーをしたいわ! これまでずっと付き合ってきたでしょう!?」と声をあげます。彼女たちだって子ども時代や学生時代にサッカーを少なからず経験しているのです。なぜ大人になったら男性しかプレイできず、縁の下の力持ち的役割しかやらせてもらえないの!? という心の底に蓄積されていた思いがここで爆発します。もちろんフランスにも女性のプロリーグはありますが、それはまた別の次元の話です。

町のサッカーチームを守るために集まってきた女性たちは、あっという間に仲良くなり、皆活き活きとした姿を見せます。観ていて非常に気持ちがいいです。

チームのリーダー的役割を果たすステファニーに扮するセリーヌ・サレットや、夫の反対を押し切りチームに合流するセレブ妻を演じるロール・カラミーは、フランス映画をよくご覧になる方にはお馴染みの俳優でしょう。彼女たちがピッチを走ってプレイする姿に驚かれるかもしれません。

元代表選手でありながら、怪我で断念したという過去を持つ女性を演じているのはサブリナ・ウアザニ。日本ではNetflix配信で観られる『ブレイク 新しい私』(2018/マルク・フシャール)では、ダンサー役で素晴らしいパフォーマンスをみせていましたが、本作では見事なボールさばきを見せており、その多才さに感心させられます。

男たちが日々の生活を振り返る映画

本作は女性たちの映画であると共に男性たちの映画でもあります。

彼らは一様に妻や他の女性が試合に出ることに反対します。妻が相手チームの男と接触するなんて許せないという嫉妬深い人もいれば、そもそも女にサッカーなんて無理だという人も。

都会に比べ、田舎のほうが保守的であるせいなのでしょうか、チームや自分を支えてもらいたいけれど、ピッチに立たれては困るというのが本音のようです。

しかしチーム存続のために仕方なく妻たちを送り出すことになる夫たち。毎晩練習に妻たちが行ってしまうと子育てを一手に引き受けなくてはならなくなり、その大変さに悲鳴をあげます。どうやら彼らはこれまで妻にまかせっきりでまったく子育てや家事を行っていなかったようです。

こうした生活の変化がユーモアたっぷりに描かれ、思わず吹き出してしまう場面が満載ですが、モハメド・ハムディ監督は社会における男女の役割に対しての問題提起を物語に込めています。

中には本格的に女性たちの邪魔をしようとする男たちも現れます。彼らがどのように変化していくのかも本作のみどころのひとつです。

まとめ

サッカーが主題とくれば、試合シーンが肝となってきます。本作では実際にプレーしている姿をカットをあまり割らずに撮っていて、非常に臨場感のあるものに仕上がっています。

巧みな編集で盛り上げたり、クローズアップを用いていかにもそれらしく見せることは可能でしょうが、俳優を走らせて、本物を撮るのにはかないません。

名優たちがボールを巧みに回し、切り込んでいき、シュートし、ゴールキーパーに止められて、さらに攻めていく光景には思わず手に汗握ってしまいます。

フランスの地方のサッカー文化を知る上でも本作は貴重な作品といえるでしょう。

映画『クイーンズ・オブ・フィールド』は、2021年3月19日よりロードショーです。

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